C3の乗り心地をレビューするために、まずC5との違いを確認しようと思い、久しぶりに
当時のブログを読み返してみました。
大洋を突き進むクルーザー、空飛ぶ魔法の絨毯など、なんとかしてあの素晴らしい乗り心地を表現しようと試みているのですが、4度目の正直で念願のハイドロに乗ることができた喜びに満ち溢れていました。
さて一方、C3はと言えば、立体駐車場から車を出す時など、車がほんのちょっと動いた時、C5ほどではないもののゆらっと揺れるのは、意志のある動物、まるで馬にでも乗っているような感じがします。さすがシトロエン一族。もっとも、未だかつて馬に乗ったことはないのですが。
そして走り出すと、ハーシュネスは少ないものの、路面のギャップにドタバタしながらゆらゆらと揺れながら走ります。
このゆらゆらは、おそらくばね定数の小さなコイルスプリングに、微小域の抵抗がとても小さくて極めてスムーズに伸び縮みするショックアブソーバーによるものだと思いますが、例えるとまるでゴム毬の上に乗っているような感触がします。
ただ、デザイン優先だと思われる205/55R16のタイアは明らかに太すぎで、もっと細ければドタバタがかなり解消されると思いますし、小型のフランス車には細いタイヤがふさわしいはず。
そして速度が上がって60km/h以上になると、路面のざらつきや継ぎ目のちょっとした段差など、小さな凹凸のショックをほとんど伝えずに走り過ぎるようになります。
車体のゆらゆらは収まり、まるで空を飛んでいるかのような独特の浮遊感を伴いながら、ビシッと直進します。
しっかりとした手応えに変わるステアリングも相まって、高速ツアラーに豹変するところが、制限速度130km/hのオートルートをぶっ飛ばして長距離バカンスに出かけるフランス車らしいですね。
この高速安定性に関しては、信頼する沢村慎太朗氏が著書「午前零時の自動車評論17」で高く評価されていますので、下記引用します。
「1.2L直3とはいえ、EPSの設定は高速クルーザー風なのである。畏れ入ったのは、その領域での空力的安定性もきっちり担保されていることである。両脇に著しい乱流を従えて走る大型トラックの脇を抜けるときでも、C3はその乱流で瞬間的に押される感じはあるのだが、にもかかわらず進路はみだされない。スタイリングを遊び倒しているようでいて、そこはきちんとしているのだ。」
「高速クルーズでは100〜130km/hで、このパワートレインは最も違和感なく元気に働くようだ。フランスでは高速道路の速度制限は概ね130km/h。そこに合わせた制御の仕立てなのだと思う。」
「軽快に回る機動が得意だと思われがちなフランスの小型車だけれど、C3は予想以上にロングツーリング向きの安定型スニーカーであった。」
さらに、信頼する福野礼一郎氏も、著書「福野礼一郎のクルマ論評3」でC3の乗り心地を絶賛されていますので、下記引用します。
「目黒区・碑文谷の裏通りの路面で滑るような乗り味。
減衰力の設定そのものは軽くない車重に対してソフト目で、よく観察すると入力のあとに余韻が残ってボディが何度かゆっくり上下に揺れている。
しかしダンパーのフリクションが非常に小さいようで、中速ピストンスピードでダンピングの立ち遅れが少ない。」
「高速でも乗り味の印象は抜群だった。
ステアリングはしっとりと重くなり、車線変更したときのロール角度とロール速度がほどよく抑えてあるので直進感、安定感ともたいへんよい。
ランプのカーブで少しGをかけると前後並行ロール気味。ロール角度自体は深くなく、強めのアンダーが出ても大舵角でステアリングがよく効き、駆動力の増減に対して車両の姿勢や方向性の変化がとてもおだやかでコントローラブルだ。」
いやもう、ほぼ絶賛に近い評価です。
そしてさらに引用しますと、
「この反応・感触ということは、ダンパーだけでなくボディのレベルも高い。
天井の内張のど真ん中にロールゲージのような厚い構造材を収めた出っ張りがあるのだが、いかにもこのロールバーがボディにしっかりとした「箍(たが)」をはめている感じがする。」
下の写真がそのロールゲージなのですが、ちょうどBピラーの上に位置します。
そしてこのBピラーですが、根元がぐっと前に迫り出して太くなっています。
車体強度を高めるために、欧州車によくある設計ですね。
つまり、ロールゲージと太いBピラーで、ボディーに箍を嵌めています。
さらに、このサイドシルですが、乗降時に足を引っ掛けてしまうくらい高くて太いのですが、これも高い車体強度に貢献しているはずです。
さて、小さな凹凸のショックをほとんど伝えずに走り過ぎるC3は、さすがに大きめの段差では車体が上下に揺すられます。
しかし、何度かゆっくりと上下するものの、ピッチングはほぼ無くて車体は水平方向に保たれます。
再び福野礼一郎氏のクルマ論評3から引用しますと、
「ボディの剛性感とフロアの剛性が高いことに加え、ゆったりとしたストロークの振動は前後同相で、ピッチング方向にはほとんど揺れない。上下動しても左右動がほとんど出ないから不快感ゼロである。
速めの転舵をしてもらってもロール速度の抑制がよく効いている。
これなら誰が後席に乗っても酔わないだろう。」
この記事を読んで、ピッチングが車酔いを誘うことに気がつきました。
昔々、90年代に米国へよく出張に行ってたのですが、そこで何度か乗せられたキャデラックフリートウッドは、ピッチングがひどくて直ぐに酔ったことを覚えています。
そしてさらに、ストレッチリムジンにも一度乗せられたことがあるのですが、フロアがワナワナと揺れて不安定ですし、運転席との隔壁のせいで前方がよく見えず、もっと酔いました。
一方、空港とホテルの往来にはリンカーンコンチネンタルのリムジンをいつも利用していましたが、こちらはピッチングが少なくて革のシートもパーンと張って気持ちよく、酔ったためしがありません。
さらに福野礼一郎のクルマ論評3を引用しますと、
「横浜新線の長いトンネルの中では「夢の乗り心地」を体験させてもらった。
ほぼパーフェクトなスカイフック感、巡航中の航空機みたいだ、素晴らしい。」
そしてこれはポロの試乗記の項での記述ですが、
「さっきまで乗っていたシトロエンC3のあの息の長い強力な加速、爽やかな乗り心地と素直な走り味が恋しい。」
いやもう、あの辛口の福野礼一郎氏がここまでC3を褒められるとは、驚きの一言です。
さて、それだけ柔らかい足回りなので、コーナーでは腰砕けすると思いきや、一定量ロールした後にしっかりと粘り、アンダーにはなりません。
いわゆる、柔らかいけど腰があるコーナリングです。
さらに、ステアリングの剛性がとても高いので、ハンドルさえ握っておれば大丈夫という安心感も強い。
背もたれのサイドサポートに肩をグッと預け、路面の感触がよく伝わってくるガッシリとしたハンドルを左右に繰って駆け抜ける山坂道は、意外や意外、とても楽しいのです。
こんな素晴らしい乗り心地を実現している足回りはどうなっているのかと覗いてみると、
フロントのサスペンションにも、BMW一族などでよく使われている高価なアルミ鍛造の部材など無く、安っぽいスチールの部材ばかり。
おまけにアンダーカバーもありませんし、見るからに大衆車然とした下回りです。
リアはこんなシンプルなトレーリングアーム式ですが、凝ったIRS(Independent Rear Suspension)よりも良くチューニングされたリジッドアクスルの方が出来が良いと言いますが、まさにその典型例です。
C5のハンドリングはまさにニュートラルステアで、
沢村慎太朗氏の評価をブログで紹介したことがありますが、C5ほどではないものの、乗り心地だけでないハンドリングの楽しさもシトロエン一族の証ではないでしょうか。
最後に、シートについて。
マイナーチェンジ後の各種試乗記はスポンジを厚くしたアドバンストコンフォートシートの車両ばかりですが、スタンダードのシートでも十分に柔らかくて素晴らしい乗り心地に大いに貢献しています。
ただ、個人的にはランバーサポートが不足している感じがしており、猫背になってしまいます。
それと、できれば座面の角度調整も欲しいところです。
いずれにしても、ハイドロ沼に負けず劣らず、このC3も底無しのシトロエン沼です。
車を駐車場に停めて家に帰っても、すぐにまた味わいたくなる、そんな車です。