
ディテイリング作業中のグローブの着用に関して、最近少し気になっていることがあります。スケール除去剤を使用するときは素手が危険という論理は分かります。しかし、酸は危険だから――という風潮には、違和感を覚えます。聖人君子を気取るつもりはありません。あのときの農薬の話と似た部分があるのは嫌だなあ、とは思うのです。
――20年近く前、家庭用園芸の世界で、オーガニックブームの勃興がありました。二項対立で農薬が敵視され、ハーブなどから抽出した植物エキスを庭に散布する防除法が盛んになりました。
やがて、異様な話が世を席巻しはじめました。天然由来なので化学合成された農薬と違って安心です、というようなキャッチフレーズで、いくつもの商品がヒットし始めたのです。
天然物の抽出物から有効成分を特定し、それを工業的に生産しているのが化学合成された農薬なのですから、製法で安全性を論じるのはおかしいと思いました。それでも、世論は、天然物志向へ大きく傾いていき、いくつかの業者は、農薬の危険性を煽ることだけで億単位の売りを稼ぐビジネスを確立させてしまいました。
間もなくして、ひとかけすると害虫がコロッと死ぬと宣伝されていたハーブのエキスを分析した農学部の先生が現れました。ばっちり農薬が出てきて、しかも既に当時使用禁止になっていた危険きわまりない強烈な成分でした。効果を出すための意図的な混入だったわけです。この製品の失脚で、農薬の代替としてハーブを使用する風潮に終止符が打たれました。
――ディテイリング作業時のグローブ着用の話に戻ります。
化学熱傷は、酸でもアルカリでも起こります。酸だから危険というのは間違いです。本当に防護をするのなら、手首が露出してしまう安物ではだめです。防護専用の更衣を着込み、袖口をグローブで包むようにしなければなりません。グローブは前腕の半分近くまである長いものが望ましく、二重着用で、ゴーグル、マスク、換気も必須になります。皮膚に付けてはいけないものは、吸ったり、粘膜に触れたりしたら、もっと危険なはずなのです。
幸いなことに、一般的なディテイリング用品にそこまで強い薬品はありません。安価な使い切りグローブで十分でしょう。
唯一気になるのは、フッ酸化合物あるいはその類縁成分が使用されている可能性のあるスケール除去剤です。スケール除去剤が危険だからグローブが必要という考えかたで十分ですが、正確には、――なにが含まれているのか明確に表示されていない製品を扱う以上、グローブは必要になるのだと思います。付言すると、酸とアルカリが危険で中性は安全、ということではありません。考えてみれば、他業界では考えられない恐ろしい話です。危険ゆえにグローブの着用等が推奨されているのに、肝心の成分やその量が不明確なのです。
最後に私見でまとめます。酸とアルカリとでは、圧倒的にアルカリのほうが怖いです。遠慮会釈なくヒトのタンパク質を分解し、経皮吸収されやすい成分が多く、しかも落としにくいからです。酸対策でグローブを着用するのならアルカリでも着用すべきと考え、そうしています。
Posted at 2022/02/25 15:26:43 | |
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