
日産自動車は、経営層の判断によってハイブリッド自動車の開発を中断してしまっていたそうです。そもそも2000年頃は、「ハイブリッド自動車は電気自動車が普及するまでのつなぎの技術である」とされていたものです。
技術的にはそうであっても、使う人や売る人にとっては、つなぎであっても採用されないと困るものです。そんな日産自動車が、かつての「ティーノハイブリッド」で確立した、「2クラッチ1モータートランスミッション付き」システム以外のハイブリッド自動車を登場させました。それが、「ノートe-power」です。なお、この車を「電気自動車の走行距離を伸ばした「レンジエクステンダーev」」とする説もありますが、私は「エンジンが車軸と直結しない車」はレンジエクステンダーevにしても良いと思います。
エンジン+モーター
この車のエンジンは、発電機を回転させるために存在しております。すなわち、エンジンが発揮する動力を車両の出力として感じることは出来ません。駆動用バッテリーの充電割合が高ければ目一杯モーター出力を増やして急加速が出来ますし、電欠に近い状態ではエンジンは回転を上げて発電に専念、発電された電気のみで駆動用モーターを回す、という、自動車ながら「自転車操業」になる状態にもなり得ます。エンジンの出力について云々することは、音や振動のみになります。
エンジンは、既にノートに搭載されている3気筒ガソリンエンジンの「HR12DE」エンジンが搭載されておりますが、クランクケースなどを中心に新設計になっているそうです。文献等によると、吸入空気量を抑制する「ミラーサイクル、アトキンソンサイクル」は採用されていない模様です。現在のところトヨタ アクアと比較すると燃費が良くありませんが、この辺りに次回の改善点を残しているようです。
HR12DEエンジンは、トヨタの3気筒エンジンである1KR-FEエンジンと比較し、音や振動設計に優れています。また、車軸とエンジンが直結していないからなのか、同じエンジンを搭載するエンジン駆動車よりも音、振動とも極めて低く抑えられています。3気筒エンジンらしさを感じさせるのは、急加速などでたまたまエンジン回転が上げられた場合だけです。その際にも、制御系はたくみに3気筒エンジンならでは音や振動が高まる回転領域を避けています。排気音はどうにもなりませんが、それでも3気筒エンジン車に乗っている事を忘れるほどです。
モーターは、日産リーフのものを採用しているとのことです。航続距離を280kmに伸ばしたマイナーチェンジを実施以降のモーターであるため、初期型のリーフほど発進時の力強さはありませんが、2000-2500ccエンジンを搭載するトルクコンバーターAT車に近い、鋭い加速が可能です。出力制御も巧みで、じんわりと出力を高めるようにしています。市街地を制限速度内で走行するのみでしたが、力強く滑らか、静かな加速が可能です。この感覚を味わうと、いくら「力強さを感じる」とはいえどもエンジン車が蒸気機関車に思えてしまいます。
なお、トヨタのハイブリッドシステムが、特にアクセラハイブリッド登場以降は「アクセルペダル操作に合わせてエンジン回転数を上下させるような制御」を採用、あたかもエンジンで走っているかのような雰囲気を演出しております。しかしこの車はそのような制御は全く行わず、エンジンはもっぱら電池内電気の減少分を補うように、電池の減り具合に合わせた回転をします。
以上のことより、この車は一時の排気音を除いて概ね電気自動車として走行していると考えて構いません。

エンジン冷却水サブタンク

エンジン電動ウオーターポンプ
*整備事業者の皆さんへ
整備モードがあり、1200回転でのアイドル回転となります。方法はトヨタのハイブリッド車の方式と同一と考えられます。
回生(発電)ブレーキについて
これまでのハイブリッド自動車や電気自動車は、「ブレーキペダル操作に応じて摩擦式ブレーキがそのまま作用する」ものと、「ブレーキペダルを操作しても回生ブレーキが優先され、摩擦式ブレーキの作動を遅らせる「電子制御遅れ込め」式があります。後者にはトヨタのソレノイドバルブ制御式と、日産やホンダが採用する「電動ピストン式マスターシリンダー」があります。この車は後者の方式が採用されると思いきや、真空マスターバックと普通のブレーキペダル連動型油圧式マスターシリンダーが採用されております。
ブレーキをシンプルな方式にする一方で、回生ブレーキを「アクセルペダルを放しただけで目一杯作用する方式にしています。
例えば時速40kmで走行中、アクセルペダルを全閉にすると普通のエンジンMT車は、エンジンブレーキが働き、まあまあの減速をします。普通のエンジンAT車はトルクコンバーターがあるため、エンジンブレーキこそ作用しますが、あまり減速しません。これまでのハイブリッド車は、トルクコンバーターAT車を再現した、あまり減速しない制御を採用しております。
この車では、エンジンMT車で言うところの、2速にシフトダウンした場合と同じような減速をします。かなりの急減速で、私は試乗期間中には慣れず、早く止まってしまうことばかりでした。このくらい回生ブレーキを強めていますが、減速度の調整はアクセルペダルの「戻し量」で調整出来ます。
アクセルペダル踏み込み量を減少させると、緩やかに制動力が立ち上がります。すなわち、回生ブレーキが突然減速度を増すのではなく、あたかも見えない誰かがふんわりとブレーキペダルを操作、かつ、結構踏み込む印象です。エンジン車では「燃料カット」を生かすために、エンジンブレーキはアクセル全閉ですることが基本でした。回生ブレーキの調整は、「ペダルを踏み込み量が少ないほど作用する」という、ブレーキペダルとは反対の調整をしなければならず、習熟には時間がかかりそうです。
シフトスイッチの斜め後方には、ノーマル、エコ、Sと切り替えるスイッチがあります。エコでは回生ブレーキの作用が弱められ、トルクコンバーターAT車のような、アクセルペダルオフで空走するような運転も可能です。このスイッチが大変操作しづらく、手探りで探してしまいます。シフトスイッチをリーフと共用しているのですが、このシフトスイッチの脇にモード切替スイッチを搭載するか、コラム部にスイッチを設ける必要があります。可能であれば、レバー操作回数で回生ブレーキを調整できたり、アクセルペダルを全閉から半分ほど踏んだところに「半押しスイッチ」領域を用意し、この半押しスイッチを操作している領域と、半押しスイッチ操作状態よりもより踏んだ状態で回生ブレーキを効かせるようにすると良いでしょう。
鉄道会社も、2ハンドル(加速のマスターコントローラーハンドルとブレーキハンドル)から1ハンドル(T字のレバーを手前に引いて加速、向こう側に押し倒してブレーキ)とする場合には、運転士の習熟期間を十分に取ったものです。
私も、レンタカーにこの車が登場したら、習熟を目的として真っ先に借りてみるつもりです。
電池について
電池は、リチウムイオンバッテリーを採用しています。エンジンが発電を行う分、リーフよりもモジュールが少なくなっている模様です。電池の制御はこれまでのプリウスのように、なるべく表示上の満充電を維持するように努めています。
電欠に近い状態になるとエンジンで発電をしますが、その際には速度が著しく低下することが予想されるために、亀型の「出力制限警告灯」が搭載されております。箱根や日光のような連続登坂路や、中央道談合坂などの高速登坂路の試験が必要になると考えています。
電気自動車とは異なり充電状態の心配をする必要はありませんが、エンジン制御と密接に関わっているだけに、大切です。
*整備事業者の皆さんへ
サービスプラグは、助手席座面下の床部プラスチックカバーを外すとある模様です。また、補機バッテリーはスペアタイヤがあったトランクルーム下部にあります。補機バッテリー上がり時のための救援端子は、エンジンルーム内にあります。
トランスミッション
この車には、モーターの回転を減速する減速機はありますが、変速をするためのトランスミッションはありません。概ね同じハイブリッドシステムを採用する、ホンダアコード/オデッセイは、高速時にエンジン出力軸を減速機に直結させるクラッチがあります。エンジンが高効率で回転可能なときには、発電による損失を抑制しております。発電時と電気駆動時、それぞれに損失が発生するためです。
この車はそのような直結機構は搭載せず、高速走行時には発電をしながら電気駆動をしております。場合によっては、エンジン音が高まってしまうことが考えられます。
その他装置について
今回のe-powerシステムはマイナーチェンジとともに追加されました。駆動系以外にも改善が及び、中でもフロントサブフレームは、「一本棒」形状から、梁を一本追加して「井桁」化しているとのことです。外観も下広がりの安定感があるものに変更されました。前期型と大きな違いは感じませんでした。

インバーター

補機バッテリー

補機バッテリー近景

救援端子
ブレーキ
先に書いた回生ブレーキのみで、市街地を走行することが可能です。トルコンAT由来のクリープ現象も再現されておらず、新しい運転テクニックが求められます。上手く運転すれば、トヨタのハイブリッド車以上にブレーキを減らさずに運転できます。鉄道では、摩擦ブレーキは非常時と停車時のブレーキとしてしか使用しておらず、鉄道に車が近づきつつあります。
摩擦ブレーキはエンジン車と変わらず、しっかりとしたペダル反力が得られ、ペダル踏み込み力と減速度の調整は簡単です。ただし、回生ブレーキがそれに加わるため、総合的なブレーキ調整はなかなか難しいです。
なお、衝突軽減ブレーキは装着されており、その時にはこの摩擦式ブレーキを作用させることでしょう。しかし、前車追従クルーズコントロールは装着されておりません。
*整備事業者の皆さんへ
真空マスターバックかつ油圧マスター/ホイールシリンダー式であるために、ブレーキ液の交換/ブレーキ系統のエア抜きは、普通のエンジン車の手順と同じであると推察されます。
サスペンション
サスペンション自体は動き出しがスムーズになり、乗り心地が良くなりました。路面の突起の角が丸く感じられます。電池を床下に搭載しているために、ステアリングを操作した時のロールはもちろん、サスペンションが路面の突起に乗り上げた際の、ロール方向の動きが抑制されております。この柔らかさであっても、重心高が低いためにあまりロールには悩まされないと考えられます。
ただし、サブフレームを井桁化した効果は感じられす、突起乗り越え時にややボデーが震えます。これが少し前の日産車の良くないところで、若干ボデー剛性が低いように感じられてしまうことが残念です。
後にボデー補強を加えたニスモ仕様が追加されるとのことです。実際には乗ってみないとわかりませんが、補強を加えてようやく現在新発売される車に近づく、ということも言えます。
ステアリング
低重心ゆえに、コーナーリング時のサスペンションアライメント変化が少ないようで、車高の高さを忘れるコーナーリングが可能です。乗用車ゆえ、ステアリング操作にクイックに車が向きを変えることはありません。エンジン仕様のノートとリーフの中間くらいの印象です。
ボデー
内装は、前期型と比較してずいぶんと仕上がりが良くなりました。前期型は貧弱な印象であったこの車が、旧型のティーダに近づいています。この種の車にありがちな「スイッチだらけのインストルメントパネル」でもないために、すっきりとした印象です。ドア内張りが柔らかい、などの高級車のようなことこそありませんが、買ってがっかりする旧型の印象はかなり少なくなりました。
ボデー自体の剛性は全く変わっていない印象で、これは残念な点です。リーフでは電池フレームによる補強を実感出来ましたが、この車は椅子の下を中心とした、カーペットと金属床の間に電池を搭載しているゆえの結果です。
視界はこれまでと変わらず、良くもなく悪くもない程度です。
外観の印象はかなり変わりました。
バンパーが、これまでは下を丸くしたもので、どことなく重進行が高い印象になっていました。テールランプ内のフラッシャー灯も縦長、グリルにヘッドライトがくい込むデザインが強調され、安定感に欠けるスタイルでした。

前期型

後期型
後期型はバンパー下部を角ばった形状に変更し、車両の横幅が増した印象です。テールランプ内フラッシャーも横長になり、どことなく初代前期型フィットに似ています。ヘッドライトとグリルの関係も見直され、Vモーショングリルによって「グリル食い込み感」がなくなりました。
まとめ
ノートは、ようやく折り返し点の年代になったのですね。すっかり古い車になってしまった印象ですが、昨年初めのニスモ仕様追加とe-power追加により、魅力的なモデルになってきました。アクアにフィットハイブリッドにデミオ(ディーゼルエンジン)にと、異なるアプローチで小型車が新しい策を提案し、どれも魅力的になっています。久しぶりに、メーカー同士の争いが見られる市場になってきました。
おまけ
日産販売店では、既納客に対してDMでお知らせをしていました。そのために多数の試乗客が来ていました。おじさんやおばさんもいました。皆、「よくわからないけれど、新しくて自分でも買えそうな車に乗れる」ことに喜んでいたようで、ニコニコしながら運転席に向かう風景が印象的でした。新しいものは、みんな大好きなんですね。誰もが買える価格帯の車を「乗ってワクワクする新しさ」を感じさせるようにすることで、またお客さんが車に帰ってくるのではないか、そう感じた日でした。
参考にして欲しい記事
日産
ノート(DIG-Sスーパーチャージャー仕様(前期型))
ノート(ニスモ仕様MT)
マーチ(最初期型)
マーチ(ニスモ仕様MT)
シルフィ
リーフ(最初期型、低回転モーター搭載車)
エクストレイルハイブリッド
トヨタ
アクア(最初期型)
ヴィッツ(後期型 1NR-FKEエンジン搭載車)
ラクティス(前期型1300ccエンジン車)
ラクティス(前期型1500ccエンジン車)
スペイド
シエンタ(エンジン車)
パッソ
カローラ(アクシオ、2NR-FKE アトキンソンサイクルエンジン搭載車)
プリウス(長距離)
プリウス(短距離)
オーリス(RS MT仕様)
ホンダ
フィット(1300ccガソリンエンジン仕様)
フィット(初期型ハイブリッド短距離)
フィット(初期型ハイブリッド中距離)
フィット(RS MT仕様)
グレイス(ハイブリッド)
アコード(最初期型)
マツダ
デミオ(最初期型、ガソリン/ディーゼルエンジン車同時試乗)
デミオ(最初期型、ガソリンエンジン車のみ中距離試乗)
デミオ(最初期型、ディーゼルエンジン車短距離試乗)
CX-3
アクセラ(ハイブリッド)
スバル
XVハイブリッド(初期型)
スズキ
イグニス
スイフト(デュアルジェットエンジン搭載車)
スイフト(最初期型標準エンジン車)
VW
ゴルフ
up!
メルセデス
ベンツGLA