
万灯。
面白い短編。ただ、初見のときは『柘榴』の嫌な展開に面食らって、ネタバレもしてない状態だったし、短編集だからこそどんな話が飛び足してくるかわからない、『柘榴』よりもっと酷い話が待ち受けてるかもしれないと思ったら、何日か『満願』を読めなかった。それくらい『柘榴』には嫌悪感があった。でも『万灯』は面白かった。杞憂に済んで良かった。読みは『ばんとう』ではなく『まんどう』というらしい。知らなかった。私の頭はどうなっているのか。
『万灯』は蘇民将来を引き合いに出して神を匂わせてるけど『柘榴』と違って、この話は地に足が付いていてリアリティがある。「バングラデシュってそういうところなのかー」なんて想像はできる。
豊かさって何だろう。上を見れば下であることに気付いてしまう。下が気になれば上に行きたくなる。欲。それを得る手段があったとして、どこまでの犠牲なら出していいのか。遮るものはどうやって排除すべきか。あるいは諦めるべきか。
あまりぐたぐだ感想を言わなくても「面白い」の一言でまとめたい。
でも、ひとつだけ。
お話の中に、とある病気の症状描写があるのだけど、その描写が出てくる病名にしてはおかしいとあちこちで指摘がされてるようで、私も調べてみた。
その病気は本来なら「熱は出ず、むしろ低くなる(34℃くらいにまで落ちる)」らしい。
私は医療関係者ではないし、それに罹った人も見たことがないから正確な所はわからないけど、グーグル先生によればそういうことだ。
知らなかったから「『それ』に罹ると熱が出るんだな」と疑うことはなかった。
小説内では「額に手を当てると熱があるのがわかる」という描写がされたり、それに伴って「発熱を抑えるために解熱薬を使用した」ことから、それは間違いなんじゃないの、ということだ。でも文庫本になってもこんな感じなので、まあ、それはそれとして修正されてないなら仕方ないものとして受け入れるしかない。それに熱が出る云々はミステリ成分としてはどうしてもなくてはならないものではなくて、どちらかというと主人公・伊丹の「熱に浮かされた」という小説としての表現を用いた一連の描写にちょっと不都合が出る程度。これを大事と見るか小事と見るか。
つまり、話を盛るためのトンデモ理論ではなく、現実の知識としては違うから気を付けようってことだな、うん。
関守。
これも面白い短編。しかしこれに関しては
ネタバレせざるを得ないので、まだ読んでいない人、ネタバレを知りたくない人は読まないことをお勧めします。
だって登場人物が少なすぎるんだもの(´・ω・`)
犯人わかっちゃうよねっていう。
都市伝説をモチーフにしてあるからか、比較的早くに世界観にのめり込むことができた。『ターボばあちゃん』に『首なしライダー』、私はデビルサマナー・ソウルハッカーズを思い出したよ。
さて、とある場所で謎の死亡事故がポツポツと発生する、それを都市伝説を扱うムック本のネタにできないか。取材に訪れた先で主人公が出会った妖怪との話。
……え? 気の良いばあさんしかいなかった?私が主人公だったら、同様の結末を迎えただろうなァ。まんまとはまって、してやられた気分。
面白いのは物語の冒頭の文章が「CDを無理に聴き続ける必要はなかったのだ」という部分。
「ばあさんの話も無理に聴き続ける必要はなかった」という読み返して初めてわかるダブルミーニングになっているのが良い。
それからばあさんの話はゆっくり話してるから眠気を誘ったんじゃあないという叙述トリック描写。『万灯』における主人公の症状と同じ手法だけど。
ともかく逃げ出せるチャンスはあったのに迂闊な興味本位に翻弄されてしまったというところ。
ひとつ引っ掛かるのは、ばあさんはいつボイスレコーダーに気付いたのか、その描写が欲しかったなァって。読み返してみても少なくとも私には唐突にばあさんがボイスレコーダーに言及しているように思えたから。
まあ、これ、おそらく物語の続きを考えるなら、ネタを提供した主人公の先輩辺りが行方を眩ませた後輩の主人公のあとを追って、更なる犠牲者になり得る点が怖さを感じる。
「すみません。ここにライターの男が来ませんでしたか? これこれこういう風貌の男なんですが」
「ええ、ええ。その人なら確かにここへ来ましたねえ」
「本当ですか。後輩なのですが行方がわからないんです。詳しく聞かせてもらえませんか」
「いいですとも、とりあえずコーヒーでもいかがですか(この男、あのときの記者の知り合いかね。下手に探られたら厄介だ。同じようにはめてやろう)」なんて。
登場人物が少ないなら読んでる合間に犯人が誰なのか気付きそうなものだろうと思うかもしれないが、話が面白いのでぐいぐい読んでいく → 気付いたら犯人が出てきてた、そんな感じだったのだ。この手のやつはシチュエーションを楽しんで読む系統かな。
ここまでは私の感想なのだけど、面白いので粗探ししてみようと(笑)、他人様の感想も色々読んだら
「石像は普通固定されていて持ち上げることなんかできない、つまり凶器たり得ないからこれは話そのものが成り立たない」というものがあった。
これについては小説内で固定されているともいないとも描かれてないし、そもそも石像がどれくらいの大きさなのかも名言されていないので(少なくとも片手もしくは両手で持てる程度なんだろうという描写はあるが)ヨネポとしてはいくらでも「いや、これは固定するほどの大きな石像ではないのです」と逃げられる、もしくは対抗できるため、「石像には固定されているものもあるのか、知らなかった」という無知を知に変えることができた。
満願。
殺人の真の動機に理解できるかできないかで面白さの度合いが変わりそうな話。
学生時代に弁護士を目指していた藤井が下宿先で出会った恩人の鵜川妙子は殺人を犯すことで願いは果たして満たされたのか。
タイトル名にもなっているため、期待し過ぎていたのか、正直少し肩透かしを食らうようでもあった。
弁護士業に疎いのもあって「へー、弁護人ってこういうこともしてるのか」程度で読み進めてしまったのだけど、これもまた実際に弁護を生業としてる人からすると「これはおかしい」という点がいくつもあるようだ。知らなければ気付きようもない。そういうものなのかと受け取ってしまう。
で、私は妙子の殺人の真の動機に関して理解できるかと言えばできる方だ。食べ物や旅行より、私も物品を大事にする傾向があるので、物に対して思い入れを持つ妙子の気持ちは理解できる。そんなわけで無意識にでも真の動機に気付いてしまった(先読みできた)から『してやられた感』が薄いのかもしれない。
たまに「帰宅したら部屋が荒らされてて空になっている」夢を見たりすることがあるのだけど、あれほど戦慄する夢もそうそうない(苦笑)
最近だと目が覚めて寝室からキッチンまでの廊下に出たら玄関は施錠されているのにも関わらず、物が散らかってて、キッチン部屋に入ったら何もなくなっていたっていう夢を見て、こんなに荒らされるまで寝てたのか!?と夢と現実の区別が付いていなくて戦慄した。匂い以外ははっきりしてるのがいけない。物品は大事。
話が逸れた。
「自身や家族などを守るため殺人を犯さざるを得ない」というのなら理解も得られるかもしれないが、無生物相手なので、そこは読者によって理解無理解が出るかなと。
話の続きとして自分が弁護人を務めた殺人事件の真の動機がどうであれ、藤井には満期終了後に出所した宿なしの妙子を下宿させて恩返ししてほしいところ。藤井の妻はなんというかわからないが。
『満願』はあっさりした感想になってしまったが、これで全編の感想、終わり。
面白さを並べると、万灯=関守>夜警>死人宿>満願>>超えられない壁>>柘榴になる。
柘榴に関しては読み心地の悪さ、神話になぞらえただろうという私の推論を挟まない場合で、私が勝手に想像した余地を加えるのなら、満願より上に置きたい。
あれ、そうするとタイトル作が一番下に……(笑)
結局ミステリ小説なんだけど、物語が始まったらどうなっていくのかが気になって「その展開手法としてミステリを使っている」というようにしか気にならないというか。そういう意味では万灯と関守はミステリの見せ方にも面白さを感じたため、上位に食い込んだんだろうと自己判断。