
ほいほい。『満願』各章の感想を書く前に、こちらを片付けておこうと思う。
これは『米澤穂信と古典部』というムック本に、古典部シリーズの新作として書き起こされた短編ものだ。私はヨネポの小説を全シリーズ読んでいるわけではないが、それでも今作はあまり陰鬱な感じもせず、むしろほっこりする話。奉太郎は死ぬが。だからこその『折木奉太郎の殺人』なのであって、『折木奉太郎が殺人』ではない。
一言で表すと『奉太郎いじり』の話だ。いじられキャラになった奉太郎。
要点を抑えておこう。
この話には「ふたりの距離の概算」で登場した大日向友子が登場している。また、奉太郎の書いた読書感想文が引用されていることから『わたしたちの伝説の一冊」も参考になる。
そしてこの話の時系列は(奉太郎の読書感想文がネタにされた)五月の晴れた月曜日から一週間前であることが明記されている。
『わたしたちの伝説の一冊」は伊原摩耶花の漫画研究会退部の話で『ふたりの距離の概算』で語られる過去の一遍では、奉太郎は大日向に摩耶花が漫研を退部したことを伝えている。
そのことから、つまりは「ふたりの距離の概算」で大日向と千反田えるとの間に不穏な空気が流れる前の辺りだろうと推測できる。大日向とえるが仲良さそうに話をしているが、これは和解したのではなく、それ以前の話ということで、そういう意味では『ふたりの距離の概算』でのモヤモヤは解消された話になっているわけではない。
大日向は『ふたりの距離の概算』で真実に到達したあのときから、結局えるに対してどうしたのか。えるは大日向にどう対応したのか。それを推し量るものではないということ。
どうでいもいいが、最近なぜか大日向友子の名前を見ると、ビジュアルイメージがアニメ『響け!ユーフォニアム2』で活躍する傘木希美を褐色に浅黒くした顔で想像が固定されてしまう。
活発なキャラでありながら、ふとした瞬間に儚げな表情を見せるのがあるから自分なりに何かしら共通項を見出しているのだろうか。
さて、私は「走れメロス」も真面目に読んだことはないが、『山月記』も『芥川龍之介の書いた猿蟹合戦』も読んだことはない。うーん、と我ながら思う。
それはともかく、その二つの話を土台にして『虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人』は物語を進めていくことになるわけだが、果たして如何にして奉太郎は殺されていくのか……。
古典部シリーズのキャラクターたちの未来につながる話をスピンオフな場のムック本でおいそれと書くわけにもいかないし、ムック本の趣旨としては読後感として暗い話を冒頭のうちに読ませて、どんよりした気分で本を読み進めてほしいわけでもない、そんな感じである。
どちらかと言えば「軽い気持ちであっさりと読んでね」という節すら感じるムック本だ。
だから作者のヨネポとしては、古典部シリーズのちょっとした事件、それが『奉太郎の過去を掘り起こす=死』辺りで決着がついたんだと勝手に想像する。主人公であるが故に可哀想な目に遭う奉太郎。この話もいずれ単行本の一遍として載る日も来るのだろうが、ひょっとしたらこの話が暗底の基になる日が来るのかもしれない。……あるかなぁ。
……あまりネタバレしてもアレだしねぇ……。
くどいが、奉太郎は主人公で、器用だったが故に死ぬことになってしまった。そんなお話。まあ、奉太郎以外の面々となった気分で読んでいくと面白い。
しかし『米澤穂信と古典部』を読み終わってヨネポのことを少しは、より、理解できて、一番のミステリは「なぜこんな物腰も柔らかそうで、人当たりも良さそうな人が、あんな暗い結末になる小説を作風として書き続けるのか」ということかな。人間の暗い一面がヨネポにも確かにあるのだろうなとまたまた勝手に想像する。見た目ではわからない人の本性。
それはそうと小説家たちとの対談の中で
「米澤さんは女性をあどけないものと思ってないんですね」
「うっ……」
と、核心を突くような会話が載っているんだけど、ここは凄く面白く感じた。
きっとヨネポの小説に出て来る女性キャラクターが総じて平凡な性格をしていないこととして読み解ける一端になっているからだ。
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Posted at
2017/11/14 07:25:35