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葵 由埜のブログ一覧

2017年02月04日 イイね!

水素社会は来るのか?

水素社会は来るのか?久々に小難しい話でも書こうかと思います。

実は2016年中に書こうと思っていた内容なのですが、ブログネタが無い時に書こうかと思って温存していたら思いのほかタイミングが無くて下書き状態で放置・・・(笑)

いつの間にか2017年になってしまったので、そろそろ書いておこうかと思います(爆)






さて、トヨタのミライが一般発売され、ホンダのクラリティが一般発売・・・はされてないのね。リース専用で販売され、水素を燃料に走るFCV(燃料電池車)が実用段階へ入ってきました。
※現状でミライ:723万円、クラリティ:766万円という価格設定。

まぁ、実用段階というのは大げさで実用試験の開始みたいなレベルではありますが・・・。

従来の化石燃料(ガソリン/軽油)で走る車から、昨今は環境性能という側面から、ゼロエミッションカー(走行中に二酸化炭素を排出しない車)である電気自動車(EV)が国内では三菱と日産が力を入れています。

しかし、EVは充電に時間がかかる。航続距離に難がある。という問題を抱えています。

そこで、従来のように燃料をすぐに補給する事が出来るゼロエミッションカーであるFCV(燃料電池車)の開発をトヨタ/ホンダが進めていき、現在の販売開始(リースのみ含む)に至りました。

しかし、ぶっちゃけ私はFCVが走ってるのは見たことありません。

だって近くに水素ステーションがありませんから。
※現在宮城県には無い(※仙台市宮城野区に開所準備中ってなってますね)


そう。水素はガソリンスタンドでは売ってません。専用の水素ステーションがないとFCVは1/1スケールの車模型も同然なのです。

水素ステーションはガソリンスタンドを作るよりもコストが大きく、ゼロから全国展開しないと水素が流通せず、FCVは普及できない。

そして燃料が化石燃料→水素に変わったところで、全体図からみて何が環境にいいの?なにも良くならないじゃん。

って私はバッサリ切り捨てた意見を持っているのですが、深く考えもしないで否定的な意見を持つのも正直よくない。


さぁ、いつもながら前振りが異様に長くなりました。

今回の誰得な難しい話はずばり「FCVの普及に伴う環境負荷の変移」です。

ちなみに今回の内容より少しライトな内容は以前のブログを見てね。
ブログ:2015/01/21 FCVは究極のエコカーなのか?


まずは現状の自動車(内燃機関)と比べたFCVの特色を見てみましょう。


①化石燃料を使用せず、燃料は水素。
 化石燃料の将来的な枯渇に備えた代替燃料の確立の為、水素を燃料として使用する。

②燃焼を伴わないため、CO2を排出しない。
 水素から電気を作り水と酸素を排出する。地球温暖化の原因と言われるCO2を排出しないゼロエミッションカーである。

③再生可能エネルギーを利用できる。
 太陽光発電などの電気を利用して水から水素を精製する事で、環境負荷は限りなくゼロ。

④電気自動車と違い、迅速な燃料補給が可能
 水素ステーションで従来のガソリンスタンドと同様の時間で補給できる。


ふむ、こんな所でしょうか。

さぁ、これら全てにいちゃもん付けられるでしょうか?(笑)


付けられます(爆)。だから私は水素社会に否定的意見なのですけどね。

ま、ざっくり言うと、水素を燃料にしても石油の消費はなくなりません。なぜなら水素社会になったら石油を使って水素を作る羽目になるからです。

水から電気分解で水素を作る?一体その電気は何処で調達するの?電気は自然エネルギーで賄う?笑い話です。そんなことが出来たら今頃世界に火力発電や原子力発電なんてとっくに無くなってますよ。

水素を電気分解で作ろうとしたら、火力発電に負荷が寄ります。つまり発電に使用する石油消費量が増える。

そして、FCVからCO2を排出しなくなっても、代わりに水素を作る過程で代わりに莫大なCO2排出が増えます。臭い物にはフタにしかなってない。自分に見えない所でなら存在しないという訳じゃないのです。

しかもFCVに使われる資源を採掘するために、途上国での重機稼動が増える=CO2排出が起きる。カーボンオフセットという言葉でお茶を濁しつつ、先進国が途上国にCO2排出を移行してるだけ。

そして、水素ステ-ションは普及自体も問題ですね。建設コストも然る事ながら、高圧水素ガス(70MPa)なので、高圧ガス(※)設備になると思います。(現状の法律から見て。)
※高圧ガス:常用の温度又は35℃で圧力1MPa以上となる圧縮ガス(詳細は高圧ガス保安法を参照)

ガソリンスタンドの人間は高圧ガスを取扱えない為、新規に資格を取らないといけないのでガソリンスタンドを水素ステーションに改造して建設コストをダウンという手段も取りにくいですね。

市街地等に高圧ガス設備を置くのも色々規制があるので法改正が必要です(これは進んでいるのか・・・?)



さぁ、細かい計算抜きでざっくりでも私のイメージではこれだけ問題があります。

第一に石油消費量を減らしたいのに石油消費量が減らない時点で水素社会は意味がないでしょう。

それなら、現存の内燃機関の効率を限りなく100%へ近づける努力をしたほうがよほど建設的でしょう。

さ、ここから先は計算等を用いて裏づけをしていきましょう。これだけだと私の妄言と言われて終わってしまいますから。


まず前述した通り、内燃機関自動車をFCVへ置き換えることの真意は「石油消費量の削減」にあるでしょう。ゼロエミッション(CO2排出ゼロ)なんてのはオマケだと思います。(※石油消費が減れば必然的にCO2排出も減る)

ゼロエミッションなんてのは客へのアピールでしかないです。しかもその客にとってもゼロエミッションだからといって得する事は何もないという・・・。

”よく分からないけどなんとなく環境に良さそう”ってのが販売アピールになるのが今の日本です。みんな死んでしまえ。

話が脱線していく・・・。軌道を戻します。


ずばり「国内の自動車がすべてFCVに置き換わった場合、どれだけ石油消費量が変わるのか?」計算してみたいと思います。


[環境優しいクリーンエネルギー水素を燃料にしたゼロエミッションカーFCV。これが未来の車のカタチ。内燃機関は環境負荷の高い”悪”。]

そんなイメージ戦略が行われ、普及の糸口へとつなげようとしている現在。

それは本当に正しいのか?皆「なんとなくそうなんだろう。」で終わっている。

水素社会が実現したらどれくらい石油消費量が下がるのか?そんなの国はとっくに試算している。でも公表はされない。

公表したらイメージとの乖離を突きつけられるから?

公表すると普及への足枷になるから?

どうなんでしょう?



ちょっと盛り上げ過ぎた気がします。一旦クールダウン。

今更ながら、一応断りを入れておきますが、私はその手の専門家とかではなくて、一人の車好きとして考察や計算を行っているに過ぎません。

なので以上から以下まで、私の発言や考察/計算などには誤りがある可能性がございます。

また話の構成上、触れていない内容があったり偏りがある内容になっています。

なので「○○があるじゃね~か」とか「こいつ○○も知らないで話してやがるwww」等々の突っ込みはお馬鹿さんのする行為ですのでご注意を。私の判断で記載がいらないと思って省いてます。

その点をご理解の上でお読みになってくださいね。


※こんなブログを読んでるような人はこんなこと一々書かなくても分かっていると思いますが、たま~に居るお馬鹿さん用に記載しています。




さ、注意書きもしたところで、話を進めましょうか。

現状で内燃機関の車は大きく二つに分類します。ガソリン車ディーゼル車です。
※LPG車は今回無視します。

ディーゼル車の多くはトラック/ダンプ等なので、FCVへの置き換えは最後になるでしょう。項目が多いと計算が大変なので、ディーゼルは今回無視します。

なので「ガソリン車が全てFCVに置き換わった場合。」を想定します。


まずは見るべきポイントを整理しましょう。

①年間ガソリン消費量
②年間水素消費量
③水の電気分解に必要な電力/それを賄う火力発電の石油消費量
④電気分解以外での水素生成方法。


さて順番無視でいっちゃいますが、「④電気分解以外での水素生成方法。」水素を水の電気分解以外の方法で生成するにはどのような方法があるでしょうか?

まず一つは化学工場の副生ガスです。結構色々な化学工場から副生ガスとして水素が出来ます。ただし、あくまで副生ガスなので水素の生成量を増やす事はできない。

また、FCVは高純度水素を使用するので純度の低い副生ガスはそのままでは使用できないという問題もあり、高純度化処理が必要になる(※PSA、TSA、膜分離・・・等)

もう一つは石油プラントです。上のヤツと違うの?って思うかも知れませんが、事情がちょっと違います。石油プラントは水素を使用して脱硫(硫黄の除去)を行うので、水素を製造する装置を持っています。(水素純度も高い)

これは副生ガスではないので、水素生成量を任意に増減することができます。(当然限度はありますが)

水の電気分解の他に、石油プラントの水素製造装置が国の目を付けている水素供給源だったりします。

という事で、電気分解と石油プラントの二つの方法での水素生成にかかるコストを計算します。


さぁ文字ばかりで嫌になってきましたね。写真や図面でも入れて緩急つけたい所なのですが、いかんせん挿絵がない・・・。

・・・このペース、なんだか過去最長のブログになりそうな気配。無駄口叩いてる暇はない?




では続いて「①年間ガソリン消費量」

これは簡単に出てきます。年間ガソリン販売量を見ればいいのです。

2015年の年間ガソリン販売量:53112961kL/Year
※2015年のデータなのは、この計算してたのが2016年時点だからです。

ちょっと途方もない量なのでイメージが付きませんので、単位を変えましょう。

→6063kL/h

はい。一時間あたり6063キロリットルのガソリンが日本国内で消費されています。



さて次。「②年間水素消費量」

これは計算が面倒ですね。当然過去のデータも無いですし。

ガソリン車の燃費FCVの燃費か水素消費量を計算しましょう。

ガソリン車の平均燃費を15km/Lとして置きましょう。

FCVの燃費はトヨタのミライをベースに考えましょうか。ミライのカタログ燃費は・・・記載されてません。オイッ!!トヨタさん書けや!?

仕方がないのでタンク容量と航続距離から計算しましょう。

・タンク容量122.4L
・圧力70MPa
・航続距離650km


なので、タンクに入る実水素量は「122.4×700=85680L」になります。
水素はLではなくm3で計算していきますので、「85680L→85.68m3」になります。

そこから燃費を計算「650÷85.68=7.59km/m3」

ミライのカタログ燃費は水素1m3で7.59km進める計算です。

今の段階だとガソリン1kLと水素1m3をだいたい同じ金額で販売になっているのでガソリン車の約半分の距離しか走れないFCVはコストとしては割り高ですね。(しかもFCVの値はカタログ燃費なので実際はもっと低い)
※今後の価格推移がどうなるかわかりませんが・・・。

カタログ燃費を実燃費に換算すると大体6割くらいになる傾向なので、「7.59×0.6=4.55kL/m3」。航続距離は390kmになってしまいます。

さて、ここまで書いたら鋭い人は水素消費量が計算できるようになった事に気が付くはず。

・ガソリン車の燃費:15km/L

・FCVの燃費    :4.55km/m3

FCVがガソリン車と同じ15kmを走るには「15÷4.55=3.3倍」の水素が必要。

つまり「6063kl/h×3.3=20008km3/h」。水素消費量は20008km3/hになります。

ちなみに、カタログ燃費通りに走れると仮定して計算すると「15÷7.59=1.98倍」になる。
なので「6063×1.98=12005km3/h」。水素消費は12005km3/hになる。・・・これはないでしょうけど。


さて、これで水素はガソリンの3.3倍です。・・・で結論付けてもいいのですが、カタログ燃費から実燃費への計算があまりにもテキトーです。

なのでもう少し違う計算でも確認しましょう。

燃料の持つエネルギーと機関効率から計算します。

・ガソリン車の効率:30%
・ガソリンの単位熱量:32.9MJ/L
・ガソリン6063kLの持つエネルギ:「32.9×6063000=199472700MJ」
・効率30%のエネルギ(実走行に使用しているエネルギ):「199472700×0.3=59841810MJ/L」


・水素の単位熱量0.0128MJ/L
・電気分解の効率:80%
・燃料電池の効率:30%
・FCVの効率:「80%×30%=24%」
・必要水素量:「59841810÷(0.0128×0.24)÷1000÷1000=19480km3/h

・倍率:「19480÷6063=3.2倍


ちょっと先取りで書きますけど、電気分解と燃料電池の効率は大体上記くらいになるので、水を電気分解して燃料電池で電気に変えて走行に使用すると効率は24%になります。

そこから、効率30%のガソリン車のエネルギと同等のエネルギの水素量(効率24%)を出すと、水素はガソリンの3.2倍になります。


さて、二通りの方法で試算した結果、水素はガソリンに対して3.2~3.3倍必要という結果になりました。

長くなったのでここまでを纏めると、

・年間ガソリン消費量は6063kL/h
・年間水素消費量は19480~20008km3/h(ガソリンの3.2~3.3倍)

となります。



さて、非常に長くなってますが、ここからがようやく本題といった所。

ようやく水素消費量が出ました。(※以降は3.3倍の20008km3/hで話を進めます)

「③水の電気分解に必要な電力/それを賄う火力発電の石油消費量」を計算しましょう。


まずは、水素20008km3/hを作るのに必要な水の量です。

水はH2Oですので、mol質量から計算すれば水素と酸素の発生量が出せます。

「水1L × 1000 ÷18mol = 水素55.56mol(1.244・・・kL)」

計算すると水1Lから水素は約1244L出来ます。

では20008km3/hの水素に必要な水は?

「20008km3/h ÷ 1244.44・・・ = 16078.1t/h」

時間あたり16078.1トンの水が必要です。

さぁ、水の量が出ましたのでこれを電気分解しましょう。


1molの水を電気分解するのに必要な電気は233kJなので換算すると

233kJ = 64.73W/h

では16078.1トンの水をグラムに直してモル数を出します。
「16078103910g ÷ 18mol = 893227995mol」
※トン表示時に丸めた数字も細かく入れてます

「893227995mol × 64.73W/h = 57816325.72kW/h

さぁ、とんでもない数字になって分かり難くなってきました(笑)

電気分解の効率は80%程度なので計算に入れます。

「57816325.72kW/h × (1÷0.8) = 72270407.15kW/h」

桁が大きいのでk(キロ)→M(メガ)に単位を変えます

→「72270.41MW/h


さぁ出ましたよ。水素20008km3/hを作るのに必要な水16078.1t/hを電気分解するのに必要な電気は「72270.41MW/h」です。

メガソーラー(※)何箇所分でしょう?
※1MW/h以上の出力を持つソーラー発電システム

これがメガソーラーで補えるのなら、今頃火力発電所はなくなってます(笑)

宮城県の火力発電所で想像すると・・・

・仙台火力発電所で44.6万kW/h(446MW/h)
・新仙台火力発電所で98万kW/h(980MW/h)

もうこの時点で「火力発電所1つ=メガソーラー数百箇所」という桁違いな数である事が分かりますが・・・。


ちなみに日本の主要火力発電を合算すると・・・

・北海道電力 4213mW/h
・東北電力 12247MW/h
・東京電力 44979MW/h
・中部電力 24034MW/h
・北陸電力 4403MW/h
・関西電力 18955MW/h
・中国電力 7806MW/h
・四国電力 3736MW/h
・九州電力 10734MW/h
・沖縄電力 2129MW/h


・合計 133236MW/h
※値は総出力(100%稼動)の電力なので実際に使われている電力はもっと低いです

72270.41MW/hとなると、日本の火力発電所の総出力の約54%分に相当します。

[太陽光発電で電気を作ってそれで水を電気分解して水素を作る?]

何言ってんの??

寝言は寝て言えってレベルですね(笑)

日本をソーラーパネルで埋め尽くす気ですか。


さて、太陽光発電じゃまるで足りないので火力発電で電気を作らないといけません。

燃料の発熱量と火力発電の効率から計算してみましょう。
(燃料は石炭、軽油、重油、LNG等と多岐に渡りますが、今回は代表で以下4油種を計算します)

・油種→発熱量(MJ/L)→電力換算(kW/h)→火力発電効率含み(50%)

・A重油 37.2MJ/L → 10.33kW/h → 5.1671kW/h
・B重油 39.4MJ/L → 10.95kW/h → 5.4727kW/h
・C重油 41.0MJ/L → 11.39kW/h → 5.6949kW/h
・LNG   49.1MJ/kg→ 13.64kW/h → 6.8200kW/h


各油種のリッター当たりの電力はこうなります。
※LNGはkgあたり

さぁ、必要な電力は72270.41MW/hですので、必要量が計算できますね。

・A重油 13986701.80L/h → 13986.702KL/h
・B重油 13205718.45L/h → 13205.718kL/h
・C重油 12690373.34L/h → 12690.373kL/h
・LNG   10596849.43kg/h→ 10596.849kg/H →※23036629.2kL/h

 

でました。アホみたいな量が必要です(笑)
※LNGはkg/h→kL/hに換算し直すと物凄い量になります(爆)

A重油を例にして言いますと、

ガソリン6063kl/h水素 20008km3/h = A重油13986.702kL/h

が等価になります。

ガソリン車のかわりに燃料電池車が普及すると、火力発電でA重油をガソリンの倍以上の量を消費する事になります。

つまりガソリン車が燃料電池車に置き換わると、石油資源の消費量が増えます!!

本末転倒もいいところ(爆)


[環境に優しい太陽光発電で電気を作る→無限にある水を電気分解→FCVでは水しか排出しない。]

[環境に超やさしい!!]


なんてのは理想を通り越して唯のバカです(爆)

実際は環境負荷は増えるし、石油資源も余計に消費する事になります。

さて、③水の電気分解に必要な電力/それを賄う火力発電の石油消費量。の計算結果は以上となりました。



ではもう一つ。最後の項目です。

④電気分解以外での水素生成方法。

電気分解で水素を賄うのは意味が無いことが分かりました。なので別の手段で水素を調達しよう。

長くなってきたこのブログのす~っごく上のほうで、ちらっと言いました「石油プラントで水素を作る」という手段です。

石油というのは炭化水素です。C(炭素)とH(水素)の化合物。つまり石油中には水素が沢山含まれているのです。


石油プラントは主に脱硫(油中の硫黄分を除去)する為に、水素製造装置を持っています。

そこを水素調達源にしようというものです。

今回は水素製造装置である水蒸気改質装置(※)を例に計算してみます。
※超ざっくり言うと炭化水素とスチーム(水蒸気)を反応させて水素を取り出す装置です


原料油はライトナフサとLPGの2ケースで計算します。
※水蒸気改質反応式とシフト反応式から原料油からできる水素量を計算します。

●ライトナフサケース
ライトナフサはC5H12とC6H14が主です。

・水蒸気改質反応「C5H12 + 5H2O → 5CO + 11H2」
・水蒸気改質反応「C6H14 + 6H2O → 6CO + 13H2」
・シフト反応「CO + H2O → CO2 + H2」

→水素20008km3/hを発生させるために必要なライトナフサ量は8144.7kL/h


●LPGケース
LPGはC4H10とC5H12が主です

・水蒸気改質反応「C4H10 + 4H2O → 4CO + 9H2」
・水蒸気改質反応「C5H12 + 5H2O → 5CO + 11H2」
・シフト反応「CO + H2O → CO2 + H2」

→水素20008km3/hを発生させるために必要なLPG量は8752.0kL/h



細かい計算式は省きます・・・ちょっと書ききれない(笑)





こんな感じでエクセルでひたすら計算してます。エクセル便利(笑)
※素人計算なので無駄も多いでしょうが・・・(笑)


ということで大幅に端折って水蒸気改質装置で水素20008km3/hを作るために必要な油量は

・ライトナフサで、 8144.7kL/h
・LPGで、           8752.0kL/h

となりました。


結局、ガソリン6063kL/hより量的には増えてますね(爆)

もうねアホかと(笑)


油種が違うので量で単純比較するのもどうかとは思いますが、此処までの計算結果を一覧にしてみましょうか。


①ガソリン
 6063kL/h


②水素
 20008km3/h


③A重油(火力発電)
 13986.7kL/h


④ライトナフサ(STM RF)
 8144.7kL/h


⑤LPG(STM RF)
 8752.0kL/h



これが等価です。



現状のガソリン車を燃料電池車に置き換えると、以上のような試算結果となります。

ガソリンを消費しなくなる代わりに他油種の消費量がガソリンより増えます。

まったくもって環境がどうとか言える結果ではないです。


しかし、見方を変えれば燃料電池は技術的に伸びる可能性が大きいともいえる。まだ未熟な技術ですから。

今回は燃料電池の効率を約30%で計算した結果になってます。

それが、将来的に40%程度まで上がったら???


①ガソリン
 6063kL/h


②水素(燃料電池効率40%ケース)
 14908.3km3/h


③A重油(火力発電)
 10421.5kL/h


④ライトナフサ(STM RF)
 6068.7kL/h


⑤LPG(STM RF)
 6521.2kL/h



こんな感じになります。だいぶ良くなったかと思いますが、火力発電は相変わらず論外。

水蒸気改質の場合では良い感じになってますが、FCVが優位と言える程良くなった訳ではない。

しかも燃料電池の効率を10%上げるのに必要な年月の内にガソリン車の効率も上がるでしょうから実際ここまで迫れないでしょうね。



じゃあさらに10%アップで50%だと?

①ガソリン
 6063kL/h


②水素(燃料電池効率50%ケース)
 11878.1km3/h


③A重油(火力発電)
 8303.4kL/h

④ライトナフサ(STM RF)
 4835.2kL/h


⑤LPG(STM RF)
 5195.7kL/h



燃料電池の効率が50%くらいまでくると、水蒸気改質でのメリットが見えてきた気がします。ただし火力発電は相変わらず論外。

しかし、問題は全国の水素製造装置を総動員(フル処理)してこの水素発生量が出せるのか?

・・・無理です。

現在の全国の製油所数は22箇所です。(石油連盟資料より)

製油所一つ当たりの水素製造装置の最大処理(発生)量を調べてみましょう。

※2016年12月時点のデータ
※単位はすべて[kNm3/h]

●JXエネルギー
・仙台:73
・根岸:63.7
・水島A:63.6
・水島B:137.8
・麻里布:12
・大分:16.7
・鹿島:37.5
・大阪:20.7

●東燃ゼネラル
・千葉:33.5
・川崎:54.2
・堺:26.7
・和歌山:22.8

●コスモ
・千葉:100
・四日市:2.3(水素回収装置のみ?)
・堺:64.6

●出光
・北海道:記載なし
・千葉:40.8
・愛知:記載なし

●シェル
・東亜(京浜):記載なし
・昭和四日市(四日市):記載なし
・西部(山口):50

●その他
・太陽(四国);43.2
・富士(袖ヶ浦):15

全22製油所のうち[記載なし]を除いた19製油所の合計は「878.1kNm3/h」

その平均は「46.2kNm3/h」でした。



という訳で、全国の製油所の水素製造能力は878+α kNm3/h程度。20008km3/hの1/20以下しか水素を出せません。

しかも、石油精製でも水素を使うので最大発生量を全部製品としては出せない。更に言えば定期修理で装置が止まっている時期もある。

ざっくり50%と考えると、出せるのは450kNm3/hくらいかな?

なので20008km3/hの水素を供給しようと思ったら、やはり水の電気分解が必要になり火力発電のお世話になります。

ガソリン車をFCVに置き換えると水素の必要量が多すぎるんですよ。

その事を鑑みると、燃料電池の効率を頑張って上げても火力発電で石油を大量消費する事体は避けられないでしょう。


ちなみに燃料電池の効率が100%の場合の試算↓

①ガソリン
 6063kL/h


②水素(燃料電池効率90%ケース)
 5844.1km3/h


③A重油(火力発電)
 4085.3kL/h


④ライトナフサ(STM RF)
 2378.9kL/h


⑤LPG(STM RF)
 2556.3kL/h



効率が100%でも水素は5844.1km3/h必要の為、水蒸気改質装置だけでは供給不可能。

450km3/hを水蒸気改質で供給したとして、あと約5400km3/h必要。それを電気分解で供給すると火力発電でのA重油は3772kL/h必要。

LPG(STM RF)2556.3 + A重油 3772kL/h ・・・total 6328.3kL/h

これでもガソリンの量より多い(笑)

まぁ、燃料電池の効率が100%まで行く事は無いですが(笑)


とりあえず、現在の状況では燃料電池の効率が100%を超えないと環境負荷は下がりません。(※効率が100%を超えることは物理法則的に不可能)

水蒸気改質装置が数百機増設されたり、火力発電の効率が驚くほど上がったり、もっと別の画期的な水素製造方法を確立したり・・・。

そんな大きなことが幾つも起こらないと、「ガソリン車→FCV」の置き換えなんて意味が無い所か環境負荷も石油使用量も悪化します。

※燃焼を伴う火力発電はもちろんですが、水蒸気改質も炭化水素中の水素を取り出して炭素はCO2として排出しますのでゼロエミッションなんて夢のまた夢。
※また、水蒸気改質装置で使用するスチーム(水蒸気)を作るのだって燃料を使用するので、ランニングコストは装置への供給油量だけでは語れない(そこまでの話は今回はしませんが)


しかも今回はガソリン車だけでの試算ですから、これ以外にもディーゼル車やLPG車なんかもあるので結果はもっと厳しくなります。

そして性能を上げるために燃料電池の開発に時間をかければかけるほど、FCV採用のメリットが下がっていく(※)というマジック付き。
(※同時に内燃機関やEVの技術も伸びていく為。)



さて、超長くなりましたがそろそろ閉幕へ行こうと思います(笑)

「FCVは環境に良い未来の車」そんなイメージ戦略を進めようとしている世の中ですが、フタを開けてみればこんなもんです。


水素社会になっても石油に依存し続けます。
というかむしろ今より増える。
なので環境負荷は増える。



「どこも環境に良くなる要素がないじゃん。」っていう私の意見をきちんと計算で出すだけという内容のブログでした(笑)



↓↓内容が長くなりすぎた(笑)ので、ざっくりまとめ↓↓




○各油種の等価エネルギー使用量
[赤文字が年間消費ガソリン量(6063kL/h)と等価になる使用量]




○効率のまとめ。
[電気分解80%、火力50%、燃料電池30%の場合の水素とA重油の消費量。]




最後にもう一度断りを入れておきます。

このブログの内容は、ただの車好きの素人が書いているものです。計算や考察などに誤りがある可能性を含んでいる為、その点をご容赦下さい。



以上。ここまで読んだ人は果たして居るのかどうかわかりませんが??

どうもご清聴(?)ご愛読(?)ありがとうございました。



††P.S.††

上の本文(文字だけ)で約11400文字ありました(笑)
※スペース、改行はカウントしない。

結構内容省略したつもりだったのですが、過去最高の長さのブログとなりました。

400字原稿用紙29枚分とかアホですね(笑)
Posted at 2017/02/04 21:59:04 | トラックバック(0) | 小難しい話とか | 日記
2016年12月11日 イイね!

ムシのお話

ムシのお話はい。今回の小話はムシについてです。

ムシと言っても、ではないです。

そういえば虫と言えば、気温が下がってクモが居なくなったなと思ったら、駐車場隅の倉庫にカマドウマが・・・。

カマドウマは結構大きい虫なので不意に出くわすとビビリます。越冬する虫で寿命は2年くらいらしいですね。・・・やつらそんなに生きる虫なのか。

まぁバッタの仲間だと思えば平気平気・・・じゃない、カマドウマはなんか嫌。緑色だったら平気かも?

さて、ホントに虫の話になってしまったので軌道修正しましょう。


今回は、あんまり気にした事がないかもしれませんが、車やバイクに乗っていれば必ずお世話になっているムシ様の話です。

前回のブログでホイールのゴムバルブを交換しました。その中に入っていらっしゃるのがこちら。





バルブコア。通称「ムシ」です。

タイヤの空気が外に出ないように遮断し、かつ空気を入れる事ができる構造を可能にしているのがこのムシ様です。

全長約2cm程度のこの部品がすごく重要な役割をしているわけです。

チューブレスタイヤの補修や、タイヤの組み換えをした事がない人はあまり取外して見た事はないかもしれませんね。

実際に手に取って見ればどういう構造なのかは一目瞭然。そんなに複雑なものではないのですが、簡単に図解してみました。





これがムシの構造図です。(雑ですが)

エアはムシの中を通るようになっており、図のオレンジの部分でシール(密閉)されているため、通常はエアは流れません。





これがエアの流れる状態。

軸先を押すか、供給エア圧(ポンプ等)をかけるとスプリングが縮み流路が開きます。


たったこれだけの構造です。簡単でしょ?

え、イメージがイマイチ湧かない?

じゃあもうちょい絵を足しましょう。





ゴムバルブの部分も描きました。
※茶色がゴム部分で、灰色が金属部分です。

通常はこの状態で、エアが漏れないようにシールされてます。

また、ムシ本体とゴムバルブ内筒はムシの黒い部分がシール材になっており気密が保たれるようになっています。




こちらは、エア流路が開いた状態。

コンプレッサーやエアポンプで圧力をかけると、このような形で流路が開きます。

また、エアゲージでつつくとエアが抜けるのは、ムシの軸先を押してこの状態にしているからです。



という訳で、ムシについての小話でした。

小さいけど大切な部品です。たまには見てあげてくださいね。

腐食でボロボロ・・・とかも結構ある話なので。

ちなみに今回取り上げたムシは真鍮(黄銅)製なので緑色や青色に錆びます。所謂「緑青(ろくしょう)」ってヤツですね。

5円玉や10円玉の錆を想像してもらえば分かりやすいかな。

ちなみに硬貨はほとんど銅合金です。

・500円:ニッケル黄銅
・旧500:白銅
・100円:白銅
・50円:白銅
・10円:青銅
・5円:黄銅
・1円:アルミ


1円以外は銅合金なので錆びると緑青(ろくしょう)がでますね。

仲間はずれ(?)のアルミは白く錆びます。
Posted at 2016/12/11 20:36:23 | トラックバック(0) | 小難しい話とか | 日記
2016年11月21日 イイね!

エアゲージ小話

エアゲージ小話タイヤ交換をしていてふとエアゲージを見たら、エアゲージがボケ(※)てました。

※0圧で+30kpaを指していた。

今までとその前もエーモンの500kpaのエアゲ-ジ(品番6777)を使用していましたが、ある日突然狂うんですよねこの子・・・。

最小レンジが10kpaで精度が良いので気に入っているのです。(ちょっと高いけどね¥¥)


ちなみに最小レンジは0に近いほど正確な指示を出していると思ってOKです。


コイツは10kpa以下でストッパーが付いてるのでそれ以下は見れません。ですが、+10kpa以上狂うとストッパーに当たらなくなるので気が付きます。

安物にあったりする50kpaとかでストッパーが付いてるヤツは信用できません。それは+50kpa以上狂わないと気が付けませんから。

250kpaいれたつもりが200kpaしか入ってなかった。とかが普通に有り得るのがそいつらの欠点です。

あまり安すぎる物は低圧の精度を誤魔化すのに+40とか+50kpaでストッパーが付いてるので私はオススメしません。

いちいち別のエアゲージと頻繁にダブルチェックしないといけなくなりますので手間ですし、無駄です。


また、最大レンジが大きすぎるのも精度が悪いので1000kpaとかトラックにしか使わないような高圧PGは乗用車で使わないほうがいいです。

※コンプレッサー用のエアタイヤゲージや電動インフレーターはだいたいレンジ1000kpaくらいのPG(圧力計)がついてるので信用してはいけません。



さて、エアゲージについて熱く(?)語ったところで、せっかくボケたPGがあるので中身の紹介でもしましょうか(笑)





あまり見ない??エアゲージの分解図。





気になるのはガワよりも中身ですよね?

このタイプはブルドン管式圧力計というものです。

銅管が円弧状に曲げてあり、その先で歯車を介して針に繋がっています。





あまり良く見えないかも・・・?

銅管の先から真鍮のリンク→ギア→針と繋がっています。





作動原理は非常に簡単です。

銅管は中が空洞になっており、エア圧力がかかるとその力で円弧が開く方向へ動きます。

銅管が開くので、針が動くというわけ。

※写真は指で銅管が開く方に力をかけています。


エアゲージの多くはこのブルドン管式を採用しています。エアゲージ以外の一般的なPG(圧力計)もこのタイプが多いですね。

さて、中身の紹介も終わった所で、次のエアゲージを買ってきました。





BALのダイアフラム式エアゲージ(品番1224)
※製品案内から持ってきた写真ですみませんが・・・。

0ストッパーなしで、最大レンジが400kpaというなかなか優秀そうな子です。

コイツはブルドン管式ではなくダイアフラム式ですが・・・ダイアフラム式である必要があるのかは正直なんとも・・・(笑)

ダイアフラム式っていうのは別名「隔膜式」とも言います。測定流体と測定器の間に隔膜(ゴムや金属薄板など)を挟み、その隔膜の動きを利用して圧力を測定します。

ダイアフラム式の良い所はブルドン管を腐食させてしまう流体や、粘度の高い流体等の測定ができる所なのですが、エアゲ-ジには不要でしょう(笑)

なんでBALはダイアフラム式を採用した!?

ブルドン管式とダイアフラム式を知っていて、かつ「ダイアフラム式だから」という理由で買う客層が居るとしてもかなり少ない気がしますが・・・。

まぁいいですけど・・・。

いつになるか分かりませんが、これもボケたら分解してみましょうかね(笑)


あ、ちなみに購入したダイアフラム式エアゲージ、予備のブルドン管式エアゲージ、バイク用のデジタルエアゲージ、エアモニ(空気圧監視センサー)と比較しましたけど、全部あってました。

使用しているエアゲージの指示を疑いたくなった場合の為に2つ以上エアゲージを持ってると安心できますよ(爆)
Posted at 2016/11/21 20:41:09 | トラックバック(0) | 小難しい話とか | 日記
2016年01月20日 イイね!

フューエルワン(F-1)の実験

フューエルワン(F-1)の実験皆大好き実験コーナーでございます。いやそんなコーナーは無いけども(爆)

え~今回のネタは巷で好評(?)ワコーズ フューエルワン(以下F-1)です。

噂では、入れると加速が良くなったり吹け上がりが良くなったり燃費が良くなったりアイドリングが安定したり、と良い事尽くめのようです。

まぁ半分くらい(以上?)はその後に「ような気がする」って言葉が続くようですが(爆)


まぁ、そんなこんなでこういうのは私のネタにされるわけですよ(謎)




気になりませんか?この商品の真偽を。




な~んて書くと大げさに捉えられてしまうので、まずは予防線。

・以下はあくまで個人的な実験および考察・感想です。それらをどう捉えるかは個人に委ねられますので、私に批判や文句を言っても無駄ですのであしからず。
※批判や文句があればご自身で再検証をお願いします。中途半端な上から目線コメントするくらいならご自身のブログにきっちり考えを書いてトラックバックをお願いします。見に行きます。

・これより先で色々と言いますけど、別にワコーズが嫌いだとか恨みがあるとかそういうのではないですからね。実際ワコーズのギアオイルとか使っていますし。


さて、予防線も張ったところで進みましょうか(笑)



まずはF-1ってのがどんな製品なのか見てみましょう。


●以下ワコーズのHP記載より転記

高性能清浄剤PEAの作用により、燃焼室や給排気バルブ、インジェクターなどに堆積したカーボン・ワニス・ガム質などを除去し、エンジン性能を回復する燃料添加剤です。
多走行車には2~3回の連続使用がさらに効果的です。また、燃料の酸化及び燃料タンク内に発生する錆・腐食を抑制する効果があります。
添加量:燃料30~60Lに1本を使用。アイドリング不調やカブリ気味になることがありますので、燃料が30L未満の場合は、1%を超えないように添加してください。




だそうです。なんかすごいですね。


まとめると「燃料に入れることで燃焼室や給排気バルブ、インジェクターなどのカーボン・ワニス・ガム質を除去する」のがメインの効果ですね。


この時点でもう突っ込み所がある所がすごいと思う。

エンジンの構造上、ポート噴射であればインジェクターと吸気バルブにしかガソリンおよびF-1は液体として接触できないのですが、燃焼室や排気バルブにも効果が・・・?
直噴にいたってはインジェクターしか液として接触できないのですが・・・?

F-1は燃焼室へ入り減圧されて気化した状態でも効果があるのでしょうかね??



と、掴みから良い感じですが、そもそもなんでF-1について調ようなんて思ったかと言いますと・・・。

個人叩きみたいになると嫌なのであえてリンクは貼りませんが、ネット上にF-1の実験としてとある動画があります。「フューエルワン 実験」とかで検索するとすぐ出てきます。
(試験管に入れたガソリンに濃硫酸を投入して強制的に酸化させ、そこにF-1を投入すると酸化された黒い酸化生成物が綺麗になりますよって趣旨のもの。)





ざっくり以下の流れ。
 ①試験管にガソリンを入れる。
 ②そこに濃硫酸を入れる。
 ③混ぜると黒い酸化生成物ができる(ガソリンと黒いのは分離している)
 ④F-1を入れる。
 ⑤混ぜると黒い酸化生成物が溶解して減る。
 ⑥一度捨てる。
 ⑦試験管に残った汚れに再度ガソリンとF-1を入れる。
 ⑧混ぜると綺麗になる。

※各自調べて見てみてください。動画で見たほうが分かりやすいので。



すごい、F-1ってホントに綺麗になるんだ!!

って素直に思えないのが私なのですよ。


なので考えます。試します。

まずはこの実験が本当に正しいのか、現実に見合った条件でのテストなのか?それを考えます。

このテスト条件での一番引っかかるところはなんと言っても濃硫酸を使用する点です。

なにせガソリン中に硫酸なんて存在しませんからね。

※ガソリンを酸化させる現実の要因は主に大気中の酸素です。ですが、それだと時間がかかりすぎて試料を用意できないので代わりに硫酸を用いている。


では、前提条件というか性状の確認から。

・HC(ガソリン)中にH2SO4(硫酸)は存在しない。
・ガソリンのS(硫黄)分は10ppm以下
・ガソリンの実在ガムは5mg/100ml以下
・ガソリンの水分は数十~数百ppm


さてこのデータを並べた理由がまず一つ。ホントにガソリン中に硫酸は存在しないか?

化学式を見ると硫酸はH2SO4です。組成的にはガソリンって全てを含んでいるのですよ。「酸化水素(HC)、硫黄(S)、水(H2O)」

つまり見方次第では硫酸が生成される可能性もあるのでは?という問題を解決したい。

まぁ、結論から言うと硫酸は生成されません。

H2SO4を作るには「SO3 + H2O = H2SO4」という条件を正立させなければいけません。

そしてSO3を作るにはSを燃やさないといけません。ガソリン中で硫黄だけが燃えてSO3になることは有りませんのでH2SO4を生成する条件が成り立ちません。


これでまずは硫酸という存在がイレギュラーである事を立証できました。




では次にガソリン中に硫酸を入れると何が起こるのかを考えます。

・HC + H2SO4 = 反応しない。
・HC + S + H2O + H2SO4 = 基本的に反応しないが、硫酸の脱水作用によりガソリン中の水分が取られる。


パッと見の化学式だとなんてことないですが、もうちょい踏み込みます。

・硫酸を入れるとガソリンが脱水される。
・硫酸はガソリンから単体のカーボンを生成しない。
・硫酸により不飽和化合物を酸化、重合させる→ガム分の生成
・ガソリン中の硫黄は硫酸と反応しない。


さて、3番目に書きました酸化と重合。これが問題の実験における「強制的に酸化させる」ってヤツですね。

なるほど確かにこれならガソリンを強制的に酸化させる。という目的での硫酸使用は的を得ています。



つまり実験のようにそれを溶解できるF-1は効果がある。



な~んて言うと思ったら大間違い!?

問題なのは硫酸を酸化剤として使用していることではなく、そこに硫酸が残っている状態で実験を行っているという事。

え、分かり難い?


つまり

①理想の環境下では「ガソリン + 酸化/重合反応物」
②実験の環境下では「ガソリン + 酸化/重合反応物 + 硫酸

なんですよ。


硫酸で酸化させるのは良い。でも実験をするのであれば、硫酸を取り除いてから行わなくてはいけないのでは?

というのが疑問なのです。

で、この状態から硫酸だけを取り除けるか?というと・・・私にはムリです。というかどうやるの?



でも、

「硫酸があったっていいじゃん。実際にF-1入れたら綺麗になってるんだしさ。」

ってのが、多分普通の人の感性だと思います。


なのでなぜ疑問なのか解説を入れておきます。


・ガソリンと硫酸は混ざりません。→なので実験のようにガソリンに硫酸を入れると分離します

・F-1とガソリンはどうでしょう?→当然ですが混ざります。

・硫酸と反応性生物は?→混ざります

・ガソリンと反応性生物は?→混ざりません

・ではF-1と硫酸は・・・??



これが曖昧だと実験にならんのです。

なぜかって?そりゃガソリンと混ざるF-1が硫酸と混ざるのなら、F-1という存在を介してガソリンと硫酸が混ざるからです。

※水抜き剤をイメージすると分かるかな? ガソリンと水は混ざらないけど、両方に溶ける水抜き剤を入れると混ぜることが出来る。


そして、実験環境では硫酸と反応生成物は混ざっています。(ガソリンから反応した生成物は硫酸側に溶け込みます)

硫酸とF-1が混ざるのであれば、F-1と反応性生物が混ざるという保障はできません。

つまり、実験の正当性が保障できない。


そもそも、実験で示している黒い汚れというのは生成物で着色された硫酸そのものなので、それをF-1で綺麗にする事は本来の目的ではないのです。


※「ガソリン ⇔ F-1 ⇔ 硫酸(+反応性生物)」 これだと立証にならない。



なので、件の実験の正当性を確認するためには実験条件から硫酸を取り除く必要がありますが、私にはできませんので確認できません。

代わりと言ってはなんですが、実験条件に近い条件でガソリンを抜いた状態で硫酸とF-1が混ざるのかどうかの確認をします。

※これで混ざっちゃうと一気に実験の正当性が疑わしくなります・・・。
※混ざらなければF-1は反応性生物と混ざるという事に。






用意したのは94%硫酸(約2.5cc)

炭化水素との重合反応生成物や水分などが含まれた硫酸です。

※若干泡立っているのは試験管へ採取する際になったものでテストには問題ありません。





そこにF-1を同量入れて混ぜます。(+2.5cc)

完全に混ざりました。分離しません。





さらにF-1を追加します。(+2cc)





もっとF-1追加。(+8cc)

これだけ入れると分かりやすいかな?


●結果
・硫酸とF-1は溶解性がある
・硫酸にF-1を混ぜると発熱する(脱水作用)
・2.0~2.5ccの硫酸に対して12.5~13.0ccのF-1(5.0~6.5倍)を混ぜても、重合物の色は取れない。
・硫酸の界面活性(試験管壁へのべと付き)もあまり失われなかった。



●考察

・MSDSより、F-1中のPEAは46~65%の為、12.5~13.0cc中のPEA量は5.75~5.98cc(46%)、8.125~8.45cc(65%)程度となる。
・そのため硫酸/PEA割合は2.3~4.225倍程度となる。

・F-1の投入量はガソリンに対して最も濃くても1%未満である事を考慮するとPEAの量は0.46~0.65%未満となる。
・F-1 1%=30Lに300ccを投入したケースで見ると、今回のテスト結果の量から逆算して46~60ccの硫酸は処理できない。
・よって1%の濃度で処理可能な量は46ccより遥かに少ない量となる。
・60Lに300ccの場合だと更に処理可能量は減る事は言うまでもない。

・ではどのくらいの硫酸量であれば処理が可能か?目測の域ではあるが、今回のテストの倍以上の量は必要と考える。硫酸2.0~2.5ccに対して30cc以上は必要。
・ただし、これは硫酸の界面活性を十二分に低下させ、配管壁面への付着を防止することで、ガソリン(含むPEA)と共に下流へと押し流せるであろう想定量である。
・倍率で言うと硫酸に対しフューエルワンは15~20倍程度は必要という感触。
・それを踏まえ、フューエルワン1%=30Lに300ccを投入したケースでの硫酸処理可能量は15~20cc以下。60Lに300ccのケースはその半分の7.5~10cc以下。
・よって現実的にはガソリン中の硫酸の処理可能量は10cc程度以下ではないかと推測する。

・ではガソリン中に硫酸が10cc存在する状況はありえるのか?
・→ありえない。そもそもH2SO4はガソリン中に生成されることは現実的にはありえない。生成する為のH2、S、O2は揃っているが化合するには燃焼が必要。
 ※S+O2=SOx H2O+SOx=H2SO4 の為。
・ガソリン中のSは10ppm以下、H2Oは数十~数百ppmと極少量である事に加え、化合する為の燃焼は燃焼室内でしか有り得ず、それは燃料ラインには入り込まない。
・よって、ガソリン中に硫酸が存在することは考え難い。

・ではこの実験の意味することは一体なんなのか?
①硫酸を使用したのはガソリンの酸化を擬似的に再現するためという名目
②それをF-1で除去できる(洗い流せる)事で、ガソリン中のガム分やカーボンの洗浄効果を目に見せるという意味がある。

・今回の実験に対する懐疑点
①硫酸とF-1は溶解性を持つため、すでに硫酸に溶解している重合物類(ガム分)が硫酸と共にF-1に混ざる事は当然である。
②溶解した溶液を捨て、また、F-1を入れて(混ぜて)捨てて・・・とやって綺麗になるのは当たり前であり、それはF-1のガム分の溶解性を証明する行為ではない。
③つまり硫酸とガソリンの両方に溶解性を持つ物質であれば今回と同様の結果を得ることが可能なのである。


・実験の真の結果を出す為には?

①硫酸と重合物(ガム分)を分離させ、重合物(ガム分)単体の状態にしたのち、ガソリンに投入。そこにF-1を混ぜるのが正しい。
②現実の状況に存在しない硫酸という中間媒体を存在したまま実験をしてしまっている為、真の結果が見えなくなってしまっている。





長くなりましたが以上から、「硫酸を用いた実験はF-1の実効性を立証するには不十分な可能性が高い」です。


さて、こんなにも長く他人様の実験に突っ込んでおいてこれでお終いってのは、あんまりなので私なりに出来る範囲でF-1の実効性を確認してみたいと思います。

単体の重合反応性生物を用意するのが容易でない事は上記までで十分に理解できると思います。

F-1は「カーボン・ワニス・ガム質」を除去できるのですから、もっと手に入れやすいものがあるじゃないですか。


カーボンです。



ではどこから採りましょう?





いいところに沢山あるじゃあないですか(笑)





綿棒に低温生成されたカーボンを採取しました。

このカーボンがF-1で溶けるかどうかを確認しましょう。





試験管に「F-1原液4cc」「レギュラーガソリン9.9cc:F-1 0.1cc(濃度1%)」の液を準備します。





そこにカーボンをIN。

このまま静置テストします。





テスト開始から1日と4時間35分(28.58h)経過。





テスト開始から5日と23時間15分(143.25h)経過。





テスト開始から8日と3時間32分(195.33h)経過。





テスト開始から19日と1時間30分(457.5h)経過。





テスト開始から31日と3時間30分(747.5h)経過。





テスト開始から52日と4時間36分(1252.6h)経過。





テスト開始から83日と21時間33分(2013.55h)経過。


時間経過と共に溶液が黒く濁ってきているのが見て取れますね。

※F-1原液の方がより黒くなっていますが4ccと量が少ないため、そう見えるだけです(ガソリン側は10ccなので色が薄い)


この時点で静置テストの経過観察は終了として、最終確認と次のテストに入ります。





上記の2013.55h経過時点での試料を取り出して確認。

左がF-1原液右が1%濃度。

両者とも差が無い程度のカーボンの落ち具合。





上記取り出した試料を戻して、動的テストを実施。試験管を振って混ぜました。

振って混ぜるとあっという間に真っ黒に。





取り出して確認しますが、綿棒のカーボンは見た目変わらず。





一応比較確認。テストに用いたガソリンも黒くなってます。(左が新しいガソリン)

この新しいガソリンに新たに綿棒カーボンを入れて混ぜます。※F-1は入れない。





はい。真っ黒になりました。





取り出して3者比較

残念です。
F-1が入っていても居なくても、この程度のカーボンはガソリン単体でも溶解させられることが確認できました。





確認の意味で実行。F-1原液に同様のカーボン粉を入れて溶解テスト。





カーボンは溶解します。





続いてレギュラーガソリンにカーボン粉を入れる。





こちらでもカーボンは溶解します。




さて、低温生成されたカーボンではF-1の優位性が見られませんでしたので、条件を厳しくしてみましょう。





約500℃で生成されたカーボン片です。





これを砕いて試片とし、ガソリンと溶解テスト。

試験管を振っても振ってもカラカラと音を立てるだけでまったく溶けません。

※長期静置テストは行いません。上記までの結果から短期テストと比べて優位性は無いと判断しました。





続いてF-1原液でトライ。

こちらもいくらやってもまったく溶けません。





溶解しやすい条件になるように加熱してみました。

※一気に加熱したら火が付きました。ゆっくり加熱しましょう。(笑)






120℃に加熱しても溶ける素振りなし。

このままどんどん加熱していきます。





測定レンジギリギリの299℃。

煙がモウモウとたちこめますが、カーボンは溶けず。





加熱していくとアメ色に変わっていきます。もはやなんのテストか忘れそうです(爆)





最終的にこんなんなりましたが、カーボンは全く変化なし。

ちなみにドロっとしたアメ状の粘性物質になりました。こうなるとガソリンとも溶けにくくなるようです。洗おうと思ったら溶けませんでした。





取り出してよく見てみても、カドすら取れていない。


これでテストは終了です。




●結果と考察

・100℃前後の低温で生成されるソフトカーボンに対する溶解性は①F-1原液、②F-1規定濃度条件、③ガソリン(レギュラー)単体いずれにおいても同レベル。

・静置条件における溶解性は非常に遅く、規定濃度条件で満足な溶解性を示すまでに約2~3ヶ月を要する事から、通常使用する車両においては十分な期間の滞留時間が見込めない可能性が高い。

・動的(ミキシング)条件における溶解性はF-1、ガソリン共に即座に溶解性を示し、差が見られなかった事から、F-1での洗浄能力を証明するに至らなかった。

・500℃前後の高温で生成されるカーボンに対する溶解性は①F-1原液、②ガソリン(レギュラー)単体いずれにおいても溶解性を示さず、溶解条件の良化の為にF-1原液を高温条件に於いても溶解性は全く見られなかった。



以上から、F-1で落とせる程度の低温カーボンであれば、ガソリンそのものの洗浄能力で十分に落とす事が可能であると推測する。

燃焼室の各部温度はおよそ、燃焼室内1500~2700℃程度、排気バルブ600~800℃、排気ガス200~600℃、ピストントップ350~450℃、シリンダー壁150~300℃程度である事から、ソフトカーボンの多くは吸気バルブとシリンダー壁に生成されるが、燃料添加剤であるF-1はシリンダー壁へ到達・作用することは難しく、吸気バルブのみへ到達可能と見込む。
それ以外の場所は高温カーボンの生成環境の為、F-1は到達できず、もし到達できたとしても効果は見込めない。





残念ですがF-1の実効性を証明するには至りませんでした。


低温生成カーボンであればガソリン自体の清浄性で十分であり、F-1添加の有無で差は見られない。、高温生成カーボンにおいては効果は見られない。という結果になりました。



また、最初に少しつっこみましたが仮に効果があるとしてもポート噴射での場合で「インジェクターと吸気バルブ」。直噴の場合で「インジェクター」にしか効果はありません。

※それ以外の場所ではガソリン及びF-1は液体として存在せず、減圧により気化しているか燃焼してしまっていますし、液として到達できたとしても温度の関係から燃焼室内のカーボンには効果を発揮できないでしょう。

あとは、効果の真偽以外にも一ヶ月間で1000~1500kmくらい走行する私の場合は一ヶ月で125~187Lくらいガソリンを消費します。60Lタンクに1本入れても10~15日くらいで60L消費しますから、そんな短期間のF-1滞留期間でどれだけの効果が見込めるのか?という問題もありますけどね。


私の感触としてはF-1を入れても劇的にカーボンを落としてくれるという訳ではなさそうです。給油サイクルにもよりますがF-1 1本の滞留時間もさして長くない為、長期的に効果を発揮していくというものでもなさそうです。

であれば、もともと清浄剤の添加されているハイオクを長期に渡って使用していったほうが、カーボンというものに対しては効果を見込めるかもしれません。まぁそれ以上に”乗り方”の方がよっぽど重要かもしれませんね。


カーボンに関しては上記の通りの結果となりましたが、重合反応性生物(ガム分)単体などへの効果の検証はできていません。硫酸を用いた実験では確証が持てませんという事実を確認したにすぎませんから、F-1がそれらに効果がある可能性は十二分にあります。

昨今の主流である分解ガソリンは重合物を生成しやすい面があるので、そういったモノに対する効果を見込むのであればF-1を使用してみる価値はあるでしょう効果が分かるほどガム分等が蓄積されるのは結構な年式の車でないとムリかもしれませんが。




最後に・・・。

最初にも書きましたが、これらは個人的な実験および考察・感想です。それらをどう捉えるかは個人に委ねられますので、私に批判や文句を言っても無駄ですのであしからず。

メーカーのきちんとしたテストでもなんでもないので、この内容を信用するかしないかは個人に委ねられます事をご承知おき願います。
Posted at 2016/01/20 21:01:38 | トラックバック(0) | 小難しい話とか | 日記
2015年11月05日 イイね!

ダブルクラッチとマニュアルトランスミッション

ダブルクラッチとマニュアルトランスミッションさて、恒例(?)の誰得コーナーです。

今回はダブルクラッチについて

話の関係上、MTの話も必要なのでそれとセットです。


日本のMT比率はもはや1%台と風前の灯火状態ですが、MT乗りなら当然できるダブルクラッチ。

では、ダブルクラッチって一体どういう意味があって、どういう事をしているのか?

MTの構造を理解しないことにはダブルクラッチの意味もへったくれも理解できないので、それら諸々を説明していきたいと思います。



MTの通常変速ダブルクラッチ変速のシフトダウン手順を比べて見ましょう。

●通常変速
1)クラッチを切る
2)ギアを今より下のギアに入れる
3)クラッチを繋ぐ


●ダブルクラッチ
1)クラッチを切る
2)ギアをNにする
3)クラッチを繋ぐ
4)アクセルを煽り回転数を上げる
5)クラッチを切る
6)ギアを入れる
7)クラッチを繋ぐ



◎通常変速(ブリッピング有り)
1)クラッチを切る
2)ギアを今より下のギアに入れる
3)アクセルを煽り回転数を上げる
4)クラッチを繋ぐ



ダブルクラッチは手順が一気に増えますね。
(※ブリッピング有りの手順もついでに記載)


ぶっちゃけ、こんな面倒臭いことやんなくてもいいじゃん。

って思う人もいますよね。というか多いかな?


まぁ、ぶっちゃけちゃえば別にやんなくてもいいです。

今の車にはシンクロが付いているので、普通に走る分には必要ないです。普通に走る分には・・・。

もともと、ダブルクラッチが必要だったのは今から1世紀ほど前のシンクロがなかった時代の話で、ダブルクラッチしないと変速が出来なかったからです。


さて、この辺から「なぜ?」ってのが出てきたと思います。


・なぜノンシンクロ車はダブルクラッチしないと変速できないのか?
・シンクロは何をしている部品なのか?
・今のシンクロ付き車でダブルクラッチをする意味は?



で、これらを説明するのにマニュアルトランスミッションの構造の話が必要になってくる訳です。



FR用5速MTの構造図です。
※ものによって多少違いがありますので、大体こういう構造と思ってください。


とりあえずざっくり文章で説明をすると、シンクロとはインプットシャフト(エンジン側に繋がる)アウトプットシャフト(タイヤ側に繋がる)回転を合わせてくれる部品です。

インプットシャフトとアウトプットシャフトは変速ギアを介して回転数が変わる為、使用したいギアに合わせた回転数でないとギアが入りません。

片や1000rpm、片や2000rpmの別々の回転数で回っている歯車同士を繋ぐことはできません。

そこで昔のノンシンクロ車はダブルクラッチを用いて人間が回転数を合わせていました。

それでは大変(面倒)なので開発されたのがシンクロで、シフト操作時のギアに押し付ける力(摩擦)を利用してシンクロが回転数を合わせてくれます。


さて、文章での説明ではイメージしにくいでしょう。というかこれでは理解できないでしょう。(なんでダブルクラッチ?とか説明してませんし)


とりあえずトランスミッションの動きをイメージしやすいように図面で5MTのトルクフローでも見てみましょうか。



ニュートラル




1速




2速




3速




4速




5速




後退



シフト操作によりスリーブを前後に動かす事で使用したいギアが固定され、変速して動力が伝わる仕組みです。

トランスミッションの動きがイメージできたでしょうか?

この図面とトルクフローを見て、ダブルクラッチをやったらどういう動きになるのか理解できたら大したものです。もうこれより下を読む必要がないんじゃないでしょうか(笑)



一応シンクロの動きもざっくり図解してみました。(知ってる人は読み飛ばしてOK)





シンクロとその前後の部品の基本構成図(概略)です。
※シングルコーン

変速の為のギア、シンクロナイザーリング、シンクロナイザーハブ、スリーブ、シンクロナイザーキーにより構成される。





上の図を組み合わせた状態。これが通常のギアの入っていない状態です。





1)変速の為にシフトレバーを操作し、スリーブをギア側へ動かすとシンクロキーがシンクロを押す。
2)押されたシンクロがギアへ押し付けられる
3)ギアのコーン部分とシンクロのコーン部分が摩擦により回転数を合わせにいく。





4)ギアとシンクロの回転数が同期したらスリーブが更に進み、ギアとシンクロナイザーハブがスリーブにより連結され、変速が完了する。


ざっくりですが、シンクロの動きの図解でした。




では話をトランスミッションに戻して、図面を用いながら順を追って説明していきましょう。

上に各段ギアのトルクフローは描きましたが、では実際に変速(シフトダウン)した時にトランスミッションの動きはどうなっているのか?


通常のシフトダウンの場合を見てみましょう。




※コルトラリーアート5MTのギア比で計算(たまたまギア比計算したものを持っていた為)
 (3.538/1.913/1.344/1.027/0.833)

5速 1500rpm、53.6km/hで走行中の各ギアの要求エンジン回転数とトルクフロー。

5速:1500rpm
4速:1850rpm(⊿350rpm)
3速:2420rpm(⊿920rpm)
2速:3440rpm(⊿1940rpm)
1速:6050rpm(⊿4550rpm)


・5速で走行中も格段ギアは回転している(カウンターシャフトから回転を貰う)が、アウトプットシャフトとは繋がっていない為、空転状態。

・変速時はこの⊿rpm(回転差)分をシンクロが昇速する

・⊿rpmが大きいほどシンクロの仕事は増え、同期(昇速)に時間が掛かる。





1)シフトダウンの為クラッチを切る。

2)「イエロー(エンジン)」は1500→700rpm(アイドル)まで低下へ向かう。

3)「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」は入力が無くなり、回転停止へ向かう。

4)「ブルー(アウトプット/5速ギア)」はタイヤからの入力(53.6km/h)により回転数を維持する。


よってイエロー、レッド、ブルーの3グループはそれぞれ回転数がバラバラになる。

変速時はこの3グループのそれぞれの動きが重要になってくる。





5)シフトを3速位置へ押し当てる。(クラッチは切ったまま)

6)シンクロが「ブルー(アウトプットシャフト/5速)」からの入力(回転)を使って回転数の下がった「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」の回転数を要求エンジン回転数の2420rpmまで昇速する。

7)「ブルー」「レッド」の回転数が同期すると3速へシフトが入る。





8)「イエロー(エンジン)」の回転数が要求エンジン回転数(2420rpm)まで達していない(現状1000rpmと仮定)為、半クラッチを行い「レッド」「ブルー」からの入力(回転)を使って、エンジン回転数を2420rpmへ昇速する。

9)回転数の上昇(同期)と共にクラッチを繋いでいき、シフトダウンを完了する。



以上が通常のシフトダウン時のトランスミッションの動きです。

上記のケースでは5速→3速へのシフトダウンでしたが、他パターンのシフトダウンでも流れは同じです。(回転数が違うだけ)

上記の5速→3速のシフトダウンの場合はエンジン回転数が1500→2420rpm920rpm上昇となります。しかし図の「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」回転数をその分上げないとギアが入らないので、シンクロが身を削って頑張って昇速してくれます。

この程度の回転差であればシンクロが調整してくれますが、極端な例では5速(1500rpm)→1速(6050rpm)などの場合は回転差が4550rpmもある為、シンクロでは昇速が困難になります。
※ギアが入らない/昇速に時間が掛かる。

ギアが入ったとしても要求エンジン回転数も大きい為、半クラッチでのエンジン昇速ではシフトショックが大きくなるし、ショックを嫌うと半クラッチ時間が長くなります。

また、「ギアを入れるのに時間が掛かる=クラッチを切っている時間が長い」なので、ギアが入る頃にはエンジン回転数もすっかり落ちてしまい、エンジンとミッションの回転差がより大きくなるという悪循環になります。



シンクロの性能は車によりけりですが、基本的にスポーツ(高回転)走行時の1速や2速へのシフトダウンはシンクロがついてこない事が多く、シフトダウン不可or時間が掛かるという不都合が起こります。

しかし逆に言えば、回転差が小さい状況ではシンクロ任せでシフトチェンジしても全く問題ないのです。(というかその為のシンクロです)




さぁ、ここまで来たら(読んだら)ダブルクラッチを使う事の意味が見えてきたのではないでしょうか?

それではダブルクラッチの動きを見ていきましょう。




※コルトラリーアート5MTのギア比で計算(たまたまギア比計算したものを持っていた為)
 (3.538/1.913/1.344/1.027/0.833)

●5速 1500rpm、53.6km/hで走行中の各ギアの要求エンジン回転数とトルクフロー。

5速:1500rpm
4速:1850rpm(⊿350rpm)
3速:2420rpm(⊿920rpm)
2速:3440rpm(⊿1940rpm)
1速:6050rpm(⊿4550rpm)


・5速で走行中も格段ギアは回転している(カウンターシャフトから回転を貰う)が、アウトプットシャフトとは繋がっていない為、空転状態。

・変速時はこの⊿rpm(回転差)分をシンクロが昇速する。

・⊿rpmが大きいほどシンクロの仕事は増え、同期(昇速)に時間が掛かる。





1)シフトダウンの為クラッチを切る。

2)「イエロー(エンジン)」は1500→700rpm(アイドル)まで低下へ向かう。

3)「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」は入力が無くなり、回転停止へ向かう。

4)「ブルー(アウトプット/5速ギア)」はタイヤからの入力(53.6km/h)により回転数を維持する。


よってイエロー、レッド、ブルーの3グループはそれぞれ回転数がバラバラになる

変速時はこの3グループのそれぞれの動きが重要になってくる。





5)ギアを5速→ニュートラル(以下N)へ入れる

6)クラッチを繋ぐ。
 ※これにより「イエロー(エンジン)」「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」の回転数が同期する。

7)アクセルを開け、エンジン回転数を上げる(1500→2420rpm以上)
 ※同時に「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」の回転数も上がる。





8)クラッチを切る
 ※「イエロー(エンジン)」の回転数は低下へ向かう。

9)ギアを3速へ入れる
 ※「レッド」「ブルー」の回転差は「無い~極少」の為、シンクロは殆ど作用せずギアは3速へ入る。





10)クラッチを繋ぐ
 ※先ほどクラッチを切った事で「イエロー(エンジン)」の回転数は低下へ向かっていたが、予め2420rpm以上としておく事で、この時点でエンジン回転数は2420rpm近辺になっている。

 ※「イエロー」レッドブルーの回転差は「無い~極少」の為、半クラッチはほぼ不要でクラッチを繋げる。



以上がダブルクラッチを使用したシフトダウン時のトランスミッションの動きとなります。


さて、通常のシフトダウンとダブルクラッチの違いが分かったでしょうか?

ダブルクラッチは通常シンクロで昇速される「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」エンジンで昇速する為、シンクロをほぼ使いません。
※”ほぼ”というのはシンクロは構造上少なからず作用するからです。


そのためシンクロによる昇速待ちや、過大回転差でのシンクロによる同期(昇速)不可発生しません。

そして「レッド(インプット/カウンター/1~4速ギア)」エンジンにより望んだ回転数にできる為、とんでもない回転差であってもギアチェンジ可能です。

※たとえ5速(2000rpm)→1速(8000rpm)のような6000rpmもの回転差であってもシフトダウンできます


あとは、「イエロー」「レッド」「ブルー」3グループの回転数が同期しているため、クラッチをぽんと繋いでもシフトショックが発生しません。

※シフトショックを減らす方法にブリッピングがあるが、あれはダブルクラッチと違いエンジンによる「レッド」の昇速を行わないため、通常のシフトダウンと同様にシンクロに依存します。最後のクラッチを繋ぐシーンで「半クラッチを使ってショックを消す」か、「回転数を予め上げてから繋いでショックを減らす」か。という違いです。




さて、ずいぶんと長々となりましたが。ダブルクラッチのメリットとデメリットをまとめてみましょう。

●メリット
・回転差が大きい状況でのシンクロ待ちが発生しない
・回転差の大きいシフトダウンでも変速ショックなしでシフトダウンできる
・どんなギアにでも入れられる。
・シンクロの消耗を抑えられる


●デメリット
・手間がかかる
・空吹かしする事になるのでその分の余計な燃料を使う



まぁ、こんなもんでしょうか。

ではこのメリットが生きるシーンは?

→スポーツ走行時の素早く確実なシフトダウン。そして変速ショックによる挙動変化の防止です。

つまり、「速く走るため」のテクニックな訳です。

速く走りたいなら絶対必要。そ~でない人にはいらん長物ですね。


デメリットに関しては慣れれば手間とは感じません(何も考えなくても出来るようなります)し、燃費をそこまで気にするならエコカーにでも乗ってください。という話。


あ、そうそう。ダブルクラッチが出来ないとヒールアンドトゥもできませんね。
※ヒールアンドトゥはブレーキとダブルクラッチの同時操作。


速く走るだけでなく「MT車で運転を楽しむ」という面でもダブルクラッチは習得が必要かと思います。(ヒールアンドトゥも。)

わざわざMT車を選んで乗っててダブルクラッチもヒールアンドトゥを出来ないのでは何の為にMT車に乗っているのかと・・・
 え、仕事?それはご苦労様です。



余談として、「シンクロのある今の車にはダブルクラッチは不要」という意見もちょいちょい(結構?)あるみたいですが、それって言い方次第では「自分は腕(技術)がありません(※)」って公言してるのと同じなので安易に言うのは止めたほうが良いかと思います。

※その領域まで車を使えていない/そういった走行ができない。という意味。

言うのであれば、「街乗りでは不要」などという条件をつけてから言いましょう。


な~んて言うと必ず反発して「俺はダブルクラッチがなくても速く走れるんだ」なんていう方が居るかもしれません。

なので「それで速く走れるならきちんとダブルクラッチ/ヒールアンドトゥが出来るようになったらもっと速く走れますよ?」って言っておきます。


「出来るけどやらない」「出来ないからやらない」は違うのです。


前者は”選択や判断”ですが、後者は”妥協や言い訳”ですね。



ダブルクラッチとヒールアンドトゥ。出来るようになると、出来なかった頃には戻れません。

どんなギアへでも抵抗なくスコっとシフトレバーが入っていくあの感覚。狙った回転数・必要な回転数への調整がバッチリ決まった時の感覚。半クラッチを使っていないのに変速ショックがないショックレスなシフトダウン・・・etc

それらを知っているとシンクロに頑張らせていた頃には戻れません。

シンクロ頼りでしか乗れない人はマニュアルトランスミッションというものの楽しさを半分くらいは損してると思います。

誰しも自分が知らないものの価値ってのは理解し難いものです。

出来ないまま不要だと切り捨てないで、出来るようになってからその上で自分に必要か不要か判断してみてください。



と、あまり発言が過激になり過ぎないうちに軌道修正を行います(笑)



●まとめ

・街乗りではダブルクラッチは特に必要なし。
・速く走る・楽しく走るためにダブルクラッチは必要。


街乗り程度ではダブルクラッチは基本的に不要だけど、様々なシーンでスムーズに走るという点では是非ダブルクラッチは欲しいかな。

変速ショックを無くすにはブリッピングでもいいけど、どうせやるならダブルクラッチをやって欲しい。(慣れれば手間はさして変わらない)

半クラッチ頼りで運転しているMT車乗りは・・・頑張ろう。安いオートマのキックダウンみたいなシフトダウンをしていては恥ずかしいでしょう。



●最後に・・・「これから習得を目指す人へ」

・ダブルクラッチが出来ない人はまずブリッピングによる回転数を合わせたシフトダウンから練習しましょう。
 ※まずは1速分落とす所から始めていき、慣れたら2速分落としたりしていきます。
 ※5→4速など高速ギアの方が簡単です

・ブリッピングによる回転数合わせが安定して出来るようになったら、途中にNギアに入れるという操作を追加しましょう。
 ※操作手順が増えて戸惑うでしょうが、とにかく手順に慣れましょう。

・その操作自体が出来るようになったら、色んなシーン色んなギアへシフトダウンできるように練習しましょう。

これでダブルクラッチは習得完了。

あとは、ヒールアンドトゥはブレーキしながらダブルクラッチをするだけ。簡単でしょ?


車速と各ギアの回転数は計算で出せるので、「5速→4速に落としたいのだけど、何rpmにすればいいのか分からない。」という場合は計算して目安を作ることをオススメします。



●おまけ



インプレッサの6MT(TY85)のモデル図

TY85の資料が少なかったので多少違うかも?大体は合ってる筈です(笑)
Posted at 2015/11/05 21:29:29 | トラックバック(0) | 小難しい話とか | 日記

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