
この日は、プリウスに続いてCX5にも試乗出来ました。ここ最近のマツダのニュースというと、ニュースサイトによって「好調、深化」と評価する所があれば、「飽きられている、伸び止まっている」とする所もあります。インターネットニュースは、なんだか「お金のやり取り」のにおいがしてしまい、信用するに足りません。そんなこともあって私は、「ダイブ(ダイビングのダイブ)主義」を貫き、必ず自分で調べ、乗り、評価することにしているのです。
CX5について
先代のCX5の頃は、世界的にはクロスオーバー車が流行する兆しを見せていたものの、多くの人は疑ってかかっていたものです。ところがこの車が発売されるやいなや、特にクリーンディーゼルエンジン車が大人気となり、マツダの成功を磐石なものにしたのでした。
初代CX5は、軽快でポップなスタイルで、ちょうどアクセラのクロスオーバー車としての位置づけになっていました。また、それまでのモデルがスカイアクティブ技術群を部分的に採用するにとどまっておりましたが、この車ですべて採用されたのでした。操縦性も乗用車的で軽快、ディーゼルエンジンは最大トルクの大きさが売りとなり、大人気になったのでした。
モデル期間中には、2500ccガソリンエンジンモデルを追加、ディーゼルエンジン車の制御変更、外観を中心としたマイナーチェンジがあり、メーカーからはより小型の、CX3が追加されています。そして今回、最近の車としては異例の速さである、4年でフルモデルチェンジされました。
エンジン
旧モデルの途中で追加された、PY-VPS 2500ccエンジンが今回のモデルでは中心となっています。
2500ccで190馬力、25.6kgf・m(FWDモデル)で、自然吸気2500ccエンジンとしては高い出力を発揮しています。2000ccモデルの155馬力は平均的な出力でしたが、2500cc版は他社同等エンジンと比較しても、高い能力を持っていると言えます。
旧型同様の「スカイアクティブ技術」がすべて投入されたエンジンであり、大きな変更はありません。他社のエンジンがハイブリッド技術に向かい、エンジンそのものの改善がほどほどに終わってしまっている中、トヨタのターボエンジンとともにお金が掛かっているエンジンです。わずか4年では古くなりません。
エンジン音は、2000ccエンジンでは「ウニュー」とでも表現される、モーターの磁歪音にも似た音が全域で発生していました。しかしこちらのエンジンでは、3000回転を越えた辺りから、低音の「ブオー」とでもいう機関音がほとんどを占めるようになり、走る気にさせてくれます。2000ccと2500ccとでは、エンジンの基本構造は同じですが、ボア径もストローク長も異なり、別のエンジンと言っても良いほどの違いがあります。
アクセルペダル操作に対しても俊敏に回転が反応し、大きくなったこの車を活発に走らせます。2000ccでも普通には走れますが、余裕と活発に溢れる2500ccモデルをお勧めします。多くのメディアでは走りの余裕から2500ccを推すでしょうが、私はエンジン音の点からお勧めします。この「音」は、こんにちの車ではなかなか得られるものではありません。
トランスミッション
こちらもこれまでのスカイアクティブドライブ6速A/Tが採用されています。最初に搭載された旧型アクセラの頃には発進加速が鈍かったものですが、旧型CX5ではかなりの改良が行われた模様で、発進加速、中間加速とも活発になりました。特にファイナルギヤの工夫(?)が功を奏しているようです。前述の旧型CX5の2000ccエンジンモデルは、若干出力に余裕がなかったものです。しかし、6速の多段化と持ち前の「ダイレクト感」と「多段化」で、巧みにエンジン出力を取り出しています。
ただし、2500ccとエンジン出力に余裕が出たためか、再び1速で走る期間が短くされてしまい、発進加速の鈍さが顔を出してしまいました。普通に走る分には大丈夫なのですが、あっという間に2速にシフトアップされてしまい、加速が鈍ります。
メーカーの方の話によると、1速ではトルクコンバーターをロックアップせず、2速以上でロックアップが始まるとのことです。そのため、燃費を重んじるのでしたら上記の早いシフトアップで良いのですが、2500ccへのケールアップを相殺してしまっています。もちろんマニュアルモードを活用すれば良いだけのお話しですが、いっそのこと1速の途中でロックアップし、1速の時期を延ばす変更はいかがでしょうか。
ブレーキ
マツダ車の美点である、踏み応えがしっかりしていて、ペダル踏力で制動力の強弱調整がしやすくなっています。若干、ペダル踏み込み初期の反力が得られない領域がありますが、実際の制動の時にはこの領域の存在は無視できます。
なお、最大制動力は試せませんでしたが、旧型よりもアイドルストップを引き出しやすいブレーキになっています。旧型の頃は、停車後に意識をしてペダルを踏み込みませんとアイドルストップが効きませんでした。しかし、今回の車では僅かに踏み増し力を増すだけでアイドルストップが行われます。
ステアリング
ラック&ピニオンギヤ式ステアリングギヤボックスを採用しておりますが、後述する「Gベクタリングコントロール」の効果なのか、サスペンションの設定なのか、ステアリングホイールの中央不感帯幅が広くなっています。
その上、中央不感帯を超えると車が向きを変え始めるために、「ボール&ナット」式ステアリングギヤボックス車を思い出させる操舵感覚でした。
その不感帯を超えた領域では、適度にダルさとシャープさを兼ね備えた、ちょうど良い操作感覚のステアリングとなっています。
Gベクタリングコントロールについて
これまでも、トヨタプリウスαや日産エクストレイルでも似たような技術が採用されています。これらの車は車のピッチング(前後揺動方向)の動きをモーター動力ないしはエンジン動力を微調整する制御をしています。エンジンやモーターの出力を瞬間的に調整、車両の荷重の前後移動を制御することで車の姿勢までも制御しようとするものです。
マツダ車はこの考えを一歩押し進め、コーナーリング時の制御に利用しています。特にターンを始める期間、エンジンの出力をやや絞る方に微調整し、前軸荷重を増して舵の効きを良くしています。それと、まだシステムは理解できないものの、直進時の直進性も改善しているとのことです。横滑り防止装置でしかヨー方向の制御は出来ないはずで、エンジン出力は効力がないはずです。予想ですが、車が突起に乗り、サスペンションアライメント変化などからヨー方向の動きが出た際に、エンジン出力を調整しているのではないか、と思うのですが、詳細は不明です。
エンジン出力の調整は、点火時期を遅らせることで行っていると考えられます。燃料噴射量やスロットルバルブ開閉制御では瞬間的な出力の増減は難しく、点火時期調整以外にはないから、ということに基づいた推測です。
また、i-stopで培ったオルタネーター制御も強調していると考えられます。何しろ、コーナーリング初期に於いては、誰しもスロットルバルブを全閉にしています。燃料噴射もカットされ、エンジンはスロットルバルブ全閉によるエンジンブレーキを行っています。この時にもさらにエンジンにブレーキをかけるとなると、オルタネーターで発電どころかブレーキをかけること以外手段がないためです。
i-stopでも、エンジン停止指令から実際にクランクシャフトが停止するまでの間、ある気筒が下死点に来るようにエンジン回転センサー信号を監視、狙ったところでオルタネーターを制御してブレーキをかけることをしています。このような非常に短い期間でエンジンを止める技術があるわけですから、コーナーリングじにエンジンブレーキを増すことなど、それほど難しくないことでしょう。
そしてこの制御の開始は、ステアリングホイール操舵角情報を基にしているとのことです。人間は無意識にステアリングホイールを少し動かす動作をしていますが、この無意識動作も緩和するようにこの制御が働き、ヨー変化が抑制されていると考えられます。一方、ステアリングホイールを転舵操作すると、今度はシステムがヨー変化を起こす方に働くために、スムーズなターン開始が可能になっています。
言葉で書くと理想的に感じられるのですが、転舵中にヨーを抑制する制御からヨーを強化する制御へと移行するために、あたかもステアリングホイールの遊びが大きくなっているような印象になってしまいます。ちょうど、ボール循環式ステアリングホイールのような切れ味で、操作に対して車の反応がリニアでないと感じられてしまいました。出たばかりのシステムですから、暫くすると改善されることでしょう。
サスペンション
旧型の初期型において、スコートリング(発車時のテールの沈み込み)が気になると書きました。その後マイナーチェンジですぐに後輪ショックアブソーバーの縮み側減衰力が強化されたことがあります。
しかし、今回のモデルではまたスコートリングが大きくなったほか、ブレーキング時のノーズダイブ(前側の沈み込み)も大きくなってしまいました。まるで1980年代初期の乗用車のように、大げさに姿勢変化をしているような印象です。もちろん実際の沈み込み量は当時の車とは比較にならないほど少ないでしょうが、乗員の首の動きが大きくなってしまいます。これでは乗り物酔いは必至です。
一方、突起に対するショックの吸収は悪いはずもなく、大抵の凹凸は十分にいなします。このサスペンション設定は、おそらく前述のGベクタリングコントロールの効果がよく出るよう、エンジンの出力変化に対する姿勢変化を大きくし、ヨー効果がより出るように狙ったものでしょう。
同じメーカーに、CX3という小型クロスオーバー車が登場した結果、CX5はアクセラのクロスオーバー車からアテンザのクロスオーバー車に移行することが求められての結果と考えられますが、大型車的な運動性能になったようです。この考えは正しいと思いますが、縮み、伸びとも、ショックアブソーバーの減衰力を強める必要を感じます。
ボデー
ここへ来て、他社のシャシーが刷新されるなど、マツダを取り囲む事情は大きく変わってきました。旧型CX5で採用された「スカイアクティブシャシー」ですが、少々古さを感じるものの、TNGAと比較しても充分良いと感じさせるものでした。若干、フロントセクションのねじり剛性が不足しているかな、というレベルです。
スタイルは、多くの他社クロスオーバーモデルが「ハッチゲートの傾斜角を緩め、リフトバッククーペのようなスタイル」をとる傾向になっているのに対し、テールゲートが立っています。
また、エンジンが横置きのモデルながらフロントセクションの長さを十分長くし、まるでエンジンが縦置きであるようなロングノーズスタイルをとっています。アテンザでもそうでしたが、マツダも後輪駆動モデルを作りたいような雰囲気を感じます。
もっとも、世界的なスタイルの傾向も、エンジンルームやトランクルーム長が短く、前後のガラスとゆるやかにつながる「ワンモーションスタイル」から、ローングノーズ・ショートデッキスタイルになっていますので、この傾向を取り入れたものでしょうね。このことから、旧型と似たイメージながら、ポップな雰囲気を取り去って、より高級感を感じさせるスタイルになりました。
内装こそ、より「深化」しており、高級感をより強めています。
ハリとコシがある印象で、緻密な印象が強まっています。メッキ部品がやや増えて少し前のホンダ車のような感じはしますが、シンプルな印象も感じます。
ヘッドアップディスプレイが進化し、これまでは透明なプラスチック板やガラスに貼られた(?)シート上に投影されていました。このモデルではガラスに交通標識や数値が投影され、見やすくなっています。何でもかんでも投影するのではなく、運転に必要な情報に特化していることも好感が持てます。
海外の車には、運転士前のメーター内にナビゲーション画面を映す愚策をしているメーカーもありますが、あんなものは人間工学を全く知らない人が設計しています。運転中に運転士に知らせる情報は、最小限にしなければ人間は無意識に気が散ってしまうのです。
視界は、ボデーサイドラインの後部がJラインとしてキックアップしているので、それほど良くありません。しかし、見えなくて困る他社の車とは違い、見えづらい程度に留まっています。
余談として、テールランプの脇にこのような突起を見つけました。空気抵抗改善部品でしょうか?
まとめ
日本では、旧型CX5をきっかけにクロスオーバーブームが始まりました。当時はハイブリッド車ブームも落ち着き、ハイブリッド技術を採用しない低燃費モデルに移行、各社とも車らしい魅力を持ったモデルを画策していた時期でした。
そこへクロスオーバーモデルが人気になったのですから、今では各社ともこの市場へモデルを投入しています。ところが、いろいろな話を聞くと、以下のように「そろそろブームも終わりかな」と思わせる傾向も出てきています。
大人気になったスペシャリティな車(地味な乗用車ではない車)というのは、新鮮な期間は大人気になりますが、飽きられるのも早いものです。現在では、初代CX5はあまり見かけない車になってしまいました。他社の人も言っていましたが、クロスオーバー車も「一度乗ればもうしばらく乗らなくて良いや」と、数年で手放されてしまう傾向にあるとのことです。すなわち、新車として発売されたら飛びつき、長くは乗らず、他のメーカーに新しいスタイルの車が発売されたら、下取り金額が下がらないうちに買い換える、という乗り方をする人が買っている模様です。こうなると、メーカーは消耗戦になってしまうことでしょう。
かつてのクーペブーム(昭和41年~昭和50年代半ば)でも、「セリカはすぐに手放されるけど、カリーナは長く乗られる」や、初代セリカは新車当時は大人気、今では旧車人気の車ですが、昭和50年代は「古臭い、昔の暴走族の車」と見られていたものです。
話がCX5から離れました。新型CX5は、間違いなく魅力的で力が入っていて、良い車です。しかし、新鮮度という点では、少し古くなってきたかな、おしゃれの道具として選ぶなら、他社のモデルの方が良いかな、マツダらしい運動性能を望むならCX3の方が良いかな、と、複雑な印象を持つのでした。
参照して欲しい記事
トヨタ
CH-R(2WDハイブリッド)
日産
エクストレイル
エクストレイルハイブリッド
ジューク(初期型)
ジューク(後期型)
スバル
フォレスター(ターボエンジン搭載車、初期型)
マツダ
CX5(旧型2000ccガソリンエンジン搭載車、初期型、短距離)
同、長距離
CX5(旧型2200ccディーゼルターボエンジン搭載者、初期型、短距離)
同、長距離
CX3
三菱
RVR(マイナーチェンジ前)
アウトランダー(マイナーチェンジ前)
スズキ
イグニス
メルセデス・ベンツ
GLA160