
アルバイトの記憶 スペード社シリーズ
おそらく、雨の翌日の6日のことだったと思います。監督社員さんから、「君に頼みたい仕事があるので、集配業務には就かないように。」と言われました。私はただの1ヶ月少々の勤務歴しかないアルバイト故に、私にしかできない仕事はありません。戦々恐々とした気持ちで待っていると、
「〇〇坂駅近くの、工場がある待合室にたけのこの里という人がいるから、その指示を仰いで業務をしてほしい。」と言われました。嫌な気持ちで指示された場所に行くと、その人はいました。社員かと思っていましたら、勤務歴が長いアルバイトとのことです。この業務のみをしていて、その業務の特殊性ゆえに専業となり、会社に出てこなくても勤務したことにされているとのことでした。
その業務は、
「お客さまの所で作成した一次試作品を当社内で修正、再びお客さまに見ていただいて製造をする直前に、お客さまからの特別な要望があって最終修正をする」
業務でした。
何しろ工場は委託先ですし、この段階になって修正を行うというのは特殊でもありましたので、大変面倒な仕事でした。そもそも大幅な変更はできませんし、中には「一度修正したものをまた元に戻せ。」という要望もあったりして、社内、委託先、お客さまの三方から挟まれるという、とても精神的に厳しい仕事だったのです。こんなことを、アルバイトにさせてはいけませんよね。
そんな中で、「オンジョブトレーニング」という名前の、マニュアルも何もない「見て覚えろ」という形でたけのこの里さんから教わるのですから、非常に重圧です。たけのこの里さんは慣れているかもしれませんが、こちらは初めてするのですからね。理由は、たけのこの里さんの「趣味の行動日」が繁忙期内であるために、その日にこの業務に着手する人手が欲しい、というものでした。
集配業務は慣れていましたが、私はこの業務にはなれませんでね。たけのこの里さんによると、私が来る前に「黄海さんとタクシーさん」、「ABさんと豚口さん」が来てもモノにならなかったので解任、私が来させられたとのことです。
まあ、業務はどうにかこうにかこなして、夕方に会社へ戻ります。その際にこの近所に住んでいるというたけのこの里さんが、車で送ってくれることになりました。どんな車で来るのか、カローラレビンかスプリンタートレノか、スターレットかサニーか、まあ、絶対ないような期待をしてしまいましたが、やはりというか当然というか、国産の小型車で来てくれました。運転についての印象はありませんが、短距離なのに高速道路になるなど、ブルジョアジーな一面を見せてくれます。
車内では、私の学生生活に関することを聞かれました。ヤマト産業大学に通い、掃除部に入っていること、給料は掃除用車を購入することに充てること、クラブ活動では成田の東や日光の手前、筑波山の向こう側などに行くことを話すと、
「いろいろみんなでドライブを楽しんでいるんだね。」
と答えていました。そうではないのですが、こまごまと説明するのは面倒であるため、省略しました。
ほどなく会社へ到着し、久しぶりの再会だったのか、監督社員さんとたけのこの里さんは、話し込んでいました。私に対しては
「モノになりそうか?」
などと聞いていたようですが、
「大丈夫そうです」
と答えていました。
まあ、一般の大学生が乗る車のサスペンションが強化されているとか、4連キャブがついているとか、へこんだ外装はたたいて簡易補修をしているとか、そういうことはないのですね。
この点からも、一生掃除部に在籍するのではない私の身を、ある程度世の中に近接した状態にしておかなければならない、と、強く決意するのでした。
Posted at 2025/08/14 17:20:50 | |
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