
とあるウェブサイトで、「「太陽にほえろ!」のプロトタイプともいえる刑事ものドラマに、「五番目の刑事」がある。」という書き込みを見ました。「太陽にほえろ!」ファンの私としては、居ても立ってもいられなくなりました。昨年末から今年の初めにかけて東映チャンネルで放送されていたそうですが、今となっては2012年に発売されたDVDでしか見られません。6月にオークションで購入、そして7月、壊れていたDVD再生機を再購入、視聴に至りました。
この作品は、1969年(昭和44年)の10月から1970年(昭和45年)の3月まで、NETテレビ(現在のテレビ朝日)系で毎週木曜日午後8時から放送されていました。原田芳雄氏が主演です。所属している部署の最若手刑事であるものの新人刑事ではありません。自己所有のジープ(三菱製ではなく、ウイリス社製の左ハンドル車)に乗り、上司の言うことを聞いたり聞かなかったり、同僚と協力したり時には単独で捜査をする姿を描いています。
主人公が所属している部署は5人で、責任者に中村竹弥、街のことを知り尽くすベテランに桑山正一、のちに殿山泰司、マイペースな刑事に時田富士夫、4年制大学を卒業してインテリな同僚を工藤堅太郎が演じています。
以前、CATVで「ザ・ガードマン」という、この作品の少し前から放送されたドラマを見たことがありました。基本的に主人公側と敵側とがものを奪おうとしたり防ごうとしたりするだけで、登場人物の心情を描かない作風に飽きてしまい、「古い作品だからと言って面白いとは限らないのだな。」と思ったものでした。
この作品もフォーマットは基本的に同様で、主人公が犯人をただ追い詰める展開で描いています。主人公や同じ部署の刑事が、同情したり悩んだり反目しあったりという描写はありません。ただ犯人を追い詰める過程を見せてくれるだけでした。同時期に放送されていた刑事ものドラマの「特別機動捜査隊」が、チームワークで犯人側を理詰め(?)で捜査していくのに対し、こちらは時に暴力やカーアクションによって追い詰めることが特徴です。物語は逮捕で終わることもあれば、犯人側登場人物の死で終わることもあります。
1969年といえば、後の時代につながる作品が多数出てきた年代でした。「魔法使いサリー」、「巨人の星」、「タイガーマスク」、「アタックNo1」、「紅三四郎」、「妖怪人間ベム」、「8時だよ全員集合」、「水戸黄門」などです。ついでに言えば、カラー放送がどんどん展開された時期でもあります。斜陽化していたとはいえ、映画会社が映画にかける力に比べると、テレビはまだまだの時代でした。作り手は、手探りで作品を作っていたことでしょう。この作品は、決して成功していないようですが、実写系ドラマの基礎を作った作品だといえます。
警察組織の実情を描かず、娯楽に徹したつくりにする→ほとんどの’70年代’80年代刑事もの
責任者を中心に、各登場人物の活躍を描く→太陽にほえろ!
性格が異なる5人が活躍する→戦隊ヒーローもの
特定の登場人物を中心に描く→ライダーもの
性格が異なる同僚との対立を描く→俺たちの勲章、はぐれ刑事(純情派ではありません)、プロハンター、誇りの報酬、あぶない刑事、相棒
この作品がなかったら、現代に続くほとんどのドラマが生まれなかったかもしれません。当時のスタッフに感謝をするとともに、太陽にほえろ!の面白さを、改めて感じたのでした。
ドラマ以外の点
ドラマ以外の風景や人物描写、服装や髪型には、見るべき点が多数ありました。50年前のドラマは現代劇でもすでに「時代劇」であり、生きた教材だと感じました。
車
旧車よりも前のクラシックカーの時代でした。
・自動車解体業:まだ解体する車が少なかったからなのか、太陽にほえろ!や大都会で出てきたような「解体待ち車積み上げ」にはなっていません。
・自動車整備業:ドラマの舞台となる新宿(の特に歌舞伎町周辺)にも、なんと自動車整備工場がありました。荷車や自転車整備から発展したのか、ほとんど一室で整備をしています。店の前には都電が走っているのですが、都電脇の道は当然「駐車場」でした。
・街の車:エルフやキャンター、ふそう大型トラックにいすゞTMK、ブルーバード510や初代カローラがほとんど映っていません。平日の新宿だからなのか、ファミリアバンや日産中型トラック、初代キャブスターにトヨエース、ダイナ、ボンネットトラックなど、私が旧車と認識している時代よりも前の車ばかりです。これが昭和47年放送の太陽にほえろ!ではこれらの車がほとんどいなくなっているのですから、わずか3年でほとんどの車が入れ替わっているかもしれません。
土地家屋
住環境は良くありません。
アパート:当然風呂なし共同便所です。木造モルタルでしょうが、外壁は灰色になっているなど、昭和20年代の様子を色濃く残しています。木目調トタン外壁を張った家は、「新しい家」に見えます。なお主人公は、前述の自動車整備工場の二階に間借りしています。
ビル:新宿西口には、放送末期になって初めて京王プラザホテルビルの骨格が現れています。なお、西口の各道路は整備されています。雑居ビルが多数出てきますが、屋上やテラスには未整備の鉢植えやガラクタが山積されております。まだ「整理整頓」よりも「物が少ないので、いつか使うかもしれない」を優先していた時代です。
商店:二階建て住居兼商店が中心です。間口に店舗、奥に居間、二階が寝室という構成でしょうか。新宿東口にも普通の家庭がたくさんあったことを知りました。
警察内部:薄汚れた感じが、昭和20年代に建てられた建物の昭和40年代の姿を醸し出しています。机が木製なのは良いとして、個人ロッカーまで木製です。木製ロッカーは、初めて見ました。
道路:各地で開発や再開発がすすめられ、ダンプカーや掘り返した泥が多かったのでしょうか。道路全体が埃っぽく、道端には砂埃が堆積しています。痛みやひび割れも多く、新規舗装が優先で、維持管理はまだまだだったと考えられます。
交通:新宿東口の西武新宿駅前まで、都電が伸びていました。路面電車と国鉄、私鉄、バス、タクシーが移動手段だったようです。当時の地下鉄は、銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、都営浅草線、都営三田線のみ開通していたようです。加えて新宿は小田急や京王に乗ってきた人が、主に丸の内や新橋へ移動するために乗り換える駅にすぎませんでした。そのため繁華街が出来たようです。
なお、前述のとおり「マイカー」の車種があまり映りませんが、刑事たちも覆面パトカーに乗ることがほとんどなく、乗ってもH130型セドリックです。
暴走族を描くシーンがありました。昭和50年代の学校の落ちこぼれが鳴るものではありませんでした。金持ちの息子が親からバイクや車を買ってもらい、夜な夜な運転の腕を競うための集団だったようです。
人物:主人公は、ブルーデニムに革ジャンパーで活動します。まだブルーデニムを手に入れるには大変な時代だったはずで、これだけで「おしゃれ」とされたようです。
ほかの刑事は、清潔感がない茶色い半そでシャツや、ノーネクタイまたはネクタイを緩めた姿で活動しています。夏のシーンなどは、首に下げた手拭いで、汗を拭き拭きしながらです。クーラーどころか、扇風機すら貴重品だったようです。
登場する人物は、女性を含めてほとんど喫煙します。特に男性は、単に呼吸している時間よりも、喫煙をしている時間の方が長いのではないか、と思うほどです。「大人=喫煙」だったようです。
登場人物でも、女性となると状況が少し変わってきます。髪をカラーリングしている人が見られます。ミニスカートは普及していたようですが、ホットパンツやベルボトムパンツ、Tシャツは全く見かけません。おしゃれは女性のものだったようです。
スキーウェアを着るシーンもありました。今日のダウン入りのものではありません。セーターで防寒をし、そのセーターが水を吸うのを防ぎ、風の侵入を抑えるカッパのような服でした。
言葉:パワハラ、セクハラ、根拠のない断言など、現代では「古い人」に感じられるような話し方ばかりでした。例えば主人公が警察署前にジープを乗り付けるシーンで、こんなセリフがありました。
「相変わらずすげぇ運転してやがんなあア。早く嫁さんもらって落ち着けよ。」
結婚することと運転することは変わりませんし、乱暴な運転をすることが「すごい運転テクニック」ではありませんよね。
食べ物:個人の家庭を描いた風景がありますが、和食でした。サラダはなかったように思います。刑事たちは、出前のラーメンやたい焼きを食べるシーンがありました。当たり前ですが、「食通やグルメ」もなければ、「栄養のバランス」も考えない時代だったようです。
以上、色々書きました。1969年の様子をカラー動画で見られたことは、何にも代え難い経験です。このDVDは12話が選択されていますが、残り12話も見てみたいものです。