
この正月、雪掻きばかりで落ち着いて特撮作品も観る暇もなく過ごしていますが、昨年の11月から12月に掛けて何本か特撮作品を観ていました。ブログで取り上げようと思っていたものの、ずっと仕事が忙しかった事もありなかなかその機会がありませんでした。僕の正月休みも今日と明日を残すのみとなりましたので、これを機会に取り上げてみたいと思っています。
この「世界大戦争」は、東宝が昭和36年(1961年)10月に公開した特撮SF作品です。監督は僧侶でもある松林宗惠、特技監督は円谷英二、音楽は團伊玖磨が担当しています。ちなみに僕の好きな怪獣やら宇宙人が一切出てこない作品です。この作品は以前よりずっと観たかったので、この度DVDを購入しました。購入前にamazonのレビューを見てもとても評価の高い作品でしたので、とても楽しみにしていました。
あらすじを上手に書けないもしくは書くのが億劫なので、例の如く今回もDVDパッケージ裏面のあらすじをそのまま拝借しちゃいます(汗)。
- 戦後16年、日本の見事な復興は、ささやかな幸福を願う人々が懸命に働いた成果だ。アメリカプレス・クラブの運転手・田村茂吉もその一人。
ある日ラジオは同盟国軍の演習海域で連邦国ミサイル潜水艦が捕獲されたという不吉なニュースを告げる。ついでアフリカで軍用機が撃墜された。両陣営間の緊張は否応なしに高まっていく。
そんな中、茂吉の家に下宿している船員、高野が帰国。高野は茂吉の娘・冴子と愛し合っていたが、茂吉にはまだ知らせていない。高野は帰港の途上で見た、空の光が気になっていたのだ。
そして、遂に38度線で小型核爆弾が使われた。首相は病を押して、両陣営に和平を働きかける。だが…… -
この作品、当時の東西冷戦の状況から第三次世界大戦とも言える戦略核兵器による【世界最終戦争】を描いた映画で、本作品公開時にはベルリンの壁が建設され、翌年にはキューバ危機が起こるなど、SF作品の様でそうでない様な現実味を帯びたような作品と言えるかもしれません。劇中の【連邦国】は資本主義陣営を、【同盟国】は社会主義陣営をモデルとしています。
そしてこの作品の面白いところは、そうした世界最終戦争の行方を日本に普通に暮らす茂吉の様な市井の人々の姿を通して描かれているところだと思います。
この理不尽な運命に翻弄される主人公の茂吉を演じるフランキー堺氏の熱演が実に素晴らしいですし、茂吉の妻【お由】を演じた乙羽信子氏の落ち着いた味のある演技もこの作品を素晴らしいものにしています。
また、日本政府の懸命な働き掛けも虚しく、同盟国による日本へ核ミサイルによる攻撃が濃厚となり、再び長い航海のため外洋へと出て行った青年航海士の高野【演 : 宝田 明】と、茂吉の娘・冴子【演 : 星 由里子】の恋人同士が田村家の高野が下宿していた2階の部屋に置いてあるアマチュア無線で、最後のモールス交信を行うシーンは胸に刺さります。
「サエコ・サエコ・コウフクダッタネ」
「タカノサン・アリガトウ」
いよいよ東京に向けて核ミサイルが発射される事が決まり、今更ジタバタと逃げ回ってもどうにもなりゃしねぇ…と、田村家では一家で食卓を囲みます。まだ幼い冴子の妹や弟は目の前のご馳走に「お正月が来たみたい!」と喜んでご馳走を頬張るところが余計哀しいですね。
この理不尽な運命に茂吉は叫ぶのです。
「母ちゃんには別荘建ててやるんだ!
冴子には凄い婚礼させてやるんだ!春江はスチュワーデスになるんだし…
一郎は大学に入れてやるんだよ…俺の行けなかった大学によぉ…。」
やがて夜も更け、東京の上空で核爆弾が炸裂し、東京は核の閃光に包まれ焦土と化すのです。
その翌朝、東京の最期を洋上から見た高野たち乗組員は残留放射能で自分たちに訪れる死の運命を覚悟のうえで東京への帰還を決意し、一路東京へ向けて舵をきるのです。
この時の、コックとして乗船している江原を演じた笠智衆氏の台詞もとても胸に響きます。
「人間は誰でも生きていく権利があるというのになぁ…。それを同じ人間が奪い取るなんてどっか間違ったんだ。
皆が今、東京へ帰りたいと言うように、「生きていたい」と言えばよかったんだ。もっと早く、人間皆が声を揃えて「戦争は嫌だ!戦争は止めよう!」と言えば良かったんだ…。人間は…素晴らしいもんだがなぁ…。一人もいなくなるんですか…地球上に。」
東宝の特撮映画の中では、怪獣や宇宙人が登場する多くの作品と比べるとあまり話題にのぼらず影の薄い印象の本作ですが、こうした【人間の無常】を描いた作品こそ、今一度評価されるべきなのではないかと思いました。もっと早く観ておけば良かったなと後悔しています。
良い作品は、時代とか古さ、新しさというものとは関係ないですね。

主人公の田村茂吉【演 : フランキー堺】と茂吉の妻、お由【演 : 乙羽信子】
この二人の演技が上手すぎるんスよね~。引き込まれてしまいます。

冴子【演 : 星由里子】と高野【演 : 宝田明】
怪獣映画の常連でもあるお二人ですね。

覚えたてのアマチュア無線で、高野に最後のモールス交信をする冴子

冴子からの最後の交信に「コウフクダッタネ」と応える高野

一家で食卓を囲む田村一家。おいなりや海苔巻きが【ご馳走】だった当時の日本の生活が垣間見れます。

理不尽な運命に叫ぶ茂吉。フランキー堺氏の素晴らしい熱演。

映画のラスト、自分たちの死を覚悟して東京への帰還を決意する乗組員たち。
いつも『男はつらいよ』で見る御前様とは違った笠智衆氏の演技も魅力的です。

Posted at 2021/01/03 21:34:49 | |
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