『モータースポーツって限界を攻める』のが魅力なんだけど、一方では『限界を見極めて目的に沿って的確な状況判断の中で走らせる』のがドライバーの役目でもあると思うのです。
サーキットでレースをしたり、アマチュアの方に安全にサーキット走行をして貰う、、、という以外にもメーカーさんの試乗会を運営したり、色々な環境下で求められるものが変わる中でクルマを走らせている経験値や責任が増えると、そういう事を考える事が多いですね。
私の経験上、色々なリスクが伴う、色々な事が起きそうだと思うキーワードは限られていて、、、
メディアが絡むとき
子供や高齢者が絡むとき
デモランとか特異な環境で走らせるとき
あとは走行する人の中やその環境に何らかの”差”が生じるとき
この4項目が私の中の”警鐘”が鳴る時です。
プロのレースの中にアマが混ざっている時や男性の中に女性が混じっている時もそう、それはプロが凄くてアマがそうでないとか、男性が偉くて女性は偉くないという意味ではなく、何らかの意識、スキル、目的、感受性に差か生じやすい環境だという意味です。
(ゴルフも慣れている人の中に1人慣れてない人が居ると、スコアも含めマイナスに+が引き寄せられたり、男性3名に女性1名のパーティだったりするとスロープレーに繫がったりしますよね、それが悪い、という意味ではなく事象として、そういう”何かの差”があるとそういう事が起きるという意味です)
色々な環境で試乗会の運営をする時、まず一般道でやるとなると相当の神経を使います、なぜなら一般の走行車両も居るから。
それがもしメディアが絡む試乗会なら尚更だと経験上感じます。
メディアの方々は
一部を除いて、慣れているだけで上手くはない人も立場上特別な環境で走れる経験値があるから、自分の技術が特別なものであるという錯覚を起こしやすかったり、PRする世に露出するという立場的に特別な対応をメーカーから受けやすく、逆にメーカーも特別対応をしてあげたくなる存在であるからです。
受け側もセールスやPR担当は経験値があるので”試乗会でクルマを走らせる”という事による現場で起きるリスクや動的なシミュレーションが出来る人が多いのですが、メディア系担当の方は『メディアのリクエストを受ける』という事に主軸を置く立場なので、現場がどういうルールでどういうリスクヘッジで運営されているか?という視点が薄い方が多い印象。
想定してない環境、例えば事前に構成していたタイスケやルールや内容ではない部分で現場で状況が変わって時間配分や走らせ方を変えざるを得なくなった時とか、撮れ高が悪くてリテイクする、、、みたいな時にトラブルは起きやすい。
また準備不足や想定不足、遅刻や忘れ物があった時などもそういう事は起きやすい。
(これは走行会やレッスンなどでもアクシデントが起きるケースとしてよくある要因です)
今日、何でそんなことを書いているか?というとJAF主催のモータースポーツジャパンでFormula Eがデモラン中にガードレールに接触するアクシデントがあったからですが、これも主催者や運転していたドライバーが悪いとかそういう事を短絡的に書いているのではないという事は前置きして。。。
まずFormula Eは本来MICHELINの全天候型(スポーツラジアルみたいなタイヤ)をこのGEN2車両は装着していますが、今回はどんな理由があったか知らないけど来年から採用されるHANKOOK製のタイヤでしかも、きっとGEN3で採用される全天候型ではなく何故かスリックタイヤでした。
見た目は採用されるべく(もしくはGEN2車両標準)ほぼ同じサイズに見えましたが、もしかしたらスリックタイヤだけでなくサイズも本来のGEN2車両が履くサイズとは違うかもしれない。
FORMULA Eは私も今年2度、5月のベルリン戦と8月の韓国戦の現地に仕事のご縁を頂いて赴いて取材をしましたが、フォーメーションラップがなくてピットから仮グリッドに移動したら、そのままちょっとの区間、本来のスタート位置へ移動してスタートする方式だったり(これはバッテリーの残量をなるべくレースで使える分をイコールに近づける為でもある)、市街地レースが基本なので路面が一般道の舗装レベルだからスリックタイヤがしっかり機能する温度まで上がらない等があって、雨でもいけるスポーツラジアルみたいな顔をした全天候型タイヤが標準(最大のグリップより扱いやすさや初期グリップの高さを重視する為でしょう)なのです。
今回のMSJ会場は私も土曜日に現地に居りましたが、基本駐車場なので子砂利が多く、路面のウネリも駐車場として使う分には問題ないけど、車高の低いレーシングが走行するにはちょっと大変そう、私が関与していた車両がデモランする時は通常より約2センチ(も)車高を上げて対応していたし、それ以外でも敢えてスリックタイヤではなくレインタイヤを装着しているデモラン出場車両も居たのは、メーカーや銘柄によってレインタイヤにするだけでタイヤの実質の外径が大きくなって車高が高くなったのと同じ効果が得られるという事もあるし、レインタイヤくらい作動温域が低い方が、この限られた時間やコースでデモランをするという環境下ではスリックタイヤで出走するより安全で求めるべきものに合致しているという判断をしたチームがあったという事だと思います。
いまのレーシングカーは制御が命なので、タイヤの種類やサイズが変わるとABSやトラコンの制御のマップを変えないと誤作動したりする可能性があるというのも見逃せないポイントだと思います。
MSJのデモランをする環境で一般の関係者がデモランをする程度で走るという想定なら、何も起きない事が大半なのですが、そこに集団心理とか、もっともっと、というほとんどの場合はいい方向に働くはずの意識が悪いことが重なった時に怖い(悪い)方向へと作用してしまう所です。
例えば、Formula-Eの車両は前日は都庁でデモランをしていたので、今日の2日目に初めて登場した車両、2日間共にデモランをする予定の車両は実は前日の金曜日に(全車ではないかもしれないけど)試走タイムが設けられていたようです。
運営サイドが想定している走行の手順や限られたデモランのスペースの中でこうやって走って欲しいという資料がちゃんと存在していて(私も目を通しました)、それ通りの流れで当日デモランするドライバーがシミュレート出来る機会が事前にあったので、どれだけこれらデモランをする車両が普段走っている環境と色々と違うのか?知れるチャンスがあったという事です。
それらをきっとFormula Eはすっ飛ばして2日目にお目見えしてしまっていたのではないでしょうか?
そこに経験値ゼロではないにせよ、GEN2車両を知り尽くしたドライバーではなく、タイヤは標準装備されているタイヤでもない(システム上、タイヤのグリップ係数や外径が変われば色々な制御のマップも厳密にいえば変わるのに、更に市街地レースでも考えられないような荒れた舗装路での走行だったことが想定)、これによってドライバーはアクセルを戻して、通常なら回生ブレーキが掛かる状況のはずなのに、少しまだ加速をしているような状態になっていたり、急ブレーキを掛けてもやたらロックしてしまったり逆にABS過多になってブレーキがあまり効かない状態になったり、、、路面の荒れで制御マッピングがマッチしてなかったとかも考えられます。
(そもそも、そんな環境でそんな走りをするなんてことは考えてないことが当たり前でしょう)
環境的にも、視聴者のSNSでの映像をいくつか見ると、運営進行上は『ありがとうございました~』という感じでエンディングを迎えて車両は退場をする段取りだったのに、サービス精神なのか?時間が余っていたのか?要因はわからないけど、運営側が想定していたエンディングの流れを越えてAdditional的に走行をした最中に起きているアクシデントと思われます。
ドライバ―はもしかしたらその瞬間、想定してなかった走行路の部分で、他の車両が2日間あまり走ってな”更に路面が悪い部分”でスピンターンを必要以上にしてしまって、一瞬ギアポジションとかバッテリー残量とか気になってステアリング上のディスプレイの表示などに気を取られていたのかもしれない中で位置感覚や方向感覚が薄らいで、目の前に障害物がある確認に一瞬遅れた可能性もあるし(とある映像を見ると、スピンターンを収束させたあと、アクセルも踏まず、ブレーキも踏まず、ハンドルも切らずにコンマ数秒、障害物に向かってほぼ直線に走行している時間があるように見えます)、それであ!っと思ってブレーキ踏んでも、ちゃんと路面やタイヤに合わせたマッピングになってないと、Formula Eの様な最新鋭の車両になればなるほど、ブレーキが踏んでいるのに効かないみたいな状態になっていたかもしれません。
でも、それらって2日間、決められたフォーマットで走ってきたり、他のデモランの車両の動き見ていたりすればある程度、避けられたアクシデントだったともいえる訳です。
こういうイベントだけでなく、ちょっと話戻りますが、メディア試乗会など、イレギュラーな事が沢山起きやすい環境では、あとはメディア系でもYOUTUBERとかタレント系とかが絡むとホスト側も含めて、”特別にやっている”空気が高まるので、通常の現場を回している運営サイドが想定してない事象が起きやすく、後から振り返ると『起きるべくして起きる』とも言えます。
2日間仮に決められたフォーマットでやっていたとしても、そこに”慣れ(慢心)”とか”他の車両がスピンターンやっているから自分も観ている人の為にやろう”とか、もっと近くをもっと速い速度で走ってみよう、、、とかっていう気持ちのバイアスが掛かった時とかも要注意です。
2日間デモランを続けると、皆が走る所は子砂利も少なくなって、走り易く成ったりもするでしょうからね。。。
(1本目上手く行って、2本目はもっと行くぞ!という意識が働くでしょうし、そこに雨が降ってきたり、というスリックタイヤであった車両には不確定要素もあったと推測)
Formula Eの話に戻ると、8月の韓国戦を終えて、色々な手順を踏んで日本でデモランを、、、という話はその時からあって、10月に横浜のとある場所で、とかワンスマの10月に開催した袖森フェスティバルの中でデモラン、、、という話も実はしていたのですが、ロジスティックや政治的な段取りが間に合わずに断念でした。
でも2024年に東京都での開催に向けて、、、というのが発表になって、日本での何らかのデモランと言う話がきっと再燃したことと都庁でのデモランやJAFが管轄するMSJでのデモランという手はずに11月になって実現できたのだと思います。
それはそれで素晴らしい事、きっとバッテリーの契約上、それほどこのあとこの車両は日本に留まる事無く本国に返されないといけない契約である事が予想できるので、当然日本にデモランだけならそれほど十分な補修スペアパーツがある訳でも、熟知したメカニックが帯同している訳でもなく、もしかしたらこの後予定されていたどこかのデモランがキャンセルになったり、壊れたまま本国に返されてしまうという、新しく開催地として誘致した国としてはちょっとお粗末なスタートラインになってしまう可能性があるのが危惧されます。
総合的に言える事は『今回のアクシデントは未然に防げた不要なトラブル』だったと思います。
でも起きてしまった、という事は色々な環境変化によって、これは『モータースポーツである以上、起きうるアクシデント』として関わる人が受け入れたうえで出来るかどうか?が重要だという事です。
Formula Eを今年2回現地で見てきて感じたことは市街地レースの難しさであり、モータースポーツが市民権として受け入れられているか否か?が重要であるという点でした。
海外のレースが日本にやってきて海外のチームや海外のドライバーの意識などが日本のそれらと違うという事を想定してない中で行われるイベントは先日のラリージャパンもしかり、私が今年参戦していたFANATEC GT WOrld Challengeだって開幕戦の鈴鹿は、コースの難易度が高く、天候も不順、その上に日本のチームやドライバーと海外の人たちで初めて競争する訳ですから大荒れでした、、、プロやプロに近いハイアマチュアの競技でさえ、そういう事が起きる。
ドイツのツーリングカー選手権であるDTMと日本のS-GTが統一車両規則での開催を目指して交流レースをFSWでやった時も大荒れだったのは記憶に新しく、たまたまかもしれないけど、最初の事とか初の組み合わせって言うのは色々な事が起きるって事だと思います。
Formula Eを東京(日本)で初開催の市街地レースとして開催、、、それを認識した上でこのフレーズを聞くと、今からもうドキドキが止まりません。
レースは経験しているけど海外レースは肌では知らない
レースはしているけど運営は知らない、市街地レースは経験ない
熱海でやるなら、でもいきなり”華の都大東京”の中心地で開催する = 人目や対外的な影響はいい方向にも逆にも大きいハズ
Formula Eを一回、FSWのコースと施設路を合体させた特設コースでやった事があって、それを踏まえてどこかの国内市街地で開催というのではなく『初物を複数重ねて』開催というのは、私の様な関係者の端くれでも経験上『ALL or NOTHING』な賭けな開催だと感じています。
一流のプロモ―ター、一流のプレーヤーとチーム、一流の主催者、一流の代理店やメディアがそこに居ても、現場を知っている経験豊富なマネージメント軍団による準備(例えば、事前に『Formula E初開催国が開催するまでの流れを視察したり開催を経ての効果や問題点をリサーチするプロ軍団は東京開催に向けてあるのでしょうか?』とか、日本ならではのスポーツが取り巻く環境だからこそ起こ得るリスクとその回避想定が存在しないと成立しないと思えます。
昨日MSJの現場にいた自分は、デモランに関しては一般の観客に混じってデモランコースサイドで観戦するようなことは一切しませんでした。
それはガードレールがたとえあっても、クルマは何かの拍子に飛んでくる事もあるし、ガードレールにぶつかれば色々なものが飛んでくる可能性だってある、そういうリスクがあると思っていたり、不穏な動きや派手なパフォーマンスをするデモ車両が居たら、ちょっと警戒レベルを上げて観ている人がどれだけあの場に居たか?きっとそんなことを考えてない、普通の週末の楽しいイベントを観に来ている感覚の人が圧倒的多数だったと思います。
あのような無料で入場できるイベントは特に(無料で観れるという事は凄く良い事なんだけど)ハードルを越えずに潜ってきてしまう人も多くなるのが一般の常で、客観的環境も踏まえて、、、そういう考えをしてしまいます。
(今回のアクシデントの規模を考えると、例えは少し大げさかもしれないけど、先日の韓国の将棋倒しの事故だって、あそこに居合わせた人のどれくらいの人が、ああいう悲惨な事が起きると想定してその場に居たか?という事にも繫がるかもしれない)
もし自分のゲストや自分の家族が『コース脇でデモランを見たい』といったら、そういうリスクを説明し、本当に観たいなら、デモランの様子を見て、危なくなさそうな位置で注意して観るように、もしくは自分がそれらを満たす位置を勘案して引率していきます。
函館のとあるメーカー(ディラー)が主催のイベントで悲しい事故もありましたが、あれだってちょっと分かっているプロモーターや現場の運営者からしたら、考えられないようなルートだったり、一般の方の観戦ポイント設定だった気がします。
その位、クルマが走るという事、慣れてない人が操る、わかってない人が周りにいる、何かの拍子に今迄出来てたことがパニックを起こすと瞬時に出来なくなってしまうのが人間である、、、という事を想定した設計が出来るか?運用が出来るか?
私が関わった中では、事故が残念ながら起きtたのは『良かれと思ってサービス精神でやってしまった時』、『プロの中でアマが人目もある独特な環境で、乗り慣れてない車両を走らせざるを得なかった時』、『遊びの参加型イベントで女性同士で接触して怪我してしまった時』、『慣れてない人が慣れている人の中で走って、つい引っ張られて色々な自分の限界を超えてしまった時』、『タイムを出すぞ、とかこの周がラスト、といった切迫した気持ちになってしまった時』などでした。
そういう事をついつい考えてしまうのはレースドライバーとしてだけでなくクルマに関わるプロの部分もアマの部分も、本気思考もレジャー志向も色々な環境下を経験してきたからなのでは?と思うし、今日題材にしたアクシデントも今後色々な検証がされてよりよいものになるのだと信じていますが、上げ足を取る様な世間のSNSの下品な方向には向かわずに、建設的で何かの良い方向へのキッカケになる対処力が日本の一般世間にある事を願う、日曜夜です。