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イイね!
2013年12月31日

2013年で最も印象に残った旅。東北のシトロエンCX



 2013年も国内外のさまざまなところに出掛けた。いずれも収穫が大きかったが、中でも、8月下旬に出掛けた東北が忘れられない。岩手と宮城の知人を再訪するのが目的で、宮城のSさんに会うのは13年ぶりになる。Sさんとお父さんは、13年前にNAVI誌での連載『10年10万kmストーリー』のために取材させてもらった。
 当時、Sさんはまだ医科大学生。お爺さんが新車で購入したBMW 2002を三世代で乗り継ぎ、21年12万kmを走っていた。父と息子が2002を大切に乗り続けているのには理由があった。その理由を語るには神妙な顔付きになって然るべきものだったが、Sさんはハキハキと明るく語ってくれた。
 東日本大震災の一報を聞いた時に真っ先に思い浮かべたのは、そんなSさんのことだった。海に近いところに自宅も医院もあったから心配だった。その地域の被害が甚大なことは、連日メディアが大きく取り上げていた。インターネットを検索し、安否を確認できるサイトの中にSさんの名前を見付けることができた。ひと安心できたが、コメントからはSさん本人が無事であることはわかったが、家族や仲間たちの様子はわからなかった。
 しばらくしてからSさんとメールでやり取りすることができるようになり、お父さんをはじめとする家族全員が無事だったこともわかって胸を撫で下ろした。しかし、メールだけでは伝え切れないもどかしさのようなものもSさんは抱え込んでいる様子もうかがえた。それ以来、Sさんのことがずっと気になっていて、ようやく訪れることができた。



 13年ぶりに会うSさんは変わっていなかった。明るく元気よく、着ている白衣が板についていた。お父さんの医院を引き継ぎ、結婚されて娘の父親になっていた。13年前に取材させてもらったご自宅とガレージはそのままだったが、被害は大きかった。「これが津波の跡ですよ」と壁にできたシミの線を示してくれたが、2メートル近い高さだった。あの時、Sさんと家族は山の方に逃げて、難を逃れた。2002は津波に押し上げられて天井にブツかり、その次の波でスーパーセブンとともにガレージの壁を突き破って、どこかに押し流されてしまった。だいぶ経ってから2台は、離れたところで変わり果ててたカタチとなって見付かった。
 元気なお父さんと再会を喜び合い、奥さんとお嬢さんに挨拶もできた。
「そろそろ行きましょうか」
 SさんのシトロエンCXのハンドルを握って、夜の山へ向かい、グルッと回って降りてきて、そのまま海沿いを巡った。海沿いでは震災の被害が大きかったところが多く、CXを停めてSさんは丁寧に説明してくれた。海沿いに建つ団地は4階までは表の窓から裏の窓まで津波に突き破られていたが、5階はまったく無傷だ。ということは、4階の高さにまで達する津波が押し寄せてきたというわけだ。その先のガソリンスタンドの看板は、20メートル以上の高さの位置に大きな穴が開いていた。それも同じことを体現していた。そんな高いところまで達した津波のエネルギーの巨大さを想像しただけで身震いがしてきた。





「ウチなんて水に浸かったとはいえ、まだ被害が小さかった方なんです。この通り、もっと悲惨な目にあった人がたくさんいるのですから。カネコさん、よく見ていって下さい」
 シトロエン談義とクルマ談義の合間に、震災について話し合った。とはいっても僕は質問を差し挟むだけで、もっぱらSさんの話を聞かせてもらう一方だった。
「家や家族、仕事に加えて、地域を震災前の状態に戻すことでこの2年間は精一杯でした。本格的な復興はこれからですよ」
 Sさんの医院は代々、地元警察署の協力医を務めてきており、今回の震災でも多忙を極めている。行方不明者の身元特定作業には歯形が有力な決め手になるからだ。休日どころか眠る時間も削って奮闘してきて、それは今も続いている。
「体験したことのない体験をたくさんしました。ボクひとりではどうしようもできないことにも直面し、絶望させられることも何度もありました」
 肉体的な疲労と精神的なストレスに参りそうになると、SさんはCXを走らせて気を紛らわせた。
「それが今走っているコースなんですよ。CXやエグザンティアブレークで暗闇の中を走っていると、不思議と気持ちが落ち着いてくるんです。クルマっていいですね」
 Sさんの口調が少しだけ神妙になった。愚痴や不平のひとつも口を付いてもおかしくはないのに、Sさんは淡々と話してくれる。淡々としているだけに、余計にSさんの受けた身心両面でのダメージの大きさが察せられた。
 CXのハンドルを握るのは20年以上ぶりだった。自分が所有していたCXを手放してからは運転したことがない。ユラーリユラリとと大きな周期で左右にロールするハイドロニューマチック独特の乗り心地は、エグザンティアブレークよりもCXの方がより濃厚だ。ほぼ同じルートをCXとエグザンティアブレークで2周した。SさんのCXはコンディションも良好で、魅力的だった。ブルーとグレーのヘリンボーン柄のシートの掛け心地と相まって、優しく包んでくれた。疲労困憊したSさんが癒されるというのも、とてもよくわかった。
 翌日の診療があるのにかかわらず、Sさんは真夜中まで僕と付き合ってくれた。再会を約束して別れ、僕は乗ってきたメルセデス・ベンツE250ステーションワゴンで東北自動車のインターチェンジに向かった。しかし、Sさんの「よく見ていって下さい」という言葉が耳から離れず、さっきCXで走ったルートを明るい時間に走ってみたくなった。クルマを停め、iPadでホテル予約サイトを検索したら、近くはないビジネスホテルに一泊できることがわかった。







 翌朝、同じコースを巡って撮ったものがここにアップした画像だ。来て良かった。Sさんの言っていた通り、復興は遅々としてしか進んでいないことが白日の下に晒されていた。何兆円もの復興予算が計上されているのだから、もっと早く進捗していても良さそうなものだ。でも、現実は違う。これもSさんから教わったことだが、復興といってもさまざまな思惑が交錯しているので、すぐには進まないのだ。
 Sさんとともに過ごせたのは半日にも満たなかったが、それはCXの乗り心地のように濃密な時間だった。短い時間だったが、あらゆるディテイルが強く記憶に残っている。Sさんはその後CXを手放したが、2014年もまた東北を訪れたい。
ブログ一覧 | 被災したクルマたち | クルマ
Posted at 2013/12/31 20:59:26

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この記事へのコメント

2013年12月31日 21:34
ご無沙汰しております。

シトロエンCX良いクルマですね〜
残念ながら運転した事は無いのですが、
学生時代、、、、
たぶん1980年代前半に観た時の事、
いまでも印象に残っています。

霧の中黄色いライトで、、、、
静々と走るCX

どうという事が無いシーンなのですが、
なんなのでしょうね、
フランス映画の一シーンのようで、
記憶から全く消え去りません。
コメントへの返答
2013年12月31日 21:56
こちらこそ、ご無沙汰しています。

チャンスがあったら、ぜひCXを運転してみて下さい。

また、出掛けていきますよ!
2013年12月31日 21:38
おばんです。

私も津波の被害を受けましたが、まだ最小な方でしたね。
茨城県北茨城市も悲惨でしたけどね・・・。

まぁ来年の頭には、T32エクストレイルが納車しますが。

良いお年を!
コメントへの返答
2013年12月31日 21:57
こんばんは。

エクストレイルは楽しみですね!

じょい@さんも、良いお年をお迎え下さい。
2013年12月31日 21:58
今年一年お世話になりました。

未だに何も終わっていなく

何も決まっていない。

悲しいより悔しいが先に立つ

何時も同じことの繰り返しに

腹が立つ!

しかし強く進むしかない世の中


初日の出と共に変わってほしい


来年はもっと良い年に・・・・

希望を持って歩みます

ありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。
コメントへの返答
2014年1月1日 1:04
こちらこそ、お世話になりました。

年が明けましたが、みんなでいい年にしていきましょう!
2013年12月31日 22:00
震災以降、北上する事が増え、件のSさんと何度かお会いしました。

関わり方は人それぞれ、私は産業界の人間として、実務から応援を続けます。

金子さんには金子さんにしか出来ない応援の仕方があろうかと思います。

進まないといいながら、地元は復興の為もがいています。まだ道半ば継続して応援していきたいですね。

良いお年をお迎えください。
コメントへの返答
2014年1月1日 1:05
お会いになられましたか。

引き続き、よろしくお願いいたします。
2013年12月31日 22:45
次元が違いますが、自分も年末に追突され愛車との別れを覚悟しました。

クルマに乗っている間は、日常から離れるような自分だけの時間が持てるような気がします。
震災で様々な体験をされ、その後も地域の為に総てを投入され、すごいなぁって思いました。

突然の愛車との別れは辛いし、覚悟が必要です。
まして、あの震災。
まして、あの陸前高田なら・・・。

ご家族が無事だった事が、不幸中の幸い。

まだまだ、先は長いですが、震災を受けた人たちの内外共の復興を祈ります。
コメントへの返答
2014年1月1日 1:08
それは災難でしたね。
お身体は大丈夫でしたか?

復興を応援しましょう!
2014年1月1日 2:26
13年の時を越えて、またお会いできたのは私にとって一生の宝物になりました。
シトロエンは弱い私を支え続けてくれています。車は単なる移動手段ではないことを改めて感じました。
またお会いできる日を楽しみにしています。

今年も復興とシトロエン趣味、どちらも全開で参ります!
コメントへの返答
2014年1月1日 8:20
CX独特のハンドリングとブレーキ、乗り心地などはまだハッキリと僕の身体に残っています。

またお邪魔させて下さい!
2014年1月1日 5:22
震災でぶっ壊れて倒産寸前になった勤務先、2年半経って何とか復旧できました。
内陸側でしたがインフラが1か月以上死んで、工場は壊滅状態でした。
津波に合わなくても震災の被害で勤務先や家庭が倒産したり致命的なダメージを受けて今も復旧に道半ばの方々も大勢いらっしゃいます。
2014年も復旧に向かって頑張りましょう(^^)
コメントへの返答
2014年1月1日 8:21
44loveさんも大変でしたね。お疲れさまでした。

今年もがんばりましょう!
2014年1月1日 10:31
明けまして、おめでとうございます(^^)

今年も、僕は色々と計画しておりますが
昨年は様々に経済的にも突っ込み過ぎたのに、
精神的にも辛い思いし、皆さんにもご迷惑をおかけしたので

今年は自分の生活費も捻出できるよう、
クルマ文化を盛り上げに
頑張りたいと思います…f(^^;)

もしプレス向きの新車発表会などで、お目にかかりましたら、その時にはご挨拶をさせて頂ければ、幸いですm(_ _)m

本年も宜しくお願い致しますm(_ _)m
コメントへの返答
2014年1月1日 18:39
あけましておめでとうございます。

こちらこそ、よろしくお願いいたします。
2014年1月2日 11:45
あけましておめでとうございます。

普通に暮らせる幸せというものを感じています。

普通の毎日に感謝・家族に感謝

今年もよろしくお願いいたします。

※10年10万キロの復活とても楽しみです(^^)
コメントへの返答
2014年1月2日 13:15
あけましておめでとうございます。

感謝の一年でありたいですね。

こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
2014年1月5日 11:38
復興の様子が世間に伝わっているのでしょうか
思うところは沢山ありますが 今年もよろしく
お願いいたします
コメントへの返答
2014年1月6日 20:23
少しでも様子をお伝えできるように励みますので、

こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。

スペシャルブログ 自動車評論家&著名人の本音

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「積まれた姿も、またカッコいい。10年10万kmストーリー 第107回 BMW 3.0CS(1974年)10年2万km http://cvw.jp/b/877318/48544262/
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