
まだガラケーの時代の話です。得意先でトラブルがあり、東京から出張して、佐賀県の営業担当者と同行することになりました。自分の父親に近い年齢のベテラン営業マンで、鬼頭さん(仮名)という方でした。電話では頻繁に話しており、声はよく知っていました。声が野太く、とても威迫的な話しかたをされるため、電話に出た刹那、鬼頭さんだと鑑別できました。役職定年になった元支店長の非常に怖い方でしたので、いつも慎重に言葉を選んで話をしていました。
問題は、面識がないことでした。待ち合わせ場所は、佐賀駅前を指定されました。「あんた心配性だねえ。田舎だから大丈夫だよ。ビジネスマンなんてそんなにいねえからよ」という言葉を信じ、特に段取りは決めていませんでした。
当日、駅前は閑散としており、鬼頭さんと直ぐに落ち合えるだろうと思いました。ところが、待ち合わせの時間を過ぎても、鬼頭さんらしき方が近づいてきません。交通事情等で多少の誤差が生じるのはよくある話ですので、下手に動きまわるよりもいいと考え、じっと同じ場所に立ち続けました。
10分ほどして、たまたま振り返った瞬間に、背後にいた男性と目が合いました。オフコースの小田和正氏とよく似た銀髪混じりの優しそうな紳士でした。
さらに5分が経過した頃、背後にいたその小田氏風の男性から声をかけられました。
「あんた、もしかしてさあ……」
聞き覚えのある野太いあの声でした。
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2022/08/21 08:51:27