電動パワートレインの自動車は、現在フルEVとこの日産の「e-POWER」シリーズHVということになります。
厳密には、エンジン駆動クラッチを持つPHEVのアウトランダーやe-HEVと名を変えたホンダのシステムも電動パワートレイン車なのですが、この場では駆動パワーを電気だけで賄い、かつ内燃機関が直接駆動する構成を持たない車にさせていただきます。
そういうくくりで話したいのにもわけがあり、合成ハイブリッドは所詮キメラのような異種混合複合機構であります。私も性質の異なる動力源というか、そういうものを複合させた機械を設計をしたことがあるけれども、お互いの気をつけねばならない弱点というか、例えば、振動、熱影響、ダスト、緊急安全装置などが、ことごとく性質が異なるため、それぞれを共存させるためにはそれなりの手当てが重要になります。けれどもそれは、本来片方ならば容易に、また精緻に対応できるものが、複合するがゆえにお互いが60点や80点同士で甘受せねばならず挙句、コストは無駄に跳ね上がる。
e-POWERのパワーラインは、本来の車両運動性能優先のパッケージの場合は、分散配置になるのだろうけど、生産性や軽量化の面ではモータやインバータ、コントローラを一体化してパワーユニット化している。これはフルEVのリ―フからのおすそ分けのところがあるけれど、おかげで買えるコストにもなっている。
e-POWERは果たして未来なのか、過去なのか、不思議なハイブリッドである。最新技術の電気駆動と制御装置に対して、蒸気機関車のような、エネルギー源となる部分は旧来の内燃機関によるモータ(発電機)駆動により「電力化」してそれを駆動する必要がある。
燃料を一度電気に変換させる構造を一体化したため、エンジンと発電モータと駆動モータが一体化した上に、インバータやコンバータなどパワー半導体装置もワンユニットとして搭載している。そこにはいろいろな工夫が見えて興味深いが、その工夫はすべて純粋に、「電気駆動車」としての成立要件に対するものに他なりません。電磁ノイズ、大電流の取り回し、冷却、振動、FFとしての重量バランス、そう言ったリーフで完成出来た電気駆動技術とはまた別の、内燃機関搭載部分との関係で苦労した部分が垣間見えます。
その構成はさておき、走りの性能における潜在能力は、現状ではEVより上だと思っています(今の実用化されている電池の範疇ではね)。
シリーズハイブリッドは、ご存じの方も多いと思うけれども、古い技術です。ポルシェ博士のエレファント戦車は有名だし、鉱山機械のダンプやパワーショベルはそういった構成でした。ただ、性能的にはメカ駆動に勝るはずだった机上検討はことごとく目論見に達せず、のろまな重い、低効率機械に甘んじて来た歴史があります。
その理由は、発電量の過渡応答を補う「バッテリー」の存在と、モータの冷却に問題があったと思います。近年の強力な磁石(レアアースがレアとなった所以:大量にニーズが沸いた)の発達があります。また制御機器の高電圧化、油冷などの機構の発達もあって、モータ側は相当な小型高出力が可能になっています。そして一番の玉手箱が、バッファとなるリチウムイオン電池です。
なかなかネット上で数値データが明らかになってこないのですが、リーフの場合はフルパワーの電力、定格なら80Kw程度なんでしょうが最大で120~130kw程度を全部バッテリーから供給受けて走る設計のはず。一方e-POWERのニスモ-Sの場合は、情報をつなぎ合わすと、エンジンパワーがMAXで61kwなので、発電パワーの効率を0.9として55Kw、これに1.5kwのリチウム電池が、実用上0.1kwから1.4kwの間で消費できるとして、中の人の話では、全開すると1分で使い果たす(恐らく、発電は連続OKですが、電池からは1.4kw*60min=84kwなので約80kwぐらいをもらうハズ)そうですから、合計55kw+80kw=135kw相当をモータに供給する走りが可能な設計だと推察。
つまりトルク上は排気量約3000cc相当の動力性能を発揮できる狙いの上で、エンジンは1200ccの発電機ですから、ダウンサイジングターボに置き換えると、1200ccで3000cc相当のパワーを出す感じですかね(実際にはパワーは136馬力なので、せいぜい1600ccってとこですが)。そこで燃費競争とすると、エンジンがいくら1200cc相当のフリクションと熱効率で頑張っても、e-powerの場合は現実運用上では走行全体の約25%程度しか、エンジンを掛けません。しかも必要な電力は、時間の合間を見て都合の良いときに、2000回転~2400回転あたりの効率よいところで発電してれば良いわけですから。
ただ、システムとしては冗長、複雑にはなります。しかしTHS(プリウス)ほどではない。
このバッファーとなる電池の性能が、実はe-POWERの秘密だと思います。こちらだけパナソニック製らしい電池ですが、リーフなどの充電サイクルが長い、放電回数の少ない特性ではなく、ほぼ、駄々洩れ的な、加速時や高速では充電分の大半をスルーさせながら使う電池は全く特性が違うチューンがされているそうで、故に寿命が気になるのですが、これは過去に聞いた営業さんも、リーフより新しく「まだデータが無い」状態だそうで、メーカの試験では100万回充電で80-90%にダウンするが、そこでサチって後はほとんど下がらない、、、と言うところらしい。 実際にはリーフと違ってユーザ側自体がそれを体感することは難しい。先ほどの全開が60秒走れたものが、悪くても48秒に減るだけで、実際には発電と放電の両方で使い果たすケースはまずないだろう。従って発電機が回る比率がホンのちょっと増えたところで、全く気が付くことは無いと思われます。
これに対して、新しいホンダのFITは設計思想が後出しな分、色々作戦練って開発されているように思います。今回、試乗を待たずにノ-トに決めてしまえたのには、若干考えがあって、一番はDS3の修理が迫っているかも、、、という時間軸で納車までの期間が待てなかろう、と言うのが一番ですが、走りの面でアドバンテージとする高速でのエンジン直結が、私の場合はあまりプラスにカウントしない使い方であり、コスト、品質、両面で熟成が必要な構成だな、と言うこともあります。
そしておそらくコストバランス上の判断でしょうが、ノート1.5kwに対して私の知る数値からの逆算では0.86kw程度の電池しか搭載していない感じで、ノート程の回生ブレーキが有効に使えないこと。エンジンが回る頻度はノートとの単純計算では倍ほどになるのでは?と。故に発電音に気を使って遮音してるし、エンジンが1.5Lでトルク型(より低回転に燃費の目玉を持ってきてるだろうと思います)また、合成電力による最大瞬発力は出せる時間が短く、ダッシュの一瞬のアシストだけで、通常は発電力で賄える分しか、パワーを使わない制御かも知れません。
<発電モータと駆動モータの2モータ構成ながら、並列構成の日産>
(上が駆動用、手前が発電用)
<同じ2モータ構成ながら、同軸構成のホンダ>
(エンジン側が駆動用モータ。同軸上とはいえ、当然個々は結合されていない)
しかし、いずれも激戦のBセグでシェアを取るために、今回FIT価格はかなり安く設定したと思いますね。(今回の私の出費と同じぐらい?、逆に儲け出るんだろうかと)。
これはノートのM/Cを睨んで、コスト優位な先発車に価格で差をつけられたくなかったのだろうと推測します。
一方、トヨタのヤリスはメディアでは、好敵手と言う扱いですが、私には営業力のみの差でFITより売れる要素は見当たらないのだけどもね。
さらに次なる新型ノートは、間違いなく世の中的にはスライドドアで、より使いやすく、広くなるでしょうが、個人的にはスライドドアの骨格で走り側にはマイナス要素が増えるのではと、つまりホットハッチの枠からは少々外れる気がしています。(しかしマーチ、キューブの穴を埋めて、ヤリス、プリウス、シエンタあたりまでカバーさせられるでしょうからね)
話はそれましたが、日産が作ったe-POWERは、
「2016年のこの記事」を読むとわかるように、外れ者の部活で始まった車のようです(その昔R32GT-Rも同じでしたねw)。
使える部材が幸いなことに、社運をかけて開発したリーフの電動パワートレインの要素コンポと制御が使え、それゆえにモータのみで大パワーで走らせるクラスのモータやインバータが揃っていた。また、日産自身が(これは推測ですが)トヨタとの対抗軸として「渋滞の先頭はいつもプリウス」、「エコカー=プリウス=乗ってちっとも楽しくない」と言うことへのアンチが有ったのかも、、と言う気がしています。だから、ベース車両のノートe-POWERには、チューンの余地があった。(これは逆にホンダのFITには無い部分だと思います、あの構成はもう拡張余地がないように思えます。それだけ攻めた設計になってる。)
日産車を買ったのは、私上初(;^_^A の出来事でしたが、電動パワートレインに関しては、リーフで先行投資したリソースの恩恵で、非常に完成度高くノウハウも積み上げてあるなと感心しています。
非常に逆風ですが、エンジニアの方々にはぜひとも頑張って、フランス経由でチャイナに盗まれないように育てていただきたい。(EUはロシアの脅威にビビって、チャイナとは稼げる相手と勘違いして、5Gでアメリカを敵に回す気配ですが、日本は間違ってもチャイナ側に付いてはいけない、、余談でした)