2018年01月22日
佐山芳恵再び、‥(^。^)y-.。o○(22)
やつは「うー」とか言いながら薄目をあけて起き上がろうとして、床を転げ回った。それはそうだろう。手足を縛られていて簡単に起き上がれたらその芸で飯が食えるかも知れない。
「何なんだ、これは。一体何なんだ。」
何なんだって、お前が僕をナイフで脅すから、そう言う目に遭うんだろう。自業自得と言うことだ。
「解け、このテープをすぐに解け。」
奴はさらにわめき立てたが、僕は構わずに放っておいた。そして僕を守ってくれた折り畳みの小さな椅子に腰を下ろすとタバコを一服つけた。足は祭りの太鼓の音みたいにどんどこどんどこと痛みが押し寄せて来た。
「そんなところで何を落ち着いているんだ。早く解け。今なら警察に訴えたりしないで穏便に済ませてやるぞ。早くしろ。」
こいつには一体現状認識能力というものがあるのだろうか。誰のせいでこんなことになっていると思っているんだろうか。何だか無性に腹が立ってきたのでタバコを消すと台所に行って包丁を持って来た。そしてその包丁を持って奴のそばに行くと胸倉をつかんで引き起こした。
「なめた口を聞くんじゃねえよ、あんちゃん。誰のせいでこんなことになっているのか分かって言っているのか。さっき刃物を向けて俺に言ったことをもう一度言ってみろよ。立場が逆になれば被害者面をするのか。何ならお前のろくでもねえしろものをこの包丁で皮むいて輪切りにしてやってもいいんだぞ。」
こっちも足に深手を負ってちょっと興奮しているので完全に男に戻っていた。そして包丁の背で奴の股座を何回か軽く叩いてやった。
「や、やめてください。危ないじゃないですか。そんなことをすると本当に警察に訴えますよ。」
奴は半泣きで悲鳴を上げた。こんな野郎をからかっていても仕方がないのでこの事態を収拾することにした。移動する時に奴の顔を跨いだら足から血が流れ落ちて奴の顔にかかった。そうしたらまた盛大な悲鳴を上げていた。何て野郎だ。血が顔にかかったくらいで何だと言うんだ。その血は何が原因でどこから出ていると思っているんだ。僕はバッグから携帯を取り出すとまず弁護士に電話を入れて今の状況を大筋説明した。弁護士は「すぐに110番をしろ」と言ったが、そんなことは何も弁護士に言われなくても分かっている。
「分かりました。これから警察に連絡をしますから取りあえず社長にも知らせて、それから警察まで来てくれませんか。ちょっと手がかかりそうなので。」
警察に連絡をすれば当然のことどうしてこうなったのかを聞かれるだろうが、いろいろと込み入った事情があるので、弁護士に来てもらった方が話が早いと思った。
「分かりました。そこの住所なら管轄は、」
弁護士は住所を聞いてすぐに警察署の名前を挙げた。やはり餅屋は餅屋だ。110番通報をするとあれこれ聞かれたので「刃物で脅されて乱暴されそうになった。」とだけ伝えてここの住所と携帯の番号を伝えようとしたら携帯の番号は向こうに表示されているらしく逆に確認されてしまった。犯人はどうしたかと聞くので、「手足を縛って転がしてある。」と言ったら、「どういうことか」と何度も確認されてしまった。仕方がないので、「来て見てもらえば分かります。」と言っておいた。最後に「怪我はないか」と聞くので、「手足を切られて出血がひどい」というと驚いたようで、「すぐに救急車を派遣してもらいます」と言って一旦電話が切れた。
電話が切れると間もなくサイレンの音が近づいてきてこのマンションの前で止まった。それも一台ではなくて数台のようだった。そしてすぐにドアをノックしてこの家の主の名前を呼ぶ声が聞こえた。僕は足を引きずりながらゆっくりと玄関まで行ってドアを開けた。外には数人の警察官が立っていたが、僕の姿を見て息を呑むように一歩引いた。どうも腕からもかなり出血していて全身血だらけだったようだ。
「大丈夫ですか。おい、救急車はまだか。」
一人の警察官が後ろを振り返った。
「そんなに驚かなくても大丈夫です。大したことはありませんから。」
「犯人はどこですか」
「奥に転がっています。」
制服の警察官が中に入ろうとすると後ろから私服の刑事が「むやみに入って現場を荒らすなよ。」と声をかけた。
「誰か助けてください。この縄を解いてください。」
奥の方から奴の叫ぶ声が聞こえた。その声で先頭の警察官が中に入ったが、手足を縛られて転がされている奴を見つけてまた混乱したようだった。奴は、「助けてくれ、早くあの女を捕まえてくれ」と盛大に叫んでいた。確かに普通の状態とは違うんだろう。被害者という女は血だらけだが、平然として対応している。犯人という男は手足を固縛されて床に転がされている。これじゃあ警察も混乱するだろう。
「あの人に確かめたいことがあってここに来たらナイフで脅されて怪我をさせられたのでやむを得ず
に反撃しました。事情は会社の弁護士が警察署に伺って話します。また、この人との間に何があったのかは御殿山警察署の方がよく知っていますから確認してください。
この人はうちの会社のトイレを盗撮してその写真をネットに流した人です。私はそれを直接確認しに来たんです。この人に。そうしたらナイフを突きつけられてめちゃめちゃにしてやると脅されたのでちょっと反撃しました。ナイフはそこです。私の血が付いているはずです。」
警察官は奴の手足を縛ってあるテープを解いて立たせていた。そこに「おい、救急が来たぞ」と呼ぶ声がして救急隊が顔を出した。
「怪我をされた方は、」
そう言ってから僕を見て、「おい、ストレッチャー」と言い直した。
「大丈夫です。歩けますから。」
僕はそう言って外に出た。
「大丈夫ですか、無理をしないで。」
救急隊員は僕を押しとどめて支えようとしたが、僕は彼らの腕を押しのけてエレベーターの方へと歩いて行った。救急車の中で救急士が傷を見て止血をしてくれた。止血処置のために自分で縛ったガムテープとタオルを外すとまた血が流れ出してきた。
「足の傷はかなり深いですね。気分は悪くないですか。」
救急士が聞いたが、僕は特に変わったことはなかったので「大丈夫です。」と答えた。切れたというよりも刺さったナイフが足を切り裂いたようだった。救急車はサイレンを鳴らしながら夕方の街を走り抜けて病院へと滑り込んだ。救急車から歩いて降りようとすると「出血がひどくなるから歩かない方がいい」と言われた。まあ大丈夫だろうと思って車を降りたが、そこで「さあ、乗って」と促されてストレッチャーに乗せられてしまった。
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小説3 | 日記
Posted at
2018/01/22 15:03:39
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