
岡山県境に近い兵庫県西部エリアの営業担当者から、品質苦情に関する救援を要請されました。顧客の女性管理職から一方的に怒鳴られ、あなたでは話にならないと一喝一蹴されてしまったというのです。
営業に同情すべき部分を感じました。内容的には、ユーザー側の完全な勘違いで、得意先での保管管理に原因があることは一目瞭然でした。それが不良品だという牽強付会に巻き込まれてしまったのです。牛乳から異臭がしているが、とっくに賞味期限は過ぎていて、しかも開封済みのまま室温放置されていたというレベルのひどい内容でした。
この連絡を受けた数分後には、現場の池野支店長(仮名)からも電話があり、「俺と一緒に土下座してくれ」と頼まれました。現場の最高責任者にそこまで言われてしまったら、仕方ありません。即席の詫び状を持参し、東京から、のぞみ号に乗車しました。昼時をはさんでいたのですが、面会前に駅弁を食べる気にはなりませんでした。
池野支店長とは旧知の仲で、昔一緒にスキーをした思い出がありました。西部警察時代の渡哲也氏そっくりの風貌がサングラスによって強調され、用心棒としてとても貴重な先輩でした。実際に少林寺拳法が師範級ですので、見た目だけでなく、護衛の実力も兼ね備えていました。
営業バリバリの池野支店長からは、土下座のタイミングを合図するから、それまでは何があっても謝り続けてくれ、と頼まれました。
実際に、その流れになりました。持参した詫び状を投げつけられ、紙が空中をひらひらと舞っているのを見て、「今だ」と思いました。ところが、池野支店長が「まだ早い」と表情で示しています。「ここでしょう」ともう一度目で訴えましたが、「まだ早い」と改めて強い視線で却下されてしまいました。結局、和解には至らず、一回目の面会は、一方的にまくしたてられただけで終了しました。
二回目の訪問は、詫び状の内容が、だいぶよくなったというコメントがあり、文末の数行を書き換えれば帰結できそうな雰囲気が出てきました。
三回目には、悪罵の類がまったくなくなり、母親のような温顔で褒められるほどになりました。兵庫県西部の方言は、大阪で聞く関西弁よりも語調が鋭くて戸惑いましたが、なんとか無事に解決しました。
釈然としなかったのは、若かりし頃、顧客の前でよく土下座していたとの逸話のある池野支店長が、何故あの場で実行しなかったのか、ということでした。池野支店長には、そのことを直截的に訊ねました。
「どう考えても、あのタイミングしかなかったと思いましたよ」
「得意先で土下座するのは、数字が足りなくてまとめ買いをお願いするときの切り札なんだ。あのくらいの場面で使ってたまるかよう」
素晴らしい営業根性だと思いました。
Posted at 2022/09/22 08:20:50 | |
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