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第1章 刀を狩るモノ 10
「おはよう。」
「おはようございます。」
「うぃっす。」
修学院大学付属高校へ向かう通学路は今日も賑やかだ。
「ふわぁ~」
そんな中、大あくびをしながら登校する男が1人。
「まさか、同じクラスの娘が働いていたとは、なぁ…。」
恭介は登校中も昨日の事を思い出す。
そう、それは昨日のファミレス・イグナリアでの出来事だ。
ウェトレスの1人が恭介と同じクラスで、しかも恭介の名前を覚えていたのだ。
本人も覚えてないのに相手は覚えている。これほどバツの悪い事はない。
「恭介クン、どうしたの? 食事が進んでないけど。」
イグナリアにて、注文した夕食を食べる恭介と次田女史だったが、同じクラスのウェトレス
『竹嶋 由布子』に勘違いされその弁解をしようと思っていたが、その後彼女に会う事は
なかった。ようは誤解されたままでイグナリアを別れた形のままである。
「はぁ、教室で会ったら何て言おう?」
そんな不安を抱えながら登校していると、不意に肩を叩かれる。
「おっはよう、恭介っち。」
びくっ!?
「え!? 何驚いてるの?」
「…何だ、山本さんか。ビックリしたよ。」
恭介の肩を叩いたのは『山本 澄香』であった。
『花畑都歌沙』の親友であり、男女関係なく人付き合いは積極的な女性だ。
転校したばかりの恭介だが、その中で名前を覚えている数少ないクラスメイトの1人でもある。
「どったの、元気なさそうだけど?」
テンションが低そうな恭介が気になり、その事について尋ねる。
「う~ん、話せば大したことじゃないかもしれないけど…あ、そうだ。」
「え、何、急に思い出した様な事言って。」
「うちのクラスに『竹嶋 由布子』って娘、いる?」
恭介は澄香に由布子の事を聞いてみる事にした。澄香の性格ならクラスの事は詳しいと
判断したからだ。そして、その判断は正しかった。
「竹ちゃんの事?」
「た、竹ちゃんって言うんだ。」
「そうそう、竹ちゃんとはよくご飯食べに行ったりするんだよっ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「竹ちゃんはスタイルいいけど大食いなんだよっ。」
いや、俺はそこまでは聞いてない。w
「で、何で竹ちゃんの事聞いてくるの?」
「いや、昨日…」
そこまで言って口をふさぐ恭介。
あ、もしかして内緒でバイトをしているのなら、澄香とは仲がいいと言っても簡単に聞いては
いけないのではないか、という理由がふと思い出された。
「なに、恭介っち。君は都歌沙狙いかと思ってたら、竹ちゃんも狙ってるの?」
クスクスと笑いながら澄香は言う。
「い、いや、そういう訳じゃないんだけど…」
慌てて弁明する恭介。
「何、もしかして両手に華狙いなの?」
更にクスクスと笑いながら澄香は言う。
「そういうんじゃなくて…」
必死に弁解しようと試みる恭介に笑いながら謝る澄香。
「いやいや、分かってるよっ。君はそういうのが得意じゃないってさ。」
「もう、冗談なんだ。脅かさないでくれよ。」
「うふふふ、ごめんねっ。」
可愛く謝る澄香。彼女もまた持ち前の明るさと愛嬌の良さで結構好意を持つ男性が多い。
♥
「あ、そういえば恭介っち、イグナリアってファミレス知ってる?」
「あ、ああ。知ってるけど…。」
ああ、イグナリアは昨日行ったばかりだからな。
「そこで竹ちゃんバイトしてるんだよっ。」
ミ(ノ_ _)ノ=3 ドテッ
その事を聞いてズッこける恭介。
「どったの、恭介っち?」
「い、いや、バイトの事知ってたんだな、と思ってさ。」
「竹ちゃんとの仲だよ。知らない事はないよっ。」
笑顔で答える澄香。
「なら話が早い。ちょっと弁解するのに協力して欲しいんだけど。」
「ふ~ん…弁解、ねぇ。」(・∀・)ニヤニヤ
澄香の笑顔が怪しい。w
「ちょっと、待て。何か勘違いしてないか?」
「え~、勘違い? まあそういう事にしてあげようかなっ。」
「お前、絶対わかってないだろう!」
思わず澄香の両肩を掴む恭介。
「ちょ、ちょっと、痛いよ、恭介っち。」
「あ、…ごめん。」
思わず手が出た恭介は澄香の痛いという言葉に我に帰る。何を焦ってたんだろう、俺は。
「状況がよくわかんないんだけど、説明してくれる、恭介っち?」
「あ、ああ。」
そう言って、恭介は由布子と初めて出会ったイグナリアの話や勘違いの原因を説明する。
「ふ~ん、そう言う事か。」
「分かってくれたか。」
ホッとする恭介。
「ええ。恭介は二股じゃなくて三股だったって事が、ね。」
「おい澄香!」
「おお、恭介っちは怖い怖い。」
最後まで恭介をからかう澄香であった。w
そんなバカ話をしながら学校に到着する。
「じゃ、先に教室に行って竹ちゃんに説明してあげるよっ。」
そう言うと澄香はダッシュで教室に向かっていく。
「はぁ、大丈夫かなぁ。話ややこしくなりはしないよな?」
その不安は【当たらずも遠からず】であった。(爆)
「おはよう~。」
キ━━━(゚ロ゚;)━━ン!! ガスッ!!o(#`Д´)θ☆
教室にはいった途端に強烈なキックの洗礼が恭介を襲う。
「痛った~、何すんだ!?」
蹴りを見舞った相手とは、言うまでもなく都歌沙であった。
「朝から澄香に何言わせてんのよ!?」
「え、何の事だ?」
「問答無用。成敗してやるぅ~。」
ボカスカ…
「おい、澄香。お前、先に教室に来て一体何って言ったんだ?」
ボロボロになりながら澄香の元へ行ってボコボコにされた原因を突き止めようと試みる。
「え、正直に答えただけだよ。」
「だから、何て?」
「だから、ファミレスで一緒にいた人は恋人でもなんでもなくただの『変人』なのって
言ってあげたのよ、竹ちゃんに。そしたらたまたまそれを聞いた都歌沙が発狂して、ね。」
「ね、じゃねぇよ、ね、じゃ。(爆)」
「ご・め・ん・な・さ・いっ!」
「何で上から目線で謝る!?」
今後も澄香には頭が上がらない恭介だと自他共に認識されるのに時間はかからないだろう。w
キン~ コン~ カン~ コン~ キン~ コン~ カン~ コン~
「はい、席に着いて。」
チャイムと同時に先生が入ってくる。
「あれ、菅波先生じゃないぞ。」
ざわざわ ざわざわ ざわざわ ざわざわ
恭介のいる2年B組に入ってきたのは、担任の『菅波 朋子』教諭ではなかった。
「男の中年の先生?」
恭介にとって初めて見る先生だった。
いや正しくは、恭介が知ってる先生の方が圧倒的に少ない。w
ざわめきながらも生徒たちは席に座る。
「今日は菅波先生が体調不良でお休みされるので、ホームルームは私が代わりに行います。」
男の先生はそう言うと、早速ホームルームを始める。
一方的に伝達事項を伝えると「あとは1時間目が始まるまで静かに教室で待つ事。」とだけ
言って教室を出ていく男性教諭。
一体誰なんだ、あの先生は?
それが気になった恭介は恐る恐る都歌沙にさっきの男性教諭が誰なのか尋ねる。
「ねえ、都歌沙さん。」
「な・に・よ?」
さっきの事、まだ怒ってる様だ。だが、都歌沙の怖さよりも男性教諭が誰なのか知りたいと言う
衝動が勝った恭介は臆することなく都歌沙に尋ねる。
「さっきの男性教諭が誰なの?」
「ああ、あれはうちの教頭先生よ。」
へぇ、教頭先生なんだ。…あれ、名前をまだ聞いてないや。
「ねえ、お花ちゃん?」
慌てて尋ねようとしたので都歌沙さんって言う所をうっかり間違って澄香が呼ぶ『お花ちゃん』と
言う言い方をしてしまった。
「お花ちゃんですって!?」
「あ、あああああああ…」
恭介はまた殴られると思い思わずアタマをかがめる…が反応がない。
「ま、まあ、知り合って間がないけど特別に『お花ちゃん』って呼ばせてあげてもよくってよ。」
何で照れながら話す?
「あ、そう。で、お花ちゃん。」
「な、何、三千里クン?」
だから、なぜ照れる?
「教頭先生って何って名前?」
「ああ、教頭先生は『神鳴 修造』って言うのよ。」
「へぇ、神鳴って珍しい名前だね。」
「ええ、八九寺市では豪商って呼ばれる【神鳴商事】の社長・厳造の弟になるんだって。」
「へぇ、珍しい名前の上社長の弟なんてこれまた珍しい…って…」
「そういえば確かに珍しいわね。学校内でもめったに顔を見せない教頭先生が顔を出すなんて。」
「…。」
恭介はここで考え込む。
どこかで聞いた事あるようなシチュエーションだなぁ、と。
うむ…
「ねぇ、三千里クン?」
「…。」
「…。」
「…。」
「(怒)。」
ボカッ!
「痛~たぁ。」
「さっきから何ボ~としてんのよ。」
「あ、あああああああ!」
恭介は突然大声を上げる。
「な、何、急に驚いた声を出して。」
「あ、いや。別に。」
「別にって、急に大声を出しといて別に、はないでしょう。」
「あ、ごめん。ちょっと用事が出来た。」
「ちょっと、これから授業なんだけど…って行っちゃったよ。」
-つづく-