
BMWの車検で30万円も整備費がかかることはダメ押しになったに過ぎず、いつもの「車欲しい病」が発症していたのが、BMW E36を手放したそもそものきっかけです。
で、その「車欲しい病」が発症したのは、いつかは乗ってみたいと思っていたハイドロのエグザンティアが無くなるという情報を耳にしかからでした。
車を乗り換えるたびにハイドロが気になっていたのですが、今回は真剣に事を進め、乗り物にちょっと弱かった娘を連れて高速も試乗させてもらって酔わないことも確認し、最終モデルのエグザンティアを仮予約までしました。
さあ、いよいよハイドロ生活間近か、という矢先、悪い病気のせいなんでしょう、日本に輸入が始まって以来ずっと気になっていたRover75も見ておきたいという気になったのです。
インポートカーオブザイヤーにも選ばれ、徳大寺有恒氏も乗られていたこのRover75。
貧乏サラリーマンにはちょっと手が出ない価格帯でしたので諦めていたのですが、なんということでしょう、100万円も値引くというのです。
なんでも、千葉のPDIセンターに置いていた時、雹が降ってルーフやボンネットに傷が付き、補修したからだというのです。
ただネットでいろいろ探ったところ、本当に被害に遭った車体は保証書にその旨の記載がされているらしく、私のクルマにはそんな記載が見当たりませんでした。
多分おそらく、BMWがMINIだけ残してローバー社を手放した煽りで輸入がストップしたので、困ったBMWジャパンが在庫処分の理由にしたのではと思います。
そんな経緯で急転直下オーナーとなったRover75ですが、惚れ惚れするような美しいウォールナットとパイピングも入ったレザーの内装は、これぞ英国車!という設え。
ウッドとレザーとのコンビのステアリングをオプション装着した車内は、いやもう乗る度に惚れ惚れするような佇まいで大満足。
さてこの車、BMWがローバー社を買収して急ぎ設計開発したため、照明スイッチ・ATモードスイッチ・エアコンなどにE36の部品が多々流用されているとともに、アルミ鍛造の足回りなど、随所にBMWの設計思想が垣間見えました。
一説には、もともとBMWは4シリーズとして登場させるFFセダンを開発中で、その技術をそっくり反映したと言われています。
購入して早速、Rover75を所有している英国マニアの方のウェブサイトに登録し、大阪でのオフ会を何度も開催しました。
その当時、CG誌でも長期テストをしていましたので、Niftyサーブの時代から存じ上げていたCG誌の記者の方に連絡し、東京でのオフ会の様子をCG誌で紹介してもらいました。
さて、まず初めにこの車に乗って感じたことは、速度感の違いです。
高速道路を走行し、速度計が100km/hを示しているのですが、どう考えても80km/h位の速度にしか感じません。
どうしてもE36と20km/h位の速度差を感じたので、速度計がおかしいのではないかと疑ったほどです。
この速度差を感じた理由は、騒音と路面からのショックにあると思います。
遮音材が贅沢に奢られたRover75は、高速域でも明確に騒音が少なく、これは長時間のドライブでは凄く影響するはず。
一方、路面からのショックについては、これはもう明らかに英国車の乗り心地を示しました。
E36では、路面の段差に乗り上げて車体が上方向へ突き上げられた後、一瞬の間も置かずにすぐさま強烈に下へ引き戻されます。
一方のRover75では、上方向へ持ち上げられた後に、一呼吸おいてから緩やかに車体が下がる。
いわゆる、路面の不整を上手に「いなす」という乗り心地です。
昔の大型ジャガーの猫足(故三本和彦氏の造語ですね)ほどではありませんが、まさにこれが英国車という乗り心地。
当時のCG誌に掲載された、Rover75やE36を含めた中型セダンのジャイアントテストをよく覚えています。
総合評価のトップはもちろんE36でしたが、硬派なCG編集者達をもってしても、乗り心地に関してはRover75を推す声が多数でした。
実際、この遮音性の良さと路面の不整の「いなし」によって、長距離を走っても疲れが少ない車でした。
おまけに大型FFセダンらしく直進性が素晴らしく、新潟の赤倉スキー場から大阪まで5時間足らずで走ってきても、ほとんど疲労を感じなかったのをよく覚えています。
内装だけでなく外装のデザインも素晴らしく、所有する喜びに満ち溢れた車でしたが、グニャッとした感触のステアリングだけは、BMWに慣れた者にとって、大いなる不満でした。
さて、RWDのすっきりしたステアリングが懐かしい、という想いを密かに抱いていた頃、仕事で広島のマツダ本社へ行く機会がありました。
行った事がある方はご存知だと思いますが、本社のロビーがショールームになっており、数台の車が展示してあります。
その時、RX-8がセンセーショナルに登場して未だ1年経っていない頃でしたが、強い興味を抱きつつも、4人家族の我が家にとって、4人がちゃんと座れることが前提条件でした。
そこで早速展示車の運転席に乗り込み、180cmある自分の身長にシートを合わせた後、後席に移りました。
すると、なんということでしょう。膝も頭も、全くどこも当たらずにちゃんと座れるではありませんか!
この瞬間、そう、この瞬間、私の心に火がポッと灯ったのでした。
ただしかし、本当にこんなスポーティーな車に乗れるのかが心配でしたので、帰阪後に仕事をサボってRX-8のレンタカーを借り出し、いつもの熊野本宮まで400kmほど走ってみることにしました。
レンタカーはATでしたが、いやもうそれはそれは楽しくて、ワィンディングロードを意のままに駆け抜ける喜びを満喫。
レンタカーを返却した後、Rover75に乗った瞬間、なんとつまらないクルマなんだろうと感じたことを今でもよく覚えています。
ディーラーで新車を買っても良かったのですが、その頃知ったオークション代行で格安に入手することにチャレンジしてみました。
HAA神戸のオークションにおいて、1年落ち、走行9千km、評価5AAを、落札価格180万円(消費税抜き)で落札しましたで、ほとんど新車と変わらない個体を、新車価格の約2/3で入手できたことになります。ちなみに、2年半乗って手放したのですが、人気車ゆえ150万円も値が付いて、ビックリでした。
シビックCX以来のMT、おまけに低速トルクが細いロータリーですから、最初の頃はエンストしたり吹かし過ぎたりしましたが、半年くらい後には全く無意識にシフト操作ができるようになりました。
BMWと同じように、アルミ鍛造性のサスペンションを奢られた足回りはスポーツカーそのもので、コーナーをみずすましのように駆け抜け、外側の後輪が自分のお尻の真下にあるような感触を味わいました。
ああいう構造ですから、車体はちょっと緩い感じはしましたが、練りに練ったパッケージングは見事で、4人乗っての小旅行は全く問題なし。
走行性能だけでなく、円形をモチーフにした内装も凝っており、Boseサウンドシステムの音を聞きながら、ゆったり流すのも快適でした。
ブログ「カッ飛びのプロボックス」で紹介した腰痛事件にもかかわらず、大変気に入って乗っていましたが、ある日「マイカーは金食い虫」という内容の週刊ダイヤモンドの記事を読んだのです。
そんなことは先刻承知だったのですが、ちょうど子供二人が大学生でお金が掛かり、将来の不安も抱いていた頃なので、何を思ったのか突如、マイカーを手放す決意をしたのでした。
いずれにしても、国産車はつまらないなんてとんでもない。
RX-8は、運転の楽しさにかけては最高の車でした。