【まとめ】
・護衛艦「まや」の速力は従来イージス艦より1割は遅い。
・これは最高速力を見直した結果である。
・節約効果により、より多くの護衛艦の建造維持ができるようになる。
筆者作成
3月19日に護衛艦「まや」が就役した。海自7隻目のイージス艦である。また「こんごう」級、「あたご」級に続く新型イージス艦「まや」級の1番艦でもある。その特徴の一つは速力性能の切り下げである。「まや」は従来艦と較べて最高速力は1割ほど引き下げられた。おそらくは公式発表の額面通り30ノット丁度(54km/h)しか出せなくなっている。この速力切り下げは正しい判断なのだろうか?妥当である。不要性能の見直しによる冗費削減であり艦隊戦力維持に役立つためだ。
■ 「まや」は正味最高30ノット
「まや」は従来イージス艦と同じ速力を出せるのだろうか?公式には出せる。「まや」の最高速力は30ノットとされている。これは従来艦と同じ数字だ。「こんごう」級も「あたご」級も公式発表では30ノットである。
だが、実際には速力差がある。従来イージス艦のエンジン出力は10万馬力超である。対して「まや」級は6万9000馬力だ。そして「こんごう」「あたご」「まや」ともほぼ同じ形状、寸法、重量である。つまり推進抵抗もほとんど変わらない。それからすれば「まや」は間違いなく遅い。大雑把な計算なら1割遅くなる。水上艦船に必要なエンジン馬力は速力の3乗に比例する。逆算すれば「まや」は前級から13%遅くなるのだ。まずは3ノット(5km/h)程度は遅い。「まや」の速力は公式発表どおり最大30ノット丁度である。そう仮定すれば従来イージス艦は33~4ノット出せる計算となる。この「まや」級の最高速力引き下げは妥当である。なぜなら高速性能は不要かつ無駄だからだ。その理由は上述したとおり。30ノット以上の速度に使い道はない。それでいてコストを要する。その見直しは海自の艦隊戦力の維持に役立つためだ。
■ 実際には30ノットも出さない
速力引き下げは妥当である。その1つ目の理由は高速力の不要化だ。30ノット以上の速力の使い道はない。かつては軍艦は速力を競っていた。昔は軍艦同士が大砲や魚雷で戦っていた。その時代には速力は重要であった。早く動ければ戦闘では有利に立ち回れるためだ。だから戦前の軍艦は30ノット以上を出せるように作っていた。
しかし、今日では30ノット超を出す必要はない。戦後、軍艦の役割は潜水艦との戦いとなった。そして潜水艦相手なら20ノットも出さない。余分を見越しても最高速力は27ノット程度で充分である。奢っても30ノット丁度でればよい。(*1)
これは海自護衛艦も同じである。実戦で30ノット出す見込みはない。既述したように潜水艦との戦いは20ノットも出さない。また潜水艦を避ける、または逃げ切るにも20ノットから24ノットもあれば充分である。30ノット以上の速力は不要なのだ。実際には額面最高速力の30ノットもほぼ出さない。性能試験として年に一度、1時間だすかどうかだ。そのような高速性能は見直すべきである。本来は30ノットでも過剰である。その30ノットを上回る余裕は正当化できない。この点で速力見直しは正しいのである。
■ 高コスト
2つめの理由はコストを省ける利点だ。もともと2つで済むエンジンを4つ用意する必要はない。簡単に言えばそういうことである。従来、イージス艦はLM2500エンジンを1隻に4台用意していた。合計10万馬力以上である。それで何があっても30ノットを維持できるようにしていた。燃料や水を目一杯積んでも、その上で海が荒れてもだ。そのため好条件であれば計算したような33ノットが出せるのだ。ただ、単に30ノットを出すならエンジンは半分の2台でもよい。最新のLM2500の出力なら重量、海面とも好条件では30ノットは出せる。(*2)
悪条件で30ノット出なくても問題はない。満載重量かつ荒天といった条件はあまりない。そもそも30ノットを出す必要もほとんどない。さらにその際に最高速力は27ノットに落ちても困らない。たかだか3ノット、時速5kmの差でしかない。むしろエンジンを減らすメリットの方が大きい。建造費が安くなる。交換用エンジンの準備数を減らせる。護衛艦乗員の作業量も減らせる。(*3)メーカー保守の費用も減らせる。さらには護衛艦の船体内も広く使えるようになる。この点でも「まや」の最高速力切り下げは正しい判断なのである。
■ 艦艇戦力維持
3つめの理由は艦隊戦力維持への寄与である。最高速力を切り下げれば護衛艦を増やせる。エンジン廻りの合理化により護衛艦の建造価格、維持費用、乗員数が削減できる。それにより同一予算・隊員数でもより多くの護衛艦を建造し維持できる。これは対中海軍力への劣勢改善にとって都合がよい。日本軍事力の劣勢とは海軍力の劣勢である。そして日本海軍力の劣勢とは軍艦数の劣勢である。この軍艦数劣勢を緩和するには海自護衛艦の建造数増加が最も有効な手段だからだ。その点でも速力余裕の整理は好ましい。30ノット以上の速力は本来不要である。その不要性能を切り捨てるだけでコストも節減できる。そして節約分を使って護衛艦の隻数を増やせるのだ。なお、以降の護衛艦速力も「まや」に倣う。最高級艦を超える速力性能を与える必要はない。そのぶん安く造り護衛艦数を増やしたほうがよい。例えば建造中のフリゲートもそうなる。設計も実測も30ノットとなる。完成検査にあたる公試では要求通りの30ノットは出るが31ノットには及ばない。まずはそのような状態となる。(*4)
(*1)なお水上戦でも高速性は不要となった。軍艦同士の戦いも80年代前には射程100kmを超えるミサイル主体となり、魚雷艇ほかの高速艇対処も搭載ヘリコプターで済むようになった。
(*2)従来型LM2500が二台でも30ノット出せる可能性もある。上限出力はエンジン端で3万2000馬力ある。2台あわせればプロペラ軸でも6万馬力を発揮できるためだ。
(*3)実際には整備労力そのものはほぼない。冗談のような話だが艦艇用ガスタービンの手入れはホースで水洗いして終わるからだ。どちらかといえばそのほかの機械や燃料、水の管理、火災対処の準備の負担の方が大きい。
(*4)おそらくフリゲートは満載状態、排水量5500トンの状態で30~31ノットの範囲となる。同サイズで心持ち長細い練習艦「かしま」(公式25ノット)は定格最大の2万7000馬力で30ノットを達成している。対してフリゲートのエンジン出力4万馬力以上あり速力30ノットで釣り合う条件は満載状態と考えられるからだ。その上でさらに推測を重ねれば「まや」の最高速力30ノットもまずは満載状態の数字だろう。(文谷数重(軍事専門誌ライター))
この艦は車で言うHVのようなものでガスタービンエンジンと電動機を合わせた推進機関を使ったCOGLAGと言う方式を採用しているので軸馬力は69,000馬力と言うが、電動機は回せば瞬間的に最大軸トルクを出せるので必ずしもCOGAGなどの推進方式とはちょっとパワーの出方が違うのかもしれない。潜水艦も原潜になると40ノットとか言う高速が出るものもあるが、攻撃はミサイルなので必ずしも水上艦は高速を必要とはしないのかもしれない。太平洋戦争当時、30ノットが出せる金剛級は太平洋狭しと酷使されたが、山城・伊勢級は25ノットしか出せないというので使い道がなかったという。たった5ノット、時速にすれば9キロほどなのにと思うが、それだけ速度が重視されていたのだろう。最近の戦闘艦はさほど速度は重視しないんだろうか。それでもタイコンデロガ級、アーレイバーク級、韓国の世宗大王級などは30ノット以上、オーストラリアのホバート級は28ノット以上でやはりその程度の速力は必要なんだろう。30ノットと言うのは第一線の戦闘艦の必要条件かもしれない、‥(^。^)y-.。o○。
Posted at 2020/03/29 18:52:58 | |
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