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イイね!
2007年03月01日

ショートショート『イヴ』

ショートショート『イヴ』 今日もショートショートのストーリーを1つ書かせてもらいます。
かなり季節外れで季節感にものすごく欠けてますが、そこのところはどうぞご容赦ください^^;









『イヴ』

そう、僕たちが付き合いだしてからもう8年という月日が過ぎ去っている。僕たち二人は、高校3年のクラスメートとして知り合い、その年の夏休みにクラスの友人たちと、日帰りの海水浴に出掛けたのがきっかけで二人は付き合うようになった。
彼女の名前は翔子といい、二人姉妹の長女であり、それに両親の四人家族の当時としては、ごくごく平凡な家庭に育った。
僕もやはり二人兄弟であるが、彼女とは違い次男である。だからどちらかというと、僕は甘えん坊であり物事を深く考えない性格で、彼女、翔子はしっかりした考えをいつももって生きていた。僕たち二人はそんな正反対の性格だったけど、お互いのないところに惹かれあったのかも知れない。
その当時、僕は翔子と二人でいるときに楽しければそれでいいと思い、この先二人がどのようになっていくかなんて全くと言っていいほど考えていなかった。
僕は17才の男の当然の性欲として、翔子を抱くことを望んでいたが、翔子はなかなか僕の欲望を理解してはくれなかった。
「私は一時の感情で自分を傷つけたくないの。英くん(僕の名前は、英雄と書いて“ひでお”という自分にはとても重い名前であった。)のこと好きだけど、いまのままずっと好きでいて私と英くんが結婚するとは限らないから、あとで傷ついたり、悲しんだりしたくないの。それにもし私が英くんに抱かれたら、英くんを縛り付けちゃうかもしれないし、そうなった時に英くんに疎まれるのがこわいの。だからもう少し待って」と翔子は僕に何度も言っていた。僕はそういう色々なことなど考えずに、いまの二人の気持ちが好きであれば当然そういう行為をおこなってもいいんじゃないか、と何度も翔子に言ったりしていたが、翔子の気持ちを変えさせることは出来なかった。
結局僕たちは高校を卒業するまでに、キスするまでにしかいかなかった。僕の友人達はほとんどの者が、高校を卒業するまでに経験はすましていたので、特定の彼女と付き合っていながら、キスしか経験のない僕は、みんなからいつも遅れていると言われ続けていた。
でも、僕は翔子に対して、力ずくで無理矢理関係を結ぶことが出来なかった。やはり翔子のことを好きでいたし、翔子の望まないことをして、翔子を失う事ができなかったからだと思う。
僕は高校を卒業すると、私立の4年生大学に進み、翔子は短大へ進んだ。学校は違ったけど、二人は逢える時間があれば出来るだけ逢うようにしていた。僕は大学でいろんな人と出会ったが、翔子への気持ちを変えさせるほどの女性とは出逢うことができなかった。
そんな僕たちに変化があったのは、翔子の20才の誕生日であった。翔子も短大の卒業まであと半年となり就職も証券会社に決まり、あとは僕との関係をどうするのかが翔子に残された事であったと思う。
翔子は23才で結婚をするのが、彼女の希望であったので、このまま僕と付き合っていけば、僕と結婚ということを考え出していたと思う。そういう翔子の心境の変化が僕と翔子の関係を変えさせた。僕たちは翔子のその誕生日にはじめて結ばれた。
翔子は将来、僕と一緒になるつもりでいたのだと思う。僕は翔子を抱いたことと結婚ということを結びつきたくなかった。僕はそもそも結婚というものをしたい、と考えた事が今までなかった。確かに翔子のことは大好きでいたし、一緒にいることは楽しかった。恋愛というものを否定はしないけど、恋愛の延長線上に結婚があるとは思えないし、まして恋愛のゴールが結婚などとは考えられなかった。

やがて翔子は短大を卒業し、証券会社のOLとなり僕は残りの2年間の学生生活を送ることになる。
僕たち二人はそのまま時を過ごし、恋愛を楽しんでいた。僕も学生生活を順調に過ごして就職を決めなくてはならない時を迎えた。僕はいろいろな制約に縛られるのは好まなかったので、わりと自由に仕事ができる中堅の広告代理店に就職をすることに決めた。
僕は就職したあとも翔子との恋愛を楽しんでいたけど、翔子は僕が就職したことにより、僕との結婚について具体的に考え出し始めていた。僕は仕事も覚えなくてはならないこともいっぱいあり、まして自由に仕事が出来ることが楽しくて、結婚などということは全然考えられなかった。
翔子は自分の希望であった23才での結婚ということを僕に何度も訴えていたが、僕はどうしても首を縦に振ることは出来なかった。事実そのころ僕は結婚などと引き換えに僕の自由を捨てることなど出来なかった。自由を奪われるくらいなら結婚などしたくはなかった。今まで通り恋愛を楽しめればそれでいいと思っていた。なんで女は結婚ということを考え出すのだろうか?僕は恋愛を楽しんで、そして自由に生きていくほうが自分らしくていいと思うのに。
そんな僕だけど、翔子は僕と一緒にいてくれていた。25才のクリスマスの前までは。

翔子が25才のクリスマスをむかえるまえに突然僕に
「今年のクリスマスは英くんとは一緒に過ごせない。英くんとこのままいても結論が出ないから、私は英くんとはもう一緒にいられない。」と言った。
僕はこのようにして翔子を失うなんて考えもしていなかったので、何も言い返せなかった。ただ、翔子を失うことより自由を失うほうが僕には重大なことだった。とその時は思った。
翔子を失って時間がたつにつれ、僕は取り返しのつかないことをしてしまったことに気づいた。8年もの時間を共に過ごした翔子は僕の一部分だったのだ。
僕はクリスマスイヴの夜に一つの賭をしてみた。僕はその年のクリスマスイヴの夜に翔子と一緒に過ごそうと思い、東京タワーの見える赤坂のホテルの部屋をリザーブしてあり、たった一人でイヴの夜を過ごすことになった。翔子もその部屋をリザーブしてあることは知っていたので、僕は賭に勝てるか負けるかの勝負をした。
その夜、僕はホテルの部屋で、日本で一番大きなクリスマスツリーと東京の夜景を眺めながらワインを飲み静かに時の過ぎるのを待っていた。時計の針は夜の11時をまわり、街ではいろんな人々が酔い、にぎやかに過ごしている時に一人っきりの静かなイヴの終わりを待っていた。
イヴの夜があと10分で終わるという頃に静けさの中にドアーをノックする音が突然した。僕はおもむろにテーブルを離れドアーの手前にいき、そっとドアーをあけた。そこには目に涙を浮かべた翔子が立っていた。僕は翔子の手を引き部屋の中に入れ、生涯忘れることはないだろうと思うほどのキスをしていた。翔子の涙はずっと止まることはなかった。
僕は賭に勝った。僕のこれから先の人生の自由と引き換えにこの賭に勝ったのだ。
これが僕と翔子の25才のクリスマスであり、独身で過ごす最後のクリスマスになった。ー終ー


今日も長々とありがとうございました。
ご感想はいくらでもコメントいただければ嬉しい限りですが、あくまで素人の趣味で書いただけですので、苦情、ご批判は受付いたしかねますw

ちなみにこの話は架空の話であってけっして作者の実体験によるものではございません。
ブログ一覧 | not車ネタ | 趣味
Posted at 2007/03/01 21:27:09

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この記事へのコメント

2007年3月2日 1:42
情景が思い浮かばれるようです.すばらしいですね(^^)

それにしても卒業シーズンですねぇ.
mintgさんのブログを読み返しながら高校のときに付き合った人や,想いを伝えられなかった隣の高校の後輩なんかを思い出しましたよ.
コメントへの返答
2007年3月2日 7:12
おはようございます^^

ほんともう早くも卒業シーズンですね。卒業って巣立ちとして喜ばしいことですが、思春期の頃、好きだった子の顔を毎日見れなくなると思うと、やけに心淋しかったりしましたね。

特に想いを伝えられないままの人は、今どうしてるのか?なんてふと想ったりもね。

でも、女子大生の卒業式の姿を見れると思うとそれはそれで楽しいですけど。
って、オヤジだなぁ~ww
2007年3月2日 1:53
こんばんは!

作者の実体験によるものではございません。ってなってますが奥様とのお話ではありませんか?
私のこの時期につき合っていた彼女とはハッピーエンドにはなりませんでした。
でも今は幸せですね!

コメントへの返答
2007年3月2日 7:15
おはようございます^^

そのひと言が余計にまずかったかな?
これ、本当に想像で書いただけなんですよ。
うちもつれあいとは5年半と長い時間を付き合ってから結婚しましたけど、こんなシチュエーション、まったくなかってですものw
なんたって、指輪を渡したのが近所のすかいらーくですからね。
もう笑っちゃうでしょ?ww

もっとドラマになりそうな恋愛してみたかったな~ww
2007年3月2日 6:37
おはようございます!!

良い短編ですね~

でも・・・、mintgさんの「実体験」じゃないのでしょうか?(笑)
コメントへの返答
2007年3月2日 7:18
おはようございます^^

お褒めいただき、ありがとうございます^^

でも、残念ながら、実体験でなく、想像の範囲内で書いた作品ですw
こんなドラマチックな恋愛してみたかったですけどね。
うちなんかもう出会ってから25年もの付き合いになりますけど、本当に下町のどこにでもいそうな二人ですからね(爆

恋愛の賭けなんてしてみたかったですねw

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