元旦に遭遇した504Dは、18年前に「10年10万キロストーリー」で取材させていただいたSさんだった。
お孫さんの成人式の記念撮影をされるところだったので、再会も短い立ち話で済まさざるを得なかった。
お互いに話し足りないので、2日後にお宅を訪問することになった。
メールに添付された画像には、18年前の記事が掲載されたページの上に、僕からの取材謝礼ハガキが重ねられていた。
「場所は、18年前と変わりません」
正確な住所は、ハガキの宛名に自分が書いている。粋なことをやるなぁ。
路地を入っていった先の駐車場に504Dは停まっていた。お宅のリビングの様子も、憶えている。
改めて、Sさん家と504Dについて、うかがうことができた。
それによると、元旦に遭遇した504DはSさん家にとって、実は2台目の504Dだった。今から5年前に、13万キロほど走ったところで、2台目の504Dに乗り換えられたのだ。取材した1台目は、ライトブルーメタリックだった。
母上から“塗り替えた”とうかがったので、僕はライトブルーメタリックをエビ茶色に塗り替えたのだと思い込んでしまっていた。エビ茶ボディのところどころを修復して塗ったのだった。
1台目のボディのあちこちが錆びてきたり、他にもトラブルが目立ってきたりして、母子は困ってしまった。
「母は運転好きですが、違うクルマにしてしまうと各部のスイッチなどの操作をイチから憶え直さなければなりません。高齢なので、それは負担になるでしょう。できれば、また504に乗り換えたかったのです」
なんて親思いの息子なのだろう。すぐに、想いは通じた。
Sさん家の504Dの主治医である港区南麻布のルブローレン自動車整備工場の江頭社長に相談すると、別のお客さんが持っていて、ちょうど乗っていない504Dがあるからと仲介してくれた。走行5万キロで、室内ガレージに仕舞われていた良好なものだった。
18年前には、ローバー2000TCとノートン・コマンドに乗っていた息子さんは、母の504Dに感化されたのか、その後、シトロエンXMに乗るようになり、クラブを作り、パーツを個人輸入したりするほどのフランス車党になっていた。
クラブは、シトロエンXMパーツセンター“あすなろ”、といい、ブログも運営している。毎月第三日曜日の午前中には、代官山のカフェミケランジェロでオフ会を行っており、フランス車乗りやフランス車シンパの参加を募っているので、興味のある方はブログを読んでみて下さい。
シトロエンXMパーツセンター“あすなろ”公式ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/vivacitroen2002/60674601.html
面白かったのは、XMのハイドロニューマチックサスペンションの要であるオイルとガスが封入されたスフィアに、ドイツ製の「コンフォートスフィア」なるものが販売されているという話。
オイルの経路の径が太くされていて、低中速域での乗り心地が柔らかくなるのだという。「日本で乗るには、合っていると思います」
ヨーロッパに較べて、日本は平均スピードが低いから、たしかに柔らかめのスフィアの方がよりハイドロニューマチックらしい快適性を得られるだろう。
「カネコさん、504を運転してみませんか?」
願ってもない!
23年前に自分の504Dを手放してから、どんな504も運転したことがない。リスボンとブエノスアイレスで、タクシーの後席に乗っただけだ。
まず、Sさんが気を遣ってくれて、エンジンを掛けてくれた。イグニッションをオンにして、グローランプが消えるまで十数秒待ってからセルモーターを回さなければならない。
ガラガラガラッと大きな音を立てて、2.2リッター4気筒は回り始めた。
どんなクルマだったか、ドアハンドルに指を掛けた途端にすべてを思い出した。
まず、シートが心地良い。現代の標準からすると、柔らか過ぎるくらいフワフワに感じるが、運転しているとその奥の方でしっかりと身体を支えてくれている。
握りの細いハンドル、傾斜が少なく“立った”フロントとサイドのウインドガラス、フォントが大きくて見やすいベリア製のスピードメーター、イエーガー製のアナログ時計などなど。
うん、こうだった、こうだった。
四隅がよく見渡せるボディと、ハンドルがよく切れるハンドルから表通りに出る時にSさんも助かっているだろう。
少しスロットルペダルを踏み込んだだけで、ガラガラというエンジン音はフッと掻き消され、十分な加速をする。ディーゼルエンジンのトルク特性はガソリンのそれと違って、大きく踏み込んでもトルクが一気に増大しないから、少しづつコンスタントに踏み続ける方がスムーズに走れる。
504Dのような古いタイプは、特にその傾向が顕著だ。急に踏み込んでも加速が強まるわけではなく、ペダルを戻した時のエンジンブレーキが強く効き過ぎるだけだ。
ATが3速なので、高速道路で限界があることも思い出した。でも、こうして都内を走る分には十分だし、小さめのボディによく切れるハンドルは、かえって好都合だ。
サスペンションの長いアームスパン、扁平率の低いタイヤ、柔らかなシートなどの相乗効果で、総合的な乗り心地がとてもよい。マンホールのフタや段差を乗り越える時も、直接的なショックが伝わってこない。
僕が23年前に乗っていた時に感じていた印象と、Sさんの504Dも変わらなかった。現代の標準よりも古い部分はあるが、それを補って余りある魅力があることも確かだ。
「中型セダンとしての素質が非常に高いクルマですね」
駐車場に戻し、ドアとトランク別々の鍵を回しながら、Sさんは504Dを結論付けた。僕も、異存はない。
偶然の再会によって、フランスでもほとんど見なくなった504を運転できるという貴重な機会を得ることができた。
それと一緒に、Sさん母子と再会でき、楽しい話をたくさんできたのがうれしかった。一台のクルマに乗り続けていると大変なこともあるけれども、良いこともある。504Dに感謝したい。

Posted at 2011/01/06 18:54:28 | |
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