
すでに7、5シリーズに、最近では新型の1シリーズにも、さらには来年2月には発売が予定されている次期3シリーズにも搭載される、8速オートマチック・トランスミッションの使い勝手や使い心地は、何度かの試乗で味わってはみたものの、もう一つ実感としてとらえにくかった。そこで、この8速ATの特性を、エンジン回転数と各ギア使用時の速度でグラフ化した。比較のために、現行3シリーズの6速ATのグラフも付けた。計算条件など細かい事は次回にするとして、この二つのグラフを眺めてみた感想を書きたい。
念のためグラフの見方を説明すると、縦軸は1分間あたりのエンジン回転数、横軸は時速である。1速から5速あるいは8速までのラインを色分けした(というよりエクセルが勝手にこの色を付けた)。グラフ下の表の数値は、各ギアそれぞれの速度ごとのエンジン回転数である。
また、グラフと数値には、低回転域から高回転域にかけて、段階的にエコなイメージの緑から、"Highway Star"なイメージの紫に色分けした。
なお、ATのDモードで走っている時は、基本的には2,500回転あたりで自動的にシフト・アップされる(シフト・インジケータ付きのMT車の場合は、2,800回転あたりからシフト・アップを促すらしい)。
(1) 150km/h以上の最高速域について
日本の道路ではまず使うことがない速度域であることは言うまでもないが、BMWがアウト・バーンを持つ国の車であることを、よく感じさせる。このグラフを見ていると、長い長い直線の高速道路を一気に、あるいはゆったりと最高速にまで持って行きたくなるというものだ。
200km/hを超え、最高速の250km/hに達するギアが、6ATでは5速・6速の2段分あるのに対して、8ATでは6速から8速までの3段分がある。つまり、8速ATならば、ゆとりをもって最高速に達することができる。同じように、150km/hから200km/hの間でも、8ATの方は4段分ものギアを持っている。6ATが4段分のギアを使えるのは、それよりも50km/h遅い、100km/hから150km/hの間だけである。
また、最高速250km/hでの最低回転数は、8ATの方が約600回転ほど低い。つまり、より経済的に最高速度での走行が可能である。しかし150km/hで比較すると、8ATの優位は350回転程度である。このことは逆に、6AT6速ギアのワイドな長所を感じさせる。
(2) 100km/h前後の高速域について
日本の高速道路で使用可能な速度域だ。つまり、直線とゆるやかな曲線から成る幅広い道を、時に車線変更や加減速を交えながらも、基本的には一定の速度でゆったりと車を走らせる状況である。BMWにとってはいくぶん力を持て余す速度だが、それだけに、走りの安定感、安心感はとても大きい。
8ATでは、3速から8速までの6段ものギアが使える。6ATに慣れた身にとっては、これはまるで発進時のようなものであって、約1,700回転から5,400回転までをカバーできる幅広いトルク・ピーク帯を持つエンジンの性能を十分に生かしつつ、思いのままの走行が可能となる。
もっとも、6ATにしても、3速から6速までの4段のギアが使えるので、そう不便というわけではない。ただ、8ATが6ATより2段多いギアを持つ意味は、3速の高回転域での力強さと、8速の低回転域での経済走行という、対極的な性質を兼ね備えるメリットとして現れてくる。特に、8ATの100km/h走行時の約1,700回転という数値は優れた燃費を実現できるだろう。
(3) 50km/h前後の中速域について
内外を問わず、車というものはこの速度域を使うことが最も多いであろう。同時に、BMWという車が、高速で走るばかりに長けているわけではなく、逆に「駆け抜ける歓び」のキャッチ・コピーを実感できるのは、この速度域においてこそだと言える。なぜなら、この50km/h前後での「走る・曲がる・停まる」ことが、いかにも容易かつ楽しい車がBMWだからである。
グラフの50km/hの縦軸をよく見ると、6ATと8ATの間で、現実的に使えるギア数の差は1段と意外に少ない。1速はほぼ同じラインを通っているし、6ATでは2~4速だけが、8ATでは2~5速だけが実用的なギアなのである。それでも、ギアのラインが密集しているこの速度域で、1段の差の実用性は少なくない。特にトルクに余裕があり、しかもシフトタイミングとなることが多い2,500回転前後(黄色エリア)にギアが一つ余分にあることは、車の加減速をとてもスムーズにさせるだろう。
またそれゆえ、8ATではペダルを踏み込まない限り、スイスイとギアを上げてゆくことで、エンジンの回転数を抑えるであろう。8ATの車というものは、基本的に静かなのだ、ということがわかる。
逆に元気なエンジン音やちょっとした加速感を味わいたい時、グラフでは3,000回転以上の赤色から紫色エリアの中・高回転域の時、6ATでは1速(25~55km/h)→2速(45~100km/h)の2段の間を使い分けることになるが、8ATでは1速(25~55km/h)→2速(37~80km/h)→3速(55~120km/h)の3段の間を使い分けることができる。シフトやパドルのギア操作によって、まるでMT車のように、エンジンの中・高回転を維持した元気なBMWの走りを楽しむことが容易となるわけだ。
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前回の記事で、BMWの新型ターボ・エンジンの性能について考えたが、実際には、このようなギアが車の動き方を作り出している(3年ほど前に
こんな記事も書いてた)。しかし、もっと正確に言えば、このようなギアが車の動き方の可能性を用意しているに過ぎない。たとえば、320iと335iのパワーの差は、このグラフの各ギアのラインを右上がりに駆け上がる時間の短さであって、それが背中をシートに埋め込むような加速感と化してライバーに伝わってくるものだ。
また最近では、DDC(次期3シリーズではDEC)、つまりスポーツ・プラス・モードからエコ・プロ・モードまで様々に用意された、シフト・タイミング変更プラグラムが使い分けられることで、グラフ上の8本のラインのどれをいつ選択するかが決められる。
このように考えてみると、他の新しい制御システムを伴いながら、この8速ものギアは、私たちドライバーに対して、より細かで正確な、つまり官能的な車との一体感をもたらす仕組みではないかと思えてくるのである。

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F30/31 3シリーズ | クルマ
Posted at
2011/11/11 15:01:04