今回はみんな大好き、吸排気です。
前回の掲載ではリフト量の考え方に間違いがあったので、再編集して再掲載します。
4ストロークエンジンの吸排気系の要であり、基本である吸気排気工程の司令塔、「カムシャフト」について考えてみたいと思います。
4ストロークと言う呼称は正確にエンジンの特徴を示さないので4サイクルが正しいなんて言う専門書もありますが、ここは4ストロークで行きたいと思います。
4ストロークエンジンは知っての通り の4工程から成り、吸気工程では吸気弁、排気工程では排気弁を開いて燃焼室のガスの入れ替えを行っているのは承知の通りですね。
ではサービスマニュアルからスペックを読み取ってみます。
〇吸気
開き BTDC40° 閉じ ABDC64° 最大リフト 6.69mm
□排気
開き BBDC72° 閉じ ATDC32° 最大リフト 6.68mm
簡単な事しか書いて無いんですけどね。何か難しく思っちゃいますよネ。今日はココを攻めてみたいと思います。
どう表現したら分かり易いのかしばらく考えたのですが、吸排気を考えるときには「膨張(燃焼)」→「排気」→「吸気」→「圧縮」と始まりのサイクルを変えると分かり易いみたいです。
ATDC: アフター トップ デス センター
BTDC: ビフォアー トップ デス センター
ABDC: アフター ボトム デス センター
BBDC: ビフォアー ボトム デス センター
これは大丈夫ですかね。BDCは下死点。TDCは上死点。頭文字のAは Afterなので後。Bは Beforeなので前。
サービスマニュアルの数値を図上に展開してみました。エンジンの回転をイメージしてみて下さい。 想像していたバルブが開くタイミングとは違うのでは無いでしょうか? 排気工程は膨張行程に
72°と大分食い込んでいるし、吸気工程は圧縮工程に
64°と大分食い込んでいます。圧縮なんて点火するまでに90°分位しか行われて無いんですね。
ちょっと蛇足ですが前回までで確認した点火タイミングも図に入れてみました。
33°での点火って圧縮工程の中盤? 結構早いタイミングで行われています。ウオタニさんのHPとか他でもありましたが、ATDC10°位で最大燃焼圧を迎えるように点火すると最大の熱効率(燃焼効率)に成るって紹介も見られます。ですが基本はP-V線図得られる圧力の面積を最大化する事です。
おまけでP-V線図を展開した筒内圧の変動を一緒にしてみました。何となくイメージ出来ればと。
チョット脱線しちゃいましたが気を取り直して。4ストロークエンジンって2ストロークエンジンに比べてしっかりとした吸排気のタイミングが有るイメージですが、実際には大袈裟に言うと2ストロークとそんなには変わらない、他の工程に入り込んで切れ目がぼやぼやした感じが掴めれば目的達成です。十分にイメトレしてみて下さい。
特にここ、排気弁と吸気弁が同時に空いている期間は4サイクルで表現される吸気,圧縮,膨張,排気には表現されていない、存在しない事にされてしまっている「掃気工程」となっています。
ざっくりでピストンの上下運動で出来る容積(排気量)を500ccとして、燃焼室の容積を50ccとすると計550ccの容積が有りますが、ピストンの上下で吸排気出来る容積は500ccなので、全部の排気ガスを排出する事が出来ません。なので上死点でのピストンがほぼ動きが止まり燃焼室に排気ガスが残った状態の時に、エキパイを勢い良く流れていた排気ガスに急ブレーキが掛かり慣性力で発生するエキゾーストポート付近の「負圧」で燃焼室内の排気ガスを吸い出す「掃気工程」が高出力を目指す4ストエンジンに必要で存在しています。
550ccの容積を持つ排気量500ccのエンジンは、掃気を全く行わなければ1度に500ccの混合気を吸い込み燃焼させますが、掃気を積極的に行うエンジンであれば混合気を550cc吸い込んで燃焼させる事が可能になります。
こう言うのを普段 「燃焼効率の向上」とか言うのかな? 充填効率ですね。w
簡単に表現するとここはオーバーラップですね。エキゾーストバルブもインテークバルブも開いているけれどピストンが急減速してほぼ止まるので、エキパイ内の排気ガスに急ブレーキがかかり負圧が発生。その負圧で燃焼室が吸われる形になり開いている吸気弁から混合気が流れ込む。良く出来ていますね。
なのですが、掃気が発生するオーバーラップのクランクの「角度」は回転数によっても常に同じなので、エンジン回転の上昇と共にオーバーラップの「時間」は短くなってしまうと言う不都合に見舞われています。高回転ではエキパイの流速が好条件なのに何とも勿体無い。。なのでオーバーラップの角度は高回転に合わせて広く取りたい所です。
その逆もまた然りで、低回転ではエキパイの流速が十分に上がらず、負圧の発生が少ないときの方がオーバーラップの実時間が長くなってしまうという不都合に見舞われています。 残念ですね。
こういう事が有るので特に単気筒の排気系は2ストロークエンジンの排気チャンバーと似た様な効果が求められるようになるそうです。
SRのマフラーの設計は難しいとか言う話や、SRのノーマルマフラーに弁当箱が付く理由。ハイパワーを狙うアフターのマフラーに長くて太く容積を稼ぐ物が有ったり。
単気筒のエキパイに高圧の排気ガスが流れる時間を想像して見て下さい。3/4の時間は排気管の仕事はして無い?!マフラーの話はまた別の機会に。
ついでにエキゾーストポートに繋がれたAISですが、なんで排気圧力があるエキゾーストに大気圧の空気が入っていくのか?が理解できずに、逆に排気ガスをエアクリに導いて排気ガスを再燃焼させるなんて都市伝説が有りますが、これも掃気が出来る理屈と同じでエキパイ内の負圧を利用して排気管に酸素を含む大気を引き込んでいます。逆流はリード弁で防ぐ感じ。リッチな燃調で燃焼させた酸素不足の未燃ガスに酸素を混ぜて触媒で酸化させる(燃やす)事を目的にしています。でも掃気をするために使いたい負圧をAISに取られるとはフィーリングを優先したいサーキット走行?では理にはかないません。キャブ車でコンピューター制御との整合とか関係が無いのであれば、、。そういう事ですね。
FiでAISを止めるのはコンピューター次第で得る物と失うもの症状で決めないとダメかな? 昔に250TRでAISを殺しましたが制御と合わずイマイチ調子が上がらなく、AISは生かしておいた方がフィーリングが良かったです。これはコンピューターの制御次第なので車種毎に違うでしょう。
因みにの因みにですが、排気ガスを吸気側に環流して燃焼室に導くのはEGRといって、AISが触媒での排気ガスの浄化(CO、HCの酸化)を目的にしてしているのに対して、EGRは燃焼室に不燃性ガスとして排気ガスを取り込む事で混合気の燃焼温度を下げて窒素酸化物(NOx)の発生を抑えたり、吸入負圧を下げてポンピングロスを減らし燃費の改善などに使われています。再燃焼させて燃焼効率を向上させるとか言う理屈は都市伝説ですね。
ふたたび脱線してしまったので気を取り直して。w
開弁のタイミングが大分わかったと思うので、次はリフト量の感じもFIXしてみます。
吸排気の重なるほんの小さい三角形の面積がオーバーラップになります。
開弁時期の数値で見たオーバーラップのタイミングは割と長いのですが、カムプロフィールでのリフト量までを加味して考えるとノーマルのカムなので低速域のトルク確保のためオーバーラップとしてはやはりそんなに大きくは取られていない事が分かります。
リフトの高さを縦軸に取りましたが、サービスマニュアル表記は7mm弱の値ですが、10.2mm程のリフトで書いています。これはロッカーアームのレバー比がリフト量に影響する為です。
リンク比と実リフト量はこちらの整備手帳で 実際に測って算出しました。実際のリフト量はサービスマニュアルの数値からは分からないんです。。
図の開弁の速さ(斜度)はサービスマニュアルからは読み取れないので適当に書いていますが、傾斜を立てて吸排気の面積を稼ぐようにすると弁の移動に強い加速度が付くのでロッカーアームなどの当たりが強くなり、摩耗や打音が厳しくなるので純正カムではあまり強い加速度は与えられていない筈です。
サービスマニュアルの数値からですが、もうココ迄でノーマルカムのほぼ全て?が把握出来ましたねW。
次に吸排気効率を向上する為に導入する「ハイカム」について考えてみましょう。
ヨシムラのHPから持ってきましたが、SR用としてはノーマルバルブスプリングが使える唯一の?ハイカムの ST-1Mです。商品説明をパット見ましたが、ク〇みたいなことしか書いてませんね。大事なのはこっち
MAX LIFT(mm) IN 11.30mm / EX 10.80mm
1mm DURATION(゜) IN 252゜/ EX 248゜
ですが、最大リフトと作用角の情報だけで他の大事な情報が欠落しています。くだらない商品説明を書く位だったらSPECをちゃんと載せて欲しいです。。
ある情報だけで図を作ってみます。
何処で開いているかの情報が無いのでとりあえず左寄せで図形化。大体IN/EXH両方とも250°位ですが、純正カムとは表記の方法が違う様です。ST-1の作用角の表記は1mmリフト時の値なので、1mmの所で250°の図にします。リフト量はINが11.3mm、EXHは10.8mmです。
中心角は情報が無いので、ノーマルに合わせて書き直すと、
こんな感じです。
リフトの高さは1マス1mmに成っているのでハイカムの方が少しリフト量が大きく成っているのが分かります。作用角は純正とハイカムであまり変わらない。。と言うのもSRのカムの作用角は現代のエンジン設計の思想から考えると、と~っても広く設計されているだそうです。その代わりバルブを開閉するスピードはあまり早くないと思われます。ビックボア2バルブの大きく重いバルブをあまり早く動かすことが出来なかったとか理由があったのでしょう。AAAさんのSRの開発陣との対談記事の中でも触れられていました。SRのエンジンが排気音がデカくて吸気音もデカい理由はこの辺からかな?
リンクはこちら
作用角としては4°〜8°の小さな変化ですが、オーバーラップの面積だけ見れば2割から3割は面積が大きくなったかな?さらにバルブタイミングをずらしたりすると大きく変わるかもしれないですね。
少しの数値の差ですが性能に与る影響は大きいのではないでしょうか?
ヨシムラのST-1はノーマルバルブスプリングが使えるとの事なので、ノーマルカムの勾配と合わせたイラストにしました。傾斜を強くしてバルブが開くスピードが速くなると、カム山の頂上に達した時に勢い良く開くバルブが自らの重量による慣性で止まれずにカム山からジャンプしてしまう現象が発生してしまいます。そうなるとピストンとバルブが衝突してしまうのでそれを防止する為に強化スプリングが必要になります。
この辺りはこちらのサイトがとても参考になります。
見えないバルブの見えない配慮
リンクの内容を一通り読むと、ヨシムラST-1のEXHカムは控え目にリフト量を増やして、比較してインテークは大きくリフト量を増やしている理由の台所事情が分かって面白いと思います。(EXHはピストンに当たるリスクが格段に高いんですね。)
次は純正のハイカムと言われる、'78-87年の車両に付いているカムのプロフィールを、ST-1と比較してみたいと思います。
実は上で比較していたノーマルカムは、’88-Final用のカムでした。それでも作用角はそれなりに大きい感じでしたが、'78-87のカムは純正ハイカムと言われるだけあってさらに作用角・リフトとも大きくなっています。(上の対談での作用角の話は純正ハイカムの話ですね)
'78-87カムの作用角の情報は88年のサービスマニュアル追補版にしか載っていないので調べるのに骨が折れました。
それを基に先程の整備手帳で推測した値を元に図を重ねてみると、、、
純正ハイカムとST-1で殆ど変わらなくなってしまいました。。。
流石純正ハイカムと呼ばれるだけはありますね。
何処ぞのショップさんのブログや、何処かのレビューでも純正ハイカムとST-1は同じ、とかフィーリングが似ている様なことが書いてありましたが、数値から見ると納得です。
純正ハイカムとソレに合わせなければならないメッキタイプのロッカーアーム。
カムは数年前は3万円台だったそうですが、今は価が落ち着いている様です。(チャンス!)
エンジンのオーバーホールのついでに如何ですか??
純正ハイカムの方が1mm以下のプロフィールがレーシングと言うよりかは安心品質の純正の作りで、ランプが多くとられていたりバルブの押し出しの加速度が適度だったりで、音が出難かったりロッカーアームに負担が掛からなかったり、ノーマルの安心とハイカムのhybridな印象です。
私の次のエンジンには、コレ使う様になるかな?
ハイパワー指向の方はトレッセルなどのカムを選択してリセスを深く掘る方向が良さそうですね。リフトや作用角が増えるとピストンとバルブが接触してしまうので交換しないとならないパーツの範囲が増えてしまいます。ロッカーアームの接触面の負荷とかも大変なんだろうな。
ここからはST-1の 商品説明での「次なるステージへのステップアップを目指す」を妄想ですが追ってみたいと思います。ST-1は開閉速度を早くするなどしつつ、頂点付近だけノーマルのバルブ速度に合わせるように傾斜を緩くするなどプロフィールを工夫して居るんじゃないか??と思います。
こんな感じで数値での表現以上に開弁面積を稼いでいるのでは? と思います。作用角やリフト量以外にも開弁スピードを上げることで開弁面積は増やす事が出来ますからね。この様な形状のカムを「肩の張ったカム」と呼ぶそうです。
少ない情報からの予測したカムの動きですが、どちらにしてもST-1は街乗りを意識した大人しいハイカム?
と言うのか純正ハイカムが余程なのか?
ですね。
これだとココで終わってしまうので、次にもっと普通イメージするようなハイカムっぽいオーバーラップを大きく取った図を作ってみます。作用角は290°にしてリフトは適当に大きくします。
ここまで来るとオーバーラップの面積が大きくなって掃気が有効に働きそうです。
排気工程は早くに有効になってパワーアップして増加した排気ガスの排出もスムーズに行われます。
遅くまで開いている吸気バルブは混合気が勢い良く入って来た慣性力で下死点通過後も慣性吸気の効果を積極的に受け入れます。
リフト量を増やした効果で面積にも大分変化が見て取れます。
これでかなりの高出力を手に入れる準備が整った事になりますが一点問題が発生しています。高回転で慣性吸気や掃気が強く働く時はすべてが上手く行くのですが、その力が弱まる低回転では事が上手く働かなくなってしまいます。特に吸気バルブの閉まるのが遅れているのは圧縮圧力の低下につながり、それは燃焼速度の低下となって悪循環が生まれてしまいます。
なのでハイカムを入れた際は、圧縮比を上げる部品選択をして実際の圧縮圧力が低下しない様に補う手法をとります。低速域のトルク低下は排気量で補います。逆説的な言い方をするとボアアップなどで圧縮比が上がってしまう場合は過激なハイカムを組む準備が出来ていると言う事が出来ます。
と、この辺はNAエンジンチューニングのセオリーとなっています。
理屈的にはこんな感じなのですが、実際にハイチューンしている方々は余りオーバーラップを意識しないそうです(DOHCの場合)。それよりも作用角とリフトのスペックを一番に選び、中心角を意識してセッティングを行い、結果的にオーバーラップが決まる感じの様です。でもそこ迄いくと低回転のトルクがぁ、とかの話のレベルでは無くなって、アイドリングは何回転で出来るか?みたいな話になる様です。
ちなみに可変吸気タイミング機構と言うのは4輪では当たり前で2輪でも最近取り入れられてきていますが、このカム山の図の位置を右に左にとエンジンの運転状況に合わせて自由に可変する事が出来るようにする物です。DOHCに成ればIN・EXHを独立して制御することが可能になります。
可変バルブで有名なV-TECなどはリフトの高さまでをコントロールできる様にした構造になっています。何故メーカーはこんな複雑でコストが掛かる可変タイミングや可変リフトを取り入れるか?。エンジンの外で可変マフラーや可変吸気では無いのか?
言わずもがな、エンジンの性能を変化させるにはカムでの開弁タイミングの寄与が大きいという事ですね。
高回転でパワーが欲し場合はカムの交換と言うのが本質的だと言えると思います。
抜け抜けマフラーでの高回転パワー狙いは失うモノが大きく得るモノが小さい。カムを替えなければ性能の変化は小さい。
結論としては、
「STAP細胞は 掃気工程は ありまぁ~す!。」
4ストローク、5サイクルを意識するとエンヂンは更に面白くなる!
前回のブログでコメントくれた方、返事がタイミング逃して出来ませんでした。ごめんなさい。またよろしくお願いします。
今回も最後までお付き合いありがとうございました。
つづく。