
東京モビリティショー2025のダイハツブースが大きな話題になっています。
2代目の「終売予告」によりモデル消滅の噂までたっていたコペンに、スポーツカー好きが夢に見た「もしも」が形になったかのような、一台のコンセプトカーが発表されたからです。
軽自動車規格で、FR(後輪駆動)の、オープンスポーツ。3代目(仮)になるかもしれない、新しい「コペン」の姿です。

初代、2代目と紡いだ歴史をリセットして、トラディショナル・スポーツカーの証ともいえるFRレイアウトを採用。軽規格で納めたコンパクトさ、ロングノーズのシャープなスタイリング。
エンスーはもちろん、メディアやジャーナリストの方々も「待っていました」「素晴らしい挑戦だ」と、とても高い評価をしています。
もちろん私もその一人で、正直心が踊りました。後輪駆動のS660が去り、ビートやAZ-1、そしてカプチーノが伝説となった今、「FRの軽スポーツ」という響きほど、心をときめかせるものはありません。
……でも、なのです。
その熱狂の真ん中で、私は「静かな違和感」を感じました。この盛り上がりは、本当に「コペン」というクルマが歩むべき姿なのでしょうか。
私たちクルマ好きは、スポーツカーとなると、すぐに「走り」のことばかりを考えてしまいます。駆動方式はどうか、ハンドリングはどうか、なんて。
ですが、初代・2代目のコペンがあんなにも長く愛され、特別な存在でいられたのは、彼らが「FRスポーツ」だったからではありません。

もっと正確にいうなら「軽自動車なのに、スイッチひとつで屋根が開閉する電動メタルトップ(アクティブトップ)」という、他に誰も持っていない価値にあった気がします。
実は、初代コペンが生まれた時、ダイハツ自身も迷っていた節がありました。 これを「ピュアなライトウェイトスポーツ」にするべきか、それとも「気軽でおしゃれなオープンカー」にするべきか、と。
結果、初代はデビュー当初「電動メタルトップ」仕様と、軽量化のために屋根を外す「脱着式ハードトップ」仕様の、両方をラインナップしたのです。そして、お客様が選んだのは、圧倒的に前者でした。

つまり、ピュアスポーツ志向のハードトップは、残念ながらカタログから姿を消してしまいました。2代目では見る影もありません。
つまりコペンは、「走り」のために不便さを我慢するクルマではなく、オープンカーとしての「快適さと楽しさ」を両立させるクルマとして、市場に受け入れられた歴史を持っています。
雨の日も、寒い日も、静かなクーペとして安心して乗れて、空が晴れた日には、ボタンひとつで気軽にオープンエアを楽しめる。あの「小さな高級車」のようなギミックと、日常使いできる快適さの両立こそが、コペンの本質だったように思うのです。

だから2代目では、オープン時の独特なCピラーの形を残してまで、電動メタルトップの機構を守り抜きました。

今回のコンセプトカーを見て、多くの方が気づいていると思いますが、FR化のために、あの複雑なメタルトップを仕舞い込むためのスペースが、リアに見当たらりません。あくまでコンセプトカーなので、現時点では脱着式のハードトップを想定してデザインしたそうです。
「走り」を一番に考えるならそれで良いのです。「メタルトップは重たいだけ」「ピュアスポーツなら、幌か手動ハードトップが一番だ」と。でも、本当にそうでしょうか。 それは、初代コペンが一度挑戦し、そして市場が「NO」と答えた道に、再び戻ろうとしていることにはならないでしょうか。
これまでコペンを愛用してきたオーナーの方々が、この3代目の姿を見て、心の底から「嬉しい!」と思っているのか、それが知りたい。

私が違和感を感じるのは、会場で聞こえた「スポーツカー好き」の声だけを、コペンユーザー全体の声だと捉えてしまわないか、ということです。想像してみてください。 もし、このコンセプトカーがこのまま市販されたとして、ディーラーの方は、長年コペンを乗り継いできたお客様に、どう説明するのでしょう。
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「新しいコペン、すごいですよ!念願のFRになりました!」
…その代わり、お客様に愛用していただいた電動メタルトップは、無くなってしまいました。今度は幌か、ご自身で外していただくハードトップになります。そして、FFより部品も開発費もかかりましたので、お値段は上がってしまいました。
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コペンを「日常のパートナーであり、最高の趣味車」として愛してきたオーナーにとって、これは「進化」ではなく、少し寂しい「変化」に映らないでしょうか。
彼らが本当に望んでいたのは「今の便利なパッケージのまま、もう少し内装が良くなったらいいな」「もう少し洗練されたらいいな」ということだった可能性もあるのです。ちなみにFFでも「走り」という点で妥協はないので、今の段階でも楽しいクルマであることは折り紙付きです。

S660は、ミッドシップスポーツとして、あまりにもピュアな走りを追求した結果、実用性と引き換えに、その役目を終えました。
一方コペンは、電動メタルトップという「こだわり」によって実用性と趣味性を見事に両立させ、生き延びたのではないでしょうか。今回のFRコンセプトは、その「コペンらしさ」を手放して、S660が戦った「ピュアスポーツ」という、険しくも魅力的な道へ進もうとしているように見えます。
もちろん、これはまだコンセプトカーです。 市販される時には、この心配事をすべて吹き飛ばすような、凄い提案を素敵なをダイハツが見せてくれると信じています。
ですが、もしこのまま「スポーツカー好き」の熱狂だけを頼りに進むのであれば、それは「コペン」という名前を受け継いだ、まったく新しいクルマの誕生を意味するのかもしれません。それはきっと素晴らしい「FR軽スポーツ」でしょう。 でも、それはオーナーが愛した、あの「コペン」なのでしょうか。
会場の喝采の中で、今日も大切にメタルトップのコペンに乗っているオーナーさんたちの心境が、何よりも気になってしまったのでした。
Posted at 2025/11/05 16:56:01 | |
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