
5月30日は、40年前にコスモスポーツが発売された日だそうで、マツダはこちら関東でも記念イベントを開催した。場所はいつものMRY(マツダR&Dセンター横浜)で、6月2日と3日の両日、それぞれ先着順で定員を絞っての開催だ。
マツダからお知らせが来てはいたものの、特段ロータリー・エンジンに思い入れがあるわけでもないので今回は行かなくていいやと思っていたところに、時々メールのやり取りをしていた方から「自分は行くけど惰眠さんは?」と言う趣旨のご連絡を頂戴した。そういうことなら話は別だ、慌てて申し込みをした。
当日は12時半受付開始で13時開演だったのだが、思いのほか早くに到着してしまい、カペラやルーチェ、RX-7などマツダの歴代ロータリー車が集う駐車場の片隅に肩身狭くレシプロの車を停める。若干、年配の方が多いように見えるオーナーの方々が同好の士と車の脇で語らい会うのを横目にエントランスに行くと、91年の水素ロータリー搭載のコンセプト車「HR-X」が鎮座ましましていた。発表当時に写真を見て受けたほど奇矯な印象を受けず、むしろ中々いい形じゃないの?とさえ思ってしまった。
車体後半部のキャノピーが撤去されていたり、エンブレムが現在のものにアップデートされていたりと細かな改修が施されているのが原因だろうか。それにしても、ほかの事はともかく現在のエンブレムをわざわざ与えたことから、HR-Xは過去完了形ではなく現在進行形のコンセプト・カーなんだとの意図が窺える。
声をかけてくださった方(仮にIさんとしておこう)とも無事に初対面を果たし、あれやこれやのお話をしつつスケジュールをこなしていく。最初の基調講演の折にIさんに指摘されて気づいたのだが、参加者の年代が過去のMRYイベントに比べて顕著に高い。そのためか、かつてRX-8の説明会の場で数多く見かけた、A4の大学ノートに細かい字でビッシリ何事かを黙々と書き込んでいるような学級肌(?)のタイプは殆んどいないようだった。
さて、イベントの内容だ。
テーマはロータリー・エンジンの過去・現在・未来と言った具合。パネル・ディスカッション形式で進められたが「過去」の話が――予想はついていたけれど――とても長い。
対外的には発表されなかったが96年に一度、マツダ社内で『ロータリー車はFD型でオシマイ』という決定がなされた話や、もともとル・マン参戦はクラス別での勝利だけ目指していたのにたまたま視察に来た本社首脳がトップ・カテゴリーとの速度差に憤慨して総合優勝を目指せと言い出したばっかりに「設計3人、テスト4人でポルシェに勝てって言われてもなぁ」とため息ついた話など中々興味深く聞いた。
余談ながら、マツダがロータリー車で耐久レースに挑むのは、マーケットに向けて信頼性と耐久性をアピールすることが直接の目的なので、レース車両と言えども発動機は量産品の設計をそのまま引き継いでいたのだと言う。ところが先の首脳発言で風向きが変わってしまい、757以降のCカーはレース専用エンジンを積むことになった由。
ただし……これはもう笑うしかないのだが、全社挙げてル・マン総合優勝を狙いに行ったためレース・プロジェクトの責任者には、量産車のスタッフを好きなだけプロジェクトに一本釣りする権限が与えられたのだとか。マツダって何の会社だっけ?そういう優先順位でエエんかい!
まあそれでも、最初優勝するつもりだった(取らぬ狸の皮算用で優勝記念車としてユーノスコスモまで作ってしまっていた)90年は無理だったが91年には総合優勝を手にし、レースと言う欧州上流社会の文化の中で認知を取りつけたことから欧州圏での商品イメージを大いに高めたのであるが。会社が復元限界角を超えるところまで傾いたのではイメージ戦略もなにもあったもんじゃない。
ところで表題にした「温度差」のことだが、これはユーザーでもあるファンと作り手であるマツダとの間に感じたものだ。簡潔に言ってしまうと、雑誌や漫画などで醸成されるイメージとは異なり、メーカー側はもっと遥かに冷静にロータリーエンジンの得手・不得手を知悉していて、決して『夢の技術』とも『最高のパワー・ユニット』とも――かつてそのようなプロパガンダをした時期があったとしても――考えてはいないと言うことだ。
かつてNSUの巧みな売込みを真に受けてしまったメーカーが消費者に対して受け売りした宣伝文句を、不幸にして(と敢えて言うが)今もって信奉したままのユーザーとの間に、かなり大きな認識の格差が生じている感じがする。技術者として正直なのだと思うが……イメージ戦略を仕切る宣伝セクションの人たちが同席していたら湯気を立てて怒り出しただろうなあ。
メーカー技術者の認識は明快だ。「大きい車、重い車、レシプロを積むことも考えた車にロータリー・エンジンは向かない」。そして「2トンもあるような車に大排気量高出力のエンジンを組み合わせてスポーティーサルーンなんてやっている車もあるが、そういう成り立ちの車を我々はスポーツ・カーとは考えない」ので、RX-8のディメンジョンが、スポーツカーとして成立しうる上限」である云々。
かつて重役陣こぞっての反対を押し切って全車種ロータリー投入に踏み切った社長がいたが、その轍を踏むつもりはないそうだ。「ロータリー・エンジンは単体で考えるのではなく、あくまで(専用設計した)車体とのパッケージ全体で考えるべきもの」との発言にもそれは現れる。そして、ロータリーに相応しい車体のパッケージは、軽量のスポーツ・カーしかありえないとも言う。
と、ここまでは既存のガソリン内燃機関のお話。燃料を水素とした場合は事情がちょっと違ってくる。ことの前提として、マツダとしては電気自動車を果たして『自動車』と呼んでいいのか疑問に感じていて、ガソリン・エンジン以降も自動車には内燃機関を積みたいとの考えがある。そして水素燃料にはレシプロよりもロータリーの方が相性がいい。
だから燃料が現行の揮発油中心から水素中心にシフトした場合、かつて全車種にロータリー・エンジンを積むことを目論んだ社長の夢が、違った形で実現化するかも知れないと言うことだった。
バイオ・エタノール混入ガソリンなどへの対応をすっ飛ばして一気に水素の話に言ってしまうあたり、なんだか3.5吋フロッピーの大容量化が直近の課題になっているときにMOだとかフラッシュ・メモリーの未来絵図を描いて聞かせているような感じを受けたが、まぁ先進技術研究の話っていうのは得てしてこんなものなのだろう。いずれにせよ燃料供給インフラが整わないうちは、どこまで行っても画餅に過ぎないのである。
ともあれ、ところどころ広報部が同席していなかったためか、今度発売になる新型車についてまだ公表されていない範囲のことまでうっかり口にしてしまう人がいたり、軽量化の徹底振りが取り上げられる3代目RX-7について「2代目と同じ13Bエンジンを使うことが決められた中で最高レベルの(ライバルと市場で競争できる)ピュア・スポーツ・カーを開発しろと下命されれば、もう軽量化しかできることはないんですよ」などと夢も希望も吹き飛ばす現実的な技術屋のコメントが聞けたりするのが面白かった。
日程が終わったあとも暫らくIさんと歓談した折「惰眠さんってホントにマツダが好きなんですねぇ」と言われてしまったのには、些か忸怩たる思いがある。
いや、嫌いじゃないですけどね。どっちかと言えば好きなメーカーなんだけれども、僕が足繁くMRYのイベントに通うのは、結局のところ他メーカーがこういう平場でユーザーやファンと技術関係者が直接ざっくばらんに話せる機会をマツダほど積極的には設けていないからだ。……と言うわけで、ロータリー・エンジンのイベントだったけれど、NC型ロードスターのレシプロ原動機が、ストールからの再始動性に難あり(僕だけじゃなくゼロヨン兄さんも似たような話をしている)だという話なんかを会社の偉い技術者に直接伝えて来たのだった。
(
フォトギャラリーにも少し写真を掲載)
Posted at 2007/06/04 15:56:05 | |
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自動車関係のイベント | 日記