
この日は、ブルーバードシルフィのキーレスエントリー送信機の電池交換をするために、販売店へと向かいました。途中、トヨタの販売店にCH-Rの試乗車があるのを見つけ、立ち寄ることにしました。
CH-Rの位置づけ
CH-Rは、もうお馴染みの「クロスオーバー」に位置づけられています。最近は当たり前の分野になったためか、クロスオーバーという言葉すら聞かなくなってきています。元々は、ステーションワゴンやハッチバックの地上高を上げ、SUV風の雰囲気を与えた車を分類していました。しかし、ひとつのジャンルとして馴染んできたために、言葉が古くなったと考えられます。
さて、CH-Rはトヨタ ハリアーの小型版として、これまでのRAV4の位置にあると言えます。4輪駆動は電子制御カップリングによるオンデマンド型であり、2WDも廉価版ではなく堂々とラインナップしていることから、オフロード走行はほとんど考えていない傾向が伺えます。
そんなことから、現在のクロスオーバーは「セダンの否定版」として存在していると考えられます。1960年代前半の2ドアクーペや2ドアハードトップ、1980年代前半の3ドアハッチバック、1980年代後半からの4ドアハードトップ、1990年代初めのクロスカントリー4WD、1990年代後半のステーションワゴンなど、「セダンは地味すぎて乗りたくない」需要に応えた車であるということです。
その需要に応えるべく、CH-Rはかつての「セリカ」を思わせるクーペルックで、未来感覚にあふれて、いかにも「カッコ良い」スタイルを実現しています。今や、「仕事中は努力し、オフタイムは服や靴、アクセサリーでプライベートタイムを演出、楽しむライフスタイル」が当たり前になり、そんな小道具としての車に設計されています。
今回試乗したのは、現行プリウスのエンジンとモーター、駆動系統をそのまま移植した2WDモデルです。
エンジン+ハイブリッドシステム
現行プリウスと同一のシステムが採用されております。プリウスの試乗は登場当初と、半年ほど経過してからレンタカーで実施しました。印象は多少異なっております。
まず、モーターで発車してからエンジンを始動する際の状況です。プリウスではスロットルバルブをやや開いた状態で、「プン」と、勢い良く始動される印象でしたが、この車ではこれまでのプリウスと同様、静かに始動される印象になりました。加速時の滑らかさが増しましたが、スロットルボデーが汚れた際の耐性には、また問題を抱えることになったことでしょう。
エンジン出力とモーター出力との合計である、「システム出力」は変化がありませんが、アクセル操作に対する出力のピックアップは、より鋭くなった印象です。アクセルペダル操作に対して出力がすぐに出てくる印象で、1440kgという重量を感じさせない走りが可能です。
サスペンション
この車には19インチのタイヤが装着されており、乗り心地の硬さが予想されました。しかし、TNGAボデーを採用しているためか、ボデー前後とも路面の突起を十分に吸収し、サスペンションが良く動きます。路面の突起はわずかに感じられる程度であり、スポーティーカーのような乗り心地になっています。
この種の車というと、クッション性を期待してか、タイヤ側面が厚い(扁平していない)タイヤを採用し、舗装路でも若干左右に揺すられるような、タイヤの無駄な動きが見られたものですが、扁平タイヤとTNGAボデーのおかげで、前述のような揺すられる動きが全くありません。
試乗路にはカーブというほどの曲がり道はありませんでしたが、ロールは無理に抑えていないような印象です。多少は荒れた路面を走ることを予想してか、クロスオーバーゆえなのか、スタビライザーの効きを弱くしているような印象です。
スポーティーカーに乗っているような気分になって山岳路を飛ばすと、カーブでは無理ができない走行を強いられると推察されます。もっとも、山岳路を飛ばすような走りとは無縁の車です。都会をおしゃれに走り、安定感と乗り心地の良さを楽しめることが第一なのです。
ステアリング
当然のごとく、電動パワーステアリングが採用されています。ギヤ比がそれほどクイックではないのか、それとも微小舵角にはあまり反応しないようなサスペンション設計になっているのか、乗り心地のしっかりさとは反対に、若干鈍い操作感覚になっています。とはいえ、遊びが多くて操舵から車が向きを変えるまでに時間がかかるほどではなく、「適度な鈍さ」ではあるのですが、乗り心地との関係において、若干チグハグな印象でした。
恐らく、ロールが比較的大きいことから、あまりシャープな操舵感覚にしてしまうとロールスピードが速まってしまい、車の地上高の高さと相まって「乗員の頭が左右方向に振れる」印象になってしまうのでしょう。ステアリングの効きを調整することで、サスペンションセッティングを決定したと推察されます。
ブレーキ
ブレーキシステムも、プリウスと同様のECB(電子油圧制御、後輪遅れ込め制御付き)が採用されています。これもプリウスとはかなり異なる印象です。
プリウスの場合には、ECBの悪さでもある、「踏み込み反力の曖昧さ」「ペダル戻りの曖昧さ」が復活してしまった印象でした。
しかし、この車は「アクセラハイブリッド」並みに、固めのペダル踏み応えと、正確に戻ってくるブレーキペダルが実現されています。ECBには全く良い印象がありませんでしたが、この車のブレーキはECBを忘れさせてくれるほどです。
ボデー
前述の通り、TNGAボデーを採用しております。プリウスに続く第二弾ですが、プリウスの時と同様の、強靭なボデー剛性を感じます。ボデーの剛性バランスも良いようで、突起に対してボデー全体で力を受け止めているような印象です。試乗車は19インチタイヤを採用しており、ボデーへの攻撃性はプリウスよりも大きくなっています。余裕度が低下している印象もなく、また、ボデー後部がハッチゲートになっていて大きな開口部があるという印象も皆無で、高い満足を得られます。
外観から想像できるように、この車の最大のネックは、「斜め後方視界の悪さ」です。かつてのホンダ CR-Zと同様に、斜め後方の視界は絶望的です。この車の装着されていた「バックモニター」は感知範囲が広く、斜め後方も映し出してくれます。
しかしそれは後退走行をする時のお話であり、一般路で交差点を曲がるときや、高速道路等で合流する時は、バックモニターは作動しません。
この視界が良くない点も、初代セリカ(のリフトバック)を思い出させる点かもしれません。ウエストライン(ドアの金属部分の上端)が高く、屋根が低く、テールゲートガラスも寝そべっている、と、この車は視界を全く考えておりません。初代セリカの頃は、「交通戦争が激しくなり、車の乗員は外界から遮断されたルーミーな(視界を遮った)スタイルを好む。」という理論で車は視界を悪くしていました。この車の場合は「自分達だけ良ければ、周りの人のことなんか関係ないよね」という、今風の狭い人間関係にこもりたがる20、30歳代の人の状況を思わせます。
内装は黒一色であり、セリカから感じる、「かつてのスポーティーな印象」を思い出させます。内装はやや有機的なカーブでまとめられており、柔らかい印象です。二代目日産シルビアや、E110カローラレビン/スプリンタートレノを思わせ、これも以前のクーペ感覚に溢れています。
すなわち、欧州のクロスオーバーやホンダヴェゼルに少々、スバルのレガシィアウトバックが感じさせる、「アウトドア」「大人がキャンプ道具を持ってこの車で出かけ、湖畔でテントや火を焚いてコーヒーを飲む」ようなイメージが全く排除されています。徹頭徹尾、都会派を目指していることがよくわかりました。
まとめ
1996年頃に登場した、RZN180系ハイラックスサーフには、「スポーツランナー」というグレードがありました。2700ccの4気筒ガソリンエンジンを搭載し、地上高を下げた上でエアロパーツを装着した2WDモデルでした。当時アメリカで流行っていた、GMCタイフーンなどのイメージを狙った「スポーツトラック」のイメージです。そのイメージを近代化し、ショーモデルカーの格好良さを吹き込むと、こんな感じになるのだな、という車でした。いやはや、感服、格好良いです!
しかし、その格好良さについていけない自分を感じてしまいました。この車には、だらしない格好では乗れません。(コロナやブルーバードシルフィに、だらしない格好では乗っていません。)
また、高級クロスオーバーとも異なる、スポーツ用品にも似た、わかりやすくて若々しい格好良さです。フォーマルさを出したレクサスNXやホンダ ヴェゼルなどとは少々方向が異なります。こういう感覚は、なかなか乗り手を選んでしまうのではないでしょうか。販売上は、この点が心配です。車としての出来は、視界を除いて素晴らしく仕上がっていると感じます。
おまけ
この車を見に来る人の多くは、日産ジュークやホンダヴェゼルに乗ってくるそうです。なんと、買われて半年のヴェゼルを下取りに出してこの車を買った人もいるそうです。この種の車は服と同様、「旬でおしゃれに思ってもらえる期間に乗る」ことに意義が見出されていると感じます。クロスオーバーブームも、参入するメーカーが多くあるものの、若干折り返し点に来ているような印象です。
参照して欲しい記事
トヨタ
プリウス(現行、短距離試乗)
プリウス(現行、長距離ドライブ)
日産
エクストレイル(ハイブリッド)
エクストレイル(ガソリン)
ジューク(中期型)
ジューク(初期型)
マツダ
CX3
アクセラハイブリッド(短距離試乗)
アクセラハイブリッド(中距離ドライブ)
三菱
RVR
スバル
XVハイブリッド
フォレスター(前期型)
スズキ
イグニス
メルセデス
ベンツGLA180
Posted at 2017/02/11 22:16:13 | |
トラックバック(0) |
試乗 | クルマ