2009年04月17日
神殺の聖槍 34
第5章 姫とボイン 2
「く、日下部さん!?」
アルシオーネの部屋に突然やってきた日下部美緒。
さすがに、アルシオーネはびっくり仰天。
「あのぅ、入っていいですか?」
「は、はぁ、どっどうぞ。」
「じゃ、おじゃまします。」
美緒はゆっくりと部屋の中に入ってくる。
「とりあえず、空いた椅子にでも座ってください。」
ベットから身体を起こすと、アルシオーネは美緒に部屋の椅子に座るように促す。
そして、椅子に座った美緒が何か言いたそうなのだが、言えずにもぞもぞしている。
(一体、何の用なんだろう?)
そう思うアルシオーネだったが、美緒から話してくれないとその理由はわからない。
「…。」
美緒はもじもじしながらも黙ったままで、その状況のまま10分が経っていた。
(はぁ、美緒さんから来ておいてダンマリだとどうしようもない、どうすっかなぁ…)
仕方なく、アルシオーネから話を始める。
「どうですか、ウィルベリーニは?」
「どう…って、私ウィルベリーニに来るのは初めてなんです。」
「あ、そうなんですか。」
「ええ。」
「…。」
「……。」
「………。」
「…………。」
(話の間がもたん!)
アルシオーネも何を話せばいいのか、困っていると今度は美緒から話を始めてくれた。
「急に来ちゃって驚いてますのよね?」
「そりゃ驚きますよ。」
アルシオーネがそう答えると、また恐縮する美緒。
「ですが、麗華よりはましですよ。」
「え、そそうなんですの。」
「ええ。アイツなんかノックはしない、ずけずけ人の部屋に入る、こっちの都合はおかまいなしと
我が道を行くの典型的なキャラなんですから。」
「う、うふふふ。そうなんですの。」
(お、少し笑ったぞ。じゃ、もう少し麗華の話で盛り上げるか。)
「例えば、アイツは食い意地はその辺の大男よりはスゴイんだぜ。」
「え~、そうなに食べるんですの。」
「ああ、今日は単価が高いからあれくらいで収まってるけど、本気で食べたらあの量じゃ
収まらないて。」
「へぇ、そうなんですの。でも、あのスタイルからは全然想像できませんですのよね~。」
「ああ、ホント。よくもまああんだけ食えるモンだとずっと思ってるんだけど…」
「あ、あのぅアルシオーネさん?」
「まあ育ち盛りでもあると言えばあるんだが…」
「もしもし、アルシオーネさん、その話はこの辺で…」
「え、どうしました、日下部さん。この話、ここからがおもしろくなるんですよ?」
「で、でも、あのぅ…」
何だか急に美緒の歯切れが悪いが、かまわずアルシオーネは話を続ける。
「あれだけ食べても太らないのはスゴイんだけど、おっぱいに全然栄養が行かないのも
ちょっとかわいそうだなぁ、な~んて思ってるんだけど…」
「も、もう、その話は終わりませんですのぉ…」
「せっかくなんですから、お聞かせしときますよ。麗華のバカ話を。」
「あ、アルシオーネさ~ん、もう…」
美緒の声がますますか弱くなっていくが、エンジンがかかったアルシオーネの口は止まらない。
「あの栄養が頭にいかないのは仕方ないとしても、せめておっぱいに少しでもいけば
もう少しおしとやかになるんじゃないかと思ってるんですよ。でね、麗華のおっぱいが…」
「私のおっぱいが何ですって?」
「ええ。麗華のおっぱいがもう少し大きければ私の好みに…って、アレ?」
美緒のいる方向ではなくアルシオーネの背後から声がするので、その方を振り向くと、
「私のおっぱいに何か文句があるのかしらぁ~?」
「あ、あれ~? どうして麗華さんがここに?」
いつの間にやらアルシオーネの部屋に麗華がいるではないか!?
しかも、睨んでますよ、まさにガン見ですよガン見。w
「ふと目が覚めて隣をみたらみおりんがいないんで、どこ行ったのかな?って思ってたら
アルの部屋から声がするんで来てみれば、人のおっぱいの批評ですか?」
「い、いや~、そういう訳じゃなくて…」
「じゃあどういう訳?」
「う~、えっと、麗華のおっぱいはちっちょっと残念な大きさかなぁ~って…」
ブチッ!?
麗華の頭から何かが切れる音が!?
「夜中に人のおっぱいの悪口を言われたくないわ、ボケェ!?」
死なす~!ヽ(#゚Д゚)ノ┌┛Σ(ノ´Д`)ノ イタタタ…
「もう、寝るっ!」
アルシオーネをフルボッコにすると、ふてくされた麗華は不機嫌極まりなく部屋に戻っていった。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫じゃないかも…」
「…ぷっ。」
ボコボコになったアルシオーネの顔を見て、思わず噴き出す美緒。
「ひどいっすよ、日下部さ~ん。」
「ご、ごめんなさん。そんなつもりじゃなかったんですの。」
その笑顔からは最初不安そうにアルシオーネの部屋に入ってきた雰囲気はなくなっていた。
そしてアルシオーネの看病をしながら、ゆっくりと歌を歌い始める。
ひとしずくの雨を眺めながら♪ 優しく語るその声は♪
私の心を和ませる♪ 輝る涙のその訳を♪
黙ったままそっと肩を抱き♪ 優しく微笑むその顔は♪
私の心を潤わせる♪ ひっそりたたずむ心の影を♪
すべて見定めたかのように♪ すっとほっぺにキスをする♪
「歌、うまいですね。」
聴き惚れるアルシオーネ。
「こう見えても私歌手ですよ。」
「あ、そうでしたね。w」
「もう、失礼なヒトですの~。」
と言うと、頭をピシャっとはたく。
「日下部さ~ん、そこはさっき麗華にボコボコにされて怪我だらけなんですから、って…アレ?」
「どうかしましたの、アルシオーネさん?」
「頭のケガが小さくなってる!?」
「え!?」
改めて麗華に殴られて出来た怪我を確認すると、すべてのキズが数日たって段々と怪我が
治っていってる状態になっているではないか!
(ど、どういうことなんだ?)
アルシオーネも何が起こっているのかわからない。ただ、思いつく事が1つだけある。
『吟遊詩人』
かつては宮廷などで活躍する歌い手を表していたが、特殊な歌を歌う事によって
聴いた相手の力が倍増したり逆に力が減少したりまたは負った怪我が治ったりなど、
魔法と同じ効果を発揮する能力を有する人をそう言っていた。
だが、特殊な歌=呪文だと考えられた事と、ウィルベリーニでは魔法技術の方がポピュラーな為、
吟遊詩人についての研究は全くと言っていいほどされなかったので、その存在は
夢マボロシのモノとして語られる事がなかったからだ。
なぜ、アルシオーネが吟遊詩人という存在を知っているかというと、チャニーナでは
王宮聖歌隊という王宮行事の際に歌を歌ったり音楽を流す役目を持つ団体があるのだが、
裏でウィルベリーニの魔法に対抗する手段として吟遊詩人の研究をしていたという話を
聞いた事があったからだ。それは麗華の父君から聞いた話なので、麗華も大まかな話だけは
知っている。
(まさか、な~)
そう思ったアルシオーネだったが、それを今美緒に聞いても知ってるはずはないと思ったので
ここでその話を聞く事はなかった。
だが、後にその存在を確証する出来事が起こるのだが、それはまた先の話である。
翌朝、アルシオーネの部屋に大声がこだまする。
「アルぅ、起きろ~!」
「ぐふっ!? 誰だ~、寝てる人間にいきなりフライングボディーアタックかけるヤツは!?」
「ふん、昨日やり残した分よ。」
「あれだけボッコボコにしといてまだやり足りなかったのかよ~。もう痛いってぇなぁ。」
「ふん、レディーに対してあんな暴言を吐いてあれだけで済んだのをありがたく思うべきよ、アル。」
ノックをする訳でもなくアルシオーネに断わりを入れた訳でもなくアルシオーネの状況を
確認する訳でもなく、朝になって起きた麗華が昨日の夜の出来事を思い出し、
1発殴らないと気が済まないと思った結果がそれだった。w
「はいはい、さようですか。それはどうもすみませんねぇ。」
「まあ、今のでチャラにしてあげるわ、感謝しなさい。」
「ああそうだな。朝一から麗華の薄い胸板の感触を味わえたと思えば安いもんだな。」
「…アル、今何て言った?」
「(あ、ヤベッ)は、俺何か言ったっけな?」
「しっかり聞こえてたわよっ!」
バゴッ!
「おはようございます、麗華さんとアルシオーネさん…ってアレ?」
「あ、おはようみおりん。」
「お、おはよう日下部さん。」
「ど、どうしたんです、アルシオーネさん、その目の周りに出来た大きいアザは?」
「別に、大したことないわよねぇ、アル?」
「…ああ、大したことはないな、あイタタタ。」
「?」
「じゃ、今日はズーチクーモスに出発よ!」
麗華の元気な声が部屋にこだまする。
-つづく-
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2009/04/17 23:15:17
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