
この日は公休日でした。有楽町のタイムズレンタカーでは、旧型車等を安く借りられますので、試してみることにしました。フェアレディZの1975年式です。排出ガス規制未対策の一番最後のモデルで、1970年代のハイパワーウォーズを垣間見せた最後の時期の車です。
概況
フェアレディZの初代モデルは、先代のフェアレディ(SP、SR)から一転、スポーツカーからスポーツら行くなGTカーへと性格を変えてきました。当時のスポーツカーといえばオープンスポーツカーが当然で、快適性などない贅沢な乗り物でした。
フェアレディZは、クローズドボディとし、スポーツカーの操縦性とスピード、GTカーの快適性とを融合し、旧来のスポーツカーをことごとく駆逐しました。以後、スポーツカーはフェアレディZの様式が基準となり、オープンスポーツカーは1989年のマツダロードスターまで絶えてしまったのでした。
エンジン
当時の日産のハイパワーエンジンである、L20エンジンを搭載しています。SUツインキャブを2機し、指定燃料はハイオクガソリンです。本モデルの中にはS20エンジンとL24エンジン搭載車があり、このエンジンは普及グレードとしては上級に位置します。
エンジン自身は比較的中低速仕様ですが、SUキャブレターのチューニングが合っていなかったのか、発進時に注意しないと「かぶり」を起こしてしまう状態でした。ソレックスやウエーバー仕様ならともかく、標準のSUキャブでもかぶるとは予想していませんでした。
加速をはじめると、2000回転未満ではエンジンの出力は十分に出てきません。2000回転を超えると盛り上がるように出力を発揮し、4000回転以上では豪快な排気音と共に出力がより一層増す印象です。5500回転以上では出力はやや鈍るものの、糞詰まりという印象はありません。これも、排出ガス規制未対策ゆえ、バルブタイミングやバルブリフト量、触媒コンバーターがない効果ではないかと思います。
アクセルレスポンスは、重い直列6気筒を感じさせないもので、アクセルペダルの操作に機敏に反応します。吸気音はさほどではありませんが、排気音はよく聞こえてきます。1500回転程度ではどことなく3気筒エンジンを感じさせてしまいますが、1500回転以上での豪快な音は、エンジンを回す楽しみを十二分に味わえます。
一般にL型エンジンは回転の上がり方が鈍いと言われがちですが、雑誌が言うほど鈍い印象はありませんでした。もちろん、インターネット動画サイトなどに出てくるチューニングカーと比較するとレスポンスは鈍いですが、GTカーとしての性格を考えると十分です。
余談ですが、ブローバイガス還元装置こそ搭載されるものの、蒸発ガス発散防止装置がクランクケースに貯蔵する方式からか、エンジン停止中にガソリンの匂いが漂ってきます。走行中もなんとなく匂いがしてくるために、頭がクラクラしてしまいました。一時的にエンジン性能を極端に落とした国産車ですが、その後は排出ガス規制を満たしながらハイパワーウォーズになってしまうわけですから、やはり排出ガス規制は必要だと思います。未対策車は、環境にも人にも良くありません。
トランスミッション
5速MTを搭載しています。当時の車を評価する雑誌によると、当時の日産車のシフトレバーはグラグラと位置が定まらないことになっていますが、決してそんなことはありません。トヨタのT系トランスミッション程度の印象で、シフト方向への操作感も、シフト時のクリック感も良好で、気持ち良い操作が可能でした。
ステアリング
当時採用している車がほとんどなかった、ラック&ピニオン式ステアリングを採用しています。パワーアシストは搭載されていないために重いことは重いのですが、操舵開始から操作量に比例して車の前側が向きを変えます。遊びも僅かで、スポーツカーとしての走る楽しみを充分味わえます。
ラック&ピニオン式のステアリングは、今日の車は普通に採用している方式ですが、操舵のシャープさが全く違います。この操舵感であれば、危険回避も安全にハイスピードドライブを楽しむことも可能です。正確な操縦性は安全性にも寄与するものです。私のコロナはボール循環式ステアリングギヤボックスを採用していますが、ステアリング中央付近の曖昧さ、遊びの量、操舵開始時の反応、全てこの車に劣っています。それどころか、ラック&ピニオン式を採用する現代の普通の車と比較しても、この車のステアリングはシャープであり、操舵と車の動きが一致しています。
これまた一般的には、フロントに重いエンジンを搭載しているために操縦性が鈍いことになっているのですが、重いエンジンの存在を感じさせない操舵性でした。
サスペンション
改造されているのかいないのかは不明ですが、かなり硬い印象のサスペンションでした。また、ショックアブソーバーが劣化しているのかもしれません。突き上げ感が強く、快適性よりも操縦性に重きを置いているようでした。とはいえ、四輪独立懸架方式の良さは出ており、後輪が突起類に乗り上げた時の車体の横揺れはほとんどありませんでした。
なお、リヤサスペンションは後輪駆動車では珍しいストラット方式を採用しれいます。後年のFWD車のようなダブルリンク方式ではなく、シングルアーム方式です。
この方式は、他車に採用されたセミトレーリングアーム方式と比較してもキャンバー変化が大きいようです。しかし、今回はスポーツドライビングはしなかったため、欠点は見つかりませんでした。
ブレーキ
これまた操作感は重めでした。サーボアシストも少な目で、急ブレーキ時には重さを感じると推察されます。若干、ペダルの遊びが大きいように感じましたが、慣れてしまえば車種ごとのバラつきの範囲です。
ボデー
大きくなった現代の車と比較すると、驚く程細く短い車体です。コンパクトで、二人を移動させるには大きくて、贅沢な車です。正確な寸法は図っていませんが、おそらく初代マツダロードスターと大きくは変わらないことでしょう。
ロングノーズボデーの2人乗り車であるため、乗員は後輪に近いところに座ります。車両の挙動をよく運転手に知らせるためには、ホイールベースの中央に座ることが良いとする意見がある一方で、この車や古い車のように、後輪に近いところに座らせたほうが良いとする意見もあります。
方法の良否はともかくとして、後輪近くに座りますと後輪のスライド感がよく伝わることになります。絶対的な性能はともかくとして、操縦性を味わうスポーツカーであれば、このスタイリングも良いと思います。
また、クラシカルなローングノーズショートデッキのスタイリングは、直感的に「車らしく美しい」と思わせてしまう説得力があります。ミッドシップのショートノーズ、ショートデッキボデーの方が近代的で、尚且つ絶対的性能は高くなるのでしょうが、競技をするのではなければ、私はこのスタイルの方が好みです。
内装はスパルタンなもので、形を変えながらZ31まで受け継がれていきます。堀りが深いメーター部、有機的な曲線、いずれも1970年代の始めとしては先進的な内装です。
余談ですが、試乗した車にはクーラーが装着されておらず、シートはバケット式のビニールシートでした。少し乗るだけで背中から股にかけて、汗で服か湿ることがよくわかります。この車に乗ってデパート等に乗り付け、買い物をしようとは思いません。当時、カークーラーは徐々に普及する時期にありましたので、この種の車でも装着されていることのほうが多かったのではないか、と思います。燃料の匂いと暑さとで頭がボーッとしてしまいました。贅沢なドライビングだけではなく、安全運転のためにもクーラーは必要です。
まとめ
スポーツカーというのは、本当に贅沢な乗り物だということがよくわかりました。走ることに特化し、運転士はその性能を引き出すことを求められる、車と真正面から向き合うことが必要であるということがわかりました。フェアレディという名で流麗なスタイルを持っていながら、レディというよりも体育会系的な車です。
また、昭和44年から昭和52年まで製造されたこの車は、末期であっても当時の国産乗用車トップクラスの性能を持っていたこともわかりました。私の車とは、操縦性の次元が違います。
しかし、その生真面目さが意外に所有させる期間を短くしてしまうような気がします。私は、もう少し身を引いた「GT」や「スポーツセダン」の方が体に合いますし、多くの方はそのほうが長く車を楽しめる、と思います。
奇しくもマツダからロードスターが発売されましたが、後輪駆動と同じエンジンを持った小型セダンがあれば、おそらくもっとヒットすることでしょう。ほどほどに楽しむことが、長く楽しむ秘訣です。
なお、この車を含めたレンタカーは、有楽町マルイイトシア内にある、タイムズレンタカーのサービスXにてご利用になれます。詳しくは、リンク先をどうぞ!
Posted at 2015/05/31 23:17:16 | |
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