
自験の「実録」を「どぶろっく」バージョンでご紹介します。
小篠さん(仮名)は、ひとまわり上の方で、東京都内を皮切りに、営業畑で全国を転々とされた方でした。しばしば得意先で大きなミスを犯していましたが、持ち前のガッツと明るさでリカバリし、「あの人は憎めない」というような評判が社内外で定着していました。営業数字を伸ばし、関西方面で営業所長をされていましたが、名前は、職位以上によく知られていました。趣味のマラソンで好記録を出すたびに社報に掲載され、盛名を馳せていたのです。
そんな小篠さんが、自分の斜め前のデスクに着任されましたので、「分からないことがあったら、何でも訊いて下さい」と挨拶しました。
しばらく接点はなかったのですが、1ヶ月後くらいに、突然声を掛けられました。耳元で、「訊きたいことがあるんだ」という小声でしたので、事情を察して、空いている会議室に移動しました。赤面している様子から、酒か風俗系の話だろうな、と予想していました。
小篠さんは、「悩んでるんだよ」と切りだしてきました。家族トラブルのような深刻な表情でした。守秘を約束し、続きを促すと、「就業時間後、ランニングウェアに着替えて帰宅したら問題になるだろうか?」という仰天の内容でした。50歳でフルマラソン2時間台を出す方でしたので、周囲にジョギングの名所の皇居があり、社宅まで20kmほどという距離が魅力的に感じられたのだと思います。
翌日、終業時間とほぼ同時に、小篠さんが正装になりました。想像を超えてきた部分があり、こちらの戸惑いを隠すのに必死でした。女子学生のブルマのようなピチピチの短パンに、駅伝スタイルのランニングウェアだったのです。海パン姿と大差はなく、今ならハラスメントに抵触しそうな露出度でした。エレベーターは使わないほうがいいですよと助言し、非常階段伝いに先導して、小篠さんを社屋から送り出しました。
小篠さんは、水を得た魚のように、いきなりターボを効かせながら、蝉しぐれが最盛期を迎えている皇居方面へ消えていきました。
ところが、翌日の小篠さんは、メスの争奪戦に敗れた牡鹿のように覇気がなく、明らかに落ち込んでいました。昼休みまで待てず、こっそり事情を訊きました。
「実はさあ。完走できなくってよう。環七の空気がひどくて断念したんだ。電車に乗って帰ったよ。いろいろ協力してくれたのに、ゴメンな」
「ドンマイですよ。でっ、小篠さん、あの恰好で満員電車に乗ったんですか?」
「仕方ないじゃないか」
「コースを変えて、また挑戦しますか?」
「絶対にやらないよ。30年間で、こんなに大気汚染がひどくなっているとは想像もできなかった」
実録は、以上です。
ここで、「どぶろっく」師匠の登場です。
――もしかしてだけど、菊池桃子の伴走があれば、不調の小篠さんに勝てたんじゃないの~。
伴走は、マラソンだけではなく、「生涯通して」を希望します。
Posted at 2024/08/31 08:59:42 | |
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