
「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」は、「平家物語」の書き出し部分です。ここ数週間は、そんな古典的言葉が頭に浮かんでばかりでした。
先日のこと、音楽出版社のavexが東京青山の本社ビルを売却するというニュースが流れました。会社が自社ビルを売却、というと、どうしても右肩下がりという印象を持ってしまいます。
ビルの写真に見覚えがないな、と思いましたら、avexは住友生命が所有していた住友青山ビルを購入していたのですが、数年前に建て替えていたのでした。この住友青山ビルは「伸び盛りになる企業」が入居する雑居ビルでして、かつては「アスキー」が入居していたこともあります。
さて、avexですが、もうずいぶん長い期間話題に上がることがありませんでした。CD不況と言われ始めた2000年代後半から、事業の主体をCD販売からライブなどの興業(ライブなど)へと移していたのでした。
興業はCD販売と異なり、在庫、流通在庫、販売促進費用や中間費用が少ないために、利益率が高いことが特徴として挙げられます。そのため、CD売り上げが減少しながら、ある時までのavexの業績は上がっていたのでした。
しかし、ライブはファンは来ても新しいお客を呼び込むことが出来ません。結果、avexの曲を聴く人は聴くのですが、聴かない人は聴かない、という事態になりました。
そして、このコロナウィルスの世の中になれば、当然ライブは開催できません。予約していた会場は、違約金(?)を払ってキャンセル、そして券は払い戻し、そして収入はなく、アーティストには給料?を支払わなければならないのですから、お金は入ってこずに出ていくばかりです。ライブはあと何年開催できるかわかりませんので、自社ビルを現金化し、経営に充てるのだと思います。
考えてみれば、avexの凋落は今に始まったことではありませんでした。全盛期は、安室奈美恵が移籍、自社育成のTRFに火が付き始めた1995年から始まり、浜崎あゆみ人気に陰りが見られた2005年までの間だったと思います。中でも、相川七瀬やEvery Little Thing、D&DにMAXなどの人気に火が付き始めた1996-1997年は、まさに自社内群雄割拠とでもいう状態で、作品の上でもいろいろ面白い音楽が出てきていた年だと思います。CDバブルと言われた1998年は言わずもがな、名曲が多数生まれています。
この状況がおかしくなりはじめたのは、2000年のdream(通称3人dream)が出たときでした。今見れば歌もうまいし曲もかっこう良いし、作品、アーティスト単体で見れば、決して悪いことはありません。
しかし、「茶髪、金髪全盛」の時期に黒髪で登場し、それも、なんとなく「幼い子」「未開発の子」「ダサい子」「子供っぽい子」だったものですから、一部の人のためのアーティストというイメージとなってしまったのでした。これをもって、当時、avexはavex以外で売れ行きを伸ばしていた「モーニング娘。」に完敗を喫し、dreamは4年ほど後に人数を増やして路線変更をしていきました。このdreamは社長直轄事業だったそうですが、デビュー時期が初めから決まっており、未完成のまま出してしまったような気がしてなりません。
その社長が浜崎あゆみから離れた結果、浜崎あゆみの人気はもう少し続くものの曲の調子が変化し、「王者のおごり」も見えるようになっていってしまいました。結果、2005年にかけて、少しずつ伸びは鈍化していったのでした。dream事業に会社が傾倒した結果、従来からのアーティストの制作力が低下し、登場当初の勢いが全く見えなくなっていきました。
2002年頃には、「day after tomorrow」という3人組を出してきました。バランスは良かったのですが、曲の感じがびっくりするほど幼稚というか素人っぽいというか、Every Little Thingの見えるところだけを似せた、というか、2002年の時代にこれでは時代遅れ、というバンドでした。会社を挙げてのゴリ押しをしましたが、耳が肥えた顧客には鳴かず飛ばずで、3年後にはボーカル(misono)の単独化のやむなきに至りました。
2004年頃には、「大塚愛」が「さくらんぼ」でヒットしました。会社も浜崎あゆみと並んで稼ぎ頭となることを期待して応援している姿を感じました。「さくらんぼ」こそ、多くの人に人気を得る作品となりましたが、徐々に「不思議な子」の感じが前面に出てしまったこともあってか、人気は平均的な3年間で定常化しました。
2005年には、「倖田來未」に火が付きました。この人は下積み期間が長く、デビューは2001年頃ではなかったでしょうか。2003年にも「real emotion」という曲で流行りかけたのですが、続く曲が出ずに人気が続かなかった、という事態になっていました。同社久しぶりに力が入った曲と同社初期の雰囲気をもったかっこう良さなどもあり、浜崎あゆみに続く稼ぎ頭になっていたようでした。しかし、天狗になっていたのか、2008年に「35歳羊水腐敗説」を唱え、事実上失脚してしまいました。
その後、同社はライブ事業中心に舵を切っています。事業の利益率を高めることは、企業活動として健全なことです。しかし、会社としての勢いが失われていったのも事実です。私は、この時に興業中心から広い形でのエンターテインメント事業に拡げていれば、今回のような事態にはならなかったのでは、と思っています。
それにしても、書いて改めて分かったのは、同社の成長期間は1995年から2000年までと、かなり短期間だったことです。私も恥ずかしながら、「こんな会社に就職していたら、芸能人と一緒に仕事が出来て、時代の最先端を行っている感覚を味わえたのだろうな。」思った時期がありました。
今や私は、音楽(CDはもちろん、無形のデータとしても)を買うことがなくなってしまいましたが、1998年のCDバブルの頃の方がおかしかったのです。それにしても、多くの人が「今度〇〇が発売する新曲が楽しみだね」と気にしていることの方が変です。
それだけではありません。youtubeのavexの曲に対するコメントには「昔っぽい」「古臭い」などのネガティブなコメントが書かれています。それらの曲は、昔私などが「ビーイング系(avexの前に流行った、ZARDや大黒摩季、wandsなどを輩出していた会社)の頃の甘口と違って、かっこう良い曲だなあ!」としみじみと感じた要素を持つ曲ばかりです。会社の最大の強みが最大の弱みになる、そんな自社ビルを売却しても済まない事態が、同社を待ち受けています。
時代が変われば世の中の構造も変わる、そんな「諸行無常」を強く感じた11月でした。
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Posted at
2020/11/21 23:53:04