この日は、スペイドに続き、課題となっていた「トヨタ86」に試乗してきました。これまでも、
座ったり、
助手席に乗ったりしてきましたが、初めて自分の手で運転することになりました。
AE86について
86の名前の由来になった「E-AE86」やその祖先についても少々触れなければなりません。しかし、AE86研究本のような事までは私は知りませんので、当時の社会情勢などから書きます。
AE86が発売されたのは、昭和58年です。これまでもトヨタはカローラ・スプリンターベースの(というより、カローラのスポーツモデルがスプリンターであったのだが)スポーティーカーは存在していました。レビン・トレノがそれですが、その前にもSLやSRといった、スポーティーカーグレードがありました。
セリカやカリーナが登場し、そのエンジンをカローラやスプリンターに移植する形で、TE27型が登場しました。DOHC・ソレックスツインキャブといった本格的なスポーツエンジンである、2T-G、2T-GRを搭載しました。昭和47年のことです。
その後、昭和49年TE37・47になり、カローラはハードトップボデー、スプリンターは別スタイルのクーペボデーとなりました。当時、排出ガス規制が強化されつつありました。規制を満たせなかった2T-G、GRは一時消滅、1年3ヶ月後位だったかな?2T-GEU(110馬力)として、ソレックスをEFIに替え、酸化触媒をとEGRを搭載して再登場しました。ただし、カローラがスプリンタークーペベースのクーペになり、さらにリフトバックボデーのGTも登場しました。TE51・61です。さらに1年後には、酸化触媒とEGRを三元触媒とO2センサーに替えて、TE55・66となりました。それまで競技ベースや、今で言うランサーエボリューションやインプレッサWRXシリーズのように、限られた人向けであったレビンやトレノが、その名を名乗らないものの、リフトバックGTとして、バリエーションが広がりました。
そして昭和54年、70型にモデルチェンジします。レビン・トレノはリフトバッククーペになりました。それとは別に、セダン、ハードトップ、リフトバックにも同じエンジンを搭載したGTが登場しました。リヤサスペンションがリーフスプリングによるリジッドから、コイルスプリングを用いたリジッドに進化しました。
昭和56年には、エンジン高効率化のシリーズ名称である「レーザー」シリーズの2T-GEUに変わります。燃焼室が、半球室から多球室になり、圧縮比も上げられました。車両には「GTアペックス」が追加され、徐々に「速くて高級感ある、ソアラのテイストをもつクーペ」に姿を変えていきました。
昭和58年にAE86が登場します。セダン系はFWD化されましたが、クーペ系はRWDのままです。しかも、これまでは、2T-GEU搭載のクーペをレビン・トレノと名乗らせていましたが、今回からリフトバックとクーペ、しかも1500ccエンジン搭載車をもレビン・トレノと名乗らせました。当時私は、このクーペシリーズもFWDだと思っていました。エンジンフードのあの急な角度、あれはFWDに必要な要素で、しかもセダンとイメージが同じでしたので、FWDと思ってしまったわけです。
これは私の想像なのですが、トヨタは新技術を投入する際にかなり慎重になります。どうやら、クラウンに直列6気筒エンジンが搭載された際に、オイル漏れに悩まされたとかいうのがその起源のようです。東武鉄道も、直角カルダン駆動方式のトラブルに悩まされた結果、世の最新技術は同業他社からかなり遅れて採用する会社になりました。
ホンダ特許のCVCCは、コロナ、カリーナのごく一部にしか採用されませんでした。初めてのFWDは、わざわざコルサ、ターセルといった、新企画車に採用しました。しかも、エンジン、トランスミッションは縦置きにするというものです。EFIはクラウン、マークⅡ、コロナ、カリーナですが、都市圏でしか販売しなかったとか?電子制御ATはコロナですが、これも都市圏のみの販売だったそうです。
当時、高出力エンジンに対応できるドライブシャフトがなかったとも聞きます。そこに、排出ガス規制以後の新設計エンジンである「A型」をDOHC化して登場させたのですから、上記理由とは言えRWDで登場したというものは、偶然の産物でしょうか?カローラレビン、スプリンタートレノは、速いクーペが欲しい人、おしゃれなクーペが欲しい人、2ドアセダンが欲しい人、通勤用に自分の車が必要になった女性などに、結構売れた模様です。この、「特別扱いをしていない人」にも売れたことが、後に大量の中古車が出回ることにつながったのです。
前置きにしては長くなりました。本編に入りましょう。
エンジン
既に語り尽くされた感じはあります。FA20型、水平対向4気筒筒内噴射、ポート噴射兼用エンジンです。ボア・ストロークとも86mmの、スクエアなエンジンです。バルブ周りには、吸排気とも連続可変バルブタイミングが採用されたエンジンです。排気系統はエンジンの搭載位置を下げるためかなり厳しい取り回しですが、等長等爆となっています。吸気系統には、「サウンドクリエーター」という、吸気音を増幅して運転士に聴かせる共鳴室があります。当然ながら、電子制御スロットルバルブです。
エンジン始動状態で用意されましたので、始動性はわかりません。アクセルを踏んで発車すると、びっくりするほど飛び出そうとします。吸気音も大きめになることから、スロットルバルブが過剰に開き、演出をしている模様です。
これでは、zoom-zoom第一世代のマツダ車です。私が乗った、
3代目デミオの前期型がそうでした。手っ取り早く軽快な車を演出するためには良いかもしれませんが、発車時に滑らかに発車しづらくなります。多少なりともトルコンがスリップするATでこれですから、MTではクラッチミートの調整が難しいことでしょう。
「カーブで発車するときに、LSDが効いてタイヤが鳴き、品がない」と書いた方がいましたが、おそらくこのエンジンの吹け上がり特性が影響しているものと思われます。
なんとかなめらかに発車します。エンジンは非常に活発です。アクセルペダル操作にも、よく反応します。この辺りは、マツダ車のごとく、あたかもアクセルワイヤーが繋がっているかのような印象です。
エンジン自体は決して軽快に回る印象ではなく、「バーン」という、水平対向らしい音を立てて回ります。回りづらいエンジンを回す感覚が、古典的なスポーツカーの印象です。初めて、しかも最新の車に乗るのに、このどこか懐かしい感覚が体に馴染みます。
なお、AE86の4A-GEUは「ヒュイーン」と軽快に回りますので、印象は異なります。むしろ、私のコロナの18R-GEUの方が近いかもしれません。
「サウンドクリエーター」は、3000回転を超えると急に音を増幅してきます。気持ちが良いことは気持ちが良いのですが、エンジン回転の上昇と音の高まりとがリニアになっていないので、慣れが必要です。スポーティーカーのシフトチェンジは、タコメーターを見ながら行うのではなく、耳でエンジン音を、体でエンジンの振動を感じながら行うものですので、ちょっと慣れないなあ!
隣に販売店の人が乗っていたため、エンジンの回転は4000回転までにしました。しかし、パワーは十分にあり、この車を軽快に走らせます。ハイパワー車に乗った方には「パワー不足だから、スーパーチャージャーやターボチャージャーが欲しい」などと言います。しかし、AE86やマツダロードスター同様、「使いきれるパワー」であるところにこの車の価値があると思うのですが、いかがでしょうか?
トランスミッション
クラウンや
マークXシリーズにも搭載されている、トルクコンバーター式ATを搭載していると聞きました。この車でも、ダイレクトな加速と、スムーズなシフトを特徴としています。86用としては、さらにダイレクト感を強めています。渋滞路の、ノロノロ運転ですらロックアップをしている模様です。
変速は、なんと変速ショックを伴います。時には、後ろからぶつけられたかと思うくらいのショックを感じることがありました。ロックアップをしたままクラッチ・ブレーキを切り替えると思うのですが、「最近のATでここまでショックを残したか!」と、一種の感動を覚えました。
マツダスカイアクティブATも、ダイレクト感が高いATですが、こちらはさらに上を行く印象です。シフトショックは、変速したことを知らせるために必要だと思うのですがいかがでしょうか?しかし、この車のATにしろ、スカイアクティブATにしろ、ブルーバードシルフィが一段と古臭く見えてしまいました。
シフは、マニュアルモード付きです。レバーをM側に倒すとレバーやステアリング脇のパドルスイッチでシフトチェンジができます。レバーの場合は、「手前に引くとシフトダウン、押すとシフトアップ」です。この方式を取るメーカーが多いのですが、マツダ方式の自然さが身に染みてしまったため、変えてはいかがでしょうか??
レバーの位置は、MTよりもむしろATの方が良いようにも感じました。上記ダイレクト感の点からも、この車でATを選ぶのもなかなか良い選択だと思います。
ステアリング
ステアリングギヤ比はかなりクイックなようです。10台のそれも前半のようです。ステアリングもやや重めで、長時間曲がった道を走ると、あるいは疲れるかもしれません。遊びも少なめですが、ステアリングセンター付近での座りが良いこと、重いことなどから、「ステアリングレスポンスが良すぎて疲れる」事はないと思います。
路面の状態は、さほど伝わってきません。この辺は、スポーティーカーとしてはもうちょっとのところです。スポーティーカーの運転とは、車や外的要因と対話しながら走る、まさにスポーツです。海外ではこのデッドなステアリングが主流のようですが、本当に良いのでしょうか??この、「
VWに倣え」的な風習は、一体何なんでしょうね???
ブレーキ
17インチ仕様ということもあり、初期の効きは良いです。その後、踏み加減に比例して制動力が立ち上がります。初期の効きがやや唐突であることが気になりました。剛性あふれるペダルタッチは、コーナーで車体の姿勢を作るためのブレーキングをしやすくすると思います。
ホンダ車がこれに近いブレーキタッチである他、他のメーカーの車はどんどんスポンジーな効き具合になってしまいました。こういうブレーキは、重いのですが扱いやすいと思いますよ!
サスペンション
はっきりと硬く、そして乗り心地は良いとは思えませんでした。車体形状ゆえ、ストロークはあまりないと思います。しかし、当たりはそれほど硬くないものの、ストローク中に急に硬くなる特性でした。
ステップワゴンにも似ています。ゴチゴチと、下から突き上げられる乗り心地です。
私は、特に腰は悪くないのですが、この突き上げには参りました。これではロングドライブは無理かもしれません。世間では「86はフロントが柔らかめ、BRZは硬め」などと書いていますが、これはあくまでも両車の比較です。乗り心地が柔らかいという意味ではありませんので、ドライブをするための車を買う方は、この辺りのことを注意しながら試乗するとよいでしょう。
MR2のSW20初期型では、「ミッドシップスポーツカーとしての高性能エンジンと、デートカートしての乗り心地を重視したサスペンション」で登場し、「危険な車」と評価されました。しかし、この車の乗り心地は最初から硬すぎのようにも感じました。少なくとも、ストローク中に急に硬さを増すような乗り心地さえ改めれば、もう少し一般道でも乗れます。
ロール当然ながら少なく、コーナーがつづく道やサーキットでも、余裕あるコーナーリングが可能だと思います。やはりスポーティーに走るためには、少々硬いサスペンションが必要である、と感じました。
ボデー
ボデー剛性は高いです。特に、前後方向の曲げ剛性が高く感じられました。この車の試乗後、ブルーバードシルフィに乗りましたが、フェンダーバーやサイドシルウレタン充填などをした車でも、全く敵いません。
室内は、意外に圧迫感がありません。私はシートの座面を高くして座るのが好きで、さらに左フェンダー上部が見えないと、気分が良くありません。そのシートポジションでも、頭と天井の間に拳を縦にいれ、上下に動かすことができます。サイドウインドーもそれほど迫っておらず、こちらにも拳を縦方向に入れられます。
脚の左右にもスペースがあり、圧迫感はありません。MR2やスープラでは、まるで洋式の風呂に体がすっぽり入ってしまったかのような気分になりましたが、我慢ができます。少なくとも、
アクアにあった圧迫感はこの車にはありません。
ロードスターは、かなり人間を落とし込んで座らせるため、西洋風呂で溺れかかっているかのような気分になりますが、この車はそうではありません。スタイルとは裏腹に、乗用車感覚で運転することができます。この辺りが「毎日でも使えるスポーティーカー」となっていますね。
後席は、シートがあるだけ、と考えたほうが良いでしょう。足を置く場所は狭いですし、頭上はりやウインドーになってしまいます。ノッチバックボデーではありますが、ファストバック車と考えたほうが良いでしょう。子供ならなんとか乗れますし、大人でも1時間程度なら耐えられるでしょう。りやサイドウインドーも狭いので、景色を楽しむことはできません。
しかし、2ドアセダンとしても使えたAE86とは違いますね。FC3S型RX7と思ったほうが良いでしょう。
視界は、まあまあです。前方向は上記の如く、身長にもよりますが左前フェンダーを見ることができます。斜め後方はよく見えるというほどではないものの、曲がり角で危険で仕方がない、ということはありません。自動車メーカーのボデー設計者は、
風見しんごさんの娘さんのえみるちゃんが、曲がり角で巻き込み事故にあって亡くなったことを忘れてはなりません。
後方視界は、意外に良いものでした。スポーティーカーには、「周囲に気を配り、常に変化する環境に対応すること」が求められます。視界は重要ですよ!
内装は、今ひとつ高級感がありません。特にダッシュボードはソフトタッチ塗装で仕上げられている模様で、少しこすると艶が出てしまい、みすぼらしくなってしまうでしょう。この辺は、ピアノブラック調塗装の化粧板を使ったロードスターに軍配が上がります。
まとめ
この車にひと乗りすると、運転している感覚を強く得ることができます。ピシッと張った硬いボデー、コンパクトで取り回しやすいボデーとサイズ、そして遊びが少ない操作部分、伏木悦郎氏が言うように、車が体と同化したかのような感覚を得ることができます。
ボデー剛性はかなり高く、パーツをつけなくてもかなり満足できるはずですよ。それに加えてさらに各種のボデー補強パーツが出ていますが、改造する楽しみは無限にあることでしょう。これ一台で、車遊びもドライブ(400km/日以内かな?)も、十分に楽しめます。「車なんか、何でも良いよね。」と言っている人には、ぜひ乗ってもらいたいです。毎日の生活が楽しくなるような車ですよ!
私は、「車なんか、安くて燃費が良くて壊れなければ良いよ」という人には、「車は靴と同じ。履きやすくて安くて汚れれば洗える運動靴がどこでも良いとは限らない。ブーツやハイヒールや革靴は、実用品としては全くダメで、格好だけのもの。しかし、みんな選んでいますよね?」と言います。多くの女性は理解してくれますが、服装などがだらしない人は、どうやら理解しないようです。
かつてのAE86やS13シルビアなどと比較すると、随分とスポーティーであることが気になりますが、運転の面白さを味わえる車だと思います。コロナやブルーバードシルフィといった、チューニングには向かない車をいじる楽しみもあることはあるのですが、この車は素の状態でもかなり良い出来にあると思います。
気になるスポーティーな点というのは、若干オシャレ度が低いかな?とも思えることです。言わば、「最近デザインも重視し、かなり格好良くなったスポーツウエア」のようでもあるということです。バレーボール、サッカー、陸上競技、どれも汗臭さを感じさせない、十分にデザインされた服ですよね。この車はまさにそれで、エレガントな感じや街中に溶け込む雰囲気は皆無かな、と思わされてしまうのです。
以前のブログで、
ブルーバードやコロナの普遍性と書きましたが、これらのセダンは、「紳士服安売りの店で買ったスーツ」であると思います。観光地や遊園地などでこそ「運営会社の人?」と思われてしまうでしょうが、それ以外のデパートやレストランや会社や街でも、それほど違和感がありません。
オシャレ度こそ低いものの、多くの人に抵抗なく受け入れてもらえる要素が、このスーツにはあります。
そんなことから、私はセダンボデーが出るまでこの車は買わないだろうなあ、と思ってしまいました。機能の上では、高いボデー剛性とコンパクトなボデーサイズ、使いやすく扱いきれるパワーで、音が良いエンジン、MTの設定と、乗り心地と内装以外の点では、不満がありません。
しかし、狭いリヤシート、どこか日常感がないボデースタイルなどに、どうも馴染みを感じないのです。同じことは、スイフトスポーツなどのボーイズレーサーなどにも言えます。アフターパーツメーカーが好きな、派手で日常感がないスタイルは、誰もが望んでいるわけではありません。外観の雰囲気を抑えた、かつての「SL」などのグレードを望んでいる声もあります。
貴重なコンパクト後輪駆動車の火を絶やさないようにするため、「トヨタよくやった!他メーカー、頑張れ!」という意見を表明するため、是非とも自分で買いたいのですが、上記の気持ちが私を邪魔するのです。
しかし、これは私の勝手な感想です。この車、軽快でボデー剛性が高くて走って楽しい車であると思いますので、2+2人乗りの2ドアクーペスタイルが気にならなければ、ぜひ乗って買って欲しい車です。運転の楽しみを、これでもかというほど楽しめると思いますよ!