澄み渡る青空が広がる2月のある休日の朝。夜中にすっかり冷え込んだ寝室の時計の針は8時30分を指しています。
至福の二度寝を決め込もうかと思いましたが、こんな青空を前に出かけない訳にはいきません。エアコンのスイッチを押し、十分に部屋が暖まった所で布団から何とか脱出。眠い目を擦りながらゆっくりと顔を洗い歯を磨き、服を着替えていつものルーティンワークをこなします。
窓の外を眺めていると、首都高出口のなだらかなスロープラインから白いポルシェが快音を響かせて合流。天気も上々であり自然とドライブのモチベーションを掻き立てられます。
テレビの朝のニュース番組を見ながらトーストと目玉焼き、昨晩の残りのシチューという朝ご飯をのんびりと完食。ようやく頭がスッキリした所で、持ち物を確認。使い古したデイバッグに一眼レフカメラとGopro 、ツーリングマップル、そしていつもの癖で温泉セットを詰め込み、家を出て駐車場を横目に見ながら駅へと向かいます。
その駐車場にはこれまで見慣れた4連テールランプや大型リアスポイラーはなく、ポカンと空いたパーキングスペースが一抹の寂しさを漂わせていました。
私事ではありますが、本月をもってスープラを降りることになりました。
神奈川の中古車販売店で発見してから約2年半を共にしましたが、その間の走行距離はおよそ55,000km。年平均にすると22,000km/年のペースでした。こうして見ると随分と走ってますね。年末年始の九州へのグランド・ツーリングは、スープラでの最後の長距離旅行として思う存分楽しませて頂きました。
3,000ccという高排気量と280馬力を叩き出す直列6気筒ツインターボエンジンは、ツアラーカーとして申し分ないスペックであり、強烈な燃費の悪さと引き換えに素晴らしいドライビングプレジャーを与えてくれました。ロングノーズ形状とグラマラスなワイドボディには、当初車幅感覚に慣れるのに苦労しましたが、15年近く前の車とは思えないデザインは一目見た時から魅了されてしまいました。
乗り心地は良いとは言えませんが、高速の巡航時はとても安定しており、長距離走行をいとも容易くこなしてくれるまさにGTカー。私にとっては全く不満はなく、走行距離的にもまだまだ現役で走り続けることができるでしょう。ハイパワー・ハイトルクのツーリングタイプは個人的に好きな分類であり、初めてターンパイクでレッドゾーンまで踏み込んだ時の衝撃は今でも昨日の事のように覚えています。
北は北海道から南は九州まで。文字通り日本中をこの車と共に回ってきましたが、まだまだ未踏の地はたくさんあり、グランド・ツーリングへの熱が冷めることはありません。
そんな思い出を振り返りながら電車を乗り継ぎ、週末の賑わう商店街を抜け、目的地であるディーラーへと到着。挨拶と書類の手続きを済ませた後、すぐ脇のパーキングエリアへと向かいます。そこには一台の車がひっそりと佇んでおり、逆光により特徴的なロングノーズシルエットが浮かび上がっていました。
新たな車として選択したのは、BMW Z4 23i。既に新車販売のラインナップからは外れていますが、現行の20iの先代となります。
サイズは、4,250 x 1,790 x 1,290 (mm)。ちなみにスープラは4,520×1,810×1,275(mm)ですので、投影面積としては一回りコンパクトになっています。
エンジンはN52B25Aと呼ばれるモデルで、排気量2,500ccの直列6気筒自然吸気型。最大トルクは250Nm/3,000rpmということで、ツインターボのトラクションには当然達しませんが、ミドルクラスとしては十分かと思います。
スープラと比べると10年以上新しく、私にとって初の外国車であり、サイドブレーキがボタン式であったりウィンカーとワイパーが逆であったりと慣れない事づくし。一通り説明をしっかりと聞いた後、真新しいリモコンキーを受取り、これまた慣れないスイッチ式のボタンでエンジンに火を点けます。
中古車ですので所謂慣らしは不要ですが、まずは私自身がこの車に馴染むための「慣らし」が必要ですので、自宅には戻らず環状8号線で市街地を抜け第三京浜へと乗り込みます。巡航速度を保ちながら高速安定性やステアリングの度合い、アクセル・ブレーキの踏込みの反応を確認。シートの位置や角度もまだ何となく違和感がありますが、そのうち気にならなくなる事を願いつつ、保土ヶ谷PAで小休止を挟みながら、湘南方面へと向かいました。
一般道で海沿いへと向かい、国道134号線に出た所で車を停め、センターコンソールのオーディオ下にあるスイッチを長押しすると、この車のもう1つの顔が現れます。
無機質な機械音とともに、頭上を覆っていた屋根は後方へと格納され、20秒ほどのシークエンスで全く別の車へと変貌。そう、この車は屋根が開くのです。
引き続き国道134号線を走りますが、屋根が開くとここまでフィーリングが違うのかと驚きました。いつもなら交通量の多い海沿い区間は避けて通るのですが、風と海の香りを全身で感じながらのドライブは、いつもの道に新たなエッセンスを加えてくれます。言葉で表現することが難しいのですが、これまで私が感じていたドライビングプレジャーとは異なるものを体感。これがあの「駆け抜ける歓び」なのか、とまんまとBMWの策略にはまりつつ、小田原へと進んでいきました。
分岐車線に導かれそのままターンパイクのゲートをくぐります。路肩には雪が残っていますが天気はすこぶる良好。まだアクセルを踏み込むのは早いので、冬の冷たい空気をエンジンに吸わせながら大観山までの道のりをオープン・エアで走り抜けます。
ダイレクトに耳に響くエンジン音とエキゾーストノート、頭上から差し込む太陽の光、肌をさするキリッとした風。気づけば、箱根を越えてサンセットを間近に控えた伊豆の中心部に辿り着いていました。
次の日が月曜だと言うのにいつものデイドライブ並みに足を延ばしたことに自分でも呆れつつ、得も言えぬ満足感に浸りながら、来た道を引き返します。裾野ICから東名高速道路へと合流。屋根を閉じたファストバックスタイルのZ4を都心方面へと走らせるのでした。
今回何故Z4という車を選んだのか?と言うと、やはりこの「屋根が開く」という事に非常に魅力を感じた事が大きいです。
私のドライブはツーリングメインであるため、ハイパワー&ハイトルクのツアラー型が望ましいですし、私自身もGTカーがお気に入りのカテゴリーです。なので、様々な場所へと連れ立ったスープラには大変満足していましたし、グランド・ツーリングには前車の方が似合う事でしょう。今でもスープラへの懐古の念を禁じ得ません。
ただ一方で、ドライビングプレジャーを感じる道を走っている時、私はいつもサイドウィンドウを全開にしておりました。それは、エンジン音、エキゾーストノート、キャビンに入り込む風、強烈な牧場の香り(笑)・・・そういったものが記憶に残るドライブに繋がっているのではと感じる事が多かったです。それをスイッチ1つでON・OFFできるというのは、ツーリング好きには極めて興味深いポイントであり、その欲望を抑えきれず半年ほど前から検討し始めたのでした。
数多とあるオープンカーの中からBMW Z4 23iを選択するに至った点ですが、
・2,500ccというミドルクラスの排気量
⇒GTカーの味わいを残しておきたく、あまり排気量は落としたくない。
・自然吸気型の直列6気筒エンジン
⇒6気筒に拘るつもりはなかったのですが、同20iの4気筒ターボと比べると何となく23iの方がしっくりくるなと実感。スープラより滑らかに回転数が上がる自然吸気型のBMWエンジンに魅力を感じました。
・ハードトップ型オープン機構
⇒賛否両論あるかと思いますが、閉じた時のクーペスタイルはとても官能的なフォルムです。やっぱり最後は見た目ですね。
の3点で決めてしまいました。
ハードトップという事もあり、オープンカーにしては1.5tという重さはヘビーであり(実はスープラと同じ!)、ロードスター特有の軽快な動きは実現しにくいのかもしれませんが、GTテイストとロードスターテイストの両方が欲しい!という中途半端な私の要望にはジャストフィットでありました。
なお同モデルの上級グレードとして、3,000cc直6ツインターボで300馬力以上を叩き出す35iがありますが、スープラ以上のパワートレインをオープンカーに持たせる必要はないかなと思い、お財布とも相談しこちらは見送る事にしました。
まさか自分がオープンカーに乗る事になるとは夢にも思っていませんでしたが、晴れてZ4初心者オーナーとなりました。
ただ、車が変わっても乗る人間とやる事は変わりませんので、これからも同じようなドライブ日記が続くだけですが、皆様今後とも何卒宜しくお願いいたします。