
私は、前期型のプレマシーに試乗して、車が「操作量や操作力に応じて過敏過ぎず鈍過ぎない程度に反応する様」に、ある種の感銘を受けました。そのプレマシーがマイナーチェンジを受けて、その美点が受け継がれているのかどうかを確かめるため、帰省した初日に試乗してみました。
現行プレマシー登場以降のマツダについて
現行プレマシーは、マツダが提唱する「ZOOM-ZOOM」第二世代として、第一世代の反省と他社の動向を考え、数年先までのマツダ車のあるべき姿として登場してきました。
具体的には、燃費の上ではハイブリッド自動車にはかなわず、電気自動車の時代はまだまだ先、大量生産の上では他社には追いつけない、ということで、「走って楽しく、燃費もエンジン車としては良い方」という、いささか消極的なものだったと記憶しています。
しかし、これまでミニバンといえば「背が低くてステーションワゴンとの違いが少ないO車」か、「背が高くてエンジンが大きくて、直線では乗用車には負けない」車がほとんどでした。その中でプレマシーは、いわゆる乗用車タイプのミニバンとして、ボデー形状からくる不利な点を克服し、走って非常に楽しいミニバンに仕上がっていました。
一方、他社は、トヨタがアイシスを生産するもののほとんど放置、ウイッシュは、初代は大ヒットするものの、より力が入った二代目はすっかり火が消えてしまいました。ホンダはストリームを作っているものの、これまたウイッシュと共に放置状態と、実はこのクラスのミニバンの市場は衰退しています。そんな中でマツダは力を入れて、ほとんどこのクラスの市場を奪っています。
エンジン
エンジンは、スカイアクティブGを部分的に採用しています。完全に採用したのは、ご存知の通りCX-5以降にフルモデルチェンジを受けた車ですが、プレマシーはマイナーチェンジのため、完全採用にはいたっていません。
アクセラのものとほとんど同じエンジンですが、排気系統の取り回しの違いによるものか、最高出力が3馬力ほど低くなっています。ピークパワーで、150馬力代のエンジンの3馬力の違いなどほとんど感じませんが、エンジンの吹け上がりが、CX-5のものと比べると若干鈍くなっているような気がします。
排気系が等長となり、集合部で他の気筒の排気ガスを吸い出す効果というのは、実は絶大です。そんなこった排気系を採用しない、10年くらい前の車は「排気マニホールド直付け触媒コンバーター」を採用していて、排気干渉も吸出し効果も全く考慮されない、作りっぱなしの排気マニホールドでしたが、エンジンの吹け上がり速度は今のものと比べて、非常に遅いです。
しかしながら、新設計エンジンの低中回転域のパワーは非常に増大しています。前期型のLF-VPSエンジンは、2500回転までの領域では、「エンジンの回転の上昇に伴って出力も増してくる」、まるでスポーツエンジンのような特性でした。その特性から、まるで昔のDOHCエンジンのような「カムに乗る(エンジン設計者が狙った回転域になり、バルブ作用角が回転数によく合ってくる)」感覚が味わえたものです。
その特性ゆえ、「俊敏な加速を得るためには、エンジン回転数を上げなければならない」という、乗用車エンジンとしての問題点もあるため、上り坂や定員乗車の場合にはパワー不足も感じたことでしょう。
このエンジンでは、2500回転以下の出力が大幅に向上し、エンジン回転数を上げなくても十分なパワーを得ることが出来ています。吹け上がりもLF-VPSと比べてシャープで、2割から3割も出力が増した印象です。古典的なスポーツエンジンらしい性能は味わえなくなりましたが、運転が楽になりました。おそらく、実用燃費の上でもそのくらいの割合で向上するのではないか、と思われます。
トランスミッション
これまたアクセラで採用した、スカイアクティブドライブ6速ATです。機構の上では全く変わりません。実は一番心配していた部分です。アクセラではすぐに二速にシフトアップされ、途中で加速してもシフトダウンが拒否されるシフトスケジュールで、ダイレクトはダイレクトでも、少しも俊敏に走れないトランスミッションでした。
CX-5にも同じトランスミッションが載りましたが、最終減速比が下げられて、だいぶ走りが良くなっていました。さらにモデル途中で「キックダウンスイッチ」が追加され、アクセルペダルを大きく踏むと、無条件でシフトダウンする設定にしたそうです。メーカーにも、ようやくシフトスケジュールの問題点が伝わったのでしょうね。
そのトランスミッションがアクセラより重く、エンジンはアクセラと同じプレマシーに積まれたのですから、「鈍い走りになっていないだろうなあ?」と、心配になったのです。なお、プレマシーにおけるキックダウンスイッチの存在については不明です。
ところが、その心配は無用でした。一速のままでいる期間がアクセラよりも若干長くされ、発車時の加速において、鈍さを感じません。アクセルペダルの開度が浅い領域では比較的早くシフトアップされますが、そこでアクセルペダルを踏み増すと、なんと素早くキックダウンが行われます。一速にキックダウンが起こるとは、なかなか思い切ったシフトスケジュール設定です。
仮にキックダウンスイッチがあるとして、そのキックダウンスイッチが作動しない領域で、もうちょっとシフトアップ時期が遅くても良いような気がしますが、それでも随分と走りやすいトランスミッション設定になってきました。
マツダの技術関係の人がこのブログを見ているかどうかはわかりませんが、試乗で感じた不満は書いてみるものです。
なお、最終減速比がアクセラの約4.000に対し、4.325と低められているのも俊敏さを感じるようになった、大きな要因の一つだと思います。
なお、二速以上での変速はスムーズかつ適正で、スカイアクティブドライブATの美点である「ダイレクトなエンジン動力伝達」による走行を楽しめます。面白いトランスミッションになってきました。
ステアリング
前期型同様のEHPS(電動油圧ポンプ式油圧パワーステアリング)が採用されています。油圧パワーステアリングならではのなめらかな操作感覚が得られるとともに、エンジン動力を用いないという利点があります。
前期型では「国産車としては驚きの重さと、操作量に応じて車が徐々に方向を変える感覚が味わえる」と書きました。アクセラでは「ややダルになって美点は失われた」と評価していますので、かなり心配でした。
しかし、前期型のものと比べてやや要求操作力が軽くなっただけで、車体側の反応などはそのままです。ミニバンとしては、このような変更も良いでしょう。
なお、これは15インチタイヤ仕様での感想です。
サスペンション
こちらも、やや「当たり」が柔らかくなったように感じます。前期型では、特に突起に乗り上げた時に「コツコツ」と硬さを感じましたが、その角が丸くなった印象です。これも、ミニバン型乗用車としては、順当な変更だと思います。
操舵に対する車体の反応は、ややおとなしくなったような印象ですが、それでも楽しい感覚やダイレクトな感覚は、悪くなったとは感じません。むしろ、「乗り心地が良くなった」変化の方を強く感じます。
ブレーキ
前期型のこの車のペダル操作感は、当時としては非常に剛性感が高く感じられました。アクセラではこれがややダルになったと感じました。また、「マツダ車とホンダ車のブレーキを比較した場合、マツダ車も悪くはないが、ホンダ車と比べるとスポンジーなペダル操作感である」と、書いたことがあります。
この車は、相変わらず剛性感が高いペダルフィーリングになっています。ホンダ車と比べるとやや劣るように感じますが、国産車の中ではよくできている方です。
ボデー
営業の方の説明によると、「全く変わっていない」そうです。確かに、店頭に置いてある車を「前期型か?」と思ってしまいました。
なお、4WDや2WDの下級グレードにはLFエンジン搭載車も残っています。ヘッドライトやテールランプを「変更のための変更」として変えるのも無駄に思えますので、英断といえば英断ですが、ちょっと寂しい感じもします。
このボデー自体の剛性は結構高く感じますが、マイナーチェンジでアクセラがボデー剛性を大きく上げたのと比較すると、従来のままのこの車は、若干アクセラとの対比では、剛性が低いような印象です。できれば、この車もアクセラ並みのボデー剛性向上策を採用して欲しかったです。あくまでもアクセラ比のお話であり、この車の剛性が低くなった、という意味ではありません。
まとめ
何度乗っても、プレマシーは誰にでも勧められるミニバンです。中でも「家族の都合により、ミニバンには乗りたくないけど選ばなくてはならない人」には、特に勧められます。
操作感は、スポーツカーと比べるともちろん鈍くはなっていますが、車高やサスペンションの設定に対して非常によく合っていて、バランスの良いコーナーリングが可能です。決して速い車ではありませんが、「車と対話しながら運転ができる車」です。ステアリングやブレーキ、アクセルペダルに対する車の反応が自然で、楽しく運転に集中できます。このように濃密なドライビング感覚が得られる車は、ボデー形状を問わず、そうそうあるものではありません。
また、他のミニバンが、どちらかというと運転士はおまけのような存在になってしまうのに対して、この車は運転士が主役でいられる車です。
こういう車はなかなかできるものではありません。おすすめ度では、マツダ車の中でも一番です。
今回は、動画も撮影しています。
アイドルストップ状態から、再始動の様子
アイドルストップから発車
Nレンジにしても、アイドルストップのままです
急加速
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トヨタ ノア(前期型)
トヨタ スペイド
トヨタ プリウスα
日産 ラフェスタハイウェイスター(前期型)
日産 セレナ(Sハイブリッド)
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ホンダ フィットシャトルハイブリッド
ホンダ フリードハイブリッド
ホンダ ステップワゴン(前期型)
マツダ プレマシー(前期型)
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マツダ アクセラ(後期型、埼玉)
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Posted at 2013/04/07 23:41:33 | |
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