
学生時代に所属していたテニス部での話です。7月下旬に軽井沢で行われる1週間の夏合宿は、朝から晩までテニス漬けのハードさで知られていました。平地にある自校で2週間、強化練と称された通常の150%量の練習をこなし、フィジカルを完璧に作ったうえで、さらに高原での合宿で鍛え抜くのです。追試等の兼ね合いで、強化練に十分参加できなかった部員は、ほぼ確実に合宿前半で脱落していたほど厳しいメニューでした。
宿舎での1年生は大部屋での雑魚寝なのですが、テニスに関する寝言がほうぼうから聞こえてくるのが楽しかったです。「ボール行きます」「ジャスト(少しアウトの意)」「ナイショー(ナイスショット)」「メイクマッチ(あと1ポイントでマッチポイントの意)」という具合に、夢の中でも激戦が続いているような感じでした。
3日目の深夜、全員が寝静まっていた頃、ある物音で本能的に目が覚めました。周囲の同級生も何人か起きだしていました。
耳を澄まし、音の確認を続けます。
「間違いないか」
「うん、これは間違いないよ」
雨だと分かれば、もうやることは一つです。窓を開け、雨量を確認しました。
「本降りにしてしまうしかないな」ということで話がまとまり、4人で宿舎を抜け出しました。行き先は、テニスコートです。
コートの周囲には、必ず水道栓がありますので、水浸しにしてきました。立派な水たまりができたのを確認し、再び寝床へ戻りました。午前中の練習はできない状態になっていました。
翌朝は陽射しがなく、コートの水たまりは残っていました。2学年上の主将の決断を待つだけです。勝利を確信していました。
「おい1年、宿舎へ戻って、ありったけの雑巾を持ち出してこい」
まったく予期しない事態でした。自分達で作った水たまりを自分達で吸い取るはめになってしまったのです。1時間遅れで、いつもどおりの練習が始まりました。
――卒業してから、先輩にこの話をカミングアウトしました。
すると、意外な答えが返ってきました。
「お前らが水をまいたことは、おおよそ分かっていたよ。俺も1年のときに同じことをやったからな」
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2022/09/28 11:58:37