
営業の福田氏(仮名)は、私よりひとまわり年少者で、フットワークの良さに定評がありました。僻地と地方都市の転勤を重ねながら、その努力が認められ、大都会の重要得意先を担当するようになりました。本社スタッフとしてVIPの顧客をフォローアップする役割が仕事になっていた私は、必然的に福田氏と同行する機会が多くなりました。
私と同行しているときの福田氏は、1.5列目に控えている感じで、割と大人しい印象を受けました。VIPからも気に入られている様子が見てとれました。
この関係に変化が生じたのは、1年後くらいからでした。私一人でVIPと面会する機会があり、そのときに、「担当の福田さんを代えてもらえませんか」との相談を受けました。さすがに直ぐにという要求ではありませんでしたが、半年先でも一年先でもいいから、という話でした。
理由を訊ねると、非常に根が深いことが分かりました。福田氏の訪問頻度は、非常に高かったそうです。身だしなみ、礼儀作法も平均点以上とのことでした。製品知識は申し分なく、物流や価格体系にも詳しくて、営業マンとしては優秀なのでしょうね、とまで言われてしまいました。
なのに何故ですか、という話になります。
VIPは、淡々と語り始めました。
「彼は、基本、自分のためになる話しかしません。それと、自分のためになる情報を私から訊きだそうとするだけです。笑い話の一つでもしてくれれば、それは私のためになっていると思えるかもしれないのですが、それさえもないのです。なので、彼の顔を見かけたり、連絡があったりすると、また彼自身のために何か画策しているなという嫌な気分になってしまうのです」
10年近く経った今になって、このときの出来事を述懐すると、彼は、製品を売り込む営業マンとして一流だったと思います。しかし、超一流には遠く及ばなかったということなのでしょう。顧客の求めていることを察知し、心をつかむことの難しさを思い知らされた話でした。
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2022/11/01 08:13:28