
自験の「実録」を「どぶろっく」バージョンでご紹介します。
1984年に発売された「雪に書いたラブレター」は、菊池桃子さんの3作目となるシングルで、キャリア第2位の35万枚のセールスを記録しました。
厚生労働省の統計をみると、1960年代後半の年間新生児数は、現在の倍以上に相当する200万人前後でした。桃子さんが誕生した1968年を中心に、その前後3年ずつをみた7年間に絞ると、700万人にのぼる男性の同世代がいる計算となります。すると、この作品を購入した比率は、5.0%です。多くが45人学級の時代でしたので、男子校であれば1クラスあたり、2.25人が買ったという推計ができます。自分の高校時代に照らし、あまりの精緻に驚きました。
曲の世界観としては、若い女性の片想いが描かれています。告白する勇気はまだないけれど、どうにかして伝えたいという切なさがテーマです。主人公は、憧れの男性がよく通る道に積もった雪の上に指で想いを書いています。降雪や風で消えるのは仕方ないと分かっていますが、ベストを尽くしたんだという事実で、自分を納得させました。
この曲と出会ったのは、高校時代でしたが、「何故、こんなことをしたのか」という違和感を抱いていました。そこで、この曲に関するあらたな解釈を、「自分の創作」でつづってみたいと思います。
天気予報どおり、本格的な雪模様となった。平野部でも一晩で15cm級の積雪になりそうな勢いだった。モモコは、高校の図書館に居残り、宿題を一気に片付けていた。冬休みに予定があるわけではなかった。図書館に残ること自体を目的にしていたのだった。
ときおり、窓の景色を眺めると、刻々と街の白さが濃くなっていくのが分かった。それでも思った。――ケンジさんは、きっと今日も休まない。なにもなければ、必ずいつもどおり走る。
時刻は、五時十分前になっていた。急いで荷物をまとめ、裏門から校外に出た。目の前には、無音の世界が広がっていた。まるで雪がすべての音を吸い込んでいるかのようだ。
2学年の上のケンジは、登校していれば、必ず高校の外周を4周走る。ひどい風や雨でも休まない。2周目までは軽く流す。3周目にペースアップする。そして、4周目のラスト500メートルは全力疾走となり、最後に倒れ込むくらい足を使い切る。
モモコは、ケンジの姿を通じて、インターハイ選手のすごさを知った。あの華麗なプレーは、地道な鍛錬の積み重ねの賜物であるのを知った。きっと、これくらいの雪なら、躊躇なしに走るだろうと思う。一抹の不安は、今日が、あまりにも特別な日であることだけだ。
モモコは、積もり始めた雪に、「ガンバレ」と記した。
続けて、「スキ」と書きかけたのだが、途中でやめた。好きな人がいるかもしれないし、既にカノジョがいるかもしれない。
日頃、ケンジが特定の女子生徒と仲良くしている気配はない。いれば、今日はデートだろう。自分がカノジョなら、絶対にそうする。有無をいわせず、トレーニングを休ませる。今日くらいいいじゃないかと。「あたしとテニスのどっちを選ぶの」と迫るかもしれないと思った。
絶え間なく雪が降り続けている。
無音の世界が続いている。
「あっ」
モモコは、サンタクロースの気配を感じた。トナカイが引くそりの音も聞こえる。
赤のジャージを着こんだケンジは、いつもと同じように、黙々と走っていた。
モモコは、破顔していた。頬に生まれた僅かな台地に雪が積もる感覚がある。微かに開いた口内にもいくらかの雪粒が入ってきていた。
走り去る後ろ姿にそっと、「メリー・クリスマス」とつぶやいた。クリスマスイブに特別な用事がないことを確認でき、ケンジに対する好意が一段と深まった気がした。目の前に降り注ぐ雪と同じように、少しずつ、確実に、分厚くなっていくのだった。
こんなクリスマスイブには、
人はロマンスを信じる。
Posted at 2026/02/11 09:06:58 | |
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