2020年04月21日
至高はR8になるのかな
【アウディ・クワトロ40周年】選りすぐりの5台を乗り比べ 歴代最高のクワトロとは? 前編
新たな解決策
パイオニアだと見做されてきたモデルが、実際にはそうではなかったという例など枚挙に暇がない。
史上初の高級SUVの座はレンジローバーのものではなく、ルノー・エスパスもMPVの始祖ではなかった。
ホットハッチというジャンルを創り出したのはフォルクスワーゲン・ゴルフGTIではなく、史上初めて公道に舞い降りたターボモデルはサーブ99でもポルシェ911でも、BMW 2002でもない。
そして、アウディ・クワトロも史上初のハイパフォーマンス四輪駆動モデルではなかった。
1968年から1971年にかけて、ジェンセンFFが生産されていたからだ。
だが、先にご紹介したレンジローバーやゴルフGTIなどと同じく、アウディ・クワトロがハイパフォーマンス四輪駆動モデルという新たなテクノロジーの完成度を高め、ひとびとに知らしめた存在であることに間違いはない。
クワトロ以前の四輪駆動モデルでは、すべてのタイヤに駆動力を伝達するため、重く嵩張るトランスファーボックスが必要なことが問題だった。
こうした方法は実用性に劣るとともに高価でもあり、だからこそジェンセンFFの生産台数はわずか320台に留まることとなったのだろう。
そして、この問題に新たな解決策を発見したのがアウディのヨルグ・ベンジンガーだった。
彼は縦置きギアボックスの背後に設置したセンターディフェレンシャルを中空のシャフトで駆動すれば、このシャフトのなかを通した別のシャフトでフロントホイールへと駆動力を伝達出来ると気が付いたのだ。
その結果、トランスファーボックスが不要となり、史上初の現代的な四輪駆動システムの発明へと繋がっている。
駆動方式以上の意味
1970年代中盤にはすでにベンジンガーたちは開発作業に着手していたものの、彼らの努力がアウディ・クワトロと言う名のボクシーなクーペに結実するには1980年まで待つ必要があった。
以降アウディはつねに四輪駆動モデルをラインナップし続けており、いまや世界中の主要な自動車メーカーからもこうしたモデルが登場している。
だが、アウディにとって四輪駆動システムというものは、単なる駆動方式以上の大きな意味を持つこととなった。
1台のクルマとして始まったクワトロという名だが、すぐに自動車史に残る存在となり、BMWのMやメルセデス・ベンツのAMG同様の輝きを放つ、アウディのサブブランドへと発展している。
では、そんなクワトロのなかでもっとも偉大な1台とはどのモデルだろう?
候補は多いが今回ノミネート出来るのは5台だけであり、初代と最新のクワトロを外すわけにはいかないなか、選考は決して簡単ではなかった。
今回選ばれた5台に納得できないというひとびともいるに違いない。
だが、今回選んだのは初代クワトロの最終モデルと、いまやアウディを象徴する存在である狂気のエステートモデルの始祖となるRS2アバント、初代クワトロ以上にその革新的なデザインがスポーティーな四輪駆動クーペを身近な存在にした初代TT、そして初代R8と最新のRS6アバントだ。
確かにV10モデルやRS4、スポーツクワトロにSQ2も含まれていないが、SQ2が選ばれなかったことで落胆しているひとびとはそれほど多くはないだろう。
記憶に残る速さ
最初にステアリングを握るのはもちろん初代クワトロだ。
後期の20バルブモデルが新車だった当時テストしたことがあるが、なによりも記憶に残っているのはその驚異的な速さだった。
デビューからすでに10年が経っていたにもかかわらず古さを感じなかった記憶があるが、さすがにいまではその時代を感じないわけにはいかない。
現代の基準から見れば奇妙なドライビングポジションとさらに奇妙なギアレシオ、まるでゲームセンターにあるゲーム機を彷彿とさせるダッシュボードデザイン、さらには大量に使用されているハードプラスティックが時の流れを感じさせる。
ギアボックスはスムースさに欠け、ブーストが掛かるまでの間、低速ではまったく活気のないこのエンジンに対しては、時代が違うとは言え、思わず失望という言葉さえ出て来るかもしれない。
だが、回転上昇に伴い「乱れ打ち」という以外に表現のしようがないサウンドが響き渡ると、数十年前のものとは思えないこのエンジンの素晴らしさに改めて気付かされることになる。
いまも思わず夢中になるほどの速さを感じさせ、空力を無視したようなボディデザインのせいで頭打ちにはなるが、193km/hまでは易々と加速してみせるのだ。
そしてこのクルマのドライビングの楽しさにも変わりはない。
初代クワトロの新車当時であれば四輪駆動モデルならではと言えたグリップもいまでは控え目というべきレベルに留まっており、さらにはアンダーステアも明らかだが、ステアリングフィールそのものは素晴らしく、シャシーバランスも記憶にある以上の見事さだ。
ポルシェによるエンジニアリング
一方、RS2アバントに対してこうした評価を与えることは出来ない。
このモデルに続く数多くのRSバッジを纏った狂気のエステートモデル同様、RS2の真骨頂も直線での速さにある。
そして、初代クワトロ引退後わずか3年で登場したというのに、RS2ははるかに現代的なフィールを備えており、この2台はまったく別の時代のモデルだと感じさせる。
まさにRS2は現代のモデルだと言えるが、このクルマの高い組立品質と使われているマテリアルの見事さは、ポルシェの関与がその理由かも知れない。
当時苦境にあったポルシェは本業以外でも収益を上げるべく、あのメルセデス・ベンツ500Eに続いてこのRS2のようなモデルのエンジニアリングも請け負っていたのだ。
そして、このポルシェによるエンジニアリングが、基本的には同じエンジンでありながら、初代クワトロの220psからRS2では315psへとパワーを引き上げることに成功した理由だろう。
RS2が特別なモデルであることはいまも変わらない。
スタイリングは素晴らしく、たっぷりとしたレカロ製ドライビングシートに腰を下ろして、ホワイトダイヤルに目をやれば、このクルマに対する期待が高まって来る。
26年前にリッター当り142psを達成していたこのエンジンではターボラグが明らかなものの、一旦3500rpmを越えれば、そのエンジンサウンドとパワーバンドの広さには思わず驚かされることになるだろう。
そして、RS2は初代クワトロが193km/hに到達した地点で225km/hに達してみせる。
惜しまれるコーナリング性能
だからこそコーナリング性能だけが惜しまれるのだ。
なんとかコーナリングラインを維持しようとはするものの、RS2が断固としたアンダーステア特性を備えたアウディ製ハイパフォーマンスモデルの始祖であり、その伝統は簡単には覆らないということを思い知らされる。
だが、TTへと乗り換えてみれば別の楽しみを味わうことが出来る。
個人的にはつねにデザインよりも中身を優先してきたが、それでもTTに乗り込んでみれば、思わず走り出さずにはいられないだろう。
シートに腰を下ろしてキャビンを見渡せば、すべてが特別で素晴らしい感触を備えていることに気が付く。
いまならこのクルマがあれほどの人気を博した理由を十分理解することが出来る。
見た目も感触もそのほとんどを他のモデルと共有する派生車種だなどとはほとんど感じさせず、完全に専用設計されたモデルのようだ。
そして組立品質も素晴らしく、この個体はすでに21万6000kmを走破しているものの、キャビンには一切の緩みなど感じられない。
新車当時このクルマを冷笑していたようなひとびとは、TTへの評価を改めるべきかも知れない。
もちろん、このクルマはポルシェ・ケイマンではないが、225psを発揮する20バルブエンジンは活気に溢れ、その6速ギアボックスは素晴らしく、ハンドリングは記憶にある以上の落ち着きを見せるとともに、ノーズヘビーな様子など微塵も感じさせない。
【アウディ・クワトロ40周年】選りすぐりの5台を乗り比べ 歴代最高のクワトロとは? 後編
サマリー
アウディ・クワトロ誕生40周年を記念して、これまで登場したなかから選りすぐりの5台を集めました。生まれた時代背景やキャラクターも異なる5台ですが、それぞれが優れたモデルであることに変わりはありません。
もくじ
ー高性能ドライビングマシン
ー明らかな変化
ーもっとも偉大なクワトロ
ー各車のスペック
ー番外編1:さらに特別なクワトロ
ー番外編2:セカンドアルバムは難しい
高性能ドライビングマシン
そして、今回の5台のなかで例外的な存在と言えるのがR8だ。
アウディ初の本格スーパーカーとして唯一ミッドエンジンレイアウトを採用し、クローズドボディとしては唯一の2シーターモデルでもある。
スタイリングとキャビンデザイン、そしてその組立品質のすべてが伝統的なアウディでありながら、R8のドライビングフィールはアウディのモデルとは思えない。
甘美なエンジンと正確なマニュアルギアボックス、さらには優れたシャシーバランスを備えたこの初期型V8モデルのすべてが、ポルシェ911やアストン マーティン・ヴァンテージといった同時代のモデルに匹敵する高性能なドライビングマシンだと感じさせる。
より新しいR8にはパワーで劣るかも知れないが、それでもあっと言う間に241km/hまで到達してみせるこのクルマには公道では十分な速さも備わっている。
なによりも他の俊足アウディとは異なり、このクルマには実際に味わうことの出来る優れたバランスが備わっているのだ。
完全にアンダーステアとは無縁であり、ほとんど無限のトラクションを感じさせながら、嬉々としてノーズをコーナーのアペックスへと向けつつリアを激しく振り出すことも出来る。
さらには決してオーバーパワーだと感じさせることもなく、パワーとグリップの最適なバランスによって、思い通りにリアをスライドさせることが出来るという、偉大なドライバーズカーに必須の能力を備えている。
明らかな変化
だからこそ、最新のRS6アバントに興味が湧くのだ。
そして、このクルマが興味深い存在だと言うのは、599psのパワーと0-100km/h加速3.6秒という速さだけがその理由ではない。
なによりも注目すべきは、ついにアウディがこうしたモデルに対して、これまでとはやや異なるアプローチをとり始めたという明らかな変化だ。
もちろん、RS6アバントにも驚異的なパワーと狂暴なスタイリングというアウディ製俊足エステートの特徴が与えられているが、そうした点以上にこのクルマで注目すべきはその中味かも知れない。
より自然なフィールで機敏さを感じさせ(間違いなく四輪操舵システムのお陰だ)、直線での驚くべき速さ(現在短縮されているブランティングソープの直線路でも軽々と290km/hに到達してみせた)だけでなく、RS6は外周路でも楽しむことが出来る。
もちろん、依然史上最高のハンドリングを備えた俊足エステートとは言えないが、これまでステアリングを握ったことのあるどのアウディ製大型エステートよりも、見事なハンドリングとシャープなターンイン、そしてより優れたフロントグリップを感じさせてくれた。
この「クワトロ」という言葉がアウディにもたらしたものの大きさは計り知れない。
もっとも偉大なクワトロ
単なるニッチなモデルとしてスタートしたクワトロだったが、その後アウディ全体を象徴するブランドとしてクワトロGmbHへと進化しており、2016年にはアウディ・スポーツへと名を変えている(個人的には非常に残念に思っている)。
アウディが「クワトロ」という名を単なる四輪駆動テクノロジーに留まらず、自らのブランド哲学を体現する象徴としたことは、1970年代にはさしたる特徴のないメーカーのひとつに過ぎなかった彼らが、いまの強大なブランドへと成長する大きな助けとなった。
確かにクワトロがアウディを救ったわけではないが、ブランドを築き上げる力となったことは間違いないだろう。
これほど登場した時代背景やパフォーマンス、さらにはコンセプトの異なる5台に順位を付けるなど間違っているかも知れない。
だが、敢えてここでは素晴らしいモデルと、真に偉大な1台との違いをご紹介させて頂こう。
初代クワトロの果たした役割は大きく、確かに魅力溢れるモデルだが、いまやそのパフォーマンスは物足りないと言わざるを得ない。
RS2アバントは期待するほどバランスに優れているわけではないが、それでも素晴らしいモデルであり、見事なスタイリングとともに圧倒的な希少性も備えている。
そして、まったく別の理由からTTとRS6アバントは想像以上に優れたモデルだと感じさせてくれた。
だが、初期のマニュアルギアボックスを与えられたR8は別格の存在だ。
単に偉大なアウディというだけでなく、当時もいまもこうしたモデルとしてはもっとも見事な1台だと言える。
各車のスペック
アウディ・クワトロ2.2 20vターボ
価格:3万2995ポンド(1990年当時)
エンジン:2226cc直列5気筒ターボ
パワー:220ps/5990rpm
トルク:31.5kg-m/1950rpm
ギアボックス:5速マニュアル
乾燥重量:1380kg
0-100km/h加速:6.5秒
最高速:227km/h
燃費性能:na
CO2排出量:na
アウディRS2アバント
価格:4万5760ポンド(1994年当時)
エンジン:2226cc直列5気筒ターボ
パワー:315ps/6500rpm
トルク:41.8kg-m/3000rpm
ギアボックス:6速マニュアル
乾燥重量:1595kg
0-100km/h加速:5.4秒
最高速:262km/h
燃費性能:na
CO2排出量:na
アウディTT 1.8T 225クワトロ
価格:2万9470ポンド(1999年当時)
エンジン:1781cc直列4気筒ターボ
パワー:225ps/5900rpm
トルク:28.6kg-m/2200rpm
ギアボックス:6速マニュアル
乾燥重量:1465kg
0-100km/h加速:6.6秒
最高速:243km/h
燃費性能:10.8km/L(NEDC基準)
CO2排出量:223g/km(NEDC基準)
アウディR8 4.2 FSIクワトロ
価格:7万6532ポンド(2007年当時)
エンジン:4163cc自然吸気V8
パワー:420ps/7800rpm
トルク:43.8kg-m/4500rpm
ギアボックス:6速マニュアル
乾燥重量:1560kg
0-100km/h加速:4.6秒
最高速:301km/h
燃費性能:6.8km/L(NEDC基準)
CO2排出量:349g/km((NEDC基準)
アウディRS6アバント・クワトロ・ティプトロニック
価格:9万2750ポンド(1251万円)
エンジン:3996cc V8ツインターボ
パワー:599ps/6000-6250rpm
トルク:81.6kg-m/2050-4500rpm
ギアボックス:8速オートマティック
乾燥重量:2075kg
0-100km/h加速:3.6秒
最高速:304km/h(リミッター解除)
燃費性能:8.0km/L(WLTP基準)
CO2排出量:283g/km(WLTP基準)
番外編1:さらに特別なクワトロ
スポーツクワトロ(1984年)
このスポーツというモデルは1984年のグループBラリー向けに登場したホモロゲーション用の特別なクワトロであり、狂気のルックスと驚くほど短くなったホイールベースを与えられていた。
310psのパワーを誇る当時史上最速のアウディであり、わずか200台に留まる生産台数によって、現在ももっとも希少な1台となっている。
RS6/RS6アバント(2008年)
ランボルギーニ・ガヤルドの5.0L自然吸気V10をツインターボ化したエンジンを、アウディA6に搭載したモデルだ。
12年後に登場した新型RS6アバントと比べてもわずか20psしか違わない579psを与えられたこのクルマは、まさに狂気のモデルだった。
Q7 V12 TDI(2008年)
多くの点でもっとも狂気のクワトロと呼ぶべきモデルであり、単に巨大というだけでなく、これまで登場したなかでディーゼルV12エンジンを積んだ唯一のモデルであり、101.9kg-mというとてつもないトルクがその理由だ。
これほどのトルクがあれば、なんの苦もなくウッドストックにあるブレナム宮殿を牽引することが出来るだろう。
RS4アバント(2012年)
史上最高のオールラウンド性能を誇るクワトロを探しているのであれば、このクルマで決まりだ。
R8譲りの4.2L V8エンジンを搭載したモデルはこのクルマ以前にも存在しているが、先代よりもはるかにシャープで楽しめるドライビング性能を実現していた。
さらに、素晴らしいルックスと特筆すべき品質がこのクルマを完ぺきな存在にしている。
eトロンS(2020年)
クワトロも電動化の時代に突入している。
電子トルク制御によってかつてないほど四輪駆動の必要性が高まる一方、柔軟なメカニカルレイアウトが可能になったことで、これまでよりもはるかに簡単に四輪駆動を実現することが出来るようになっている。
40年に及ぶアウディの四輪駆動への情熱は、ふたたび新たな時代に相応しい存在になろうとしている。
番外編2:セカンドアルバムは難しい
11年にも渡る素晴らしい活躍を終え、初代クワトロが引退したのは1991年のことだった。
もちろんこれほどアウディのイメージを高めることに成功したクワトロには、当然ながら後継モデルが登場している。
あれほど成功したクワトロの名を使わないなど奇妙に思えたが、S2クーペは新たなルックスで若返りを果たすとともに、はるかにキャビン品質は改善され、1993年以降は6速マニュアルまで与えられていた。
にもかかわらず、このクルマはその人気という面では初代に近づくことすら出来なかった。
間違いなく速さは備えていたもののシャープさを失い、クルマ好きのためのモデルというよりも、まるでビジネスマンのための移動ツールのようだった。
ラリーやレースに出場することもなかったこのクルマは、実際初代とはまったく別のモデルだった。
販売期間はわずか4年に留まっており、後継モデルも登場していない。
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AUDI | 日記
Posted at
2020/04/21 22:40:44
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