
今日は給料日でしたので朝っぱらから銀行へ行ったり、嫁さんに買い物を頼まれたものをスーパーへ買いに行ったりと、午前中にやるべき事を済ませてきました。
とんでもなく出不精なので、できれば外出したくないのですが明日と明後日も用事を足しに出掛けなきゃならんのです。
さて、今回の正月に何本か未見の映画を観ようという事で、12月の初めにDVDを4枚ほどAmazonで購入しました。
しかし、正月休みになったら観ようと思っていたのですが早々に観たくなってしまい、4作のうち既に2作を観終えてしまいました(笑)。
今回取上げるのは昭和12年(1937年)2月公開の日独合作映画『新しき土』【独題 : 『Die Tochter des Samurai』(侍の娘)】です。
当時の日本政府とナチス党率いるドイツ政府(いわゆるナチスドイツ)との間で前年(昭和11年)11月に締結された『日独防共協定』(正文 : 共産「インターナショナル」ニ対スル協定)の締結交渉で両国間の人の往来をカムフラージュする為、さらには同盟国となる有色人種の日本(民族)のイメージを持ち上げる事を目的として製作されており、邦題の『新しき土』についても当時日本が進出していた【満州】の事を指しており、本作は日独いずれにとってもプロパガンダ映画の一種として製作された事が分かります。
監督は【山岳映画の巨匠】と呼ばれるドイツ人のアーノルト・ファンク、音楽は童謡「赤とんぼ」で有名な山田耕筰が手掛けています。
実は本作、当初はドイツ側のアーノルト・ファンクと日本側の伊丹万作(伊丹十三の父親)による共同監督で製作される予定でしたが、両監督の間で文化的違いなどで対立が生じ、結局同じ題名でファンク版と伊丹版の2本の作品が製作されました。ちなみに今回購入したDVDや現在一般的にソフトなどで流通しているものはファンク版ですが、伊丹版もフィルムが現存しているようで、近年上映されたりしているようです。
出演者もなかなか豪華で、当時16歳で初主演となる原節子や、当時国内よりも欧米で人気が高かった早川雪洲、さらには英百合子、市川春代といった戦後も活躍する俳優陣が出演しています。
さらに今回僕が本作を観たいと思った大きな理由の1つでもあるのですが、本作ではスクリーン・プロセス(プロジェクター合成)やミニチュア撮影などの特殊技術が活用されており、それらを円谷英二が手掛けているんですよね。戦後の『ゴジラ』などよりも前に手掛けた戦前、戦中の作品で円谷氏の特撮技術が観れるのはとても貴重ですね。
本作の物語は、ドイツに留学していた日本人青年、大和輝雄(演 : 小杉勇)はドイツ人女性で記者のゲルダ・シュトルム(演 : ルート・エヴェラー)を引き連れて日本に帰国する。輝雄はゲルダに恋心を抱いているが、輝雄には自身が養子となった大和家の娘、光子(演 : 原節子)という許嫁がいた。輝雄の養父(義父)である巌(演 : 早川雪洲)や光子は、東京まで出向き帰国した輝雄を温かく迎えるが、ドイツ留学で西洋文明に浸った輝雄は許嫁の光子に愛情を向けず、古い慣習として婚約を解消したいと巌に申し出る。輝雄を想う光子の姿を見たゲルダは輝雄のその姿勢を非難するが、絶望した光子は花嫁衣裳を手に一人家を出て噴火する浅間山へ登り、火口へその身を投げようとしますが、光子の想いを知った輝雄が光子を追いかけて浅間山へと向かうのです。そして最後は輝雄と光子は結ばれ、二人の間に子供も生まれて【新しき土】、満州の広大な土地を開拓して暮らしていく…という物語となっています。
この映画、前述のとおり両国のプロパガンダとして製作された意味合いが強いのですが、当時の日本の風景(東京の街のシーンの筈なのに何故か大阪の街の風景が映っていますが(笑))を映像として見るだけでもとても貴重であると言えますし、「これ、もしも日本が対中、対欧米戦争をしてなかったらどんな国になってたんだろう…」と、色々と妄想が膨らむんですよね。昭和12年(撮影時は11年頃ですかね)の東京や大阪の街並みを見る限りでは、間違いなくアジアでは一番の経済国だった事が分かりますし、当時の世界的に見ても日本は既に経済大国の一つである事が容易に伝わってきます。一方で、厳島神社の風景や(おそらく)鎌倉大仏などといった現在も我々が見る事のできる風景もあったり、相撲観戦のシーンでは昭和27年(1952年)秋場所で廃止された土俵を覆う上屋を支える四本柱が存在していた頃の様子を見る事ができます。また、光子が浅間山へと向かう途中で電車に乗るシーンがありますが、これは戦前まで京都で運営されていた愛宕山鉄道のもので、これも大変貴重と言えますね。
円谷氏が手掛けた特殊技術による撮影では、浅間山へ行った光子を追って自動車で追いかける輝雄が山道を運転するシーンで、山道を進んでいく映像の前で輝雄役の小杉勇が自動車を運転する演技をしてそれらを合成した【スクリーン・プロセス】という技術や、浅間山噴火の影響で地震が発生して家屋が倒壊するシーンでミニチュア撮影が行われるなど、戦後の『ゴジラ』や『ウルトラマン』などの特撮作品でも見られる手法を見る事ができ、撮影当時もドイツのスタッフ陣は日本のこうした特殊技術のレベルの高さに驚いたそうです。
この映画は様々な意味で歴史的価値を見る事ができますね。もし、伊丹版の『新しき土』も何かで観る機会があったら良いなぁ…と思うのですが、DVD化は難しいのでしょうかねぇ。

原節子さん、当時16歳ですね。戦後の小津作品の頃よりもやはり初々しい感じが出ていますね。
また、この方はいわゆる「しょうゆ顔」ではなく「ソース顔」なので、日独合作の本作ではドイツ側の受けも良かったのではないでしょうか。
本作を観ていて感じましたが、この方は和装よりも洋装の方が似合いますね。

日独両国で上映されますので原節子さんも「輝雄のためにドイツ語を勉強した」という設定で、劇中でゲルダとの会話では自身でドイツ語を話しています。

光子(演 : 原節子)の父親、大和巌を演じる早川雪洲氏。
この方も当時既に欧米で人気があった俳優さんですから、当時の日本人としては目鼻立ちがはっきりとした「ソース顔」ですかね。

うーん…。やはり洋装の方がお似合いかと。

これが東京の街ですって。阪神電車って…(笑)。
それにしても、当時のドイツ人も「日本って国はずいぶん近代化された国なんだな」と驚いたでしょうね。

当時の相撲の様子。
今では見られない土俵の四本柱など、歴史的価値の大きな映像と言えます。

帰国した輝雄(右)と一緒に相撲や伝統芸能を鑑賞する輝雄の妹、神田日出子(演 : 市川春代)
この女優さんは、戦後も長く映画やTVで活躍された方で、特撮作品では『ウルトラセブン』第24話「北へ還れ!」でフルハシ隊員の母親、フルハシ ユキ役でゲスト出演されています。この撮影当時は23歳で、笑顔が可愛らしい娘役がお似合いですね。

ちょっと分かり難いですが、光子が花嫁衣裳を持って浅間山へ向かう道中のシーンで、桜並木の背景(映像)と原節子をスクリーン・プロセスを用いて合成しています。

こちらは浅間山へ向かった光子を自動車で追いかける輝雄のシーン。
山道を進んでいく背景(映像)の前で自動車を運転する演技をする小杉勇をスクリーン・プロセスを用いて合成したもの。
この当時でこの映像クオリティは凄いですよ。

浅間山噴火の影響による地震で家屋が揺れて倒壊するシーン。
この当時でこれだけ本格的なミニチュア撮影を行っていたんですね。ミニチュアの造形も実に精巧です。

当時の撮影技術としては壊れ方も素晴らしいですね。

映画のラスト、輝雄と光子は夫婦となり、生まれた子供と共に満州の地を開拓して暮らしていきます。
トラクタの機体に映る「KOMATSU」の文字。スマホで画像検索したら、昭和7年(1932年)に農林省から要請されて開発、製造した日本初となる国産トラクタ「T25トラクタ」のようです。これも貴重な映像として歴史的価値が大きいですね。

如何にも【満州開拓】というような映画のラスト。唐突に映画のラストで日本の満州進出を喧伝する描き方になっていますが、当時の日本政府としてもこの映画をプロパガンダとして利用したい意図が大いにあった訳ですね。

最後は原節子、当時16歳の【既に完成されている美貌】でお別れです。
それでは次週をお楽しみ下さい、サヨナラ、サヨナラ…サヨナラ。
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Posted at
2023/12/29 16:08:59