
今日は平日ですが、発注者から「全体経費を削減したいので稼働を減らせ」と言われたので現場に出ないで内勤だけするんだったら、出勤するだけコストも掛かるし時間も無駄なので会社ぐるみで休む事にしました。何か事案が出ても発注者と元請で対処しろよ。電話には出てやるけど現場には行かないからな。…といった感じです(笑)。タダ働きするほどお人好しじゃないんで。
…という訳で、急遽昨日から4連休となっています(笑)。
そんな下らない事よりも先日観た映画の話をしましょう。正月に観ようと購入しておいたDVD、昭和36年(1961年)11月に公開された大映京都撮影所製作の映画『釈迦』です。
この作品、前からずっと気になっていて観たかったんですよねぇ。釈迦を取り上げたという映画の題材よりも長時間の大作主義で巨額の予算で作られた作品、とりわけ大掛かりなセットと特撮技術を見たくて購入しました。そして本作は、国産映画としては初めて70㎜フィルムで上映された作品であり、キャストは大映専属俳優陣、歌舞伎界、新劇界と当時のオールスター総出演といった豪華顔ぶれで製作されているもの魅力です。
物語としては釈迦(仏陀)の一生が誕生から入滅まで描かれていますが、シッダ太子が悟りを開いて仏陀となって以降の物語は、仏陀主体ではなく仏陀をとりまく人たちや仏陀に関する説話を基に様々な人間模様が描かれている構成で、悟りを開いて仏陀になったシッダ太子は顔すら映らず陰になって後光が差しているといった演出に終始しており、シッダ太子(仏陀)を演じた主演の本郷功次郎の顔が悟りを開いて以降は一切映らないといった思い切った演出が面白いですね。
監督は大映京都撮影所で『座頭市』シリーズ、『眠狂四郎』シリーズなどの時代劇を数多く手掛け、特撮作品でも『大魔神』シリーズの第2作『大魔神怒る』を手掛けている三隈研次、音楽は『ゴジラ』をはじめとする東宝特撮映画で馴染みが深い伊福部昭が担当していますが、伊福部氏も三隅氏同様に『大魔神』シリーズに参加しており、【大魔神三部作】全ての音楽を担当しています。
キャストも前述のとおり豪華で、主演のシッダ太子(仏陀)役に『ガメラ』シリーズや『大魔神』シリーズでもお馴染みの本郷功次郎、ダイバ・ダッタ役に『座頭市』シリーズでお馴染みの勝新太郎、クナラ王子役には『眠狂四郎』シリーズでお馴染みの市川雷蔵といった具合に当時の大映看板スターが惜しげもなく総出演しており、他にも川口浩、東野英治郎、中村鴈治郎、市川壽海、山本富士子、山田五十鈴、京マチ子、杉村春子、中村珠緒といったオールスターキャストでまさに社運を賭けた超大作といった様相です。
そして、僕がかねてより観たかった大規模予算によって作られたオープンセットの大迫力。京都福知山の長田野演習場の敷地内の山を切り崩して2万㎡にもおよぶ広大なオープンセットを建設し、全高28mにもなるインドラ神像を中心に幅員10mの道路と全長60mの大橋などが40日ほど掛けて作られたそうで、映画終盤で神像や橋が破壊されるシーンは日本映画を観ているとは思えないスケールのデカさが実に素晴らしく、そこに神殿建設の人夫役として動員された1万5千人ものエキストラも加わって、まさに劇場映画でしか味わえない醍醐味を堪能することができます。
また、前年(昭和35年)にピー・プロダクションを立ち上げた鷺巣富雄(うしおそうじ)も本作に参加しており、シッダ太子が誕生する場面で宮殿の庭に花が一斉に咲き広がるシーンでは鷺巣氏によるアニメーション合成が本当に見事なんですよ。完成試写で鷺巣氏の師でもある円谷英二氏が絶賛したというほどで、実写特撮とアニメーションの融合が見事に成されている作品でもあるんですね。
本作の公開当時(1960年前後)になると、日本でもいよいよTVのカラー放送が始まり本格的なTV時代の到来を迎え、それまで【娯楽の王様】と呼ばれた映画業界は徐々に斜陽期を迎えていた頃であり、大映以外の他社はTVへの対抗策として二本立て興行を行うなどして活路を見出すべく試行錯誤していましたが、本作を製作した大映はワンマン経営で有名な当時の社長である永田雅一によって、他社とは異なり劇場映画にしかできないワイドスクリーン、長時間作品の一本立て興行で勝負するという、つまりは【大作主義】をといった方針をとった訳ですが、こうして歴史を振り返ると邦画でこれだけの巨額(当時の金額で5億または7億円とも言われています)を投入して豪華キャストで製作される景気の良い映画作品というのは、今の時代ではなかなか難しいでしょうし、この時代ならではの「これぞ劇場映画だ!」と言わんばかりの豪華さが只々素晴らしいです。
背景も何もかもVFXで表現できる現代とはまた違った、日本映画の歴史と当時の映画人の心意気が詰まった1本と言えるのではないでしょうか。

大映マークの後に映画『釈迦』のタイトル(画像下)の前に、本作が70㎜フィルムで上映されている事を謳う【スーパーテクニラマ70方式】の表示が仰々しくて実に良いですな。

後に悟りを開き【仏陀】となる釈迦族の王子 シッダ太子(演 : 本郷功次郎)

シッダ太子の妃、ヤショダラーを演じるのはフィリピンの女優、チェリト・ソリス。

ダイバ・ダッタを演じるは大映の大スター、勝新太郎。
一人だけ顔が濃すぎて『テルマエ・ロマエ』っぽく見えて面白かったッスね(笑)。

出家し、菩提樹の下で6年におよぶ瞑想の行に入るシッダ太子。

シッダ太子は遂に悟りを開き【仏陀】となるのでした。

左 : クナラ王子(演 : 市川雷蔵)
右 : クナラ王子の妃 ウシャナ(演 : 山本富士子)
勝新太郎と並ぶ大映の二枚看板、市川雷蔵の醸し出す色気は最近の「イケメン」と言われるお兄ちゃん達には到底出せないであろう天性の色気じゃないですかね。こりゃファンも多かったでしょうなぁ。
そして、今回初めて山本富士子さんの出演作を観ましたけども、これまた息を呑むほどの美しさですね。昭和の映画女優の美しさは、まさに時代を超えたものです。

大映専属スター総出演!!
上 : アジャセ王(演 : 川口浩)
下 : アジャセ王の妃 オータミー(演 : 中村珠緒)

アジャセ王の母 イダイケ(演 : 杉村春子)
小津安二郎作品の常連としてもお馴染みの新劇出身の大女優ですね。こういった役者さんが作品に登場するだけで途端に画面がグッと引き締まりますね。

ダイバ・ダッタに神通力を授けるバラモン教の行者、シュラダ。(演 : 東野英治郎)
新劇出身の俳優さんは台詞が聞き取り易いですな。カーカッカ!

仏陀の説法を聞くために自らの髪の毛を切り落としてなけなしの油を買って火を灯す老婆のスミイ。(演 : 北林谷栄)
こちらも劇団民藝出身の新劇俳優、お若い頃から老婆役を幾多も演じてこられた「老婆を演じさせたらこの人」という女優さんですね。ちなみにこの当時49歳。
アニメ作品『となりのトトロ』のカンタのばあちゃん役でも有名な方ですね。

映画終盤に登場する神殿建設のシーン。
この大規模な建設シーンを1万5千人のエキストラを動員してオープンセットでやってしまうという…当時の映画人の意気込みを見せつけられるのでした。

映画の終盤、仏陀の怒りが奇跡を呼び大地震と地割れによってインドラ神像を始めとする建造物、建築物がことごとく破壊されるシーンでは、そのスケールのデカさに圧倒されます。特に画像下の橋の破壊なんかは実寸の橋を作って最後に見事に破壊される様を作品の中で見せてくれるという…今ではなかなか味わえないものですね。
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Posted at
2025/03/21 14:30:49