前回の記事で「N20B20A」型という2リッター4気筒ターボエンジンの出力特性グラフを見ているうちに、他のエンジンと比べてみたくなった。そこで、新型の1シリーズ、来年フル・モデル・チェンジする3シリーズ、そしていずれエンジン変更がおこなわれる5シリーズなどに搭載される、「N55B30A」、「N20B20A」、「N13B16A」という、BMWの三つのターボ・エンジンの出力特性を、それぞれ色を変えて一つのグラフの中に描いてみた。まずはこれらのエンジンの簡単な紹介から。
N55B30A 3リッター6気筒ターボ。225kW〔306ps〕、400Nm〔40.8kgm〕。
おもな搭載車は「135i」、「335i」、「535i」など。
N20B20A 2リッター4気筒ターボ。180kW〔245ps〕、350Nm〔35.7kgm〕。
おもな搭載車(予想)は「328i」、「528i」など。
N13B16A 1.6リッター4気筒ターボ。125kW〔170ps〕、250Nm〔25.5kgm〕。
おもな搭載車は「120i」など。
グラフの見方を説明すると、左側縦軸の目盛りはトルクで、Nm、kgm両方の単位を示した。右側縦軸の目盛りは馬力で、ps、kW両方の単位を示した。横軸はエンジンの1分間あたりの回転数である。一つのエンジンには、トルクの曲線と馬力の曲線の二種類があって、三つエンジンごとにそれぞれ青、黒、赤と色を変えた。どのグラフも最高値の点や線に数値を記した。
なお、コンピュータ制御で馬力を下げたバージョンのエンジンについては、最高馬力のピークの点と数値を、同じ色で記した。また、これら三つのエンジンではないけれども、BMWでよく聞く馬力のピークを緑色の点と数値で示した。なお、グラフ作成にはBMW公表資料等を用いた。
さて、このグラフを見ていると、実に色々なことを感じ、考えてしまう。そもそもBMWのカタログには、ある一つのエンジンのグラフはあっても、異なったエンジンを並べたものは、あまり見なかったように思う。いかにも素人臭い感想だが、思いつくままに書いてみたい。
1) 三つのエンジンに共通する、いかにもターボらしいトルク・ピークの素早い出方。今までは青ラインの6気筒エンジンでしか味わえなかったが、これからは黒や赤ラインの4気筒エンジンでも、トルクフルな立ち上がりを楽しんで走ることができそうだ。
2) 青ラインの6気筒ターボ、「N55B30A」エンジンのパワーの卓越性。また馬力の頂上部が滑らかなこと。さすが受賞歴に輝く、BMW各シリーズのハイパワークラス中核となるエンジンだと思う。しかし現在、このエンジンの改善も進められているらしい。
3) こうやって並んだ大・中・小三種類のパワーを見ていると、私たちユーザーはお金を払ってパワー(と言うよりも、そのパワーがもたらす俊敏な移動の官能)を買っているということが妙に納得できる。そう考えれば、同じエンジンのデチューン版でも、コストが見合えば買って損はないはずだ。
4) 4,000回転を超えた辺りから「ヤル気」が湧くエンジン音が出始めるものだが、その時の青、黒、赤ラインの馬力がかなり異なる。ハイパワーになるほど、日本の公道では、この音を聞くチャンスが少なくなるような気がする。しかし袖ヶ浦のサーキット場などで試乗させられると、どうしてもハイパワーなエンジンが欲しくなるものだ。
5) 逆に、慣らし運転の時に気付いたことだが、4,000回転を超えないで走るのは簡単なことで、特に8速ATならなおさら低回転を維持するだろう。つまりたとえ5,000回転で頭打ちのエンジンでも、ターボで低速トルクがあるために、のんびりした走行なら十分実用的だろう。
6) トルクの赤ラインと黒ラインの間が開いていて、ちょうど300Nm(30.6kgm)を最高値とするラインでグラフを埋めたくなる。それは馬力では150kW(204ps)を少し超えたあたりとなり、おそらく「325i」、「525i」などの名を与えられた車に積まれるかもしれない(緑の「218ps」の点が、かつての「325i」などのもの)。
7) 緑の点や数値は上から順に、たとえば歴代の「330i」、「325i」、「320i」に積まれたことがある、ノン・ターボ・エンジンのものだ。これらは共通して馬力のピークが6,500回転前後だが、三種類のターボ・エンジンは、それぞれ2,000回転ほど早くからピークの始まりを迎える。馬力の上がるラインが急勾配なのだ。短時間での加速感を楽しむならターボ、回すほどに伸び上がっていく加速感を楽しむならノン・ターボだ、ということがわかる。
8) ターボ・エンジンの早めのピークは、フラットに1,500回転ほど続く。このフラットなエリアでも緩やかながら加速は続くので、回らないエンジンではないけれども、回す必要は少ないかもしれない。もしも秒を争うような走りだったら、私はピークに入ったところで即座にシフト・アップするだろう。
* * * * *
私の愛車120iカブリオレの馬力は緑の点の最も下のもの(156ps/115kW)だ。トルクに至っては20.4kgm(200Nm)で、赤ラインにすら及ばない(ちなみに少し前までは、このトルクのNm値が車名の2桁目と一致していた)。しかし、日本の道の低い法定速度のおかげか、回すほどに伸び上がっていく加速感を味わいながらも、駆け抜ける歓びは十分に感じている。それに、幌を下げてゆったりと街中や郊外を流して走る楽しさは、パワーとはあまり関係がない。
それでも、1.5トンを超える車重を自在に操るならば、やはり204ps(150kW)を超えるくらいのパワーが欲しいと思うときもある。実際のところ、同じくらいの重さだった前車320iツーリングに乗っていた頃も、325iくらいのパワーがあった方が扱いやすいと感じていたものだ。それとも、日頃からは使い切れないパワーかもしれないけれど、180kW(245ps)のBMWだったら、どんな歓びを感じさせてくれるだろうかなどと、こんなグラフを見ていると、あれこれ夢想してしまうのだ。
ブログ一覧 |
F30/31 3シリーズ | クルマ
Posted at
2011/10/30 16:35:28