
待ちに待った土曜日。
いよいよ本格的にシトロエンC5を味わうことが出来る日。
とるものもとりあえず、朝からロングドライブに出かけた。
日頃の行いが良いせいか、雨は明け方には止んだ。
行き先は、いつも往く熊野の“わたらせ温泉”。
<雨がりの霧が立ち込めるSAにて>
最近、車を購入する時、RX-8も320iもそうだったが、事前にレンタカーを借りて車を評価しに行く場所がこの“わたらせ温泉”、言わば標準評価ルートという訳だ。
大阪市内から往復400km。高速が半分で、一般道が半分。日帰りドライブには適度な距離だ。
紀州山地の一般道はすっかり改修され、全く神経を使うことなく走ることが出来る。
改修され過ぎて高速コーナーばかりになってしまった感があるが、一部には適度な“山坂道”が残っており、交通量も少ないので、車の総合評価にはうってつけ。
土曜日の朝とあって、仕事の車で混み合う近畿道から阪和道へ進み、次第に道路が空いてくる頃には金剛山系の登り坂にさしかかる。
まだ走行距離が200km足らずなので不要なキックダウンをしないように慎重にガスペダルを操作する。
100km/hは2,100rpmくらいだが、流石に低速トルクが豊富なターボエンジン。
全くアタリも付いていない状態だが、それでも悠々と6速で上り坂を登ってゆく。
エンジンの出力は充分だが、排気音だろうか、ボーボーと結構うるさい。
慣らし中なので3,000rpm以上のエンジン音を味わうことはできないが、すくなくとも2,000rpm近辺のサウンドはいただけない。
この点は、C5の数少ない欠点の一つだろう。
また、カーナビ付近からだろうか、しょっちゅう、ジーとかジッジーッといった音が聞こえ、いったい何の音だろうか。
さて、70~80km/h付近ではチョロチョロするように感じたステアリングは、90km/hを超える頃にはドッシリとして手ごたえも増す。
取扱説明書によると、110km/hを超えると車高が自動的に下がり、90km/hを切ると車高が標準に戻るとのこと。
50~60km/hではゆったりとピッチングをしながら路面の凹凸をいなし、“どんぶらこっこ”そのものの乗り心地だが、高速になるほどフラット感が増し、ステアリング共々ドッシリしたものになっていく。
しかし、路面の当たりはとてつもなく柔らかく、まるでビロードの上に載っているような感触。
今まで35年以上もさまざまな車を運転してきたが、こんな乗り心地は初めてで、まさに“空飛ぶ魔法の絨毯”だ。
履いているタイヤはミシュランのプレマシーHPというコンフォートタイヤで、サイズは225/55R17と大きい。E90はもちろんF30よりも大きくて重いのに、こんな乗り心地を実現させるのは、まさにハイドロの面目躍如だろう。
ところで、自慢するわけではないが私は足が長い為、ペダルに合わせるとたいていの車はステアリングが遠くなり、少なくとも小型車では無理な運転姿勢になってしまう。
C5でもちょっとステアリングが遠くなるが、インパネの奥行きが長い、つまりAピラーの付け根がシートよりずいぶん前にあるため、目前の空間が凄く広くなり、実際よりも大きな車に乗っている気がする。
ウインドウガラスの傾斜も強くて面積が大きく、上下に小さいF30のウインドウと好対照だ。
シートポジションはやや中央よりでドアから離れているため、右ひじをかけることが出来ない。
それでもステアリングが中央に寄っているため、何気なくシートに座ると、体がシートの中心よりやや左寄りになり、バックレストの左のサイドサポート部が脇に当たり、右には少し空白が出来る。
操作がややこしかったオーディオの取説をよく読み、イコライザーの設定を、Low+5、Mid+2、High+6に調整すると、泉水ちゃんの透き通った艶やかな歌声がクリアーに響きだした。
さらに、ツイッターがAピラーの根元にあるため、音場が耳の高さに近く、スピーカーを交換してもサウンドがプアーだったE90より、遥かに豊かな音楽を味わうことが出来る。
これで、ボーボーという排気音がもっと静かだったら言うことないのだが。。。
さて、阪和道を有田ICで降り、国道424号を一路南下し、山深い紀州山地へ分け入ってゆく。
以前はこのあたり、未改修の1車線道路が残っていたが、すっかり改修されて素晴らしい道路に変身した。おまけに、信号にも滅多に出合わない。
ダム湖沿いの道も直線と緩いコーナーが連続し、車内は静かだし振動も少ないので、気をつけないと速度が出過ぎてしまう。危ない危ない。
ステアリングのレシオは速く、特に直進からの切り初めがシャープで、スパッとコーナーへ入っていけるが、サスペンションがノーマルモードではヨーの立ち上がりがワンテンポ遅れるため、特にS字の切り替えしがあるようなコーナーでは揺り戻しを食らい、全くいただけない。
そこで早速スポーツモードにしてみると、320iより若干柔らかめ位にまで締まって来、コーナーもグッと安定する。このスポーツモードの感想はまとめて後述する。
さて、龍神村を越え、熊野古道の中辺路へ至ると人家も増え、ペースが遅くなるが、集落を抜けると適度なアップダウンとコーナーが連続し、交通量が少なければ充分に楽しめる道だ。

<キリ番ゲット!>
やがて緩い下り坂に差し掛かると、6速ではどんどん速度が出てしまった。
そこで、マニュアルモードにして5速に落とすが、全くエンジンブレーキがかからない。
やむなく4速に落とすが、なんじゃこりゃあ! これでもエンジンブレーキは極めて緩い。
320iでは4速と5速でブレーキを踏まずに速度調整しながら走れたのに、C5では結構ブレーキを踏むことになる。
昼食は最近よく行く道の駅、“奥熊野古道ほんぐう”だ。
ポスト&ビームのログハウスは木の香りも香しく、お気に入りの古道弁当を頂く。
揚げたての天麩羅や古代米を味わいながら、感想を思い出しながらドライビングインプレッションをしたためる。
昼食後は、“わたらせ温泉”。
ここもシーズンオフでガラガラ。
ほとんど貸切状態で、いつものように、一番奥の露天風呂、低温の湯5番に浸かる。
ここのぬる湯は、いつまで浸かっていても飽きることはない。
北海道から九州まで、沢山の温泉に行ったが、この5番の湯は大のお気に入りの一つだ。
往きは雨上がりの泥跳ねで車体は酷い有様になったが、帰り道はようやく路面も乾いてきた。
朝からの走行距離も200kmを越えてくると、いわゆるドライビングハイと言うのだろうか、気分が高揚して来て、車との一体感がグッと増してくる。
緩い上りの中速コーナーが続く、いつもハンドリングを試してみる地点で、サスペンションをスポーツモードに切り替え、ペースを速めてみる。
交通量も減ってきて、前後に車は居ない。

<真ん中のショックアブソーバのアイコンがそのスイッチ。それにしても、今どきジグザグのゲートとは>
足回りは明確に締まって硬くなり、ピッチングもロールもほとんど感じなくなる。
しかし、路面の当たりはあくまでも柔らかい。320iよりは明らかに路面の当たりは柔らかい。
つまり、柔らかい当たりのまま、車体がほとんど傾くことなく横Gを感じるという、今までにちょっと経験したことがない、不思議な感覚だ。
スキール音がする程度のペースで走ってみるが、アンダーが出ることもなく、タックインがあるわけでもなく、全くFWDを感じさせない。
ステアリングのフィール自体もさらっとしたドライな感触で、操舵系の取り付け部の剛性感も車体自体の剛性感も充分。
BMWほどの路面情報溢れるフィーリングではないが、RX-8の感触を思い出した。
RX-8やBMWのような良く出来たRWDの、リアがぐっと沈み込んだ姿勢で、コーナーをオンザレール感覚でクリアーすることは叶わないが、サスペンションをスポーツモードにしている限り、安心してコーナーに飛び込んでいける。
RX-8はコーナリングをとびきり楽しめる車で、私のヘボい腕でもドリフトしかける位まで安心して走らせることが出来たが、320iはそれに較べて20%程遅いペースが限界で、C5はさらに10%位遅いペースが限界だと思う。
いかにも分厚い、リビングのソファーのようなシートはBMWのダコタレザーよりやや柔らかい程度で、お尻の部分も背中の下の部分もジンワリと包み込んでくれる。
面圧設計も良いのだろう、腰痛持ちだが、400km以上走っても全く違和感を感じなかった。
サイドサポートも大きくて横Gをしっかりと支えてくれ、コーナリング時も安定している。
帰り道、つい最近改修されてトンネルと緩い下りカーブの道が出来たところに、黄色と黒色の段差による振動で、速度を落とさせる為の舗装がされている部分がある。
スポーツモードでは明らかにドンドンと強い振動を感じるのだが、ノーマルモードに切り替えると音はするもののほとんど振動がなく、改めてハイドラクティブⅢプラスの凄さを認識した。
結局、高速道路と市街地、それと遅いペースのさほどコーナーがきつくない地方道はノーマルモード、いわゆる“山坂道”はスポーツモードが最適で、それぞれ非常に高い次元でサスペンションの性能を発揮する。
一度このハイドロを味わうと二度と抜け出せることが出来なくなるという、“ハイドロ沼”が有名だが、案の定、すっかりはまってしまったようだ。
ちなみに、総合燃費は13.6km/lとなり、5年ちょっと前の320iの慣らし運転で同じルートをたどった時の燃費と、全く同じになった。
(つづく)