正直、ストリート主体で考えれば相当クルマにかけるべき金額が減ります。
減る、んですが、サーキットより面倒です。
私が尊敬しているメカはこういいました。
「速い車を作るのは簡単なんだ。問題は、車検に通すクルマを作ることだ」
まさにその通り。
速い車ってのはお手本もある。軽くして堅くして、メカの知りうる知識を動員したパーツを奢って調整すればいい。
問題は、絞り出してしまったが為に車検無視になってる事があること。
ここが「違法改造」なんつー造語を官憲共に作らせるきっかけになるんかなぁ。と思ったりするんだが。
そして主体になるポイント次第では、サーキットと同等以上のパーツを同等以上に繊細に味付けしなければならなくなるのです。
ただチューニング過多になると、スイートスポットが小さくなりすぎてピーキーになるため、結果どれだけサーキットで速いって言っても、ストリートでは使い物にならないことが多い。
逆に、ある車種で最速を目指すならピーキーでもコースに最適化して、徹底したドライビングを目指すという方法も少なくないですよ。
所謂○○スペシャルという奴です。
筑波SPが他のサーキットに使えるかというともちろん×。なので、SPLは完全に特殊仕様かつ特殊な走り方をできるドライバーに限られてしまう。
でもそれでいい。そうやって勝つことを求められる訳です。
つまりはそう言うこと。
それがタイムアタッカーの仕事であり、サーキットで勝つための仕様といえます。
レースではもう少し幅が必要になります。
なにせスイートスポットを外したら失速する仕様だったら、競り合いになった際にカードがないでしょ。
これが、「仕様」という選択肢としていくつもセッティングされる訳だけど、これも機械的な問題で限界があります。
せいぜい足回りの設定値の変更や、ECUプログラム程度。
チームによってはタイムアタック仕様(PP狙い)というのは作れないところも少なくない。
そう言うのはドライバーの負荷でしかないし。
レース仕様はたとえばトップを捨ててトルク寄りに振り、失速を出来る限りしないようなエンジンに仕立てておく、なんてことですね。
ストリートだとこれを更に進め、どんなところからでも踏めば加速するようなトルク仕様がベスト。
トップエンドの馬力は必要ない。F1でもそう言う方向性に仕上げてバトルで打ち合う設定でやってると聞きます。
所謂ガチで近距離戦闘を行うには失速する事ほど恐ろしいことはないし、踏んで応答する立ち上がりの良いトルクは恐ろしい武器になる訳です。
エンジンのレスポンスももちろん、車体のレスポンスも良くなりますからね。
しかし同排気量であればトルクを捨てギア比で上を狙えば、スイートスポットがどんどん狭くなるモノの、そこを外しさえしない走りができる人間であれば必ず馬力は高めに出せるのです。
あのRB26ですらそう言う仕様があるとの話で、下はたるく上は伸びる……なんてのはそう言う仕様だからだとか。
そんな中でもターボではなくNA高回転型スポーツエンジンにこだわり続けたホンダ。
性能は同排気量中ではピカ1、間違いなくNAでは一番の出力を誇ったがしかし、峠で使えるエンジンだった、と言っていいのか……正直そこに疑問符が浮きます。
使いこなすことが目標になるんでしょうし、純正でも結構厳しいエンジンながら、トルクの低さはギア比とレスポンスでどうにかせざるを得ないというところではなかったか。
そう言う意味で面白いのは確かだったのでしょう。
軽自動車のエンジンがターボ付きになるのは、軽い車体を振り回すにトルクが有ればより楽に出来るから、でもありますよね。
そして高回転ではなく実用トルク型に振られる。
基本、両立は難しい。
そう言う車両でトップエンドを絞り出しても、出さなくても差が出ません。
そこでやや馬力よりに設定を変更するなんてのが所謂『ストリートチューニング』と言われるモノになります。
もちろんそれはドライバーがドコまで使えるのか、に寄るわけで。
ここ最近のクルマは基本ストリートにきっちり寄っています。
そう言う特性の方がエコランになることを企業も判っているからなんですけどね。
故に乗りやすい。
トルクの立ち上がりが速く、レスポンスは逆にゆるめ。
既にチューニング済み、である訳です。
この広すぎる幅が使っていて面白みがなく、なおかつ振り回そうとしても物足りないなんてことになるんで……結果大排気量を望むのかもと思います。
正直言えば、乗りにくくなってもがつっとパワーが絞り出せているエンジンで、ちょいと頑張れば排気量差を埋められる程の性能という方が魅力的に感じます。
エンジンの話ばかりしてきましたが、タイヤも同じ事が言えるでしょう。
サーキット用は温度範囲が定められたピーキーなコンパウンドがセットされていて、公道で扱うならば冬用のソフトコンパウンドぐらいしか使い物になりません。
しかもそれでも高温寄りのため、真夏が限度でしょう。
というのは、タイヤがグリップを発揮するのは、溶けそうなぐらいの温度領域だからです。
タイヤは走行抵抗によって熱を帯び、ケースを構成するゴムの構造を崩していきます。
これが「みみずばれ」を生みますが、公道でみみずを見たことはないと思います。
これは道路の影響も有りますが、そこまでタイヤを溶かして走る連中もいないので滅多につくことがない、ということがメインじゃないかなと。
公道だとむしろショルダーの焼け方がメインのポイントでしょうか。
一度だけべたぁっと溶けたショルダーのランボ見ましたが、アレはFISCO上がりだったんでしょうね、多分。
エッジの立ったスポーツタイヤでも、まるでエコタイヤのように角がずるりとなくなっていれば相当使えていると言えます。
ブロックの角、ここで熱の入り方も見れます。熱による変成が「焼け」と呼ばれるものの正体で、まるで層を作るように目で見ることができます。
一度だけ、ストリートタイヤでもぼろぼろに溶け崩れているのを見たことがあります。
これは、寿命が短いモノの、ストリートでもグリップを発揮できるタイヤだといえます。
最近は寿命をメインに、そんな溶け方をするタイヤは滅多にありません(前述のタイヤは海外のものになります)。
私の使っているRE003は、どうも特殊なグリップを発揮しているのか、溶けているように見えないんですよね……私の知識では絶対グリップしない筈なんですが。
逆に、ハイグリップじゃない証拠でもあるわけでしょう。
そんなところで、本気を出せばストリートの方がチューニングは奥深く、なおかつ下手すればより面倒な事になります。
それでも、サーキットより考えることが多く、走りとは別のテクニックもここで学ぶことも多いと思います。
何より、クルマが走れる場所というのはそのほとんどを公道とせざるを得ないのです。
結果として、どんなクルマでも有る程度以上の性能を引き出せるようになる方が、チューニングよりも重視されるべきだと言うことになります。
私が目指したのも結果的にそう言うことだったんです。
走行中にクルマを徹底的に感じ、確認し、判らないところは本で調べて、繰り返す。
もしレンタカー等借り物であったとして、短期間、乗って数分でどこまで把握できるかという最適解ももちろん存在します。そこに禁止事項はありません。
ま。
体の方が自動的にクルマに合わせてくれるようになれば、正直どんなクルマに乗っても不満はなくなりますね。
チューニングを行わなくなるのも、その辺りからです。
よく「チューニングはドライバーに合わせる」と言うんですが、「チューニングはクルマを精確に性能を引き出せる最良の状態に整備する」事だと私は理解しています。
そして、その性能を本当に引き出せるようなドライバーにならなきゃならないと。
その第一歩は、クルマを知ること。
もちろん、チューニングによる味付けで好みに仕立てる事はその過程においては当たり前だとも思うわけです。
スポーツ走行のテクニックは公道で役に立つのか。
私は逆だと思っています。公道のテクニックはスポーツ走行でも役に立つ。逆は難しい、と。
そのぐらい、様々な顔を持つ公道という世界は、クルマに厳しく、かつ面白いと。