
10年くらい前の話です。得意先から製品の不具合に関する連絡がありました。このとき、ビジネス上の勘として、現地の営業担当者だけに対応を任せるわけにはいかないと判断しました。顧客がVIPだったうえ、指摘された違和感が、工場では製造バラツキとして許容されていた誤差だったからです。良品か不良品かで、明らかにもめそうな予感がしました。
工場に勤務している旧知の仲の苅谷さん(仮名)に連絡し、同行をお願いしました。非常に正義感の強い方ですので、直ぐに現地待ち合わせということで話がまとまりました。営業、工場、本社の三者がそろえば、顧客に誠意が通じます。
ただ、私がお願いした準備に関して、一つだけ苅谷さんが難色を示していました。苅谷さんが現場から駆けつけてきたことを強調するために、工場の作業着のままきて欲しいとお願いしたのですが、なかなか了承してもらえません。清掃業者と間違えられるのが嫌だという話でした。
最終的には、苅谷さんが折れてくれました。一刻も早く駆けつけるためには、自宅へ寄って着替える時間を削れる作業着のままがベストだったのです。
VIPの得意先のロビーで、スーツ姿の2名に、作業着姿の苅谷さんが加わりました。
「苅谷さん。ご心配されていたことなんですけど、全然大丈夫そうですよ」
「本当?」
「あれ、見て下さいよ。絶対間違えられませんよ」
「本当だね。まったくだ。工場長に文句いうよ」
清掃業者の更衣のほうが、はるかにカラフルで清潔感にあふれ、しかもスタイリッシュだったのです。
面会のほうは、円満解決できました。
冒頭で、苅谷さんが「着の身着のままで失礼します」と挨拶すると、VIPにその気持ちが通じました。
「苅谷さん。何言っているんですか。それは、ユニフォームじゃないですか。最高の正装じゃないですか。直ぐきて頂いたことに感謝していますし、作業着姿に敬意を表します」
横にいた私の目頭に熱いものが込み上げてきてしまいました。
Posted at 2022/09/14 07:41:41 | |
トラックバック(0) | 日記