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2021年05月02日 イイね!

16年遅れの書評『ヨーロッパ・フォードのデザイン論』

16年遅れの書評『ヨーロッパ・フォードのデザイン論』その昔にフォードジャパンが発行していた「FORD ism」で、欧州フォードのデザインを特集した号を入手しました。タイトルに『ヨーロッパ・フォードのデザイン論』とある2005年の刊行物です。たとえ自社の広報媒体上での論稿であったにせよ、欧州フォードのデザインを正面切って論じたコンテンツなど、私にはあまり記憶がありません。私はうかつなことに当時リアルタイムでこれを読んでいなかったため、15年以上も経た今頃になって、大いなる関心を持って読みました。

これを発行当時の欧州フォードのデザインは、初代Kaにはじまってクーガー〜初代フォーカス〜二代目モンデオ〜六代目フィエスタと展開されてきたニューエッジ・デザインが、そろそろ次のフェーズへと移行を始めようとしていた頃です。それだけに、成熟を迎えたニューエッジ・デザインをどのように解読し、批評するか、文章にも適切な言葉を選びながら、試行しつつ綴られているような印象が感じられます。そもそもが「一貫した強いイメージがなく文字に表しづらい」とされていた欧州フォードを、しかもデザインという観点からその固有性を説くことは相当チャレンジングだったのだろうと想像します。
ニューエッジ・デザインも、自動車の意匠や形状を指す定義としてみれば、特徴的な造形要素がいくつかあるものの、それをストレートに言葉で書き表すだけではなんとも掴みどころがなくなってしまいます。それだけに、ニューエッジ・デザインを生み出したフォードという企業の姿勢-思想や理念にまで目を向け、ニューエッジ・デザインはそれらが自動車の形象として表出した帰結であると説いていることには意味があると感じました。デザインを目に見える色や形や印象の次元で論じるのは、比較的やりやすいし、特に車のそれは話題にしやすいのですが、どのような意図・背景・経緯のもとで色や形や印象などがもたらされたのか考察した上で、デザインを巨視的に論じることの意義は大きいです。
この点で、本稿におけるニューエッジ・デザインへと表象されたバックボーンにあたる部分の掘り下げの度合いは、いかにも弱いものです。つまり、過去の初代フィエスタやシエラを例に、フォードがただ単に車として必要な機能を追求してきただけではなかったゆえ成功した・デザインを機能に隷属させただけでない点が重要である、と述べられているのですが、ではその「だけでない」部分とは一体どういったことであったのか?それが、「価値ある移動の提供」「車づくりへの愛」といったいささか抽象的な表現に留まってしまっていて、説得力にもうひとつ欠けていたのが物足りないところです。
対照的に、初代フォーカスのデザインをめぐる考察は、筆致に迷いがなく明快です。フォードにとって一大イノベーションを志向した初代フォーカスには、車として一新された機能と、企業としての革新姿勢とが結実していたからこそ、ニューエッジ・デザインのインパクトが誰の目にも明らかであった、と。私もこれは大いに賛同します。ニューエッジ・デザイン自体は初代Kaで初めて市販車として表されましたが、そこに込められた意図や表現の質が真値を発揮したのは、まさしくAll Newな存在であった初代フォーカスであったと考えているからです。

なんとも残念なことに、この挑戦的な文章を著したのがどなたであるのか、個人名(著者名)がどこにも記されていないのでわかりません。うろ覚えですが、FORD ism自体は二玄社の部隊が編集に関わっていたように記憶しており、Form follows Functionといったフレーズや、建築家のルイス・サリバンなどを引き合いにしての論旨展開など、建築やデザイン分野への造詣の深さを感じさせるその文章は、おそらく大川悠さんによるものだろうと推測しています。大川悠さんといえば、雑誌NAVIの初代編集長として、日本に新しい自動車批評の座標軸を組み上げた功績をお持ちで、私も今なお敬意を覚える数少ない自動車分野の編集者です。

「乗ればわかる」と評されることが多かったフォード。それは確かに、車に乗る・車を走らせるといった主体的な行為を伴うことで価値が体得されるのかもしれませんが、それではあくまでもフォード車に対して能動的に振る舞えるモチベーションを有した人にしか価値が理解されません。より受動的である立場-社会的に見ればむしろそうした人の方が一般的かも-に対しても、広くその価値を問うていくためには、やはり言葉の持つ力(今だったら映像ですかね)が大切なように思います。
すでにこの国からフォード自身が身を退いている今、16年も以前のフォードのデザインをめぐる論考にはもはや何の実効力も影響力も残っていないかのようであっても、その時に言葉の力でもってフォードの像を築くことに挑んだ知的な足跡は、実に尊いものです。


Posted at 2021/05/02 10:16:25 | コメント(3) | トラックバック(0) | Ford | クルマ

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