
音楽室の奥から強烈な西日が照りつける逆光のシチュエーションでした。僅か二十メートルあまりしかない奥が霞んで見えました。
瞳孔が慣れるのに数秒を要してから、目的の彼女を見つけることができました。壁に寄りかかるようにしながら、同級生達と話し込んでいる様子でした。五人の真ん中に彼女は立っていました。まだ僕の存在には気がついていませんでした。
緩徐に歩みを進めていくと、五人組の端にいた生徒が気づいたようで、会話を止めました。じっと僕のほうを凝視し、観察を続けていました。自分以外の誰かに用事がある人に違いないと思ったのでしょう。数秒後には、その気配が順番に隣へと伝わり、ついに彼女と目が合いました。
彼女は、かなり驚いた表情を見せながら、会釈してきました。彼女の左右二名ずつから痛いほど鋭い視線を感じ、顔から火が出る恥ずかしい思いをしました。必死に笑顔を作ろうとしても、頬がこわばってしまうのです。
距離にして二メートル余りでした。
雰囲気を察知した両脇の四名が、さっと左右に数歩移動して、僕らだけのために僅かな空間を作ってくれました。
聞き耳を立てられている状況は辛かったです。これが最後のチャンスになると察し、頑張りました。
同性の友達との約束があるから二人きりでは後夜祭に出られないとの返事でした。絶望感が千鈞の重みとなって背中に覆いかぶさってきました。
のちに、自分が玉砕できていなかったことに苦しめられました。新たな恋をしても、後顧の憂いが軽快することはありませんでした。「君が好き」というひとことを、言葉として、声に出して伝えたかった。その痛恨の思いが後年も残り続けました。
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2022/12/17 08:59:52