
ヴァレンティーノ・ロッシがプレミアクラスで戦う限り、最後はDUCATIに移籍するのだろうとの憶測は今までにもあった。しかしこれはそのほとんどが希望的観測であり、イタリア人の超有名ライダーと、イタリアの最もポピュラーなバイクメーカーとのコラボレーションはここ数週間に渡り噂が現実味を帯び、理想的な何かに変化しているようにも思える。
ヴァレがYAMAHAとの最後の契約は2010年末までの1年。しかしこれはライヴァルでありチームメイトでもあるホルヘ・ロレンツォとの契約と被るもので、ホルヘの存在はヴァレをイラつかせているのである。YAMAHAはホルヘとの契約更新に際しヴァレと同じサポートを約束したようで、M1をここまで仕上げた自負があるヴァレには納得の行かない契約条項だった。
ヴァレの不快感を端的に言い表したのは彼の父親で元GPライダーのグラツィアーノだ。ヴァレがYAMAHAを移籍する可能性を示唆し、夫婦間の関係を引き合いに出し、妻(YAMAHA)に裏切られた、とコメントしている。
イタリアやスペインメディアは格好のゴシップとしてこの問題を追い掛け回し、様々な引用文を使い関係者にアプローチ、進展していそうなコメントを得ようとしている。しかし当の本人であるヴァレは実にそっけないコメントを繰り返してばかり。2010年はYAMAHAとの契約下にあり、その先は2010年の6月までに決める、との見解を繰り返している。
しかしイタリアメディアはこの問題は単なるゴシップではないとして、ヴァレサイドがDUCATI陣営と接触している、と報じた。9月14日の月曜日午後6時30分頃、ヴァレの親友でありアシスタントでもあるアレッシオ・サルーチョ(ウーチョ)の運転するAUDI S6が助手席にやはりヴァレの担当エンジニアでもあるジェリー・バージェスを乗せ、イタリア ボローニャにあるDUCATIファクトリーのエントランスにS6を滑り込ませたのだという。S6のリヤウインドウにはスモーク加工がされていて、後部座席にヴァレが座っていたかどうかは定かではない。
彼らがDUCATIの本拠地に乗り込んだのは他でもない、2011年にイタリアメーカーにヴァレが移籍する可能性を協議する為であり、事実この訪問の後ヴァレの弁護士と会計士にこの時の協議内容が報告されたと示唆している。
同メディアによるとマールボロはヴァレのDUCATI移籍に対し、彼の契約金が現在より推定1500万ユーロ、日本円で20億3000万円ほどに膨れ上がる事を承認し、それを負担しても構わないと示唆している。しかもマールボロは2010年にYAMAHAとの契約が残っているものの、この契約を破棄し違約金を支払ってDUCATIに移籍する事も承認し、そのコストも負担する覚悟があるというのだ。
ヴァレの移籍に際しDUCATIは彼をバックアップする、すべてのクルーの受け入れを覚悟している。ヴァレにはHONDA移籍時のような特別な体制を用意。ファクトリーのフルサポートによるサテライトチームを組織するのだ、そうナストロ・アズーロの時のように。
マールボロの戦略は単にYAMAHAからDUCATIへの移籍に留まるものではない。ヴァレを誘い出す魅力的なオプションとして、MotoGPでのキャリアを終わらせた後のフォローにまで及ぶ。マールボロはヴァレが興味を持つであろうフェラーリF1での可能性も示唆しているのだ。マールボロのヴァレへのサポートは多岐に渡る。ヴァレの信頼するクルーの受け入れ、スペシャルなサテライト体制、契約金、二輪引退後のフェラーリF1。ヴァレが2010年YAMAHAとの契約を破棄しDUCATI移籍を奨励する条項は十分で魅力的だ。
オーストラリアGP フィリップアイランドの会場で再度これらのリポートに対しコメントを求められたヴァレは、噂を書きたてるイタリアメディアの話を一蹴し、完全にこれを否定した。
ヴァレは、
「色々と話は聞いているけど、笑っちゃうよね。噂は時々真実も秘めている。でも今回のこの噂についてはそんな事は無い。彼らがどんな情報源を持ってこんな話をしているのか理解に苦しむが、僕には希望的観測にしか思えないよ。皆が僕がDUCATIに移籍するのを望んでいるようだけど、そんな事はあり得ないし事実ではない。僕が2010年もYAMAHAに留まる事が100%事実。僕はそうするつもりだよ。」
ヴァレは今季がYAMAHAでの最後ではない重要な理由を2つあげた。まずは日本企業との契約遵守。ヴァレは来季末までYAMAHAとの契約下にある。2つ目にヴァレは引退後もYAMAHAとの終身在職権を協議していると明らかにした。
「ポルトガルで僕のキャリアをYAMAHAで全うするよう古沢さんに言われた。これはとても光栄な申し出であり、大変嬉しく感じたんだ。」
しかし最終決定にはまだ時間があり、これまでの見解を繰り返すに留まった。
「ミサノで言ったように来年の6月に将来を決定するつもりだよ。」
ヴァレのパーソナリティは実に魅力的だ。彼は社交的でありプロモーション活動にはうってつけの存在だ。DUCATIが彼の才能に魅力を感じるように、プロモーションの観点からはマールボロは彼に興味を惹かれている。ストーナーはプロモーション活動に消極的だし、フェリッペ・マッサが彼の本業ほどPRで人々を興奮はさせられず、フェルナンド・アロンソはストーナーに似てこれらの項目に厳しく特有でもある。彼はフェラーリの主要スポンサーであるサンタンデール銀行よりの人選でもある。しかしニッキー・ヘイデンだけはPR業務に才能を見せている。イタリアの何百万人ものファンはヴァレがDUCATIに乗るのを待っているし、世界中の羨望を集めるレーサーは、モーターサイクルが得意なレーサーなのである。
しかしイタリア人ライダーとDUCATIの社風は交わらないとの見解もある。ヴァレの信頼するエンジニア、ジェリー・バージェスはヴァレが現役を続ける限りサポートし続けると明言。しかしバージェスとDUCATI陣営の考え方は必ずしもマッチしないのでは?、との憶測もある。DUCATIの頭脳とも云われるフィリッポ・プレジィオージの作り出すマシンは、ある特定のライディングでのみ強烈な速さを発揮するバイクを設計し造り出した。一方ヴァレやバージェスの造り出すバイクはタイヤをいち早く機能させ、誰にでも乗り易いキャラクターを持つ。MotoGPクラスでトップ6の内、3台がYAMAHAどという事はこれを裏付ける紛れも無い事実なのである。
プレジィオージのアプローチとヴァレ、バージェスのアプローチに互換性に疑問を持つもっともな理由がある。2003年にHONDAからの離脱を考えていたヴァレは、DUCATIからのオファーを断っているのだ。理由はDUCATIのHONDAと同じエンジニア主導のバイク造りにある。
そして記録だ。ヴァレの目標は史上最も偉大なライダーとしてその功績を残すことで、彼は同胞であるジャコモ・アゴスティーニの偉大な記録をすべて塗り替えようとしている。ヴァレはアゴスティーニの優勝回数にまだ20勝足りず、タイトル獲得回数は2回足りない。タイトル獲得回数は現実的に実現可能に見える。しかし勝利回数となるとストーナーやペドロサ、ロレンツォなどの強敵が控える中、2010年ともう2年位は必要な計算となるだろう。
記録を更新し続けるにはヴァレにとって絶好のチャンスとなるのが一貫性であり、重要だ。バイクをセットアップし続けキチンと機能させ続けることが必要となる。ヴァレはチーム内での厳しい戦いにも立ち向かわなければならない。ホルヘ・ロレンツォは強敵であり、ヴァレが丹念に仕上げていったバイクを自分とは別の3人のYAMAHAライダーが乗る訳で、彼は自分が仕上げたバイクと戦わなければならないジレンマにも陥るのだ。
DUCATIや地球上の多くのレースファンがヴァレを情熱的な観点から注目する事から逃れられないだろうし、噂を理論的に抑える事も出来ない。噂は再燃しているが、現実は簡単ではない。
ブログ一覧 |
MotoGP | スポーツ
Posted at
2009/10/17 23:59:21