
堰を切ったように走りへの情熱に火が着いた赤眼の黒豹は、ほとばしる欲望を満たし得るモデルの選定に入った。結果的に車歴に刻まれた下記の3台の共通項は、持て余すこと無く公道でパワーを使い切れる点。日産F31レパードの対極の選択肢だったスポーツカー達は、何れもメーカーや開発者の信念が五感に訴え掛けてくる名車。決して若くない"大人の走り屋"として、首都高で峠で自らのドライビングスキルの壁と対峙していった。
日産DR30スカイライン

「鉄仮面か7thで探して欲しい」 漆黒の豹こと弟の愛機の選定を託された自分は、ある委託販売ショップの店頭に見慣れぬカラーリングの鉄仮面を発見した。それはDR30スカイラインに唯一設定された特別仕様車「50th ANNIVERSARY VERSION」 本来ツートンのブラックの部分に専用ワインメタリック、また各所にオリジナルメッキパーツを施してむしろGTカーの性格が色濃いモデルに仕立てられている。F31後期型レパードアルテイマへの代替を機に弟から譲り受け、悪夢のクラッシュで果てるまでの期間だけ俺もステアリングを握った。弟を助手席に乗せて差し掛かった茨城県境の峠で遭遇したCR-Xとの壮絶なバトルは、先行するアニバより背後から迫る(明らかに地の利がある)相手のサイバーの方が一枚上手で力尽きる。4発ゆえGT-Rを名乗れなかったものの、名機FJ20ETエンジンの印象深いサウンドとビートは現在もなお忘れられない。
ホンダEF8CR-X

かつてホンダ開発部門に籍を置いていた方のショップに並んでいた在庫は、上質なCR-Xとビートばかり。レパードの時と同様まだプライスボードも付いていない目玉車が、自分の眼に飛び込んで来た。グラスルーフが装着されない方のトップグレードSiRを選んだ訳は、陽射しの暑さを避けてボディ剛性を確保すること。メーカー在庫最後の1セットだった純正アルミホイールに換装し、ホンダボディサービスにてオールペンを始め外装を全て新品パーツで固めた。FFゆえ交差点の何気無い右左折でもトラクションが掛かる前輪が「ツツッ」と鳴き、峠におけるピーキーなハンドリングと走り味は俺を虜にする。当時はイカした女性の走り屋もEFシビックやコイツを選び、その理由は走りの素性の良さにあったに違いない。レストアにより新車以上のクオリティを誇った愛機はあるジャーナリストの目に留まり、本物志向のその方の元へ旅立っていった。
日産DR30スカイライン

捲土重来とばかりに意を決して再びRSを探し始めた自分に、当初狙っていたガンメタ/ブラックツートンでなく鮮烈なレッドにレストアされた物件が浮上した。ショップ経営者は並々ならぬ拘りと思い入れで在庫車を仕上げ、熱い眼差しを注ぐ半魚人&鉄仮面フリーク達に良好なコンディションでマシンを送り出している。夜の首都高湾岸線のストレートで引っ張ればHKSハイパーマフラーが「ボフッ!」と火を吹いて背後を照らし、インタークーラー装着で「史上最強」にパワーアップしたFJユニットの咆哮は官能的だった。不眠不休の1000km連続走行では、東名の起点料金所で真横にR31スカイラインGTS-Rの姿が...。向こうも大いにこちらを意識しており、自然発生的に同時にスタートダッシュ。結果は惨敗で、弟にも「格が違い過ぎるもん、当たり前だよ」とたしなめられる始末。やっぱり大人になり切れない俺は、まだまだ甘チャンなのかな。
二輪のライダーが「風になる」なら、俺は「光になる」と決めていた。路(みち)を切り裂くヘッドライトの光と尾を引くテールランプの灯りが、自分の走りの軌跡となって刻まれた途端瞬時にして消え失せていく。歴史に爪跡を残すことも無いこの儚い人生、走ることの意味をこの命絶えるまで追い求めていたい。スポーツカーの甲高い音響に包まれてもなお宿る静寂に包まれた心理の中にこそ、マシンに込められた思想の真髄を冷静に理解するヒントが隠されているかも知れない。
スポーツカーを乗り継いだ自分は、次の段階として内なるダイバーシティなクルマ選びへ突入。KカーといえSUVやミニバン、そして死角に入っていたスポーツセダンで活路を拓いていく。クルマに造詣の深い弟の協力を仰ぐことは必須となり、生涯現役でステアリングを握るために必要なモノは何か、また可能な限りY31セドリックとL152Sムーヴを守り抜く術は何かに想いを巡らせる日々。自身の意志で行きたい場所へ自分の心身を運んでくれるクルマという道具、常に初心に返ってその有難味を忘れずに感じていたい。
♪Alesso x Charlotte Lawrence/THE END(2020)
ブログ一覧 |
ESSAY | クルマ
Posted at
2024/11/12 16:00:45