哀愁

　あれは...もう10年程前になる。自分にとっては初めて3ドアハッチバックとなる928で浮ついていた頃、弟のRSで走りを楽しんでいた。ROUTE289を東進して太平洋を目指す兄弟の背後に、何やらスポーツカーの咆哮らしき音が接近しつつあった。

　突如、バックミラーに出現した漆黒のホットハッチ。その主は、まるでサイボーグのように冷静で正確にラインをトレースしてくる!　先行する我々のRSと、明らかに地の利がある相手の壮絶な峠バトルが始まった。不思議な位恐ろしい静寂と、狂うような激しさに包まれながら...。

　それはシビックと思われたが、｢Vパフォーマンス、鮮烈。｣を謳う"サイバースポーツ"CR-Xだ!　インで尻を振りながらその追従をかわすも、アウトでは凄まじい加速でその距離が縮まる。ろくにヒール&トゥもこなせなかった俺は、タイヤのキャパシティを持て余すばかりだった。

　熱いものは潮が引くがごとく次第に消え失せ、創始者の頭文字を戴いたそのマシンはハザードを焚きながらRSを抜き去っていった。そのサウンドは、まるで大排気量の2輪車のようであった。｢FFにスポーツはあり得ない」という持論は、結果あっさりと踏みにじられた。ドライビングスキルで補っても余りあるCR-Xの孤高の走りは、その後自分を虜にする。

　サイボーグとは、何とも悲しげな響きを伴う。不滅の機械の体を求める旅｢銀河鉄道999｣も、その命を賭けて戦う戦士達｢サイボーグ009｣も少年の頃の自分を涙ぐませた。そんな思い出に浸かる俺を、今日はPerfumeの「NIGHT FLIGHT｣が優しく包み込んでいた...。