
F30となった新型3シリーズの大きな特徴の一つは、N47D20というディーゼル・エンジンを搭載したモデルが、ついに日本でも販売されたことだ。BMWのディーゼル車は、すでにX5-35d(本国では30d)がこの春先に発売されている。聞くところによると、X5-35iよりもずっと売れているそうだ。話題のMAZDA SKYACTIVもディーゼルモデルが売れているらしい。日本もいよいよディーゼル車の時代を迎えることとなるが、期待の320dはどうだろうか。
320dの新しさ
走り出しはとてもスムーズである。アクセルを踏み込むと、「320」という名前とはまったく結びつかない、強烈な加速が身体をシートに押し込んだ。「お~~!」と思わず声を上げてしまう。やはり380Nmのトルクは伊達ではない。DPCはつねにコンフォートのままである。素の味を知りたいからだ。
F30という新型3シリーズのボディの固さや軽さ、バランスの良さについては、もう何度か書いてきたから、その優秀さはここでは繰り返さない。BMW最新のツインパワー・ターボ・ディーゼル・エンジンは、ダイナミックな力強さで、F30を軽々と前へ前へと押し出し、スイスイと車線をまたぎながら周囲の車をスムーズにリードする。それはまさに「駆け抜ける歓び」以外の何ものでもない。しかも減税率100%という優れたエコ・カーでもあるのだ。
このエンジン向けに適切に設定された8速ATとのバランスも素晴らしい。「ブォン、ブォン、ブォン」というリズミカルなエンジン音とともに、アクセルの踏みしろに応じて、ほど良いトルクを保ちながら、ギアはスルスルと極めてスムーズにシフト・アップしていく。野性の動力を優雅な手ほどきで鮮やかに操る心地よさに浸っている間もなく、車はかなりの速度に達している。
ドラマチックな逆転劇
ディーラーには同じF30のガソリン・モデル、320iの試乗車もあった。すでに運転してみたことはあるが、比較にちょうど良いと思い、続けて試乗してみた。
走り出しは、同じようにスムーズだ。踏み込んでいくと、さすがにターボ・エンジンだけあって、自然吸気の4気筒とは明らかに異なる、力強いトルクを感じた。やはり320iもなかなか素晴らしい車なのだ。
しかし、さすがに強力なトルクを発するディーゼル・モデルに乗った後だけに、決して小さくはないガソリン・エンジンの270Nmというトルクと言えども、明らかな加速の差が感じられた。
ところが…このN20B20というエンジンの本領は、そこから先にあったのだ。それはドラマチックな逆転劇に似ていた。
ディーゼル・エンジンとガソリン・エンジン
話は少しそれるが、そもそもディーゼル・エンジンというものは、一度爆発を始めると、本気で消火しようと決意しない限り止まらない。しかもかなり強力で大きな爆発なので、特有の大きなガラガラ音が発生する。それだけに、エンジン・ブロックもガソリン・エンジンに比べて、固く厚く出来ている。だから耐用年数や距離数は、ガソリン・エンジンとは比較にならないほど長い。
それに比べて、ガソリン・エンジンの何とたおやかで繊細であることか。ディーゼル・エンジンに比べて圧縮比は低いし、爆発のためには毎回火花を散らしてやらねばならない。瞬時に高回転に達するものの、混合気の噴射をやめるだけで、即座にピストンは眠りに入ろうとする。音も動きも力も、すべてが軽いのだ。
320iの特徴
「320d」の後で続けて「320i」に乗り換えた時の印象が、まさにそのような感じだった。たとえて言うならば、「320d」はつねに50の力を蓄えていて、アクセルを踏むことで100になる。けれども「320i」の方は、0から100の間を自在に行き来するのだ。いつでも熱狂的なディーゼル・エンジン、冷静と情熱の間をやすやすと行き来するガソリン・エンジン、と言ったらいいだろうか。
前のブログ記事では、同じ523iの6気筒モデルに対する、4気筒ターボモデルの印象の違いについて書いた。一言でいえば、4気筒ターボ・エンジンという、低中回転の大きなトルクで走る車の扱いやすさと燃費の良さである。それはちょうど、今回の「320d」と「320i」の違いと似ていると思った。トルクで劣る「320i」ではあるが、「320d」にはない、伸びやかな高回転域を駆使することで、後からスルスルとトップに躍り出ていくのだ。世界最速の男、ウサイン・ボルトのように。
320dの乗り方
…と筆(キー・ボード)に任せて書いてしまったが、確かに0-100km/h加速は7.6秒(プレス・ノート値)と両車は変らない。けれども短距離だったら、アクセルとギアの使い方によっては、初期加速に勝る「320d」に分があるかもしれない。
「アクセルとギアの使い方によっては」と断ったのは、「320d」は5,500回転付近ものレブ・リミットまで回すと、パワー・ピークの4,000回転以後の頭打ちが激しいからである。それは身体が前のめりになるほどの落ち込み方だった。それに比べれば「320i」のレブ・リミットは、軽い減速感程度だ。その意味でもやはり「320d」は、1,750~2,750回転のトルク・ピーク帯を上手に利用しながら、2,000~3,000回転台で乗る車だと思った。
比較試乗の勧め
私はBMWの日本へのディーゼル・モデル導入の噂を聞いた頃から、ちょうどフル・モデル・チェンジを迎えつつあった3シリーズのそれ、つまり「320d」への興味が徐々に高まって、その実体が明らかになるにつれて、ますます惹かれるようになった。短い試乗を終えた今も、やはり「320d」は、BMW車のかつてない味わいを持つ、素晴らしい車だと思う。
けれどもこの「320d」は、かつて日本にはガソリン・モデルしかなかった「BMW・3シリーズ」とはまったく別種の「駆け抜ける歓び」を持つ車であることを、改めて強く感じた。もしも「320i」と「320d」の両車の間で迷うなら、納得がいくまで、この二車種を乗り比べることをお勧めしたいと思う。
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ディーラーで偶然お友達の
nobkunさんに出会った。それぞれ試乗を終え、Y部長を交えて、楽しく感想を話し合ったことが、この記事を書くに当ってとても参考になった。謝して記します。
この記事は、
F30 320dと320iに試乗して、乗り比べました。について書いています。
※ 9/17追記 …
その後、ほぼ同じエンジンを載せた、F30-320dと同時にデビューしたF10-523dに試乗した。さすがに5シリーズだけあって、同じようにおろしたての真新しい車ではあったが、320dに感じたディーゼル・エンジンの野性・熱狂性が、523dでは、優しく上品なオブラートに包まれたような感触だった。また、320dで気になったレブ・リミットの頭打ち感も、強くは感じられなかった。
この車の他にも、1万キロを走ったX5-35dにも試乗できたが、こなれたディーゼル・エンジンのスムーズさは、格別のものだった。どんなエンジンでも、走り込むほどにスムーズでパワフルになっていくものだが、やはり320dも、同じように成長していくことが十分期待できると思った。

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F30/31 3シリーズ | クルマ
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2012/09/10 02:46:25