
本屋に顔を出してみると、新刊本が並ぶような棚に、藤子・F・不二雄の短編集が並んでいます。
そういえば、このまえ来た時も並んでいたよなと、ビニール袋のかぶっている本を手にして表紙を見ると、「ミノタウロスの皿」が、第一巻の表紙であります。
十代の頃、藤子・F・不二雄の「SF短編」の漫画を、何度も繰り返して読んでいました。
その中に収録されていた、「ミノタウロスの皿」が掲載されているということで、懐かしさにしてやられ(笑)、第一集を購入して、帰宅、座椅子に座って読み始めますと、これが面白く、一気に読破してしまいました。
巻末の、藤子・F・不二雄氏の、あとがきにかえて、を読むと、これが昭和四十年代半ばに書かれていたことを知ります。
「カイケツ小池さん」などは、「デスノート」そのものでした。ラーメン大好き小池さんが主人公のデスノートは、生活ギャグ漫画(藤子氏談)に、見えてしまいますが、あれをライトにすれば、立派なデスノート。
子供がスーパーマン、正義の味方になって、自分の思う悪を退治するお話、「我が子・スーパーマン」では、父親が、自分の息子(小学生低学年くらい)が、近所で起こっている傷害、殺人事件に関わっているのではないか、という不安が事実になった時に、仮の話として、昼の休憩時間に、同僚に相談を持ちかけます。
同僚は、通魔事件を「突然変異のミュータント」が起こしたのではないか、と、冗談めかしく評した人物です。
「かりに・・・、きみの息子がその・・・、ミュータントだったらどうする?」
問われた同僚は、両手で首を絞めるジェスチャーをしながら
「しめちゃうよ」と応じて、父親は飛び上がって驚きます。
「相手は怪物だよ。そんなの育てるなんて、人類への裏切りだ」
「し、しかし、正義の味方だぞ。徹底的な道徳教育で悪を憎む心を養い、公正に純粋に・・・。」
場面が変わり、夜、帰宅しながらか、その同僚と話の続きをしている場面になります。
「そんなのはどこまでいっても個人の正義にすぎん。いつかどこかで社会と対立するもんだ」
「しかし・・・しかし。」
「結局早いとこ、しめちゃうより手がないってことさ」
現代で考えれば、欧州リベラルの振り回す、環境主義、人権主義にあたるものが、子供のスーパーマンであると、私には見えてしまいます。
これはイスラエルの保守家であるヨラム・ハゾニー氏が、道徳的成熟と欧州リベラルの関係性を、いかに彼らが「成熟しているように見られたい」として行動していると指摘していることにも通じていると考えます。
さて、そのような正義に対して、彼らが排除したがっている、伝統、宗教、歴史的な価値観を共有しているような社会の方が、人類への裏切りだという価値観を持つ同僚の言でもわかるように、何を基準にして出したかの解答を持つ強みがある。それが、欧州リベラル側から言わせれば、残酷であるとしても、そこを、情緒だけで判断している(したい)父親に言わせているというのが、藤子氏の巧妙なところでもあると見えます。
「じじぬき」は、核家族化と、当時の大人世代、そして息子世代の十代青年たちの浅はかさを揶揄する内容です。今の社会が、その当時の人たちが、(お金さえ持っていれば)気兼ねなく生活できる内容になっているということが、よくわかります。
自分達の不都合なものを排除した結果、より不都合な現実が社会に訪れる、ということも、ラストの場面で、生き返った祖父が、息子たちの素行の理不尽さに、激怒をして、息子に、請求書を叩きつけます。
「一人前にするまでの養育費、学費のいっさい、今の物価指数に換算して合計してある、応ぜねば訴訟!!」
子供を育てるのにコストをかけて、そのコストに見合ったリターンを得られないのならば、訴訟をする。
なんとも現代的な見方でありませんか(毒笑)
そして、経済論理で、親世代を排除するのであれば、黙って排除されるのではなく、同様に経済論理を盾にして、子供世代に反抗をする、というのは、全く論理的であります。
それが、上記の台詞につながるものだと、私は想像をしました。
一人前になるまでの養育費と学費、これを請求されて、簡単に支払える人間、請求されるということ自体が「やばい」人間なのではないか、とも、考えてしまいます。
そして物価指数に換算しているというのも、当時がインフレ時代であったことが、示されているものです。
このように、現代の社会問題に通じる元ネタが、昭和四十年代にも、指摘されるだけの問題として、漫画のネタになるくらいであった、と知ることができました。
それも、著者は、なんとなく面白そうだから、というだけではなく、ちゃんとその社会背景というものも、なぜ問題として見えるのかを構造として理解しているということも、よくわかります。
私の場合、せいぜい、請求されないように、しなければなりません(苦笑)
Posted at 2023/08/15 00:07:55 |
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